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File:059 ツカレナオ~ル

旅行から帰ってきてPCの充電器をホテルに忘れました。

任天堂スイッチの充電器が現在大活躍してくれて助かっています。

でなければ一週間ぐらい投稿止まっていました。

感謝感謝。

なぜサテライトキャノンが定刻に発射されなかったのか

──その理由は最後まで誰にもわからなかった。

だが、ただひとりの犠牲を除いて、アダルトレジスタンスは奇跡的に全滅を免れた。

生き残った仲間たちは、今ここにある自らの命の重さを、静かに、しかし確かに噛みしめていた。


『ツカレナオ~ル!!』

「「「「「ツカレナオ~ル!!」」」」」


ルシアンの乾杯の音頭が食堂に響き渡る。

その声に続くように、子どもたちの声が重なり、場が一気に熱を帯びた。


この「ツカレナオ~ル」という言葉は、日本統治時代のパラオで生まれたユーモラスな表現だった。

現代でもパラオの一部では使われている。

アダルトレジスタンスの子どもたちは、ある日偶然その言葉を知り、面白がって使い始めたのだ。

やがてそれは、彼らの公式な乾杯の合言葉として定着した。

意味はシンプルに「乾杯」。

だが、その裏には苦境を笑い飛ばし、生き抜く決意が込められていた。


余談だがそんなパラオの偉い人や尊敬する人に向ける声援の言葉は「いよっ!大統領!」である。

どこか昭和の香りが色濃く漂う、そんな表現がこの小さな共同体の中では愛されていた。


ジョンの料理は子供たちの手によって次々と料理が運ばれてくる。

その量は尋常ではなく、3日前の夜から仕込みをしていたというのも頷ける盛況ぶりだった。

どうやらこの祝宴を通じ、少しでも皆の心に元気を取り戻させたい

──彼なりの願いがあったのだろう。


ケンが捕らえられたことで、暗い表情を見せる子どもたちもいた。

だがルシアンが笑ってこう言った。

「取り返せばいいだけ」

その一言で、皆の心は不思議なほど軽くなり、空気は一転した。


食堂は笑い声と歌声が渦巻く祝祭の場となり、酒が、料理が、そして希望がテーブルを埋め尽くした。


ジュウシロウは酔いつぶれてカオリに介護されていた。

まだ始まって1時間も経っていない。


その喧騒から少し離れた片隅で、前崎はひとり、静かにその光景を見つめていた。

生きる者たちの姿に、安堵と複雑な想いが胸の奥に渦巻く。


その横に、いつの間にかマスミが腰を下ろしていた。

顔が赤い。酔っているようだ。


「お注ぎしますよぉ?」


そう言って差し出してきたのは、なみなみと注がれた焼酎の瓶だった。


「いや……俺は酒は飲まない……」


いつでも戦えるように。

その感覚を鈍らせたくないため、前崎は酒を飲まないようにしていた。


「……そうなんですかぁ?」


マスミはわずかに驚いたように目を丸くし、そのまま瓶の口に唇をつけ、豪快にラッパ飲みを始めた。

喉を鳴らし、一息に飲み干したその姿は、どこか無邪気で、そして少しだけ壊れたようでもあった。


「プファーッ!」


見事な一気飲みのあと、赤くなった頬で真澄は笑う。


「……未成年だろ……?」


前崎が眉をひそめると、マスミは意味不明な笑顔を浮かべながら、瓶を掲げて言った。


「ここは私のほうなのれぇ(わたしが法なので)……!」


呂律の回らぬ声で、真澄は前崎の肩に身を預け、酔いに任せて絡みついてくる。


「グヘヘ……前崎さんの体、いいわぁ~……」


「ちょ、ちょっと……やめろ……!」


その様子を遠くから見ていたルシアンが、酒の盃を片手に微笑んだ。


『なつかれてしまったね、前崎君。』


ルシアンが、どこか他人事のような、どうでもよさそうな目でこちらを見てきた。

あの無機質で冷めた視線が、前崎の神経を逆撫でする。


「見ているなら止めてくれ!」


前崎は、必死にしがみつく真澄の腕をほどこうとしながら、苛立ちを隠さずに言った。


だが、ルシアンは肩をすくめ、軽い口調で返す。


『ここは一応、恋愛は自由だからね。

 強姦とかじゃない限り、未成年同士だろうと、年の差がどれだけ離れていたとしても僕は許すよ』


「俺が社会的に死ぬからやめてくれって言ってんだ!」


前崎の声が少しだけ震えていた。

どこにこんな力があるのかと思うほど、真澄の腕は鋼のように強く、自分の体に絡みついてくる。

無理に引き剥がせば彼女を傷つける。

──それだけは避けたい。


結局根負けしたのは前崎だった。


「……もう、いい……勝手にしろ……」


前崎は深いため息をつき、抵抗を諦めた。

その瞬間、マスミは勝ち誇ったようにクスクスと笑った。


「というか、ルシアン。酒は未成年でもいいのか?」


前崎は話題を変えるように問いかける。


ルシアンは小さく笑みを浮かべ、茶のような色の液体が入った湯呑を手元で回した。


『大人のジュースということにしてる。

 ただし、調子に乗った奴にはきっちり反省してもらうし、「もう飲まない」という約束をさせる。

 それでバランスは取れてるんだよ』


「未成年ばっかりだからてっきり禁酒法みたいなものでもあんのかと思ったが…?」


『世界で最も愚かで無意味な法律じゃないか、それ。

 自由を求める私に、そんなものを持ち出さないでくれよ』


ルシアンはわざとらしく眉をひそめ、そして湯呑の中の熱い茶を音を立てて啜った。

その仕草に、どこか冷たい知性が滲んでいた。


前崎の表情がふっと引き締まる。

祭りのような喧騒の中で、ふたりの間だけ空気が重たく沈む。


「ケンは……残念だったな。

ここからじゃ、もう連絡も取れないんだろ?」


ルシアンは小さくうなずく。


『ああ、残念ながらね。

通信を続ければ、逆探知される危険が高かった。

ケンもそれを理解していたはずだ』


「……そうか。だが、すぐに殺されることはないだろう。

 お前、助けに行くつもりだろ?」


その問いに、ルシアンの手がわずかに止まった。

茶の表面に揺れる彼の瞳には、微かな迷いと決意が同居していた。


『……まあね。

 ただ、今回はさすがに勇気がいる。正直、状況は最悪に近い。

 マルドゥークは幸運だったよ。

 サテライトキャノンが跡形もなく灰にしてくれた。

 データは一切残らなかった…と思いたい。

 だけど──エアはおそらく解析された。

 そこから漏れ出す情報の量は……計り知れない』


「……そうか。

 お前のホログラム転送技術を初めて見たとき、あまりの精巧さに震えたが……

 それでも万能じゃなかったんだな」


ルシアンは静かに笑った。

その笑みはどこか自嘲気味で、しかし誇りが滲んでいた。


『もし万能なら、とうの昔に世界を取ってるさ。』


不満を押し殺すように、ルシアンは皿のタンドリーチキンを豪快に頬張った。

口いっぱいにスパイスの香りを広げながら、それでもその目は鋭く、冷たく光っていた。


『だけど、もう対策は済んでいる。完全にね。

 下準備が面倒なのが玉にキズだが……それに、エアやマルドゥークだけが切り札じゃない。

 他にもまだ、こちらには武器がある。

 確かにサテライトキャノンを使ってくるとは思わなかった。

 ──だから次は容赦しない』


その口調には、冷酷な決意がにじんでいた。


「……俺に、その切り札ってのを見せてもらうことは可能か?」


前崎の声は静かだったが、わずかに緊張が滲んでいた。


ルシアンは目を伏せ、少しだけ間を置いた。


『……まだ駄目だ。

 正直、あれは最後の切り札に等しい兵器だ。

 使わずに済むなら、それに越したことはない。』


「……リスクが大きい、という意味か?」


『ああ。手品師がタネを明かしながらステージに立つようなものだ。

 秘密が暴かれれば、アダルトレジスタンスの存続そのものが危ぶまれる。』


前崎は黙り、しばし考え込んだ。

そして、ふと疑問が湧き上がる。


「……そもそもだが、マルドゥークやエアなんて、あんな軍用兵器……。

 この組織に本当に必要だったのか?」


ルシアンは一瞬だけ怪訝そうな顔をし、すぐに冷たい笑みを浮かべた。


『どういう意味だい?』


「アメリカの計画機って聞いたぞ。

 資源もない国が、そんなものを作って、結局どうするつもりだったんだ?

 あれは明らかに、国家防衛どころじゃない。

 戦争用の道具だ」


ルシアンの答えはあまりにあっけなかった。


『その通りだよ。本当であれば日本を獲った後、他の国と戦うためさ。』


さらりと吐かれたその言葉に、前崎は愕然とする。


「……お前、本気で言ってるのか?

 資源も人材も限られた国だぞ。

 そんな戦争を仕掛けたって勝てるはずが──」


『……そう思うだろ?』


ルシアンの目が細まり、冷たい光がその奥に宿った。


『前崎君、ひとつ説明しておこう。

 君にも知る権利はあるからね。

 といっても部分的な話しかできないが…。

 ──まず、この食堂に並ぶ料理の数々』


ルシアンはゆっくりと手を広げ、ジョンや料理人たちが次々と運ぶ料理を示した。


『この食材、どこから調達していると思う?』


前崎は眉をひそめた。

エビ、カニ、貝、麺、鶏肉、豚肉、刺身、焼き魚、米、野菜、香辛料、パン…etc.

確かに、この孤立した拠点でこれほどの食材が揃うのは不自然だった。

盗んできたにしては種類も質も豊かすぎる。


「……自家栽培か?

 コンテナ栽培で……?

 いや、魚や肉はどうしてる? あんなもの簡単に養殖できないだろ?」


ルシアンが口角を上げる。


『正解だ。できるんだよそれが。

 ほぼ全自動で管理された農場と養殖設備で賄っている。

 ただし、牛のようにエネルギー効率の悪いものは除外だ。

 豚、鶏、それから技術化された養殖マグロくらいが限界かな。

 野菜類はむしろ簡単だったよ』


「……すごいな。それなら穀物も肉も、すべてここで自給してるってことか?」


ここが以下に巨大な施設なことは知っているが最低限の武器の整備施設や娯楽、

学校のように身近にあるものや住む場所程度のものが集まっていて

そんな場所は前崎は全く見つけられなかった。


ある程度SG内を一周したにも関わらずだ。


『ある意味では、そう。

 ここで自給しているともいえるししていないとも言える。』


「……どういう意味だ、それは?」


ルシアンは悪戯っぽい笑みを浮かべた。


『それも秘密だ。

 ただ、鉱石も、ガスも、エネルギーも……同じように調達可能なんだ。

 信じられないだろうが、それが現実だ。』


前崎の頭の中で、常識という名の歯車が軋みを上げた。


「……そんなことが……本当に可能なのか……?

 どうやって……?」


『それを知りたければ──次のミッションをクリアしてくれ。』


「次の……ミッション?」


ルシアンは真剣な顔で前崎を見た。


『さっき君が言ったケンの救出だ』


「……俺一人で、か……?」


『ああ。残念だけど、今すぐ動かせる部隊はない。

 サクラテレビの襲撃でホログラム転送装置に大きな負荷が

 かかっていてね。

 短時間なら使えるが、長期戦は無理だね。

 はっきり言って君の力にかかっている』


前崎は目を閉じ、短く息を整えた。


「……わかった。ただ、手を借りたい奴がいる。」


『誰を希望する?』


「誰でもいい。動ける奴なら。」


ルシアンはしばし考え、指を折って名を挙げた。


『ジュウシロウ、シュウ、ソウ……あとは数人の部下から選ぶといい。』


「それでいい。誰でも構わん。

 陽動としてしか期待していない」


ルシアンは意味深に微笑んだ。


『あ、でも少し待って。

 ソウとシュウだけは、今すぐ動かさない方がいい。』


「……誰でもいいのだが…なぜだ?」


『彼らはこれから──超強化される予定だからさ。

 その目で確かめるといい。君に、「メタトロン」の力を見せてあげる』

新章スタート!!

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