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File:053  人 × スペック × 状況

6000PVありがとうございます!!

「さあ、待たせたな。続きをやろうか」


不動が、爆心地から風のように舞い降りてくる。

軽やかな着地――だがその一歩は、断頭台へ向かう処刑人であり重みがあった。


前崎は瓦礫の中に転がっていた。

爆風に叩きつけられ、片手は動かず、右足のラジエーターは完全に逝っていた。

逃げることも、戦うこともできない。

残されたのは、ただの時間だった。


「…そのまま話し続けてくれていたら、死ぬほど助かったんだがな」


「悪いが、好みの女じゃなかった。そういうのは早めに切る主義でな」


醜悪な顔面で女を語る不動に、心中で毒づく余裕も、もうなかった。

むしろ、この男が何を語るかだけが気になった。


不動はゆっくりと刀を抜いた。


「前崎。俺はお前が――(ねた)ましかった」


静かな声だった。

その瞬間、ただの敵だった男が、人間に戻った気がした。


「公安にお前が来たとき、皆が騒いでいた。

 新星だと。英雄だと。

 後輩たちは皆、お前を目標にした。俺じゃない。お前を、だ」


前崎は黙っていた。

だが、その沈黙が何より不動を苦しめていたのかもしれない。


「俺とお前で、何がそんなに違ったんだ……?」


呟きのような問い。

それは敵に向けたものではない。

不動自身の人生に向けた問いだった。


その顔には怒りも虚勢もない。

ただ、哀しみと――敗北の色だけが浮かんでいた。


「……この作戦が終われば、俺は責任を取らされる。クビだろうな。

 でもな。最後に、こうしてまがい物とはいえ強さを証明できて……

 本当によかった」


刀が、前崎の首筋に当てられる。

冷たい刃が、命をなぞる。


「さらばだ、前崎。傑物だったよ。……本物のな」


そのとき前崎は、心のどこかで納得していた。

終わりだ――と。


だが、


「あああああああああぁぁあッ!!!」


轟く咆哮。

ジュウシロウの機関銃が、不動を襲う。


ミニガンはなかった。破壊されたのか、捨てたのか。

代わりに振り絞った火力は、不発に終わる。


「……一ノ瀬がやられたか」


不動は冷静だった。

展開した電磁バリアが、角度をつけて全弾を受け流す。


「……ガキの命を奪うのは趣味じゃないが。

 お前たちはテロリストだ。殺されても文句は言うまい」


そう言いながら、距離を詰める。

あっという間にジュウシロウの目の前。

前崎には、まるで幻のように見えた。


(ジュウシロウがあいつに勝てるわけがねぇ。

 援護したいが体が…クソッ!不動一人にここまで追いつめられるかよ!)


前崎が歯噛みしながらも見ていることしかできない。


ジュウシロウは電磁バリアを展開し、拳でもガードする。

必死の防御だが、不動は手を緩めない。

むしろ、反撃がないと見るや、より容赦のない攻撃を叩き込む。


だが――。


(妙だな)


不動は眉をひそめる。


「……殺す気がないのか? それとも、やる気がないのか?」


ジュウシロウの目は、獣のそれだった。

何かを待っている。

焼け爛れた顔面が、チリチリする。


「……まあいい。圧殺だ」


不動が再び連撃に移る。

ジュウシロウは受けるたびに、電磁バリアを再展開し、拳で受け止め、足を滑らせながら後退する。


(……時間稼ぎ。そう見えるが――この状況で、それに意味があるのか?)


サテライトキャノンの直撃で混乱していたドローン群は、いまだネットワーク再接続中。

今は高宮とかいう公安のスナイパー部隊がドローンを打ち落としているはずだ。

それに電波ジャミングも継続している。


だから援軍がここに来るとも思えない。

そんな中でも何かジュウシロウは狙っている。


獣が、牙を研ぎながらその時を待つように。


(……完全に勝つだけが勝利じゃないよな。アレイスター)


静かに、ジュウシロウは心の中で語りかける。

それは、かつての師の名だった。


目の前の“異形”――不動の動きは、常識の限界を超えている。

攻撃を捌くというより、予知しているかのようだ。


(……異常な速度だ。俺ももっと細身の体だったらそういう戦い方をしていたさ)


だが、ジュウシロウは気づいていた。

この男の装備には穴がある。

電磁バリアもシールドも、装備としては最低限。

まるで、神経外骨格に無理矢理あとづけした拡張機能のようだった。


不動のスーツは、「ファストトラック(最短ルート)」――。

ジュウシロウが過去に使()()()()()と諦めた、軽量高速特化型の神経外骨格。


(間違いない。あのフレーム……見覚えがある)


それはエルマーに渡された既製カタログに存在した試作型だった。


ジュウシロウに合うサイズの神経外骨格がSGに存在していなかったので

エルマーに相談した結果どういうものがほしいかイメージしてほしいと

渡されたものだった。


かつてジュウシロウも興味を持っていたが、

「君の運動神経と反応速度では制御不能だから。

 頭まで筋肉かよ」

とエルマーに却下された代物だった。


その結果重装歩兵として活躍するのが合理的となり、

エルマーにオーダーメイドで作ってもらったのが今ジュウシロウが着ている神経外骨格である。


――そう、エルマーの不機嫌の理由も思い出した。

前崎との模擬戦で、自分が圧倒された日。

後でボスに聞いたがエルマーはあの後部屋に引きこもってずっと俺の神経外骨格に関して考えていたらしい。

あれは「自分が作った神経外骨格でクソ大人が作った既製品に負けるなよ」という苛立ちだったのだ。


(なるほど……悔しいはずだよな)


ジュウシロウは観察を続けながら、改めてファストトラックの特性を分析する。


利点

・軽量化により運動性能が常識外れ。

・加速性能によって、近接戦においては対処不可能レベルの優位性を持つ。

・前崎ですら一度も完全には見切れなかった。


弱点

・防御機能が貧弱で、衝撃耐性も低い。

・シールド系は感覚で補っているに過ぎない。

・攻撃のすべてがほぼ速度に依存している点。

・そして――最大の問題は、


「――エネルギー切れ、だ」


不動の動きが、微かに鈍る。

システム内部に警告音。

警告は無視できても、燃料は誤魔化せない。


(来た……!)


不動はエネルギーカートリッジを交換しようと動く。

その一瞬――ジュウシロウは動いた。


「!?」


不動の判断が一瞬迷う。


今まででは考えられない速度で不動に突進し、

不動の腕を封じ、補給動作そのものを物理的に妨害する。


遅いものが急に早く動くと大抵の人間は反応できない。


「当然、カードリッジ式だよな!

 そんな薄っぺらな装備で()()()()()なわけがない!」


そのまま組み伏せる。

肘を使って刀を持つ右腕をロック。

電磁補助を活かし、不動の機体重量を逆手に取って押し倒す。


「速度依存の構成……ならば、()()()()では動けない」


肉体を駆動させるだけで“武器”になる。

それがこの神経外骨格の真骨頂であり、ジュウシロウが捨てたはずの技術の再評価だった。


(まさか……格闘技が、ここで活きるとは)


それは、かつて幼いころにカンフーマスターから学んだ技と中学時代にかじった総合格闘術。

身体一つで相手の動きを封じる戦闘術。

アダルトレジスタンスの一員になってからは封印していたが――

今、この状況こそが最適だった。


技の名は――肩固め。

自らの肩と腕で、相手の頸動脈を潰し、血流を遮断する窒息技。


首元にある神経外骨格のフレームなどお構いなしに絞める。

そのせいで不動の首元に破片が刺さる。


(この俺が!こんなクソガキに!)


不動が力の限り暴れる。

しかし重装歩兵型の神経外骨格に対しては無力だった。


またジュウシロウの動きは冷静だった。

相手がもがこうが、力任せに暴れようが、焦らず、逃がさず、徐々に締めていく。


(……眠れ)


抵抗していた不動の四肢が、次第に力を失っていく。

強靭な外骨格すら、締め落とされれば関係ない。


やがて、不動の意識はブラックアウトした。


ジュウシロウは呼吸を整え、ゆっくりと起き上がる。

気絶した男の顔を見下ろして、つぶやいた。


「……あんたは、たぶん本当に強い人だったと思う」


そう――純粋に強さを追い、自己の限界を突き詰めた戦士。

だけど一人でしか学ぼうとしなかった。


「……それが、敗因だったな」


その声は、敗北した男への敬意と、勝者としての責任を内包していた


不動を落とし、ジュウシロウはすぐに前崎の元へ向かった。

煙と埃の中、倒れ込んだままの男が、微かに動く。


「……生きてますか?」


「……まさか、お前に助けられるとはな。正直、ダメかと思ったぜ」


前崎の声には複雑だった。

かつて日本国を滅ぼそうとして前崎が叩き潰したやつに助けられた上、

まがいなりにも今日本を守ろうとしている不動が倒されてホッとしているのだから。


その瞬間。

空を横切る小さな電子音――ドローンだ。

一機の小型端末が、二人の頭上にホバリングする。


『……あーあー、聞こえる?』


機体から流れてきたのは、あの軽薄な男の声だった。

ルシアンだ。


「どうした?」


前崎が尋ねる。

だが返ってきた声には、不機嫌が隠しきれていなかった。


『どうした? ……って、こっちの台詞だよ。勝手に飛び出して何してるわけ?』


声音は軽いが、怒りは本物だった。


「悪かったよ。だがな――」


前崎はドローンのカメラに視線を向けて続ける。


「……東京をお前に滅ぼされるくらいなら、俺が独断で動く方がマシだと判断したまでだ」


『……まあ一理あるね。ジュウシロウ君のおかげとは言え首魁(しゅかい)を倒したわけだし』


沈黙が数秒。


『まあいい。僕の組織に入った以上、僕の指示には従ってもらう。

 それがルールだ』


ルシアンの口調は冷え切っていた。

だが同時に、かすかな苛立ちと敗北感もにじんでいた。


『……今回、出し抜かれたのは認める。でも次はないと思ってくれ』


「用件を早く言え」


前崎が遮る。


『ああ、そうだった。そっちが先だったね』


一拍の沈黙。

そしてルシアンの口から出た言葉は――空気を一変させた。


『――ケンが捕らえられた』

ちょっとした小ネタ。


神経外骨格の種類はいろいろあります。

エネルギー供給方式に関していえば大きく5つに分けられます。

・充電式

・カードリッジ式

・ハイブリット式(充電式+カードリッジ式)

・液体燃料タンク式

・自己完結型


自己完結型は、小型の原子力発電機を内蔵したタイプです。

エネルギーの外部供給を必要とせず、補給とパーツ交換を定期的に行えば長期間の運用も可能です。

通常の運用であれば、出力を抑えることでおよそ一週間の連続稼働が可能とされています。


ただし、開発コストは非常に高く、素材や構造も特殊なため製造には多大なコストがかかります。

また、暴発時には広範囲に放射性物質をまき散らす危険性もあるため、運用には高度な管理体制が求められます。


ちなみにジュウシロウの神経外骨格は自己完結型です。



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