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File:049 Electronic Aerostat Unit & Multi-Adaptive Reinforced Dreadnought for Urban Kinetics

タイトルはエアとマルドゥークです。

かっこつけたかったので英語にしました。

読みずれぇ!

グォォォォォォォ……ッ!

ガァァァァァァアアッ!!


2体のマルドゥークが重低音を響かせる。

まるで共鳴するかのように、鉄と熱で構成された巨躯が唸り、振動を放つ。

圧縮空気と制御冷却液の噴射音が地鳴りのようにお台場の空気を揺らした。


背部ハッチが展開される。

両機から噴水のようにエア(EA)とその従属ドローン群が射出された。

暗灰色の機体が無音のまま、一直線に空へと舞い上がる。


EAは言ってしまえば、超高性能電子戦ドローン。

その中核となる母機と、半径2km内で制御可能な子機群で構成されている。


母機1台あたり最大256台の子機を指揮可能。

母機は計64台。

つまり、エアユニット1群で16,384機のドローンが稼働可能。


マルドゥークは1機につきエアユニット1群を内包する。

2機ならば――総数32,896機の電子戦ドローンが空を覆う。


まるで渡り鳥の大群だ。

だが、その影はあまりにも無音で、整然としていた。

それは、まるで神話の続きを見ているような光景だった。


規則正しく、無音のまま空を満たす数万の影。

地上から立ち上がる巨体が、空を統べる意思を放ち、そして静かに命令を下す。


空中に展開された無数のドローンたちは、もはや兵器というより――秩序そのものだった。


エア。

沈黙と知恵を司る“空の神”の名を継いだその機群は、さながら天の帳。


誰かが遥か昔に描いた神話の光景とは、こういうものだったのかもしれない。


技術と戦略が結実した人工の神々。

その姿が、今まさにお台場の空に広がっていた。


陸地側のマルドゥークが、不動の方向へゆっくりと踏み出す。

一歩ごとに地面が震え、舗装がひび割れていく。

一方、海上に展開したもう一体は、後方支援型モードに移行し、対地・対空砲撃を開始した。


重厚な砲身が、うねるように目標を捉える。

砲撃の衝撃波が水面を切り裂き、空に火線が奔った。


「やほ。ボス」


ふいに軽い声が飛ぶ。

壊れた壁から現れたのはエルマーだった。

一瞬、前崎を視界に捉えたが、すぐに視線を戻す。


『エルマー。よく来てくれた』


「マルドゥークのおかげでオフライン領域が確保できた。

 これで転送システムも再起動できる。ただ、完全復旧までは時間がかかりそう」


『どれくらいかかる?』


「――おおよそ60分ってとこ。解析が不安定だから、保証はできないけど」


前崎が問いかける。


「それまでにサテライトキャノンが飛んでくる可能性がある。

 迎撃策はあるのか?」


「簡易の多層式電磁バリアを持ち込んだ。

 マルドゥークと接続すれば、出力は数倍に跳ね上がる。

 ただし――あくまで時間稼ぎ用だね。

 衛星兵器に完璧な防御はないよ」


エルマーは淡々と答える。焦りはないが、希望もなかった。


「つまり……一時間、ただ“耐える”しかないってことだ」


『それでいい』


「……いいの? ボス」


『何が?』


「マルドゥークとエアは、もう回収できないよ。

 この戦闘が終われば、敵の手で解析される」


ルシアンは数秒、黙り込んだ。


それは事実上、戦略兵器を敵陣に譲渡するという決断を意味する。

情報優位性の崩壊。

すなわち、この戦いが“引き分け”以下なら国家機密の流出による敗北だ。


『……いい。構わない。

 敵の手際は、こちらを完全に上回った。

 正直、ここまで詰められるとは思っていなかった。

 だが今は、君たちの命が最優先だ』


「……ボスがそういうなら」


ため息とともに、命令を更新する。


『全隊に通達。マルドゥークを前面展開し、全兵力で死守に入る。

 転送完了まで60分――一秒でも長く保て!

 テレビ局からは出るな。

 黒の隊の狙撃班は高所から応戦。命を絶対に捨てるな!』


『『『了解!』』』


兵士たちはスナイパーライフルを構え、屋上から一斉に射撃を開始。

その弾幕は防衛線というより、“牽制の斉射”だった。

命中率は二の次――狙いは敵の動きを鈍らせること。


『前崎君、君たちも――』


「もういないよ」


エルマーが答える。

ジュウシロウもその場から消えていた。


転送装置はマルドゥークのオフライン領域と完全リンクしている。

それによって、前崎たちは電磁的に追跡不能な“隠密状態”に移行していた。


『まぁ……いい。

 主力兵器を切った以上、あとは勝つだけだ。

 それ以外の結果なんて、僕は想定していない』


ルシアンは、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


前崎が向かったのは、不動が陣取るビルの屋上だった。


ルシアンは既に冷静さを欠いている。

目的はあくまで味方の帰還――だが、それすら“殲滅”の名のもとに呑み込まれかけていた。

今の彼にとって、東京都を丸ごと吹き飛ばすことも、戦術のひとつでしかない。

だからこそ、暴走を止められる唯一の存在として、前崎は動いた。


「狙いはその辺りですか?」


すぐ脇に気配なく現れたのは、ケンだった。

息ひとつ乱さず、当然のように付いてきている。


「……お前、どこにでもいるな」


「監視を仰せつかっておりますので。あくまで任務です」


ケンは事も無げに言い、背後を軽く顎で示す。

それだけでなく振り返ると、ジュウシロウの姿があった。


「お前まで来るな。……死ぬぞ」


そう忠告する前崎に、少年は静かに答える。


「ケン一人では不安だったので」


その言葉に、ケンがわずかに目を細めた。


「……ご自分の身をまず案じてください、ジュウシロウ殿」


皮肉とも敬意とも取れる口調で、ケンが返す。


目前には、ビルの屋上。

そこに不動たちの影が見え始めていた――

風にたなびくスーツの裾、無言でこちらを見下ろす焼け爛れた顔。


前崎たちは、緊迫した空気を裂きながら、その頂へと迫っていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……前崎さんが言っていたのは、こういうことだったのか」


一ノ瀬は、眼前の“現実”に言葉を失いそうになる。

――勝てない。

この“圧”は、ただの兵器の数や性能では説明がつかない。

怒らせれば、都市ひとつを消し飛ばす。

それが“彼らの本気”だという、無言の警告。


「だから前崎さんは……誰にも何も言われずに、潜入捜査のようなものを引き受けたんだな」


それだけが、納得のいく説明だった。

あんな“化け物”を相手に、真正面から勝てるわけがない。


だから情報を流して内部から弱らせるというのを自主的に行ったのか。


空を覆うように接近する、10000機を優に超えるドローン群。

銃器を装備したもの。手榴弾のような投擲機能を持つもの。監視用の多眼カメラを搭載したもの――。

そのどれもが、まるで自律した生命体のように、不動たちへと視線を向けている。


「……敗戦の将に、後退なし。か」


不動はすでに、反撃の手段としてサテライトキャノンの再発射を選んでいた。

だが、無反応だった。


衛星兵器にはチャージと冷却の制約がある。

即時連射などできるはずがない。

ハッタリに過ぎなかった。


だがまさか、撃たれる前提で構えていた上に、それを受け切り反撃する備えまであったとは。

さらに、地上への兵器転送――その発想すら、不動の予想から外れていた。


おまけに展開した電波妨害が機能したせいで、即時離脱という判断も遅れた。

完全に、後手を踏まされた。


「……なぜ私はこうも、見誤る? 地獄で答え合わせでもしてこようかな……」


その刹那。


銃器を構えたドローン群が、一斉に火を噴いた。


「バカッ!何やってんだ!!」


一ノ瀬が不動を突き飛ばす。

直後、無数の弾丸が残像を引き裂くように駆け抜けた。


「死んで楽になろうと思うなよ!?

 お前は前崎さんの意思を汲まなかったんだ!

 だったらせめて、最後まで責任取れ!!」


一ノ瀬の叫びに、不動は微かに苦笑を漏らした。


「……そうだな。楽になるなんて、ただの甘えだな……」


そのとき、背後から足音。


「前崎……!」


「前崎さん……」


その姿を確認した瞬間、一ノ瀬の顔から緊張が緩んだ。


「久しぶり……ってほどでもないか。三週間ぶりぐらいか?」


「……? 何を……?」


前崎と最後に対峙したのは、もう一ヶ月以上も前のはずだ。

一ノ瀬は眉を寄せる。記憶違いか?


「いや。こっちの話だ、気にするな。本題に入る」


前崎の視線が、不動を捉える。


「不動さん……兵を引いてくれ。このままだと、東京が本当に壊滅する。

 完全に――ルシアンを怒らせた」


前崎にとってはほぼ懇願に近かった。


「ルシアン……あの“ボス”と呼ばれた少年か?

 ふん、あの年齢詐称のガキのことか?」


「……何を言ってる?」


「……これも、こっちの話だ」


不動は肩をすくめるように言い、ゆっくりとナイフを抜いた。

それはナイフというより、脇差に近い鈍く輝く刃。

鍔がないのが特徴だった。

まるで忍者の刀だ。


「私が責任を取る形にする。

 “裏切り者”を討ったと伝えれば、筋も通るだろう」


「……時間がねぇんだ。とっとと終わらせてやる」


不動の保身しか考えていない発言にイラつきながらも前崎も静かに構え、ナイフを引き抜く。


その横で、ケンが一ノ瀬に視線を向ける。


「……ということは、我々はこちらということですね」


一ノ瀬は険しい表情で、ケンとジュウシロウを交互に見る。

どちらも、ただ者ではない。いや、“幹部級”――その直感が告げていた。


(……この2人、相手にして無事で済むとは思えない)


だが彼は怯まなかった。


ジュウシロウも並び、前を睨む。


「ジュウシロウ。ケン。

 そいつは、俺が育てた後輩の中でも一番の実力者だ。

 ――せいぜい、気をつけろよ」


その言葉に、ケンは涼しく微笑んだ。


「……ご忠告、痛み入ります。まったく問題ありません」


「…」


ジュウシロウは頷いただけだった。


決戦の気配が、静かにその場を満たしていった。


「──元・内閣特命担当大臣兼公安情報部・戦術対処班 主任、前崎 英二」


「──現・内閣特命担当大臣兼公安情報部特別統括、不動明」


「──現・公安情報部・戦術対処班 主任、一ノ瀬 尚弥」


「──アダルトレジスタンス・黒の隊 リーダー ジュウシロウ」


「──同じくアダルトレジスタンス・黄の隊 リーダー ケン」


いざ勝負。

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