File:048 『エヌマ・エリシュ(Enuma Elish)』
総合評価100ptありがとうございます!!
――ビリビリビリィ!!
サクラTVを中心に、凄まじい衝撃波が走る。
「冗談だろ!?交渉もなしに、いきなり撃ってきやがった!?」
膠着状態。
せめてコンタクトの一つはあるかと思った。
だが、それはあまりに甘い考えだった。
『バリア破損! 再構築完了まで30分を要します!』
ジュウシロウの部下から報告が上がる。
外は――炎の海だ。
空気の色が変わっていた。
硝煙ではない。都市の一角が“焦土”と化したのだ。
焼け焦げたガラス鳥のの匂いが鼻を突き、立ち上る熱風に空気すら焼かれていた。
拡声器越しに、低く、威圧的な声が響く。
『聞こえるか、アダルトレジスタンス諸君。
私は不動明。この作戦の全権を担う者だ』
「やはり…お前か、不動……」
衝撃で地面に膝をついた前崎は、拳を握り締めた。
『砲撃を予期していたのか?
バリアで防いだのは褒めてやる。
だが、2発目はすぐに来る。その時、ここは完全に消し飛ぶだろう』
「こいつ…!」
『周囲3kmに配備された狙撃部隊が、一斉射撃を行う準備も整っている。
投降するなら、今すぐだ。3分与える。
それ以外は無い。
決めろ』
一方的に通信が切れた。
交渉の形すら取らない。
“殲滅”を目的とした作戦だ。
まさしく軍事行動――いや、戦争だ。
海に目をやると、複数の戦闘艦が浮かんでいた。
すべて光学迷彩をまとっていたため、前崎がハッキングした衛星でも視認は不能だった。
おそらくあれもアメリカから借りたレンタル品だろう。
自衛隊にいる時にあんなもの存在しなかった。
「馬鹿が…!ありったけの札束をあのくそ野郎に投げ込んだわけか!!」
前崎は悪態を吐き捨てた。
「……おい、ルシアン。どうする?」
その問いに、ルシアンはにやりと唇を歪めた。
不気味な、脊髄がぞわつくような笑み。
『……まさかこんなところでここまで追い詰められるとはね。
本当は使いたくなかったんだけど…』
憎悪?いや狂気?
いつものルシアンはそこにはいなかった。
『退却ができないとは言ったが、“持ち込めない”とは誰も言ってない』
その瞬間、轟音とともに空を裂いて二つの巨影が降下してくる。
サクラTVの屋上に着地し、立ち上がる――巨大な自律兵器。
その名を、ルシアンは叫んだ。
『"マルドゥーク"、そして"エア"――起動!
全隊員、即座に防衛陣形を組め!』
『『『了解!!』』』
その光景を見ながら、前崎は冷や汗を流していた。
(ついに出てしまった……。
俺たちは、ルシアンを本気で怒らせてしまった――)
マルドゥークとエア。
それは古代メソポタミア神話に登場する神の名前である。
特にバビロニア神話の世界創造神話『エヌマ・エリシュ』で中心的な役割を果たす存在である。
マルドゥーク――混沌の女神ティアマトを討ち、世界を秩序へと導いた戦神。
エア――知恵と魔術を司り、神々の中でも最も冷静な判断力を持つ賢者神。
この二柱の名を冠した兵器は、ただの威厳や象徴ではない。
その名の通り、「混沌を断ち切る剣」と「理を以って世界を繋ぐ楔」として、戦場において圧倒的な存在感を放つ。
コードネーム:MARDUK
分類:都市拠点防衛用・陸上重装甲自律戦闘兵器
機体仕様:
Multi-Adaptive Reinforced Dreadnought for Urban Kinetics
(都市型多目的重装甲兵装)
全高:24.5m(ビル5階相当)
全幅:18.0m(上半身含む防壁展開時)
武装:
・収束型マイクロ波散布器(胸部中央/高出力熱収束)
・自律散弾モジュール(肩部ハードポイント×2)
・エネルギー・ブレードアーム×2(腕部収納型/超振動式)
・ 可変式多重重砲ユニット(多連装キャノン×6)
・耐爆盾フィールド/防壁生成装置(展開時、横幅30m超)
防御力:航空機搭載型ミサイル・徹甲砲に対して最大58発分耐久
特徴:
・都市部での“盾のような”存在感を持つ要塞兵器。
・自律AIによる広域警戒・迎撃を行いつつ、サクラTV湾岸社屋を正面から完全に覆う。
・その威圧的な巨体は、事実上「政治的建造物に対する全方位シールド」として設計されている。
・内部には降下型支援ユニットを格納し、味方歩兵の展開支援にも対応。
神話的比喩:
バビロニア神話における「マルドゥーク」は、混沌の海ティアマトを打ち倒し、世界を秩序で包んだ創造神。
本兵器もまた、無秩序に陥る戦場における“壁”であり“秩序の象徴”と願われて作られた。
コードネーム:EA
分類:戦術電子戦・妨害機動支援機
機体仕様:
Electronic Aerostat Unit(多層分散型・浮遊電子干渉機)
全高:1.2m(母機コア部)+1m~4m周囲衛星ドローン群(最大同時接続展開数:256基)
武装:
・EMPネット投射装置(Wide-Area Pulse Mesh)
・高周波ジャミングユニット(Wideband Silence Projector)
・ステルス強化型スモークディスチャージャー(Optical Fog Emitter)
特徴:
通信・照準・索敵・信号解析――敵のあらゆる“知覚”を遮断する兵器。
単独でも拠点への進行遅延を可能にするが、主にMARDUKと連携し、「盲目のまま殴られる」状況を敵軍に強制する。
ドローン1体ごとに分散EMP・欺瞞信号を展開可能で、"音も光も奪う神"と呼ばれる。
神話的比喩:
知恵と静謐を司る、沈黙の空の神「エア」。
空を支配せよという願いの元作られた。
【統合運用仕様補足:MARDUK & EA戦術連携ユニット】
■ 連携機構:格納・展開・共生支援
マルドゥークは、エアおよびその随伴ドローン群(最大64機)を格納・再装填する母艦的機能を併せ持つ。
機体内部には、エア本体を中心とした多軸格納スロットが搭載されており、即時展開・自動帰還が可能。
展開時、エアはマルドゥークの中心半径2km圏内での稼働を推奨。この範囲は「オフライン動作領域(OZ:Offline Zone)」と呼ばれ、外部電磁干渉から完全に遮断されている。
このOZ内であれば、EAは外部通信不要の“閉域自律制御”モードで活動可能。通信傍受や妨害の影響を一切受けず、信頼性の高い電子妨害任務を遂行できる。
■ 防御支援機能:電磁連結装甲支援
EAは展開時に、マルドゥークから供給される電磁フィールド(Converged EM Shield)により、全身に「補助バリア層」を形成。
これにより、単体では脆弱なEAの耐弾性・熱耐性・EMP耐性が飛躍的に向上する。
この「母機-従属機リンク防御網」は、エアが分散行動していても一定距離内にあれば維持されるよう設計されており、最大9機のドローンにも波及効果がある。
■ 操縦仕様:AI自律/有人制御両対応
EAおよび従属ドローンは完全自律AIによる自動操縦が基本だが、特殊任務や精密対応の際には個人によるマニュアル制御にも切り替え可能。
地上またはマルドゥーク内の指揮席、あるいは遠隔コマンドデバイスからオペレーションが可能である。
有人制御時は、神経接続型インターフェース”EM-Nerve Sync Unit”によって即時反応が可能となり、電子妨害戦と格闘戦が複合する混戦域でも応答遅延を最小限に抑える。
■ 神話的補足:
マルドゥークは神々の王であり、混沌を撃ち滅ぼし世界を創った。
エア(Enki)はその知恵をもって秩序を保ち、静寂と法を支えた存在。
この両者の協働はまさに「創造と支配」の体現であり、
軍事的には“殲滅と支配領域の構築”を意味も込めて名付けられた。