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File:046 焦陽ーLaser-Converging Electromagnetic Mass Gauss – Mk.3

一方その頃、前崎はさくらTV局内の報道センターにある中枢端末に座っていた。

死体が数体、床に転がっている。

首を絞められた者、銃で撃ち抜かれた者

――いずれも言論の矛盾に沈黙を与えられた結果だった。


隣には、ケン、ソウ、アリアの3名が控えていた。

入口には警戒のための少年兵2名が立っている。

静かで、異常に張り詰めた空気が漂っていた。


「前崎さん、何をしてるんですか?」


ソウが、興味半分・警戒半分で尋ねた。


「気象衛星の挙動をチェックしている」


前崎は目をディスプレイから離さず、冷ややかに答えた。


「……今この状況で?」


アリアが訝しげに眉をひそめる。


「正確には“気象衛星”という名目の国家監視衛星システムだ。

 通称《神の目(お天道様)》。表向きは気象観測用だが、実態は個人追跡レベルの超高解像度監視システムだ」


前崎は公安を去る前の機密情報を抜け道として仕込んでおいた裏ルート(バックドア)を用いて、その監視網にアクセスしていた。


「……国家レベルの犯罪行為だぞ。

 警察の一つも来ないなんて反応が異常すぎる。

 何かがおかしい」


前崎が操作しているモニターには、衛星からのリアルタイム映像が映し出されている。


東京――そこでは自分たちが起こしている前代未聞の事件が進行中だった。

要人殺害、大規模テロ、TV局制圧、死者多数。

にもかかわらず、警察が一切動いていない。


「……何が起きてるの?」


アリアが小さく呟く。


「それを今調べてる」


前崎は短く言い、さらに映像を切り替えた。


神の目による広域衛星監視データに基づくと、

現在、東京中心部から人が計画的に退避していた。

それも、混乱ではなく“誘導”されるかのように、整然と。


「……信じられない」


前崎の表情が険しくなる。


「前崎様、どういう意味ですか?」


ケンが問う。


「見ろ。高速道路、幹線道路、鉄道、全てが“異常なほどスムーズ”に機能している。

 警察や交通機関が“人を逃すために”動いている」


アリアはピンと来なかった。


「当然でしょ? 私たちがテロを起こしたんだから、人が逃げるのは普通じゃ――」


「違う。()()()()()()()()()


前崎の声には焦りがにじんでいた。


「ゴールデンウィークでも正月でも、ここまで完璧な交通整理は不可能だ。

 この異常事態に渋滞がゼロだぞ?事故だって起こってもおかしくない。

  人の流れが“完全制御”されている」


そう、これは単なる避難ではなかった。

事前に計画された“排除”。

一部地域を中心に、人間の密度が意図的に下げられていた。


「見てみろ……さくらTVを中心に半径3km圏内、人の動きが不自然だ。

 ……まるで、ここだけ“空けられて”いる」


……半径3キロ?ハンケイサンキロ?

何だったか。聞き覚えがある気がする。

エリアを見た瞬間、前崎の顔色が変わった。


「……っ、まさか……!!」


ケンが目を細める。


「どうしたんですか?」


前崎はすぐに衛星軌道のデータを確認する。

人工衛星の一部が、わずかに軌道を変更された痕跡がある。


通常の気象観測衛星ではあり得ない。

軌道変更には大きなエネルギーが必要だし、目的がなければやらない。

そして、変化した空間軌道にはある“物体”が新たに進入していた。


ディスプレイに表示された識別コード。


第3世代収束型極超電磁軌道砲

L-CEMG-3

Laser-Converging Electromagnetic Mass Gauss – Mk.3

装備名称:焦陽(しょうよう)(SHOYO)


前崎の顔から、色が消えた。


「……まさか“焦陽”を使うつもりか……!」


焦陽――

それは、日本がアメリカの軍需企業と共同開発し、現在は“アメリカが保有する”衛星型戦略兵器。

外交的な裏取引で一時的に日本が“レンタル”を許可された、地上制圧用の“神の槍”だった。


ひとたび照準が合えば、半径1kmの熱圧領域が一瞬で蒸発する。

すべての都市機能、命、構造物は“焦がされ、消える”。


前崎の指が止まった。


「まさか――政府は、東京ごと消すつもりか……?」


神の目が見ていたのは、逃げる人間ではなかった。

“焦陽”が空けるべき標的エリアを測定するためのスキャンだったのだ。


そして、ここ――さくらTVは、

その真ん中に位置していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


衛星兵器:サテライトキャノン。

それは、アメリカ軍が対テロ戦争の只中、中東戦域において“制圧兵器”として初めて投入した衛星兵器の呼称だった。


地上からは反撃不能な軌道上からの熱圧ビーム――

都市を焼き尽くし、機構も人間も一瞬で“蒸発”させる。

その非対称的かつ神話的な破壊力は、被害者たちにはこう呼ばれた。


“神の鉄槌(The Hammer of God)”


イスラム文化圏においては、火刑は最大の冒涜とされている。

火で焼かれることは、アッラーの裁き=地獄の炎を意味し、

それを人間の手で再現することは、神への反逆と同義だった。


そのため、アメリカが初めて中東に“火”を降らせて以降――

イスラム教徒の根底には、「決してアメリカを許さない」という怨嗟が100年以上にわたり根づくことになった。

今後も「アッラーの怒り(Allah’s Wrath)」が途切れることはないだろう。


その兵器の影が、今、日本に落ちようとしていた。


「……本当に使うつもりですか? 日本が――あんな兵器を」


問うたのは、一ノ瀬。かつて前崎の直属の部下だった公安職員だ。


返したのは、不動 明(ふどうあきら)――

前崎に代わって現在の公安特務課を仕切る男だった。


「YESかNOで言えば、YESだな」


不動はポケットに手を突っ込んだまま、気怠げに言う。


「国家緊急時だ。

 しかも、アメリカからの“レンタル品”だよ。所有とは言わないだろ?

 ……ジャイアンじゃあるまいし、“貸したモンはオレのモン”なんてさ」


不動は手をヒラヒラと振った。

まるで道端のゴミをあしらうような軽薄さ。

だが、その奥には異様な計算高さが垣間見える。


「……お台場を、吹き飛ばすつもりなんですね。

 さくらテレビ諸共……」


「場合によっては、だ。

 まだ“撃つ”とは言っていない。あくまで、選択肢としてだよ」


「どういう条件で?」


「そうだな……」


不動は言葉を選ばず、口にする。


「偶然にも、あのTV局内に国民にとって不要な存在が大半詰まっていて、

 なおかつそれを一瞬で始末できる状況なら――ぶっ放す価値はあるよな?」


その“国民にとって不要な存在”が誰を指しているか、一ノ瀬はわかっていた。


「……でも彼らには、ホログラム転送装置があります。

 ある意味、ほとんど“不死身”です。肉体を焼いても、意味が――」


「肉体、な」


不動が目線を投げた。目元は笑っていない。


「だが記憶や意識がどうなるかは、別の話だろう?」


言いながら、不動は机に投げ出された1枚の資料に指を置いた。

そこには前崎の痕跡(記録された銃弾)からまとめられた極秘レポートのコピーがあった。

さらにジュウシロウとの通信ログまでも記されていた。


「“焦陽”で焼かれた者は、肉体が消える前に“意識の崩壊”が先に起こる。

 ホログラムで転送できても、それは“死にかけた状態の複製”に過ぎない」


「……!」


「お前、全身を焼かれたことはあるか?」


不意に、不動の声色が低くなる。


「……いえ」


「俺はある」


不動は無表情のまま、手袋を外す。

肌が爛れたような跡。

顔面にも火傷の痕。骨格が歪んでいる。

一ノ瀬は思わず目をそらした。


「小室組の件……聞いたことがあります。

 組長・小室武の逮捕に、あなたが決定打を与えたって」


「……あれは地獄だったよ。

 熱は皮膚を剥ぎ、神経を焼く。

 精神なんてのは、すぐ溶ける」


思い出したかのように不動が身震いをする。


「だから俺は思う。

 あれに“耐えられるガキ”がいるなら、見てみたいもんだ。

 何、テロを語っているガキ共だ。

 日本で一番大きな罪を犯している犯罪者には妥当な罰だとは思わないかね?」


不動は口元を歪め、ゆっくりと笑った。

その笑みは、“殺す理由を吟味する者”ではなく、“殺すことで正気を保つ者”のそれだった。



機密資料:防衛省極東戦略局 第19式光学兵器運用報告

■ 装備名称:L-CEMG-3《焦陽(SHOYO)》

正式名称:Laser-Converging Electromagnetic Mass Gauss – Mk.3

分類:第3世代・衛星搭載型極超収束レーザー兵器

運用開始:泰然4年(2052年)3月25日/作戦コード:SOL-THORN


【1. 概要】

L-CEMG-3は、既存の軌道型対地兵器(通称:Laser-Converging Electromagnetic Mass Gauss – Mk.2)を改良・再構成した収束型極超電磁レーザー兵器である。

運用対象は重要インフラ破壊/要人抹殺/局地制圧/空爆不可能地域の浄化処理。

精密照準による単点消滅能力を最大の特徴とし、既存の広域破壊兵器と明確に一線を画す。


【2. 技術仕様】

項目内容

配備数軌道上兵装衛星:3基(同期照射)

出力方式フェムト秒・極短波長レーザー(連結照射型)

射撃精度照準誤差 ±2.3cm(地上標的に対し)

最大貫通深度地表~120m(地質構造による)

反応時間指令入力後 約7秒以内に照射完了

射撃間隔冷却時間30分/最大6連続照射(Emergencyモードは除く)

可視性不可視(照射時の光・音ともに地表で検出不可)

着弾範囲最大破壊半径 約45~60m(収束度合いによる)


【3. 安全管理・交戦規定】

味方勢力は照準地点より半径3,000m以内への接近を厳禁

衛星間干渉制御システムにより自動迎撃判断は行わない(全手動式)

使用権限は首相・防衛大臣・作戦統括官の生体認証による三重承認

構造物内・都市部への使用は外交影響を鑑み最終手段扱いとする


【4. 運用実績(機密抜粋)】

日時作戦名地域結果

2054/02/14Operation Dead Line北アフガニスタン 山岳地下要塞地中約70m構造体を瞬時焼却、民間被害ゼロ

2058/07/19内閣直轄指令 No.091小笠原海域 港湾施設跡地非正規戦力12名を正確に消滅、心理的圧殺確認


【5. 通称“焦陽”の命名理由】

照射直後、標的地点は高温熱圧により物理構造を失い、

地上部は黒化、中心部は“日蝕のように沈黙する”。

これを視認した部隊内で自然発生的に「焦陽(焼けた太陽)」と呼称され、

令和13年以降、制式通称として採用。


――というのが公式発表上の命名理由である。


だが実際には、開発初期に関与していた一名の民間技術者(当時、米軍請負のAI設計担当)が、

趣味で入れていたタトゥーに誤って「昇陽」ではなく「焦陽」と彫ってしまったことに由来する。


アニメ文化に深く影響を受けていた彼はその後も執拗にこの漢字表記を主張し続け、

偶然にもその意味(焼け焦げた太陽)は兵器の効果と強く符号したため、

プロジェクト内で逆に支持を得ることとなった。

のちに兵器そのものが国際展開されるにあたり、“SHOYO”の表記には日本式の漢字が公式に付けられることとなった。


また、この命名には日本政府との技術協定における“政治的配慮”の意図も含まれており、

万一の際には日本政府が使用を黙認するという暗黙の了解と、表向きの“友好”の象徴ともなっている。


【6. 補足】

本兵器はサテライトキャノンMk.1の系譜に属するが、質量投射機能は排除されており、純レーザーによる照射型となっている。

軌道制御は第5軍衛星管制群が担当し、地上制御点は非公開。

使用時には全世界の監視衛星が照射座標を記録可能なため、撃つこと自体が国際的な“宣言行為”とされる。


【重要注意】

本兵器の照準誤差は極小であるが、誤操作・内部攪乱においては国家的危機を招く。

作戦行動中の照射準備完了宣言後、味方3km圏内に進入した者は事前通達を問わず即“巻き添え”と認識される。


初の実戦投入は、2031年の「第6次ジャカルタ内戦」。

45秒で通信中枢、司令部、主要ドーム3棟が蒸発。

対空ミサイルすら発射前に崩壊し、“見えざる力による空爆”として世界を震撼させた。

ただしそれは第1世代であり、現代ではエネルギーロスとチャージ速度が格段に上がっている。

日本の罪の重さランキング

1.テロ

2.紙幣偽造

3.殺人


平和>金>人の命の順番で基本的に罪が重くなる仕組みです。

『カイジ』の利根川のセリフの「いのちは金よりも重い」は事実であり「平和は金よりも重い」という続きがあると法の観点から言えます。


もちろん状況や情状酌量の余地などで変化することはありますがアダルトレジスタンスはそういう意味では戦後最大の犯罪者ということになります。


参考までに。



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