File:040 暴力の正当性
投稿ミスって2話投稿しました。
今日の夜に少し修正します。
すみません。
その赤い靴の男は異常の塊だった。
赤い靴に赤いロングコート。
魔女のようなトンガリ帽子。
そして錫杖のような杖。
さらに長髪の黒髪と月の光を反射する丸眼鏡。
まるで仏教徒と魔女が融合したような姿だった。
「何やってんだ。お前」
それがその男の開口第一声だった。
「…」
驚いたものの無感情だった。
もうどうでもいい。
目の前の男はジュウシロウを下らなそうに見た後に錫杖の杖の先で
ジュウシロウの額をつく。
そしてその錫杖から出た圧力とは思えない力で顔面を海に沈められる。
「モゴゴゴゴゴ…!」
自分の頭がひっくり返ったと思ったら海に沈んでおり、鼻に海水が入り込む。
あちこち手を動かし、海面を見つけようと探す。
「ゲホッ…ゲホッ…」
鼻に入った海水を出す。
「な…何すんだよ…」
ジュウシロウが目の前の赤い男を睨みつける。
「お…生きてた」
珍しい生き物を見た。という風な感想で話した。
「話さねぇとこんな暗いから生きているかどうかわかんねぇじゃねぇか。
岩に話しかけたかと思って恥ずかしかったぞ」
そういいながら男は海面に立ちながらジュウシロウを見下す。
「死ぬつもりだったんだ。邪魔すんな」
「じゃあさっきなんで死ななかった?」
「…ッ!?」
男のその言葉にジュウシロウは何も言えなかった。
「お前は死のうとしたんじゃない。逃げようとしただけだ。
かっこ悪いな」
男のその言葉にジュウシロウはイラっとした。
ジュウシロウが男の足首を掴み…
「何にも知らねぇ癖にものを言うな!」
投げ飛ばすように海面に叩きつけた。
「カフッ!」
男は肺から息を出す。
やり過ぎたかとジュウシロウは思ったが男はすんなりこっちに向いてきた。
「いい話してやってんのに!大人舐めんな!クソガキ!」
「上等だ!魔女ジェンダー野郎!」
そこからお互い気が済むまで殴り合っていた。
気づいたら朝だった。
「はぁ…はぁ…」
勝ったのはジュウシロウだった。
男は筋肉質だったが全体的に細身であり、運動音痴だった。
なんというか筋トレだけして運動は全くしてませんでしたという感じだ。
一瞬の攻撃に全力過ぎて連動ができていない。
男は大の字に倒れている。
身長と手足は妙に長いのでまるでロングコートも相まってヒトデのようだった。
「う…うぅ…こんなクソガキにも俺は勝てねぇのか」
男はジュウシロウに背を向けてめそめそしていた。
最初にあった只者ではない感を返してほしい。
まるで今はただ自己啓発書を真に受け、個性というものを勘違いした
ただのコスプレのオカマだった。
「あー…もういいや。バカらし。帰ろ」
そういってジュウシロウは帰ろうとした。
「おい…待て」
「なんだよ…」
もうこの男から離れたかった。
「足つった。看病してくれ」
「ふざけんな!」
男を無視して帰ると警察がいた。
どうやら俺を探していたようだった。
カオリの父親の姿もあり、高校のスカウトした教師の姿もあった。
「…ジュウシロウ、お前なんということを」
カオリの父親が開口一番に言った言葉がそれだった。
「ここの施設の管理者を殴ったのかお前は!?」
「は…?」
何を言っているんだこいつは…?
恩人に対して初めてこのようなことを思った。
その様子を見て高校の教師も顔を曇らせる。
「無断欠席にこのような素行不良であれば高校としましても…」
「お前…何をいって」
「その口の聞き方はなんだ!?」
カオリの父親はジュウシロウを平手打ちする。
意味がわからない。
ジュウシロウはさすがにむかついた。
「ふざけるな!ここで俺がどんな思いをしていたのかわかっているのか!」
その言葉にカオリの父親はたじろいた。
「見てみろ!ここにいるガキを!施設の職員が体罰かましてんだぞ!
よく地獄に放り込んで父親面できるな!」
「…お前何を言っている?」
理解できないという顔をしていた。
「あれだけ献金したのだから国の施設がお前を悪いようにするはずがないだろう?」
今わかった。こいつと俺は違う生物なんだ。
遠くで灰原がにやけていた。
ふざけやがって…!
怒りに身を任せぶん殴ってやろうとしたとき、警察がやってきた。
「彼の部屋にこのようなものが…」
見せてきたのは麻薬と歯…?
「麻薬は言わずもがな。子どもの歯を抜き取って集めていたようです」
「ふざけんな!俺はそんなこと…!」
「子どもたち全員があなたにやられたと証言していますが…?」
子どもたちをみる。
みんな怯えた表情をしていた。
その子どもの頭を灰原が頭を撫でる。
「汚い手で子ども触んなぁ!」
そう言ってジュウシロウは灰原に殴りかかろうとするが警察に押しとどめられる。
「ふざけるな…!ふざけるな…!こんな話があるか…!」
自らの無力さに泣くことしかできない。
「やっぱり古川さん。ダメなんですよ」
古川。それはカオリの苗字だった。
「もう生まれで決まってしまう時代なんですよ」
こいつ…
この場にいる全員を殴らなければ気が済まなかった。
「お願いですからもう一度チャンスを頂けないでしょうか…!」
カオリの父親が頭を下げる。
もう…ダメだ。俺はこいつらに殺されるんだ。
自分で死んだほうがまだマシだっ…
「ジュウシロウだったっけ?お前は戦ってきたんだな。偉いぞ」
そこにいたのは赤い男だった。
ジュウシロウと喧嘩した傷は跡形もなく、服も汚れ一つなかった。
「そこのお前に聞きたい」
灰原に男が目を向ける。
「なんで児童養護施設に南米のギャングスターの名前があるか聞いていいか?」
「は?」
その言葉にジュウシロウは理解が追い付かなかった。
「臓器売買で有名な組織さ。子供をバラシて売るためにな。
だからこいつらの健康は最低限必要だったんだろうな」
確かに食べ物だけは最低限とはいえしっかり出ていた。
資料をペラペラと捲る。
「それでこいつらのタトゥーと襟裏のバッジを見る限り、矢島組の連中か。
この時代でもまだ暴走族やらヤクザやらって生き残っているとはね」
どこからか持ってきた代紋入りバッチを地面に落としぐりぐりと踏みにじる。
灰原の顔が憤怒に染まる。
「で…思うんだけどさ、お前ら警察?警察手帳見せてみろよ」
その言葉に警察がたじろぐ。
「道理でな。なんか怪しいと思ったんだよな~。
といってもそのパトカーのナンバーを照会しただけなんだけどな」
「ぐ…くそ!」
警察の真似をしていた連中が銃を取り出す。
だが取り出すより前にパパンと銃を発砲していたのは赤い男だった。
いつ取り出した?
ジュウシロウは構えた所も銃を発砲した所も見えなかった。
そこにはジュウシロウと殴り合ったふざけた男はいなかった。
「昔の漫画だったらそいつは脅しの道具じゃねぇって言うんだろうな」
撃った玉は3発。
警察2人の脳幹を正確に捉えた射撃と灰原の腕を捉えていた。
灰原も銃を構えようとしていたようだ。
「ぐ…うぅぅぅ…!」
灰原が腕を抑える。
そんな灰原に赤い男がゆうゆうと近づく。
「お前、ガキに暴力振るっていたんだな。楽しそうだな。俺も混ぜろよ」
そういいつつ発砲する。
灰原が力を入れた所を正確に狙い撃つ。
逃げようとしたら足に。
もう一つの方向に足で踏ん張ったらその足に。
さらに手で這いずろうとしたら腕に。
それはなぶり殺しだった。
高校の教師は逃げ、カオリの父親は腰を抜かしている。
高校の教師もグルだったかもな…。
そんな赤い男をジュウシロウはただ見ていた。
男はジュウシロウの視線に気づく。
「お前、こいつ殺してみるか?」
「えっ…」
思わぬ提案だった。
「いいのか?」
自分がどうしてそんなことを聞くのかよりもやってもいいの?と聞くことに
驚いた。
「銃はダメだがな。なんかないか?」
そうやって銃をコートにしまった。
「じゃあこれ…」
近くにあったのは草刈り鎌だった。
これで子どもをこいつは傷つけていたっけ。
灰原に躊躇なくジュウシロウは背中に突き刺す。
何度も何度も。
灰原は苦痛に喘ぐ。
「ちょっとうるさいな」
そういって男は警察だったものから服を奪い、簡易的な手ぬぐいにする。
それをさるぐつわのように灰原に食わせる。
その結果、くぐもった声を出しながら灰原の背中を刺し続ける。
それはジュウシロウが気が済むまで行い、ジュウシロウが一心不乱にやった結果、朝から午後の3時になっていた。
「気が済んだか?」
赤い男はジュウシロウが灰原に制裁を加えている間、状況証拠品を押収し、子どもにお菓子を振舞っていた。
あんま見ちゃダメとは言っていたけど。
本物の警察が来ることが予想されたがなぜか来なかった。
そしてどこから取り出したのか紅茶を飲みながらジュウシロウの狂行を見ていた。
「…もう疲れた」
「そうか…お疲れ様」
そうやって男にもたれかかり寝てしまった。
足元には糞尿をまき散らし、気を何度も失い髪の毛が真っ白になった灰原がいた。
結局その時でさえジュウシロウは人を殺せなかった。
△1:誤字を修正しました。