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File:037 メディア襲撃

もう少しで4000PVです。

いつもお読み頂きありがとうございます。

ユーリやカノンが先行して情報を奪取し、データの転送完了が確認される。

その直後、廃墟と化したビルの一角に、ぽつりと人影が現れ始めた。


軍隊を思わせる装い。ただし、背丈はあまりに幼く、その装備は時代の先を行きすぎていた。

――子どもが、未来の兵器をまとっている。


「時間は……8月6日、午前8時14分。世間じゃ原爆の日か」


ジュウシロウが、薄く笑って言った。

故郷・広島では、原爆記念碑の前で黙とうの鐘が鳴っている頃だろう。


『過ちは繰返しませぬから』――誰の“過ち”なのか。加害者か、被害者か、それとも未来の子どもたちか。

曖昧な言葉で、罪の継承だけが押しつけられる石碑。


この碑文に初めて疑問を抱いたのは、ある伝記を読んだときだった。

指摘していたのは、遠く離れた国の革命家――キューバのゲリラ指導者だった。

「誰が“過ち”を犯したのかが明示されない限り、それは反省ではなく、免罪符に過ぎない」

彼のその言葉が、ジュウシロウの心を貫いた。


それ以来、原爆記念式典という“イベント”が、憎くてたまらなかった。

誰の責任かを曖昧にし、綺麗な祈りで蓋をする――そんな欺瞞が、堪らなく気持ち悪かったのだ。


「転送に2日のズレ。これは……()()()()


転送先は、野原のような広く静かな空間だった。

その場で、40人の子どもたちが一斉に整列する。


「各位、指定された地点へ。合図があるまで待機。目的は一斉惨殺。計画を遵守しろ。……いいな」


「「「了解」」」


4人×10小隊。

ケン、ソウ、アリアの姿も、その中にあった。


残されたのは、俺とジュウシロウ、そして――


「なんでアンタまでいるのよ」


「それは、こっちのセリフだ」


カオリは白い神経外骨格をまとっていた。

しかし、その動きには素人臭さが隠せない。


そこへ、どこからともなく声が届く。


『仕方ないじゃないか。カオリ君が“行きたい”って言うからさ』


――ルシアンだ。また現れやがった。


「どこにでも出てくるな、お前は」


『当然だろう? 君はまだ完全に信用されてない。

 だから、仲間としての“()()()()”を、もう少し受けてもらう』


ルシアンはくるりとこちらを向き直った。


『とはいえ、ジュウシロウ君一人で君たち二人の子守りをするのは酷だ。

 ……だから私の“虎の子”を出そう』


現れたのは、針金と肉体を無理やり接合したような異形の人型。

腕から肩にかけてはブレードに変形し、顔には麻袋

――いや、子どもの工作と殺人鬼を掛け合わせたような不気味な“笑顔”が貼り付けられていた。


それも3体。


『デザインはアリアだよ。ホラー趣味でね。名前は……Sack face(麻袋面)


「そのまんまじゃねえか」


『彼女のセンスだ、僕ではない』


ルシアンは肩をすくめ、笑った。


「ボス、つまりこの7人?7体?で行動するということですね?」


『そうなるね。……ただし、今はまだ朝の9時。

 人間がもっと“活発”になる時間帯に動こうじゃないか』


「了解」


そのやり取りを、前崎は一言も発さず、ただ静かに聞いていた。


---------------------------------ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ジュウシロウを追って、前崎たちが向かったのは『週刊焚春(しゅうかんたくしゅん)』という雑誌を発行している出版社――文栄(ぶんえい)春陽社(しゅんようしゃ)だった。


雑誌業界が下火になったとはいえ、この世界はずっと「他人の不幸」を書き続けることで生き延びてきた。


驚くべきことに、日本における“他人の不幸を消費する文化”は、世界でも群を抜いている。

実際、ゴシップ記事やスキャンダルを扱うメディア(現代ではすべてデジタルに移行している)の売上は、世界トップクラスを記録している。


これは裏を返せば、「他人の不幸を望む感情」――ドイツ語で言う「シャーレンフロイデ(Schadenfreude)」が、無意識のうちにこの社会に根付いている証左とも言えるだろう。


歴史を振り返れば、日本における「悪評を利用して出世した最古の例」は、大化の改新の立役者――中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)中臣鎌足(なかとみのかまたり)かもしれない。

政敵・蘇我入鹿(そがのいるか)を“専横の(せんおう)悪者”として葬り去り、王権を一手に握る道を切り拓いた。


ゴシップと粛清の政治――それは1400年前から現在に至るまで、極めて有効な戦略であり続けた。


そして今、文栄春陽社に対して、白昼堂々の“殲滅”が始まる。



Sack face(麻袋面)の3体が出入口を封鎖し、

残された社員たちを、ジュウシロウ・前崎・カオリが次々と銃撃していった。


運動音痴に見えたカオリが、狙って撃つくらいはできることに、前崎は少し驚いた。

だが、その表情は無理に気丈さを保っているようにも見えた。


新聞記者、編集者――

誰もが、それぞれの人生を持っていたはずだ。

だがそれを、容赦ない銃弾が、次々と“人生ごと”削ぎ落としていく。


ジュウシロウは中でも群を抜いていた。

ジュウシロウが構えたのは、M749-V “Oblivion(オブリヴィオン)”。

本来は人間が“装備”していい範疇を明らかに逸脱したミニガンだった。


なぜなら元々据え置きの砲台に設置する火器であり、狭いオフィスビルの廊下から部屋を貫通させて撃つには、あまりにもオーバーキルだった。


毎秒100発。1秒で“人”という概念が霧散する。

だが恐ろしいのは、それが12,000発分、途切れなく続くという事実だった。


唯一の弱点は、オーバーヒート。

だがそれも冷却システムで90秒待てばまた“地獄”が再開する。


本来は据え置きの砲台に設置する火器であり、狭いオフィスビルの廊下で撃つには、あまりにもオーバーキルだった。


オーバーヒート中はその間は腰に下げた機関銃を使う。


火線が走るたび、肉塊が挽き肉へと変わっていく。

悲鳴など存在しない。ミニガンの駆動音にすべてが掻き消される。


“阿鼻叫喚”という言葉すら、この場では意味を失っていた。


最終的に、社長室へとたどり着いた一行は、

先回りしたSack face(麻袋面)の一体が、腕についたブレードで気絶した社長を襟首から吊るしているのを見つけた。

禿げ上がった頭が、だらりと垂れ下がっている。


「……記事書いたやつの名前、覚えておけばよかったな」


そう呟いたジュウシロウは、ミニガンを最大出力でぶっ放し、

社長の死体を窓の外へ突き落とした。


「……いいの? そんなあっさりで」


カオリが問いかける。

ジュウシロウは、窓から背を向けたまま答えた。


「十分だ。今ごろ、地獄に着いてる」


振り返り全員に指示を出す。


「警察が来る。前崎さん、ここから退散しましょう。……前崎さん?」


前崎は何かを考え込んだまま、窓の方を見つめて動かない。


「何ぼさっと突っ立ってんのよ!」


「黙れ。今、考えてる」


カオリの怒鳴り声に、食い気味で返す前崎。

ジュウシロウはわずかに苛立ったが、カオリの語気にも棘があったため、言い返すのをやめた。


ルシアンも近くにおり、アイコンタクトをする。


作戦開始前のルシアンからの命令が頭をよぎる。

――“最悪の場合、前崎を排除しろ”

ジュウシロウは内心でうなずき、右手の銃に自然と意識を移した。


前崎の左手には、カオリが過去に埋め込んだ爆弾がある。

何かあれば、作動させる。それも選択肢の一つだ。


ジュウシロウは表面上は冷静を装いながら、前崎の背後に近づいた。


「……何を考えてる? 前崎さん」


しばらくの沈黙のあと、前崎がつぶやいた。


「――サイレンが、鳴ってねぇ」


「……え?」


「この規模の襲撃なら、10分以内に警察が来るのが普通だろ。

 ここは警視庁から直線で3キロ圏内だ。

 ……それなのに、サイレンの一つも鳴らねぇ」


確かに。

さっきまで鳴り響いていたのは、ミニガンの音だけだった。


――原爆の日の広島では、8時15分にサイレンが鳴る。

だがここでは、誰も何も反応しない。


それは、ただの静けさではなく、何かが封じられている”ような不気味な静寂だった。


ジュウシロウたちは、疑念を胸に、次の行動へと向かった。

かつてのキューバのゲリラ指導者チェ・ゲバラは実際に原爆ドームに来た写真が資料館に残されており、石碑に書かれた文言にブチ切れていた記録が伝記や書籍に残っています。


by広島出身者

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