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File:036 白馬の王子様作戦

累計3000PVと日間400PVオーバーありがとうございます!

ブックマーク登録もありがとうございます!

眠らない街、歌舞伎町。

行政が手をつけきれなかった“闇の合法区域”は、ネオンと電子看板の海の中に今なお息づいている。

ホスト、キャバクラ、デリヘル、ピンクサロン、イメクラ――名を変え、形を変えながら、欲望を提供し続ける産業がここにはある。


この街では、人間の尊厳すら“商品”として扱われる。

そして、それが堂々と“合法”の看板を掲げて営業している国、それが日本だ。


“世界最古の職業”は、令和改元に続く泰新(たいしん)になっても必要とされた。

むしろ、ますます制度に組み込まれた。


ソープランドの特例風営法、脱税とグレーゾーンで成り立つ裏帳簿、芸能プロダクションを隠れ蓑にした枕営業。

どれほど高い地位にある者でも、裏でそうしたサービスを享受している限り、決してその名が表に出ることはない。


なぜか?


風俗業界は「いつでも潰せる」ことが前提の上に成り立っているからだ。

摘発するも自由、黙認するも自由――行政の匙加減ひとつ。

だからこそこの業界は、自ら進んで権力に尻尾を振る。


日本のAVにモザイクがかかり続けるのも、倫理観協会という“謎の組織”が政治家たちの天下り先として機能しているからに他ならない。

つまりこれは、“自主規制”ではなく“政治による握りつぶし”だ。


そう、法の背後にいるのは常に“利権”である。


この国は、見て見ぬふりをするのが得意だ。

本当は誰もが知っている。


駅前のソープ街がなぜ存在し続けるのか。

暴力団が“関係ないフリ”で土地を所有し、業界を回していることを。


ここまでは、まだ()()()()()()()()の話にすぎない。


本当の変化は、2010年代に訪れた。

スマートフォンの普及とSNSの台頭。

それは、これまで“業者の領域”だった売春を、個人が“直取引”で行える時代の幕開けだった。


違法な客引き、立ちんぼ、援助交際。

表の看板も事務所も必要ない。

裏アカと暗号じみたハッシュタグがあれば、未成年の少女でも男を“釣る”ことができた。


「パパ活」という言葉は、風俗の言い換えであり、脱税と違法行為の温床だった。

だが、所得申告など誰もしない。


黙認された。――いや、“黙殺された”と言うべきか。

派手にどれだけ儲けたかさえ言わなければ簡単に脱税できる。


援助交際が巧妙なのは、法そのものが“未整備”だったからだ。

16〜18歳と性交した場合は、各都道府県の青少年保護条例が基準になる。


だが地域差があり、処罰も運用もまちまち。

15歳以下であれば刑法で“即アウト”だが、その線引きが“罠”にも“盾”にもなる。


男たちはその“曖昧さ”に賭け、少女たちはその“弱さ”にすがった。

法では少女が“か弱い被害者”として位置づけられ、その存在がそのまま交渉の材料と武器と化す。


だが忘れてはならない。

なぜ“幼い少女”が商品として成立してしまうのか。

なぜ“供給”がなくならないのか。


この国には、それを望む“買い手”が一定数存在し続けているという、あまりに冷酷な現実がある。

そして、政治家も警察も、そこにはほとんどメスを入れようとしない。

取り締まるよりも、利用する方が双方に都合がいいからだ。


シンフォニアの張は、まさにその象徴だった。


そして、背景にはもう一つの現実がある。

経済格差。


バイトを掛け持ちしても学費が払えない。

進学すら叶わず、親も頼れず、行政支援も届かない。

そんな未成年が「普通の生活」を得ようとしたとき、身体を売ること

――それが、最短距離の“自己責任”として突きつけられる。


この国は、誰も手を差し伸べてはくれない。

だから少女たちは自分で手を伸ばす。


売るのは身体であり、未来であり、口と穴に札束と“支配の象徴”をねじ込まれた言論であった。



そんな夜。

歌舞伎町の喧騒に紛れ、テレビ局〈さくらテレビ〉のチーフプロデューサー、坂本正道は裏通りをゆったりと歩いていた。

月に二度だけ許す“風俗日和”。

それは、成功者である自分へのご褒美。世間の倫理など、とっくに置き去りだった。


テレビという“旧王朝”が、ネットに駆逐される時代。

テレビの時代が終わりあらゆるテレビ局は統合され国家放送機構 〈さくらテレビ〉へと変貌を遂げた。

そんな終わりがとうに見えている業界。


だが坂本だけは違った。


AI技術の爆発的普及を読み切り、SNS広告と組み合わせた情報独占モデルを作り上げたのだ。

限られた予算を盾に買収を重ね、メディアとネット広告の“中間地点”に陣取った坂本は、もはや社内で孤高の存在だった。


――時代に選ばれた側。

そう信じ込むには、十分すぎる実績と傲慢さがあった。


「俺は、ルールを作る側の人間だ。守るのは、その他大勢の負け犬たち」


今夜もまた、“この国に価値を与えた報酬”として、自分が正当に享受するべき夜だった。


ふと、視界の端に奇妙なものが入る。


少女――まだ中学生、いや小学生の終わりか。

あまりにも幼く、そして不自然に整いすぎていた。


この時代には珍しく、ただ真っ直ぐに立っていた。

片手には電子端末の一つも持たず、看板も掲げていない。

広告も音声も発しない彼女の存在は、ブランド物に身を包み(未成年以外の)虚飾にまみれた女(傲慢すぎる女)たちとは違い、どこか神性すら漂わせていた。


ネオンに照らされながら、ただ一人、静かに、無垢な微笑を浮かべていた。


腹部がちらりと露出した服。

おへそが見える程度に短く、それでも全体は清潔感に包まれていた。

あどけない顔と、子どもっぽい所作。

だが、仕草の端々に“誘い”があった。


「……これは、当たりか。」


坂本の喉が鳴る。


「君、いくら?」

「え……五万円ぐらい……かな?」


目を細める。

この価格でこの“レアさ”――掘り出し物だった。


「じゃあ、行こっか。」

「うん!」


少女は満面の笑みを浮かべ、ためらいもなく坂本の腕に身体を寄せた。

体温と柔らかさ。演技か、仕込みか、そんなことはどうでもいい。

重要なのは、今夜、“所有”できることだった。


「名前、聞いてもいい?」

「……カノン、です。」


小さな声。恥じらいを帯びたような響き。

だが、その声に坂本はまるで陶酔したかのように頷く。


彼女を連れ込んだのは、自社グループが持つ高級ホテルの一室。

誰にも邪魔されず、監視もない。完璧な空間。


オートロックが閉まり、外界との隔絶が成立した瞬間、坂本の目の奥が鈍く光る。

彼女が部屋の隅に立ち、静かにスカートの端に手をかけた。


坂本は靴を脱ぎかけ、ネクタイに手をかけ――そこで、ふっと脱力する。


「はあ……最高だ……」


その言葉とともに、意識がゆるむ。

足元がぐらつき、視界が揺れた。


「何が…起こって…」


コートハンガーの影で空気が波打ち、光学迷彩が静かに解除される。

金属の軋む音。

そして銃口が背中に当たる“感触”だけが、坂本の意識の底に沈んでいく。


声はない。命令もない。

何も気づかせずに眠らせる――それが任務だった。


そのまま坂本の身体は、ゆっくりと床に崩れ落ちる。

眠った顔は、まるで満足げにすら見えた。


カノンは静かに、制服のボタンを留め直した。

感情のない瞳で、坂本を見下ろす。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「カノン……あんた、ほんとにすごいわね」


「ん? そう?」


カノンは特に気にした様子もなく、テーブルに置かれた小袋からチョコのお菓子をつまむ。

そのお菓子は彼女の好物で、ユーリがねぎらいも兼ねて用意したものだった。


カノンが連れてきたテレビ関係者は、これで6人目。

しかも、わずか2日間でだ。


この作戦――元を辿れば、カノン自身が立案したものだった。

あどけない彼女の口から発せられたその内容は、あまりにおぞましく、非倫理的な行為はユーリも、カオリも、マスミも、最初は任務を任された全員が反対した。


それでもカノンが「一人だけ、試しにやってみよう。役立たずは嫌だから」という条件で強行され、結果はあっけなかった。

標的は、あまりにも簡単に釣れた。

あまりにも簡単に釣れるので潜入捜査官を疑ったほどだ。


ちなみに、ユーリ自身も「カノンだけにつらい思いはさせたくない…!」とこっそり試してみたが、誰一人として立ち止まらなかった。


その事実が悔しすぎて、さっきまでスタンバイしていたホテルの控室でずっと不貞腐れていたところだった。


「……なんでそんなに違うの?やっぱり胸?胸の大きさの差?」


「ち、ちがうと思うけどなぁ……(まあ、ユーリは確かに小さいけど)コツかな?」


カノンは口をもごもごさせながら、どこか曖昧に答える。


「コツ?今、小声で何か言った?」


「い、いや!……コツだよ、うん。

 えっと……シンフォニアにいた先輩が言ってたんだけど、

 “あなたがいないと生きていけない。救えるのはあなたしかいない”――

 それを、全力で演出するのが肝なんだって。

 名前が白馬の王子様作戦だったはず」


あどけない笑顔で語られるその“演技論”に、ユーリは一瞬、鳥肌が立った。

今までこの子を、人畜無害で天然気味の少女だと思っていた――それが間違いだった。


どす黒い何かを、当たり前のようにその内側に抱えている。


「……まったく。こんなかわいい顔してるくせに、ほんと恐ろしいわね」


「えへへ……!」


カノンは無邪気に笑いながら、また一つお菓子を口に放り込む。

その頬を、ユーリは軽くつまんだ。


足元には、坂本が仰向けに寝かされ、無機質な装置に接続されたまま、魂の抜けたような顔で放置されていた。


ユーリたちが本当に欲しかったのは、“人間”ではなく――テレビ局の図面だった。


民間放送局の建物は、占拠やテロ対策のため、複数の出入口や地下ルートが存在する。

しかしその構造は複雑かつ非公開で、通常の手段で完全に把握するのは不可能だった。


だからこそ、AIによるマッピングが必要だった。

かつて“前崎”を相手に投入寸前だった記憶抽出装置メタトロン

坂本の記憶から、AIが構造データを高速解析し、リアルタイムで地図を生成していた。


ただし、問題もある。

あまりに強い負荷をかけると、脳が処理に耐えきれず、廃人と化す。

――今の坂本のように。


だが、彼に関しては最初から“使い捨て”の予定だった。

すでに6人全員死体となっている。

SG(シルバー・グロウリィ)で処理予定だ。


メタトロンは万能ではないが、明確で具体的な記憶であれば抽出が可能。

“知っている範囲や何度も通っている場所”に限っては、高精度の情報が手に入る。


「データ取り出し、完了しました」


報告の声に、ユーリが顔を上げる。

部下の一人が画面を携えて近づいてきた。


「ん、ありがと――」


そう言いかけて、ユーリは小さく眉を寄せた。

その部下の視線が、明らかにカノンへと向けられていたからだ。


たしかに、カノンの服装は男性の注意を引くように設計されている。

露出は計算されており、無防備さと誘惑の両立。

しかも本人に、羞恥の色が一切ない。


だが――あまりに露骨だった。

その視線は、まるで自分を素通りして、カノンに吸い込まれていくようだった。


(……少しくらい、私のことも見なさいよ)


「男って、ほんっとにバカね」


「え? いま、なんか言った?」


「なんでもなーい♪」


ユーリはそっけなく返すと、取り出したデータを確認し、そのままボス宛に送信した。

任務は順調に進んでいた。

けれど、心の奥にはほんの少しの――釈然としないもやが、確かに残っていた。

カノンの篭絡術は頂き女子リリちゃんマニュアル参照。

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