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File:033 先輩の落とし物

一日PV数200突破!

ありがとうございます!

一ノ瀬が病室で窓をみる。鳥が囀っていた。


あぁ…うるさい。


そう思いながら看護師がわざわざ開けた窓を閉める。

そういって不貞寝するように考える。


あの人がどういう考えで動いているか…。ただあの人が裏返ったとは考えにくい。

何か何か理由があるばすだ。


一ノ瀬は比較的軽傷だった。恐らく前崎に手加減されていたと思う。

射撃を受けた手足も綺麗に関節部分は外されていた。


本気で殺す気であれば頭を狙っていたはずだ。


であれば彼は作戦行動中、または作戦を独断で判断していると考えるべきだ。

現在、それを高宮、黒岩、東雲、山本に任せている。

いい機会だから休んでくれと言われてしまった。

部下の前で醜態を晒した手前申し訳ない気持ちがある。


殺された森田首相の娘のUSBメモリから森田首相がターゲットになることはわかっていた。

よってそれを狙い撃つために一ノ瀬は待ち伏せをした。

ちなみにだが一ノ瀬が率先して首相の官邸で待ち構えると言う話を提案した。


周囲は止めたが前崎との戦闘では周りが邪魔になること。

人質に取られる可能性。

また前崎の手の内を知り尽くしているのが自分だけという理由でゴリ押しした。


ただ予想以上に相手の装備の性能が良かったことと前崎の手段の選ばなさが完全に盲点だった。


周りに待機させていたがあまりの速度で移動するので監視網をすり抜けてしまった。


対神経外骨格では既存の捕縛マニュアルが当てはまらないのもこのためだ。


相手が人質を取るなりして何かを要求するならまだしも、いつどのタイミングで来るかわからない殺人に対して備えるなど不可能だ。


「総理を殺してでも相手の要求を呑まざるを得ないことって何だ?」


公安の人間は自己犠牲に躊躇は一切ない。


最悪死ねと言われれば死ねという人間の集まりだ。

しかし自分が生きた方がメリットがある上、何かしら不利になり得ることがあったのだろう。


「…一体それはなんだ?」


「それが見つかりそうですよ」


現れたらのは黒岩だった。


黒岩はラフなシャツを着ているがガタイのデカさからタンクトップのように見える。


「東雲じゃなくてすみませんね」


「本当にそうだよな」


見舞いに来たのが筋肉ムキムキの男なのでゲンナリするのは本当だ。

ただ見舞いに来てくれるのはシンプルに一ノ瀬でも嬉しく思った。


「でわかったのはなんだ?」


「一ノ瀬主任が前崎主任と戦った時に全損した神経外骨格を鑑識に回しました」


黒岩が資料と電子端末を渡す。

弾丸の写真だった。


「弾丸に薄いコーティングがされてまして、それが音声の波形でした」


「…何?」


「恐らくライフリングにそのような機能があるのでしょう。リボルバーに内蔵されたAI機能といった所でしょうか。」


「だがそんなものが成り立つのか?銃弾だぞ」


潰れて読み取れないのではないか?


「かなり特殊加工してある銃のようで弾の硬さが尋常ではないです。

 人工のダイヤモンドまで混ぜられてありました」


「そんなものを喰らってよく…」


軽傷でよく済んだものだ。


「火薬の量が低く調整していたのでしょう。消炎反応が銃撃した家からはほとんど出ませんでした」


確かに言われてみればリボルバーにはあの時サイレンサーをつけてなかった。


音で予想以上に自分がダメージを喰らったと勘違いしたのか。


「5つの弾丸がそれぞれ別波形として組み込まれていて、それらを組み合わせることで音声が出てくるという仕組みらしいです」


「結果は?」


「まだ確実とは行きませんが一つ。わかったことが」


「話せ」


「相手のボスと呼ばれている少年の正体が判明しました」


その詳細は一ノ瀬の根底の価値観をひっくり返すのに十分すぎる情報だった。



その少し前。


山本、東雲が共に解析をしている。主に山本だが東雲は波形をメモしている。


高宮は波形からわかったことを片っ端から調べている。


「ボスと呼ばれている少年。ボス=ルシアン。2035年から遡っているけどそんな名前の新乳児はヒットしないな」


「偽名ですかね?」


「偽名にしてもそんなボスって名字にわざわざするかね?」


高宮はさらに検索範囲を広げる。


「どうやらオランダ性のようだが…ボスっていうのは森って意味らしい」


「ルシアンは?」


「光を照らすものって意味らしい。ラテン語からの派生のようだ」


「救世主としていたかったんですかね?」


「さあな。もしくは前崎さんのリボルバーのAIがぶっ壊れているかどうかだな」


そうやって高宮はだらしなく席にもたれる。


「それはないと思います」


そういったのは山本だった。


「今調べている中でもボスやルシアンって単語は繰り返し使われています。12回ぐらい。

 前崎さんが会話して精度を高めたおかげでしょう。

 前崎さんと一ノ瀬さんの会話記録にもその名前は存在しました。」


「なるほどね。他にわかったことは?」


「首相の娘の真澄さんはご無事のようです」


「…そうか」


言っちゃあ悪いがどうでもいい。総理は死んだんだ。

娘にはっきり言ってそこまでの価値はない。


高宮が何の気なしにボス=ルシアンに関して検索をかける。

過去の事件の履歴や事件、消された投稿から検索する警視庁の検索エンジンは一般的なパソコンで使われる

検索エンジンを量と質をはるかに凌駕する。


そこで一件ヒットする。


1997年 オーストリア・インスブルック大 世界初の量子テレポーテーション


「…」


ホログラムによる転送技術、まさかここから…?

高宮が無言でクリックする。


そこにはアントン・ツァイリンガー教授の研究チームが、世界で初めて量子テレポーテーションの実験に成功した

という記事が載せられていた。

NATURE(ネイチャー)誌にも載ったそうだ。


それの助教授に「ルシアン・M・ブランク」という人間がいた。


所属:オーストリア・インスブルック大学 理論物理学部

専門:量子もつれ理論・時空通信工学・情報論的実在論

役割:アントン・ツァイリンガーの下で、量子テレポーテーションの数理モデルを補佐。


40歳の写真だそうだ。

だが他にアントン・ツァイリンガーの下で研究したデータはなかった。


この世紀の大発見の時だけだ。

それからルシアン・M・ブランクという名前を見ることはなかった。


1997年の古ぼけた写真があり、そこにはアントン・ツァイリンガーを始めとした研究者たちの集合写真があった。


一つずつあのホログラムの顔と合わせていく。


今は自分が老けた顔まである程度はプログラムで算出できる。

あのホログラムの顔が実在する人物であれば間違いなくできる。


アントン・ツァイリンガーの横で肩を組んでいる男性。

これの顔認証をする。


一致度:97.98%


「…こいつだ」


東雲と山本も寄ってくる。


「40歳?実年齢と大きく乖離していますね」


「もしかして子どもの軍隊と思っていたのは結局…操られた子どもだったってことなんですかね?」


「恐らくは…」


当時の研究者はもうとっくに死んでいる。

当時のこと聞いても半世紀前の人間の人物像など調べようがない。


さらに言えば…


「なんでこいつは自国ではなく、日本で革命を起こそうとするんだ?」


それが高宮の疑問をさらに加速させた。



「1997年の助教授ルシアン・M・ブランク…?生まれは1957年?一世紀以上前じゃないか…」


一ノ瀬は病室でその助教授の写真を睨む。


「だからこそこちらが先手を取れると思われます」


黒岩はそういった。


「やつらの転送技術はあくまで障壁がありました」


資料を一ノ瀬に見せる。


量子テレポーテーションは、2025年の時点ですでに光子・原子レベルで成功している。

ただし、人間のような巨大なシステムへの応用は、現段階では物理的・倫理的に極めて困難と言わざるを得ないといった論文だった。


困難な理由は以下の通りだ。


・情報量が桁違い人間1人を構成する原子数は約 10の28乗。

 そのすべての量子状態を読み取って、再構成するのはほぼ不可能な情報量。


・量子複製禁止の法則(No-Cloning Theorem)

 一つの量子状態を完全にコピーすることはできない=“瞬間移動中に一時的に2人になる”ことはない。

 俗にいうドッペルゲンガー問題。


・転送中に「意識」はどうなるのか?

 これは哲学的問題。転送元の自我が消え、同じ記憶を持った別人が生まれるだけでは?という懸念。


一ノ瀬がこれを見てハッとする。


もし情報量が少ない子供たちであれば?

もし完全にコピーすることができないのならばコピーはバックアップとしておけばいいのでは?

もし新しいことに興味を持ち、哲学的な問題に一切疑問を抱かない子供であるならば?

もし人間の情報量が処理可能なコンピュータがあるのであれば?


さらに恐ろしかったのは他の量子テレポーテーションの研究と必ずといっていいほど付随する研究。

それがブラックホールだった。


もし人口ブラックホールで時間の流れが現実と乖離したのであれば?


一ノ瀬から冷や汗が垂れる。


「シャレにならないな…」


一ノ瀬は大きすぎる敵の影に息を飲んだ。

1997年 オーストリア・インスブルック大 世界初の量子テレポーテーションはちなみに実話です。


量子力学や相対性理論に通ずるものですので是非。

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