File:023 リザルト②
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「……さすが、お強いですね」
大の字に倒れたケンが、歩み寄る前崎に目を合わせながら苦笑した。
仮面に予備があったようで近づいた時にはすでに金の猿の仮面を被っていた。
「お前……何者なんだ? その年齢でこの実力、常識的に考えて異常だ。
システマなんてどこで習った?」
「ふふ……そのうち分かりますよ」
ケンの口元がゆるむと、その体がゆっくりと再生を始める。
トレーニングルームの効果だが裂けた皮膚が塞がり、折れた骨がやはり恐ろしい。
「いやあ、見事見事」
拍手とともにルシアンが歩み寄ってきた。場の空気を掌握するかのような軽やかさ。
「さて、前崎くん。つき合わせて悪いけど、そろそろ帰ってもらおうか。……ギャラリーが多すぎる」
いつの間にか周囲には人だかりができていた。
全員、子ども。だが、その眼差しは無垢ではなく、興味と恐怖、そして敵意が入り混じっていた。
「……戦わせといて、勝手なもんだな」
「悪いとは思ってるさ。でも、君が生きてるだけ感謝してほしい。これが“忠誠”の証明の代償だよ」
ルシアンはポケットから数枚の紙を取り出す。
そこには写真とともに、いくつかの名前が記されていた。
ターゲットのリストだ。
「この中の一人を抹消をお願いするよ。それで忠誠を示してくれると助かる」
前崎がリストを見るとそれは錚々たる面々だった。
「これは…また随分と豪華な標的だな。ゴルゴ13になった気分だ」
「じゃ、ここから転送するね」
言葉と同時に、前崎の身体が光に包まれていく。
「前崎さんッ!」
「ユウカ、危ないわよ!」
ユウカとカオリが慌てて駆け寄る。ユウカは上着を抱えていた。
「忘れ物です!」
「ありがとうございます、ユウカさん」
前崎が受け取った瞬間、彼女の手が前崎の手をぎゅっと握った。
「……よろしくお願いしますね」
「……ええ、お任せを」
優しく笑みを返すと、前崎の姿は光とともに完全に消えた。
転送の余韻と、残された者たち
転送が終わると、ケンの周囲には感想戦を語る声が渦巻いていた。
中には前崎の集中時の舌の動きを真似ている者もいる。
「……みんな、影響されすぎじゃない?」
「確かに」
ユーリとシュウが呆れたようにため息をつく。
「だが、あれこそが我々の目指す境地だ」
ジュウシロウが重々しく言った。
彼は重装歩兵型の訓練生であり、ケンのような軽装で潜入・暗殺・戦闘に特化したタイプとは分野が違う。
しかし、どこかにコンプレックスが滲んでいた。
「……もっと訓練しなければ」
そう呟きながら振り向くと、出口の方にいたカノンと目が合った。
「あっ……」
「君は……?」
カノンが思わず声を出す。ジュウシロウは数日前の醜態を思い出し、顔を赤らめた。
「……先日は、錯乱状態だったとはいえ、申し訳なかった」
「い、いえ……ご無事で何よりです」
カノンが照れたように首を振る。
(なんだろう……この子、妙に色っぽい)
ジュウシロウが戸惑っていると、カノンが首を傾げながら覗き込む。
「あの……どうかしました?」
「えっ、あっ、いや……」
動揺するジュウシロウの足を、突然カオリが踏みつけた。
「いてっ!?」
「……ずいぶん年下の子にデレデレしてるじゃないの?」
「か、カオリさん!?」
カオリは怒りを込めてさらに足をグリグリとねじ込む。
カノンは慌ててユーリに視線を向ける。
ユーリはまた始まったという顔をしていた。
「気にしないで、ただの痴話喧嘩だから」
ユウカがカノンを軽く抱き寄せる。
「ほんと、かわいい子ねぇ。ジュウシロウ君がカオリよりこっちを気にするの、わかるわ~」
「ちょ、ちょっとッ!」
カノンの身体を軽くまさぐるユウカ。
ジュウシロウはそのやり取りを思わず凝視してしまう。
その瞬間——
「ぐっ!」
鋭いボディブローが彼の腹に突き刺さった。
「ふん、どうせ私は可愛くなんかないですよ~だ!くたばれロリコン!」
追い打ちのように顔面へ蹴りが飛ぶ。
「こんな奴、放っておきましょ!」
「え、ちょ、ジュウシロウさんは!?」
「今のはジュウシロウさんが悪いわ」
「……っすね、さすがに」
ユーリとシュウが冷徹に言い放つ。
「あとで一緒に食堂に来てねー」
ユウカがカノンの手を握って、ジュウシロウに手を振った。
身長が180㎝近い男が大ノ字に倒れている。
「…ちょっと見ただけじゃねぇか」
そうやって蹴られた顔面を擦る。
「そんな俺ってわかりやすいかな」
前崎にも同じことを言われた気がする。
そう思いながら立ち上がり、カオリたちの所へ向かった。
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ケンが静かに肩をすくめ、小さくため息を漏らした。
カオリの様子を遠くから眺めていた。
「……カオリ嬢の怒りが、あの程度で済んで幸いでしたよ。
正直、彼女が去ってしまえば――この組織そのものが瓦解しかねない。
組織学などは専門外ですが、“崩壊の初期症状”くらいは見て取れます。
仮にも組織で一番の医者ですので」
「同感だね。戦術も研究も、予算すらも、人が運ぶものだし。
感情という“不安定な燃料”で一瞬で崩壊するからね。
これだから気の強い女は扱いが困る。
外国人が日本人女性を好む理由がわかるよ」
ルシアンは薄く笑みを浮かべながら、眼鏡の奥で冷たい光を宿していた。
彼らが言葉を交わしているのは、地下層の最奥にある通路。
監視カメラの死角を計算して設けられた、事実上の“密談区画”だった。
「……それにしても、前崎様。おそるべき方でした。
デルタフォース由来の戦闘データと、生体記憶を継承したにも関わらず、戦略、反応速度、殺傷判断。
すべてを最適化された私でさえ、“殺される”と本能が叫んだのです」
ケンの声には、機械的な敬意というよりも、生物的な畏怖が滲んでいた。
「やはり“経験”と“蓄積”は、コードでは再現にが限度があるかもしれないね。
訓練された子どもたちは優秀だが、彼のような“生き残ってきた者”には少し及ばない所があるかも。
理論値は、現場では通用しない場合があるしね」
ルシアンは天井を見上げながら、独白のように呟いた。
「君ともう一人――この世界に存在する“二つの成功例”を除いて、まだ“製品段階”に至っていないからね。
そしたら前崎君を力をすべて奪って無敵の工作部隊ができるのだが。
だからこそ、“蜃気楼戦術”のように、短時間だけ出現して撹乱し、即時撤退する手法に頼らざるを得ないっていうのが
ネックだよね~。兵士がそれでは育たない」
「そうですね。付け加えればそれにも限界があります。
この拠点が特定されるのは、もはや時間の問題でしょう。
前崎様が動いている以上、“察知されない”という仮定は成り立たない」
「……同意するよ。だからこそ、兵隊を“完成させる”必要がある。
確かに、多くの者は量産型と呼ぶに相応しい。
けれど、思考力と判断力を植えつけなければ、ただの精巧な死体と同じだ」
ルシアンは目を細めながら言った。言葉の端々には、設計者としての責任と絶望が滲んでいた。
「この計画に着手してから、そろそろ百年になる。
時間を“消費”するだけで成果が出るなら、誰も苦労はしない。
だが、投げるつもりはない。これは、“結果”に価値がある仕事だ」
その言葉に、ケンの目がわずかに揺れる。
だが、それも一瞬。次の瞬間には、感情を捨てた微笑がその顔を覆っていた。
「…あまりそういうことを表でいうものではないのでは?」
「バカをいうな。みんなうっすら気づいているさ。
年齢の肉体と、精神の老成度は一致しない。我々は、時間の中で研がれ過ぎた」
「人と呼べるかどうかあなたも我々も怪しくなってきましたね」
「過去に言っただろう? 僕も君も、“失敗作に近い成功例”なんだよ。
不完全だからこそ、逆に使いやすい。
“壊れたら交換”という割り切りがしやすい分ね」
「……まるで我々は消耗品ですね。
それでも、私たちは進むしかないのですね。退路はない」
「そうだ。どれだけ世界が壊れても、我々の勝利で終わらせる。
それが、設計された者の生き方だ」
最後の一言に、迷いはなかった。
勝利とは何か。日本を滅ぼすことか、変えることか、あるいは――
それを定義できるのは、常に“勝った側”だけなのだ。
自分の小説をどうして読んでくれるのか機会があれば伺いたいです。
なんで異世界転生ものにしなかったのか!!と問い続ける毎日…。
 




