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File:020 ジュウシロウのリベンジ

X戻ってきました!お騒がせしまいした!

ならびにXで小説を紹介された方ありがとうございました!

過去最高PVを達成しました!

ありがたい限りです!

「……すごい数値ね」


モニターを見つめながら、カオリが呟いた。


ディスプレイには複数の数値が並び、そこからパソコンと二本の試験管にコードが伸びている。

試験管には、先ほど採取した前崎の血液と組織片が入っていた。


この時代の解析技術をもってすれば、細胞一つからでも個人のパーソナリティを読み取ることができた。

医師は単なる治療者にとどまらず、人間の思考をビッグデータとして収集・分析する職業でもあった。


「肉体のクオリティはともかく、メンタルの数値が飛び抜けてる……。

これが、あいつの“強さ”の正体……?」


さっき自分を罵倒してきた男の顔が脳裏をよぎる。

カオリは舌打ちした。


「どうやってこんなメンタル、鍛えるのよ……。これが“大人”ってやつなの?」


単純な筋力でも、知能でも、精神でも──

子どもでは、勝てないのか。


(あいつを倒すには、どうすればいい?

ジュウシロウが勝つには、私に何ができる?)


カオリは感情よりも技術で物を測るタイプだ。

生まれつき、そして育った環境のせいもある。

“メンタル”──そういった類のものは、彼女の最も不得手な領域だった。


その時、後ろから声がかかる。


「カオリ。あの人に勝とうとするのはやめておきなさい」


「……なんでよ、マスミ」


振り向くと、そこにいたのは森田総理の娘──マスミだった。

彼女も医学志望で、無免許ながら実戦的医術を使うカオリとは話が合う。


ちなみにマスミは前崎とは異なり、SG内で一切の制限を受けていない。

“特別枠”のひとりだ。


マスミは紅茶を啜りながら、静かに言った。


「前崎英二。彼は傑物よ。

 官僚と公安、両方の資格を持って、最年少で二つの職を掛け持ち。

 要人たちの信頼も厚く、パパ──総理も“誰も彼には敵わない”って言ってた」


「……そんな、すごい奴だったんだ」


あらためて知る前崎の凄さ。

でも、そんな冷静な人間がなぜ、あんなふうに怒ったのか──。


「彼に何かされたの? それとも、彼氏のジュウシロウを傷つけられたのが許せないの?」


「……どっちもよ。って、ちょっと待って。なんで“彼氏”って知ってるの、あんた」


誰にも言っていないはずだった。

私とジュウシロウしか──。


「どっからどう見てもバレバレ。

 逆に、なんで隠せてると思ったのよ」


「そんなに露骨だった……?」


「見てるこっちが恥ずかしいくらいね」


カオリは顔を真っ赤にして、手元のクッションで顔を隠す。


「ちなみにだけど──カオリ、寝言でも“ジュウシロウ……ジュウシロウ……”って言ってたわよ?」


「もう……やめてよ!」


カオリはクッションをユウカに投げるが、マスミは笑って受け止めた。


「まったく。恋多き乙女ね。今まで恋愛してこなかったのかしら」


「……あんたこそ、恋愛経験ないくせに」


「27回、告白されたけど?」


「絶対、遺産目当てよ」


「あら。嫉妬は見苦しいわよ、カオリ?」


ふたりは火花を散らしながら睨み合う。

そこへ、扉が開いた。


「一人でやるからいいのに……」


「お前、力ねぇだろ。ついでだから気にするな」


入ってきたのは、荷物を抱えたシュウとユーリだった。


「カオリさん、荷物です。ここに置いておきますね」


「ありがとう。ユーリちゃん、シュウも」


「いえ、暇だったので。気にしないでください」


ユーリは会釈し、荷物を置くとそのまま出口に向かう。


そこで──息を切らして立っている少女と目が合った。


「……カノン? どうしたの?」


「カノンちゃん?」


カオリとユーリが声をかける。


カノンはカオリに“おとなしい子”という印象を持たれていた。

そんな彼女が、今は息を切らせ、顔を紅潮させている。


「……じゅ、ジュウシロウさんが──

大人と、決闘するって……! カオリさん!」


一瞬の静寂。


そしてカオリは鬼の形相で置かれた荷物を蹴飛ばすように踏み越え、無言で部屋を飛び出していった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……まずは、引き受けてくださって、ありがとうございます」


ジュウシロウが頭を深く下げる。

それを見て、前崎は少し気まずそうに口を開いた。


「いいのか? 軽くトラウマになっただろ」


「はい……一週間ほど、ベッドに拘束されてました」


「そいつは()()だ。良かったな」


冗談のような本気のようなその返答に、ジュウシロウは本気で「自分は運が良かった」と思った。


──そして。


トレーニングルームには、野次馬が続々と集まっていた。

ガラス越しに、モニタールームでルシアンが全体を見渡している。


『前崎君。ここのトレーニングルームの説明をしておこう。

 ここでは基本的に、肉体的な傷や障害は残らない。武器も同じく再構成される。

 ただし──痛みと、メンタルには響くから注意ね』


「……なるほど。ホログラムの応用か」


『その通り。本当は君のような“まだ信用できない味方”には使わせたくないのが本音だけど……。

 まあ、可愛い部下の頼みだ。仕方ない』


「ありがとうございます、ボス」


ジュウシロウもモニター越しに、頭を下げた。


『ジャッジはケンに任せる。危険と判断したら、即時中止だ』


「了解しました」


ケンは静かにうなずく。いつの間にか燕尾服のような戦闘スーツに着替える。


「あ……しまった。強化外骨格水没したんだった…」


ようやく思い出した。

すべて、レインボーブリッジの崩落と共に失われたのだった。


いつもの部下と同じ組手のノリで来たのでまさか強化外骨格を着込んだ戦闘だとは思わなかった。

訓練でも出力を制限された状態でやるのが普通だ。


「問題ありません。今、持ってこさせています」


「……ん?」


ジュウシロウが答えたちょうどその時、

パソコンを片手に持った少年が家庭用ロボットに乗って現れた。

ロボットのアームには大きな袋がぶら下がっている。


少年は明らかに、これまで見た中で最年少に近い子どもだった。


「これ、あんたの」


前崎が袋を開けると、中には──

強化外骨格本体、ナイフ2本、リボルバー1丁、予備弾30発。

さらにピッキングツールなど、情報端末を除くかつて使っていた装備がすべて詰められていた。


「君が……この中身を、全部?」


「集めたのはケンの部隊。電子デバイス系統は預かっているけどね。

 俺たちはあんたの残骸データを再構成して、それっぽく作り直しただけ。

 いろいろ()()()()あったから完全には構成できなかったよ。

 だから若干クセあるかも」


前崎は外骨格を装着し、手のひらを握る──

まったく違和感がなかった。


「……名前は?」


「エルマー」


「お前ら、すごいな。もっとこう、テロ以外に使え。金稼げるぞ」


「楽しくないから、やだ」


「……そうか。ありがとう、エルマー」


前崎が素直に礼を言うと、エルマーはふと声をひそめた。


「あ、あと。あんたに聞きたいことがある」


「ん?」


「なんでそんな、脆い神経接続式の家庭用外骨格なんか使ってんの?

 民生グレードで、構造古いし、反応遅いし……命かけるやつの選択じゃないよね?」


「簡単な話だ。法律で、制限されてる。それだけだ」


「……くだらない理由」


「くだらない理由だから、死なないように色んな手を打つ」


そう言って、前崎は手元のナイフを軽く振るう。

その一瞬の軌道に、エルマーは目を細めた。


──速い。

明らかに“道具以上”の精度。


「……こんな道具でも、使う()()が違うと、変わるんだな」


「何事も経験だよ。エルマー」


そう言って、前崎はジュウシロウの方へ向き直る。


「──待たせたな。やるか」


「いえ、前に言った通りです。もし俺が勝ったら、技術……教えてください」


「それ、普通は“負けた側”が言うセリフだぞ?」


「……本気で、行きますから」


ジュウシロウが静かに宣言した。

その言葉と同時に、彼の強化外骨格が唸りを上げる。

出力を最大限にまで引き上げた。

それに耐え得る、肉体。

ジュウシロウは、それを既に手に入れていた。


前回とは違い、奇襲を用いられた勝負ではない。

一対一で正面からの勝負では例え前崎であっても遅れを取るとは思っていなかった。


「──まあ、食後の運動にはちょうどいいな」


前崎は肩を軽く回すと、唾を一つ飲み込む。

その瞬間、ジュウシロウが疾風のように踏み込んできた。


刹那。

前崎の視界に映る拳──それを、迷いなく捌く。


手加減なし。これは“試合”ではなく、“模擬戦”の皮を被った“殺し合い”だ。


ジュウシロウは、腰に提げていたショットガンを一瞬構える──が、撃たない。

それを見た前崎が笑う。


「見せかけか。ブラフで牽制して、ナイフ圏内へ誘導する──なるほど。

 瞬間的に距離を詰めたのは、“俺が警戒を逸らす”と読んだか」


「対あなたとの戦闘は、徹底的に勉強しました」


返す声に迷いはなかった。


前崎はナイフ。ジュウシロウは小太刀を抜き放つ。

金属と金属がぶつかり合い、瞬く間に火花が散る。


──リーチの差。

明らかに小太刀が有利。


ジュウシロウはその優位を活かし、連撃を仕掛ける。

パワーとスピードを兼ねた斬撃が、前崎を押し込んでいく。


──しかし、軽い。


押したはずなのに、手応えがない。

気づけば前崎は、すでに後方へと跳んでいた。


「さすが、力は一人前だな」


空中で体を捻りながら、前崎がリボルバーを抜く。


ナイフを握ったまま、撃つ──連射。


パン、パン、パン、パン、パン。


5発の弾丸が、一直線にジュウシロウを狙う。


即座に、ジュウシロウは電子シールドを展開する。

──が。


「……!? バカな──っ!」


シールドが、裂けた。


いや、“割れた”のではない。

まるで、内側から分解されたかのように、粒子単位で崩れていく。


(貫通じゃない……分解だ。あれ、何の弾──?)


思考が追いつかぬうちに、さらに違和感が襲う。


──動けない。


(……え?)


ジュウシロウは足を見下ろした。


膝。足首。肘。

各関節部に、先ほどの弾丸が、ピンポイントで“噛み込む”ように撃ち込まれていた。


「うそ……だろ……」


音もなく、前崎の影が迫る。


踏み込む足がわずかに浮き、スライドする。

その脚部の外骨格から、銀色の刃がスッと抜けた。


(──仕込み刃!?)


ザシュ──ッ


鋭い金属音。

ジュウシロウの視界が、わずかに傾ぐ。


(首……斬られ──)


「そこまで!」


ケンの叫びが響く。


瞬間、トレーニングルーム全体に強制リセットがかかり、両者の肉体は元の状態に巻き戻された。


色んな人から感想を頂けて嬉しいです。

まさかここまで人から読まれるとは思っていませんでした。

最終話まですでに構想はあり、必ず完結させるので楽しみにしてください。

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