File011 報告後
グッドを押してくださる方、ありがとうございます。
作品を評価されているという経験をしたことがないのもありますが、思ってる以上に嬉しいです。
これからも励みにしていきます。
上役への説明を終え、講堂を後にする。
「お疲れ様です、前崎大臣……で、よろしかったでしょうか」
一ノ瀬がペットボトルのお茶を差し出す。
気を利かせたのか、カフェインゼロ。まだわずかに温かい。
「正式には“内閣特命担当大臣兼内閣危機管理監”。長ったらしいだろ。今まで通り、前崎でいい」
「了解です、前崎さん。……それにしても、現場に出る大臣なんて前代未聞ですよ」
「俺もそう思うさ。だが、防衛大臣がこう言った。“前例がないことをやるのが、君の座右の銘だろう”ってな」
「皮肉にしか聞こえませんが?」
「褒め言葉だと言っていたがな。どう聞いても嫌味だった」
前崎は肩をすくめ、乾いた笑いを漏らした。
「まあ、そのおかげで35でこれだけの権限を手に入れた。巨大な官僚装置の中で、俺みたいな異物が動けるのは異常だが……動けるなら、動くしかないさ。異物には異物なりの役割がある」
「……特に、アダルトレジスタンスが相手では」
「そうだ。奴らの“ホログラム転送技術”を暴かない限り、俺たちは永遠に後手を踏む」
「転送技術の正体が見えない以上、次も同じことが繰り返されますね」
「だが、“できない理由”を潰すのが俺たちの仕事だ」
前崎は足を止め、一ノ瀬に向き直る。
「シンフォニアを制圧した直後、なぜ奴らは国会を“即時”には襲わなかったと思う?」
「……確かに。不自然ですね」
「それだけじゃない。国会襲撃の後も、続けざまに別の場所を狙えばよかったはずだ。にもかかわらず、奴らは沈黙している」
前崎はわざとらしく首をかしげる。
「単純に“兵力が尽きた”と言えばそれまでだが……それでは説明がつかないことも多い」
一ノ瀬の表情が引き締まる。
「国会は混乱、自衛隊は復旧作業に追われ、シンフォニアは陥落中。絶好の機会だったはずです。それでも動かなかった理由がある」
「そうだ。“動けなかった”と考えるのが自然だな。何らかの制約、もしくは発動条件が存在する。……奴らにとっての“制約”がな」
前崎は空を仰ぐ。
「エネルギーだ。転送には桁違いの出力が必要なんだろう。日本中、いや世界中の電力使用量を洗え。異常に跳ね上がった地点が、奴らの“起点”だ」
「わかりました。すぐに国内外のネットワークを確認します」
「それから、次の標的も考えておけ」
「次……ですか?」
「一つはメディアと教育機関。“幻想を刷り込む檻”と、奴らが名指しした場所だ」
「国民を従わせる装置……まさに、ですね」
「二つ目は外資系企業と金融拠点。経団連、五大商社、外資ファンド。奴らにとっては、“売国”と“搾取”の象徴そのものだ」
「叩けば象徴的な意味でも大きい……なるほど」
「三つ目は空港と港湾。グローバル経済の動脈。外資に切り売りされたと認識している以上、奴らが放っておくはずがない」
「物流を遮断すれば、経済にも国際信用にも直撃します」
「医療施設も考えたが、奴らは“未来を築く”と言った。子どもたちが利用する場所は狙わんだろう」
「優先順位は、メディア、経済、物流の三本柱、というわけですね」
「だから“こちらが選ばせる”。囮を立て、奴らに狙わせる。無駄弾を撃たせ、行動を絞る。奴らに“自由に選ばせる”ように見せかけて、その実“選択肢を与える”ことで支配する」
「誘導による制限……守りながら攻める、ということですね」
「そうだ。広く薄く守る愚は犯さない。守るのは“象徴”であって、すべてではない。戦場は、俺たちが決める」
一ノ瀬はわずかに目を細める。
「ですが、前崎さん。SNSではあなたの戦闘映像が拡散されていますよ。称賛もありますが、国家権力の暴走だと批判する声も大きい」
「知っている。だが、それも“計算のうち”だ。象徴は叩かれる。それは当然のことだ。ならば、俺が“国家の顔”になればいい。狙わせることで、奴らの行動を制限する」
「SNSの拡散すら、逆手に取ると」
「そうだ。“国家が本気を出す時”、何が起こるか。全世界に見せつけるさ。アダルトレジスタンスを“悪役”に仕立て上げ、奴らが叩く外資を、我々は“整理”する」
一ノ瀬が息を呑む。
「表向きは断固非難しながら、内心では“渡りに船”というわけですね」
「その通りだ。俺たちは手を汚さず、腐った枝だけが落ちる。奴らの正義を逆手に取る。国民が“変化”を望むなら、その皮を被せてやる」
「……策士ですね、前崎さん」
「国を守るのは、綺麗事じゃないさ。泥水をすする覚悟がいる。それにチェ・ゲバラしかりカダフィ大佐、キング牧師。いずれも国家に楯突いた奴らだ。彼らを殺して時代を穏やかに変えていくことを考えるのが我々国の仕事だ。」
「ですが、その代償は……あなた自身の身体です」
一ノ瀬は声を落とす。
「Layered Nodeを使った時も出力オーバーでしばらく動けなかったでしょう?」
「……あれは仕様外の運用だった。本来は福祉機器だ。身体障害者支援法に基づく生活支援用外骨格としての認可。戦闘用途なんて、武器等製造法に違反する。」
「それでも、使った」
「そうしなければ、国会議事堂は取られていた。“撃ち合い”で勝てないなら、“刺し違える”しかないと判断した。それが“異物”の役目だ」
「だからこそ、今は前崎さんが潰れる方が国家リスクなんです」
「東雲と山本に任せれば、数時間は持つか…」
前崎は深く息を吐いた。
「わかった。公安の個室で休む。これ以上、愚を重ねる気はないからな」
「それが賢明です」
「……随分と偉くなったな、お前も」
皮肉げに笑いながら、前崎は踵を返し、その場を後にした。
思っていた以上に多くの方が読んでくださっていて、驚きつつも本当に嬉しいです。
結末までの道筋はすでに思い描けていますので、ご期待に応えられるよう丁寧に書き続けたいと思います。
※しばらく毎日投稿で時間は朝の7時あたりに投稿時間を固定しようと思っています。
読んでいただけると光栄です。