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File:104 本人確認

19000pvありがとうー!

「雨宮ッ!!」


瓦礫に覆われたSGの街路を、裸足のまま前崎が駆け抜ける。

割れたコンクリートの破片が足裏を切り裂くたび、鈍い痛みが走った。

背には拘束したカオリの体重がのしかかり、息は荒くなる。


視界の先に、雨宮隊がいた。

だが彼らは撤退戦の真っ只中。

高所からの狙撃と遠距離火器に押され、かろうじて坂上隊と連携し退路を確保していた。


(今しかない……! 合流できれば生き残れる!)


前崎は全力で駆け寄ろうとした。


だが——


「動くな!! 武器をすべて捨てろ!!」


瞬間、数丁の銃口が一斉に向けられる。

小隊規模の自衛隊員が、半円状に前崎を取り囲んでいた。


(……俺を敵と誤認しているのか?)


カオリを地面に落とす。

呻き声が聞こえた。。

さらに前崎は躊躇わず、手にしていた医療用メスをカランと地面に落とした。


「膝をつけ! 両手を頭の後ろに! ゆっくりだ!」


「……了解した」


砂利に膝を沈め、ゆっくりと両手を後頭部へ回す。

遠方で流れ弾が建物を叩き、火花が散った。


戦場の只中で、これはあまりにも危険な拘束行為。

だが雨宮の表情は鬼の形相だった。


(……なるほど。そうせざるを得ない理由があるわけか)


「前崎。これから言う質問に、しっかりはっきり正確に答えろ。

 誤魔化したら撃つ。いいな?」


「……わかった」


背後にショットガンの気配。

最悪奪うことも考えたが、絶妙に遠い。

射程は届かず、奪取は不可能。

完全に計算された間合いだった。


(甘くはないな……。疑われるにしても厳重すぎる。)


前崎は従うしかなかった。


「自衛隊記念日を答えろ」


「……11月1日だろ?どうしてそんなことを今になって——」


「——次だ。入隊式の日付は?」


雨宮は有無を言わさず次の質問を投げかける。


「……年によって違う。春季は4月1日、秋季は10月1日だ。

 ただしこれは着隊日だ。式は数日後だな」


雨宮の眉がわずかに動く。


「次。坂上隊の常在戦闘訓練で立てた作戦は?」


「寝込み襲撃だ。(あがた)が見張り中に寝ていたのを確認したからな」


「拠点奪取の訓練で坂上がお前に銃を撃った理由は?」


「俺が敵の制服を奪って着ていたからだ……。

 まだやるのか? 確認は済んだろ」


雨宮は数秒、沈黙。

そして——


「……いいだろう。本物だな」


隊員たちが銃を下ろし、緊張が少し緩む。


「偽物が……いたのか?」


「お前そっくりの爆弾人間がいた。

 その運んできたのが女じゃなきゃ危うく撃ち殺すところだった」


「抜かせ。

 待て……俺の爆弾?そんなものまで用意されていたのか……」


「こんなところでいうのは申し訳ないが……全滅した一ノ瀬隊からの遺言だ」


前崎は短く目を閉じた。


「……そうか」


雨宮が担がれたカオリに視線を落とす。


「結局その女はなんだんだ?

 惚れたのか?未成年に。」


「馬鹿をいうな。

 アダルトレジスタンスの幹部だ。拉致した。

 お前らとも交戦したことのあるジュウシロウ。

 あいつの女だ。

 組織の核でもある。使える。」


「大物だな。……どっちが正義かわからなくなるな」


「それが戦争ってもんだろ。

 さらにいうのならば先にやってきたのは向こうだ。

 汚いなど言わせないがな。」


前崎は肩の重みを感じながら、カオリの顔を見下ろした。

顔を見て雨宮が何かに気づいた。


「ああ……古川の」


「古川?」


「こいつの苗字だ。レジスタンスで苗字まで判明してる奴は珍しい。

 ほとんどが孤児で身元が割れないからな」


前崎は呟く。


「ケンから多少は聞いたが……。

 親がいない。身元不明のやつらばっかりか。

 だが苗字が判明してるのはマスミとカオリだけか」


「シュウとかいう奴は意図的に消されたらしいがな。

 現在照合中だ。」


斜線に気を付けながら簡易拠点へ行く。

PC部隊の勢力は弱まっているように見えた。


簡易拠点と聞いていた場所はテントと装備で構築されていた場所は、跡形もなく吹き飛ばされていた。

黒焦げの土壌、ひしゃげた鉄骨、破片となった装備。

空気にはまだ火薬と焦げたプラスチックの匂いが漂っている。


「真っ先に狙われたか……」


前崎は手を合わせ、倒れ伏した遺体に黙礼を送る。


「あ? そいつはダミーだ。だまされたな。」


瓦礫の影から現れたのは坂上だった。


確かによく見ると人間の肌とは違う質感があった。

目を凝らせば十分気づける範疇だった。

……疲れているのか?


「この下に簡易の防空壕を掘ってあった。

 でなきゃ山本はとっくに焼き鳥だ。」


掘り下げられた地下壕の入口には、自衛隊員たちが負傷者を搬送している。

山本は腕に火傷を負いながらも片目を開け、かろうじて応急処置を受けていた。


「人的被害は三人以下。

 最悪は免れたが……正直、ここで拠点を潰されたのは痛い。

 これ以上攻めるのは悪手だ。」


坂上は唇を噛む。


「やつらに戦闘の定石は通用しない。

 はっきり言って統率が取れていないからな。

 どんなことをしてくるかわからねぇ。」


装備、食糧、通信設備――最低限を残してほぼ全てを失った。

それでも坂上の声は冷静だった。


「撤退は妥当だ。お前の判断は正しい。」


「……お前が自力で戻ってきたことに一番驚いてるけどな。

 やはり超人か?」


「いや、運が良かっただけさ。」


「どんな運だよ。」


坂上が苦笑を浮かべる。


遠くの空では、アレイスターとルシアンが光と影をぶつけ合っていた。

SGの空間が軋み、ビル群の影が閃光に塗り潰される。

はっきり言って現実の戦場というより、コンピューターゲームの映像にしか見えない。


だがその戦いも、突然終わりを告げた。


紅の残光を纏い、アレイスターが降り立つ。

その姿は血一滴ついていない。


『すごいな、前崎。

 あの地獄から単身で抜け出し、しかもカオリまで拉致してくるとは

 ――本当に人間なのか疑いたくなるよ。』


「……称賛はいらない。問題はこれからどう動くかだ。」


アレイスターはわずかに笑みを浮かべ、しかしその赤い瞳は細く鋭く光っていた。


『撤退だ。こちらも相当に消耗した。

 相手もバックアップがあるとはいえ、そう簡単には追撃できないはずだ。』


前崎は短く吐き捨てるように告げる。


「いや……バックアップは潰してきた。

 兵士どもは二度と蘇らない。」


アレイスターの瞳孔がわずかに収縮した。

一瞬の静寂の後、愉快そうに口角を吊り上げる。


『……仕事が速いね。さすがだよ。助かる。』


前崎は視線を逸らさず続ける。


「ただし幹部格――ジュウシロウ、シュウ、ケン。

 奴らのバックアップは見つからなかった。

 必ず来る。しかも全力でな。」


『……なるほど。』


アレイスターは一呼吸置き、満足げに頷いた。

『そういうことなら、Mr.坂上の撤退判断は大正解だったな。

 これで次の手はこちらが握れる。』


錫杖を地面に突き、アレイスターは声を低く響かせる。


『帰還しよう。ここでの戦は一度幕を下ろす。』


SGの虚空が低く唸り、遠雷のような余震が幾度も地面を震わせる。

それは戦いの終焉を告げる音のようであり――同時に嵐の前触れにも思えた。


その緊張を切り裂くように、怒号が響き渡る。


「待てぇぇぇ!!」


瓦礫を突き破って姿を現したのは――

神経外骨格に異形の機械装置を接続したジュウシロウと、その背にしがみつくシュウだった。

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