取り出し屋
俺の名前はゲイル。
王都トスカーナで”取り出し屋”と言う商売をしているしがない商人だ。
俺の商売の取り出し屋、読んで字の如く何かを取り出す商売、これも俺がもらったスキル”取出”を利用した物と言って良い。
ちなみに取り出しの対義は”収納”であり残念ながら俺にこのスキルは無い。
収納スキルはあれば有名どころの商会や貿易商、軍隊(行きたくはないが・・・・・・)での”高収入間違いなし”と言われる垂涎のスキルだ。
だが、俺に収納スキルは無い。
収納スキルに取出スキル(と言っても収納スキルで収納した物対象という制限がある。)があるが、俺の取出スキルに対応した収納スキルは無い。
多少不公平を感じるが、まぁ、無い物は仕方が無い。
気を取り直して立ち上げたのが”取り出し屋”という商売だ。
排水溝から落とした銀貨を取り出し(別の人が落とした銀貨は俺がもらった。)
喉に詰まった餅を取り出し(つきたての餅を飲み込む、年寄りには危険な風習だ。)
壁に挟まった虎の魔獣を取り出す。(ミーちゃんと言うらしい。)
世の中、取り出すことができずに困っている人が多いのだ。
その日は行きつけの料理屋の前で店主が大騒ぎをしていた。
この料理屋は美人の女将さんと腕の良い料理人である店主、見習いの三人で切り盛りしている。
料理の味は良く評判の店だ。
「泥棒が、泥棒が入ったんだ!俺が仕入れから戻ると中に泥棒がいて・・・・・・咄嗟に逃げ出せたが中に妻と見習いが・・・・・・。」
「泥棒か・・・・・・ま、大丈夫だろう。」
俺は店の壁に左手を添える。
「泥棒を取り出し!」
すると、小袋を持った二人組の泥棒と服装の乱れた見習いを取り出した。