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6 忍び寄る不純な影



「どうやら、本格的に学び始めたらしいな」


「さて、何のことでしょう」


 しらばっくれる私を、冷笑する人物。

 朝から嫌な人に会ってしまった。


「マクシミリアン様こそ、いろいろとお忙しいのでは?」


(訳:こんなとこで油売ってんじゃねぇ)


「ああ、俺は今のところ暇なのでな」


(訳:お前の主と違って、俺は優秀なんだよ)


「へえ……、後継者教育をすでに終えられているとは、流石です」


(訳:寝首を搔かれても知らないよ)


「まあ、後継者は俺しかいないからな」


(訳:お前の主は、()()



 バチバチバチッ



 そんなやり取りを廊下で勃発させた後、互いに目指すべき場所に向かった。

 私はアイラ様の部屋へ急いだ。






「やはりアイラ様は素晴らしい!」


 部屋の前につくと、ドアが少し空いていた。

 そこから漏れてきたのは、大袈裟な声だった。


「では、今回の授業はここまでに」


 誰かが出てくる気配を感じ、すぐに壁際に控える。


 出てきたのは、恰幅のいい男性だった。

 分厚い本を抱えているところを見るに、この人が家庭教師らしい。


「………あっ、そこの」


「はい」


 私に向かって、その男性が声をかけてきた。

 使用人に命令しなれている感じから、この人も恐らく貴族だ。


「出口まで案内しろ」


「畏まりました」


 『私が従うべき主はお前じゃない』という思いをグッと堪え、玄関へ案内する。

 心なしか、後ろからノシノシという効果音が聞こえてくる。


「ふむふむ、あれはルオードル産の……フッ」


 ブツブツと呟きながら、奴は人様の調度品を品定めしている。

 なるほど、貴族文化が見栄の文化だというのは本当だったらしい。

 雇われの身で雇用主の家を物色するとは、いいご身分だ。


 さっさと帰ってもらおうと、ギリギリまで歩く速度をあげる。

 

「そこの!歩くのが早いぞ!」


「はっ、失礼いたしました」


(チッ)


 渋々速度を下げ、奴の斜め前を歩く。

 苦痛だ、なぜこんな歩くおブタさんを案内しなければならないんだ。

 

「しかしまあ、あのお嬢さんも丸くなったなぁ」


「!」


 主に関する話に、意識が一気に覚醒する。


 え?今まで起きてなかったのかって?

 ……まあ、人ってどうしてもやる気でないことってあるよね。


「以前は手もつけられないじゃじゃ馬だったのに、今は淑女らしく見えるじゃないか」


「…………」


 我慢、我慢だ。

 こういうやつが貴族には多いって、覚悟していたことだろう?


 手袋をしていてよかった。

 そうでないと、握りしめた手から血が滴っていた。


「あれなら、私が貰ってやってもいいくらいだ」


「は?」


「……うん?」


「どうされました?」


 振り上げかけた右拳を左手で押さえる。

 危ない、いろいろと出すところだった。

 拳とか、心の声とか。


「いやなに、今のあの娘は扱いやすくなったものだ」


「………具体的には」


「少しおだててやっただけで、喜ぶんだ。あのくらいの可愛げがあると知っていれば、愛人にでもしていたのになぁ」


「…………」


 振り返ると、醜悪な顔のブタがいた。

 あれの脳内で、我が主が汚されているのか。


「まあ、今からじっくり調教するのも悪くな———」



 ゴンッ



 壁に打ち当てた拳がジンとした熱を帯びる。

 大きな音に目を見開いたブタに、私は柔らかく微笑む。


「失礼しました、何分大きな虫がいたもので」


「そ、そうか、だがそのような行動は無礼だぞ!」


「はっ、以後気を付けます」


 キリッとした表情で斜め45度のお辞儀をする。

 それに気分をよくしたブタは、意気揚々と帰っていった。


 何もせずに出口まで見送った私は、すぐにある場所へ向かった。






「なぜ貴方がここに」


「それはこちらのセリフだ」


 当主の部屋へ向かったはずが、部屋にいたのはあの人物。

 

「ここはマクシミリアン様の部屋でしたか?」


「いいや、当主の部屋だな」


 小馬鹿にした表情の彼に、苛立っていた心がさらに苛立つ。


「そうですか、当主様はどちらに?」


 用があるのはお前じゃないと言わんばかりの態度に、マクシミリアンは片眉を上げる。


「今は視察に行っている。だから、俺が代理当主としてここにいる」


 最悪だ。

 至急、頼みたいことがあったのにまさかこの人が代理でいるとは……。


「………当主様はいつ頃お帰りに?」


「まあ、早くて3週間後だな」


 それでは遅すぎる。

 あの醜悪なブタとアイラ様を3週間を一緒にいさせるなんで出来ない!


「…………マクシミリアン様、お願いがございます」


「ほお?聞こう」


 明らかに面白がっている顔に、苦々しいものが沸き上がってくる。

 宿敵にこんな頼みをしなければならないなんて……屈辱だ。


「お嬢様の家庭教師を変えていただきたいのです」


「却下」


「なぜっ!」


 にべもない返事に、思わず声を荒げる。

 しかし、周囲からの視線を受け、すぐに姿勢を整える。


「その家庭教師とは、まだ1週間も経っていない」


 相性や能力を見極めるには、まだ時間が短いと言いたいのだろう。

 そうだ、確かにそうではあるけれど……。


(この人は自分の妹が侮辱されていたら、怒るだろうか……それとも気にしない?)


 判断がつかない。

 一番最悪なのは、この話を弱点としてとられることだ。

 ある程度の正義感がある人なのか、それとも手段を選ばない人なのか分からない。


「…………実は———」


 私は悩みに悩み、口を開いた。

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