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3 お嬢様の帰還



 ガタンッ


 馬車が止まった。


 重い瞼を擦り、カーテンを少し開ける。


「眩しっ」


 強烈な太陽に目が焼かれかけ、なんとか目を開ける。


 そして、眼前に広がる光景に息を呑んだ。


「いや、豪邸……」


 ガチャ


 目の前の邸宅に恐れおののいていると、馬車のドアが開く。


 フットマンにエスコートされ、ヨタヨタと地面に足をおろす。


 開かれた門の先には、明らかに貴族な方々が立っている。

 白亜の敷石が地獄への通り道に見えてきた。


「さあ、メイアさん。行きましょう」


 別の馬車から降りてきたアイラ様は慣れた様子でフットマンにエスコートされていた。


 彼女が貴族だということを痛感すると同時に、村にいた時との差に圧倒される。


「あの、帰るっていう選択肢は―――」


「ありませんことよ」


「あ、はい」


 数日前に浮気をされてしょげていたとは思えないほどの気高さだ。

 

 彼女が差しだしてきた手を取り、屋敷の前までエスコートする。

 このエスコートの仕方も、道中で叩き込まれたものだ。


(怒涛の数日間だったな……)


 白亜の敷石を歩きながら、走馬灯のように今までの経緯が流れる。


 私が説教を喰らっている間、すべてが決定されていた。

 まず、村に来ていたアイラ様の従者たちに馬車へ詰め込まれた。

 次に、道中でアイラ様から屋敷に招待すると説明された。

 そして、今ここだ。


 なぜ招待されたのかもわからない状態だ。

 不安にならない方がおかしい。


「お帰りなさいませ、アイラお嬢様」


 一寸の乱れもなく整列した使用人たちが、一斉に頭を下げた。

 一方、それを受けた彼女は目配せひとつをしただけだった。


 お嬢様ムーブを真正面から受けて、私は冷や汗が止まらない。


「アイラ」


 渋い声がホールに響く。

 前を向くと、髭を生やした貫禄のある男性が立っていた。

 その横には年齢を感じさせない綺麗な女性と、若い男性が立っていた。


「ただいま帰りました、お父様、お母様、お兄様」


(キラキラ遺伝子を感じる)


 すぐに目を伏せたから詳しくはわからないけど、顔が良いのはわかった。

 ガン見とかして打ち首になったら笑うに笑えない。


「隣の方は?」


 涼やかな女性の声が聞こえてきた。

 おそらく、この声はアイラ様のお母様だろう。


 意識を向けられた私は、脂汗をかきまくっている。


「そいつ、庶民だろ」


 ハッと鼻で笑っている男性の声。

 なるほど、お兄様の方は選民思想をお持ちらしい。


「マクシミリアン、そのような発言は控えろと言っているだろう」


「父上、俺の考え方に口を出さないでもらえますか」


「あらあら」


 喧嘩を始めてしまったロイヤルファミリーたちに、私は視線で助けを求めた。


(お嬢様、どうするんですか)


(じっとしていなさい)


(マジかー)


(あっ、ちょっと!そのようなお顔はやめなさい!)


 死んだ顔をしながら、コソコソと彼女と作戦会議をする。

 そんなことをしていたからだろうか、近くまできていた気配に気づかなかった。


「うっ!?」


 グイッ


 顎を掴まれ、顔を上に向かされる。

 目の前には、端正な顔面があった。


 鮮烈な赤髪、瞳は琥珀色、野性的な雰囲気は貴族らしくない。


「お兄様!」


「お前は黙っていろ」


 お兄様とやらは、不遜な態度でこちらを観察している。

 身長的にも見下されている感じがする。


 彼の背後に見える二人を見て、ふと疑問が浮かんだ。


 父親の髪色は白銀で、母親の髪色は金色だ。

 そして、瞳は二人とも青系統だ。


 赤髪と琥珀色の瞳は隔世遺伝とかだろうか?

 

「ふ~ん、趣味が変わったのか?」


 彼は小馬鹿にしたようにアイラ様を流し見た。

 その視線から逃れるように彼女は視線を逸らした。


 その様子に、なぜか私は心がモヤついた。


「あの派手なクジャク男から、こんな地味顔の男に乗り換えたのか?」


「…………」


 男呼ばわりされた私は何も言わなかった。

 なぜなら、私は完全に男装していたからだ。


「今日はもう、部屋で休みますわ」


 さっと踵を返したアイラ様に続こうと、顎にあった手をそっとどける。

 あっさりと離れた手に、ふっと視線を上げる。


「…………」


 彼女の背に底知れない視線を向ける男に、この人が本当に兄なのかと疑問を抱く。

 しかし、家族の問題に首を突っ込むべきではないと頭を振った。



 波乱の帰還は、なんとか終えることができたのだった。





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