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2 前世と現世




「さて、説明してもらおうかの」


 眉間を揉んでいるのはこの村の村長。

 村人たちに連行された先は村長の家だった。


 隣には、修羅場っていた三人もいる。


 ただ、私と違ってその三人は椅子に座っている。

 加えて、村人たちが甲斐甲斐しくお世話もしている。


 ……差が激しくない?


 気を取り直して、身内に冷たい村長に向き合う。


「村長、私は私の名の尊厳を守っただけです」


「うむ、お主は医者のところにいってよいぞ」


「ひどいっ!」


 本当のことを言ったのに軽くあしらわれた。

 ただまあ、このカオスから離脱できるならこの扱いも甘んじて受け入れよう。


 さっと出口へ向かおうとすると、村人の一人が立ちふさがった。


「おい、どこにいくんじゃ」


「いや、医者に行けって言ったの村長でしょ!」


 元の場所に連れ戻され、あまりの理不尽さに顔面を歪める。

 くそー、このまま変顔で話を聞いてやるっ!


 プンプンしている一名を放置し、村長はもてなされていた三名と向き合う。


「して、お三方は如何されたのですかな?」


 村長の言葉を皮切りに、浮気カップルたちが勢いよく口を開いた。

 

「私が悪いんですっ!私がこの人を……カミルを好きになってしまったから!」


「チュリネ!君は悪くない、君を愛してしまった僕が悪いんだ!」


「カミル!」


「チュリネ!」


 熱い愛を目の当たりにして、全身に鳥肌が立つ。

 なんだろう、こういう情愛って苦手なんだよな……。


 薄眼で熱々なカップルをねめつけていると、視界の端に一人の女性が入った。

 例の私の名前(前世の)をもつ高貴そうな女性だ。

 彼女は唇を噛み、視線を下に向けている。


(難儀な……)


 あんな浮気男でも、愛していたからこその反応だろう。

 これだから愛だの恋だのなんてものは……。


 状況を察した村人たちは、気の毒そうに彼女を見ている。

 

 その空気を察した彼女が、さらに俯く。


 浮気カップルたちは未だに盛り上がったままだ。

 沸々と、こう……沸々と沸き上がってくるものを感じる。


「……はあー」


 現状の空気に色々とイラっとした私は、俯く彼女の元へ歩み寄る。


 村長と村人たちが固唾を呑んでこちらをみている気配がする。

 でも、そんなの知ったことではない。


 彼女の前に来た私は、スーっと息を吸い―――



「シャキッとしろーー!!」



「「「「!?」」」」



 近距離で叫ばれた彼女は、目を見開いてこちらを見ている。 

 さっきまでの湿気た顔は、きれいになくなっていた。


 不遜に仁王立ちしている私を、正気に戻った村長たちが取り押さえてきた。


「この馬鹿モンがっ!」


「頭を下げろ馬鹿!」


「申し訳ございません!」


 一斉に飛びかかって来た彼らは、私の頭を無理やり下げさせる。


「ちょっ!痛い痛い!」


 なぜだ。

 私はただ、自分の名を冠する人があんな湿気た顔をしていることが許せなくて……。


「お主はこの村を潰す気か?!」


 耳元で村長の焦った声が聞こえてきた。

 しかし、私はそれどころではない。


「ちょ、首!首絞まってるから!」


 お年寄りのくせになんて力だ。

 若者一人を天国送りにしようとしている。



「お待ちを」



「「「!」」」


 わちゃわちゃしていた村組が一斉に動きを止める。


 その場を制した鶴の一声。


 それを発したのは、さっきまで目を丸くしていた女性だった。


「その方を、わたくしに……アイラ・ポナシェイドに預けていただけないでしょうか」


「「「…………え?」」」


 村組の心の声は一致していた。


(((処される?処されちゃう?)))


 村長は私の肩を優しく叩き、村人たちは黙祷していた。


「いや、諦めるの早ー!」


 身内の薄情さにツッコミが抑えられない。


 見切りの早さに憤っていると、いつの間にか静かになっていた浮気カップルが視界に入る。


「……は?」


 なんか静かだなと思っていたが、あいつらキスしていやがる。

 それもディープな方だ。


 私が気づいたくらいだ。

 きっと彼女も―――。


 振り返ってみると、思った通りだった。


「……っ」


 息を詰めた彼女は、まるで泣いているようだ。

 それでもお構いなくブチューッと口をくっつけ合っているリア充ども。


 その場で軽くジャンプをし、準備運動を終える。


 そして、彼らめがけてダッシュした。


「「「!?」」」


 二度目の奇行に周囲が目を見張る。

 勿論、浮気カップルたちは気づいていない。


 浮気男の背中が目前に迫り―――


「くらえっリア充爆殺殺法ーーッ!!」


「グエェェエーー!!」


「カミル!?」


 バタンッ


  華麗に決まったタイキック。

 喰らわせた側も地面に叩きつけられる諸刃の剣だが、威力は抜群だ。


「この馬鹿モンがーーッ!!」 


 地面に倒れた私を拘束してきた村長は鬼だ。

 場を乱す者を成敗したのだから感謝されて然るべきだ。


「お主は説教じゃ!」


「マジか」


「大マジじゃ馬鹿者が!」


 とりあえず説教が確定した私は、村長の家の奥へと連れていかれた。


 そんなメイアを羨望の眼差しで見ていた人がいた。

 しかし、メイアがそれに気づくことはなかった。




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