1 思い出された記憶
花びらが舞い、出会いを感じさせる雰囲気が漂う桜並木。
空には雲一つなく、花見日和といえるだろう。
そんなここは、花は綺麗だけど観光客が全くこない廃れた村である。
そこの村人である私、メイナは、ある一点を見つめている。
「わたくしを捨てるというのですか!!」
桜の木の下で、三名の男女が修羅場を繰り広げていた。
こんな場所に似合わない高貴な恰好の女性が一人と、貧相な恰好をしている男性と女性。
彼らに共通しているのは、顔面の良さだろう。
1V2な構成から察するに、高貴そうな女性が劣勢らしい。
「そんな女のどこがよろしいのですか!」
恋人やら婚約者やらを盗られたのか。
哀れな女性の叫びは続いている。
(ご愁傷様です……)
それなりに心を痛めながら、その場を去ろうとする。
こういう痴話げんかに介入できるほどのコミュ力は、私にない。
それに私は、ああいう場面は苦手なのだ。
ここは目をつぶって去るのが得策だろう。
いそいそと敷いてあった敷物をたたみ、バスケットを抱える。
準備は整った。
―――そう思った瞬間だった。
「アイラ様!私……身を引きます!」
(!?)
「なっ、侮辱しているの?!」
衝撃で体が固まる。
―――今、何て言った?
脳裏を駆け巡る映像に、身動きがとれない。
「アイラ様の婚約者を奪うなんて、そんなことできません!」
「チュリネ……」
他人様の婚約者の腕をしっかりとつかみながら、何かを言っている泥棒猫な女性。
盗られた方の女性は、怒りで顔が真っ赤になっている。
そして、その怒りに染まった女性が口を開く。
―――その瞬間。
「あn「私の名前で当て馬をするな!」
「「「!?」」」
三つの視線がこちらに突き刺さる。
しかし、興奮状態にあった私の脳は正常に機能することがなかった。
「そこのあなた!」
「わ、私?」
困惑した女性は、掴んでいた男性の腕をさらに引き寄せる。
男性はなにやら嬉しそうだ。
だが、そんなの知ったことではない。
「どうせくっつくんだから、こっちにちょっかいかけないでください!」
「え?え?」
どうせくっつく主役たちを早々に視界から消し、本命と向き合う。
困惑を宿したアクアマリンの瞳は太陽によって輝き、縦ロールにされているプラチナブロンドの髪もまた光を放っている。
卓越した容姿だが、重要なのはそこではない。
「なぜ私の名で当て馬キャラを演じてるんだー!」
「あなたは何を言っているの?!」
「あんなん恋の引火剤じゃないですか!!」
「本当に何を言っているの!?」
なぜこの女性はあんな汚れ役をしていたのか。
それも、この・私の・前世の・名で!
あの名を聞いた瞬間、思い出したのだ。
自分がアイラという名前であったことと―――
(当て馬キャラが大の苦手だったことを……!!)
「その名でイチャイチャの肴にされるなんて、世間が許しても私が許さない!」
「誰か!この子にお医者様を!」
混沌となった桜並木に、騒ぎを聞きつけた村人たちがやってきて場がおさまった。