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ウラとオモテ

早く戦闘シーン書きたいですね。

 *


 耳元に、彼——姫塚 奏音——の甘い吐息が吹き込まれる。

「よろしくね、明希ちゃん」


——うわわわわわわわあああああ!?


 私は、本日二回目の心の叫びを放った。


 *


 時刻は、皆大好き昼休み。いつもは蘭と喋っていて、もう少し時間を伸ばしてくれと思っていたが、今は違う。さっさと終わってくれ。進め、分針くんと秒針くん。


 「はぁー……」

 私は、これ見よがしに大きな溜息を吐く。

 因みに、目線は蘭にロックオンしています。


 何故かって?

 理由は単純、助けてほしいからだ。この、クソダル男から。


 イケメンだ、わーい、と脳内で騒いでドキッとしてしまった自分が恥ずかしい。

 この男、ただの面倒臭い構ってちゃんだった。私も他人のこと言えないカマチョ野郎(蘭に対してだけです)だけど、こいつの構ってちゃん具合は、いくらなんでも度を超えていた。


 この——顔とスタイルは良いかもしれないし、昔は優しかったかもしれないけど、今は態度最悪な無愛想野郎である——私に無視されても、めげずに話しかけ、挙句の果てには私が無視できないようにしてるなんて……。レベルの高いコミュ力だ……。

 今まで、嫌いな男達や面倒臭い男達の「鋼のメンタル」を次々にへし折ってきた、この「無視の呼吸、壱の型」が通じないなんて……。蘭、ヘルプ!


 てな訳で、今もせっせと助けを求めていますが、彼女は姫塚の後ろで合掌して私を憐れんでいます。 いや、親友(私はそう信じてるよ、蘭?)が口説かれかけてるのを見て笑いそうにならないでいただけますかね。


 いや、もう、ほぼ口説かれてんな、これは。


「ねえ、明希ちゃん。俺さ、教科書持ってないから、明希ちゃんに迷惑かけてるよね、ごめんね。お詫びに、何かしようか? 俺、大抵の事なら出来るよ!」

「じゃあ、黙れ。そして失せろ」

「えー、分かったよ、明希ちゃん。しょうがないから、帰りにスタバ寄ろっか! そういや新作のフラペチーノが出てね。チョーインスタ映えするらしいから、彼女と行ってみたかったんだよね!」

「待て、話を聞け。私はアンタの彼女じゃないし、スタバにも行かない。てか、インスタやってない」

「じゃあ、俺と付き合ってよ、明希ちゃん? これで、明希ちゃんは俺の彼女だし、スタバにも行けるし、インスタもアカウント作れるね!」

「私は一言も肯定してない。よって、アンタの彼女にはならないし、アンタとスタバにも行かない。インスタもやらない」

「わあ、初カノだぁ! ごめんね、俺したことないから、キス下手かも。歯、当たっても気にしないで!」

「あああああああああ、もう! だから、誰がアンタの彼女だよ!? アンタとキスなんかしたくないし!? ファーストキスで失敗したくない派の人だし!? キスは好きな人としかしないし、ってかアンタとする位なら、蘭としますけど!?」


 おっといけない、普段クールな「オオカミ様」が激昂して怒鳴り散らしているなんて。これでは、私のこれからの「男のあしらい方」にも影響が出てしまう。


 あ、でも蘭が吹き出した。笑い堪えられなかったんだな。てか、笑いすぎて椅子から転げ落ちてる。いや、これはひっくり返ってると言った方が正しいかも。最早涙目になってるし。

 まあ、何にせよ、蘭に笑ってもらえたし、この会話やこのクソダル男にも価値があったと言えよう。良かったな、クソ姫塚。


「あー、面白いわ。明希ちゃん、多分その子に何言っても無駄だよ。今日も、二人で一緒に帰ろう?」

 蘭大好き……。結婚して……。

 そして、その言葉をもっと早くに言ってほしかった。


 そして、やっと気がついたかのように「あ、明希ちゃん、ごめんな? そんなに、怒ってたなんて……。悪ぃ……」と言い出すクソダルくん。今頃気づいたのかよ、遅すぎんだろ。




 はぁー、やっと平和が訪れた。

 そう思って、グッタリして机に突っ伏していると、不意に蘭が姫塚に話しかけた。え、何を四天王?


「あはは、さっきのやり取り、とても面白かったよ。姫塚くんって、誰にでもこうなの?」

「ごめんなさい、誰?」


 は、ふざけんなテメェ蘭に向かってよくそんな態度取れるなって自分が恥ずかしくないのかってか何で蘭の名前と存在知らねえんだよ頭逝っちゃったかってコイツ元から頭おかしかったわいやでも蘭に対してそんなこと聞くなんて無礼すぎんだろテメェの脳細胞駆逐してやろーか――。


「明希ちゃん、何か顔怖いよ? 大丈夫そう?」

「元気ピンピンだよ!」

 このクソダル男の脳細胞駆逐してやろーか、とか思ってましたとか言えないです、はい。


「そう、なら良かった。で、話を戻すよ、姫塚くん。私は、アキ……明希ちゃんの友達の、秋山蘭です。よろしくね」

「ああ、よろしく、秋山。で、さっきの質問だが……。まず、【こう】ってどういうことだ?」


 おかしい、さっきまでは話が通じなかったのに、今は頭がちゃんとしてる。受け答えができてる……だと!?  驚き過ぎて情報が完結しない。誰か助けてー。


「そうだなー。明希ちゃんと話している時みたいに、話を勝手に進めたり、馴れ馴れしい感じとか? でも、私と話している時はそんな感じじゃなくて、普通だね。可愛い女の子だけに発動する……とか?」

「え、俺そんなにヤバかったのか……? いつも通り接してたつもりだったんだけど。あ、あと俺別に面食いとかじゃないからな」


 無意識……だと? 怖すぎるだろ……。

 あと、蘭は可愛いんだから、ちゃんと面食いセンサー反応させないとだからな、姫塚?


「うん、明希ちゃん。これでハッキリとわかったよ。姫塚くんは、情緒不安定で、明希ちゃんの事が大好きで、そして、凄くキモい。うん、絶対に関わらない方が良いタイプだ。気をつけようね」

「勿論! 関わる気なんてないしね!」

「良かった、これで姫塚くんが明希ちゃんに危害を加える事は無いね。良かった良かった。あ、そういえばね——」


 そして私達は、クソダル男がさめざめと泣いているのを横目に、残りの休み時間をいつものように語り合って過ごした。


 *


「あー、今日も疲れた……」

 帰りのHR中、私がボソリと呟くと、前の席にいる蘭がくるりと振り向いて囁く。


「今日は特に……じゃない? ほら——」

 彼女が視線を姫塚に向ける。彼女は、思いっきり嫌そうな瞳で、思いっきり睨んでいる。


 私のために怒って、姫塚を嫌ってくれるなんて……。嬉しいよ、ありがとう、蘭!




 「さよーなら!」

 帰りの号令と共に、皆が騒ぎながら教室の外へと散っていく。

 私と蘭は、それをボーっと眺めながらポツポツと語り合う。


「今日、暇、なんだけどさ。姫塚が言ってた、スタバの新作フラペチーノ、飲みに行かない? いやその、あれだけスタバスタバ言ってると、飲みたくなってきちゃってさ。あ、いや、別に蘭が忙しいならまた今度でいいよ!」

「いや、今日は大丈夫! 暇だよ! 行けるよ! 柊叶くんも、今日は用事あるって言ってたしね。確かに叫んでたしね、飲みたくなるのもわかるなー」


 話しながら、私はワクワクしていた。

 久し振りに、蘭と寄り道して帰れる。いつも、彼氏である柊叶さんに蘭を奪われていたので、物凄く嬉しい。多分、私の頬はだらしなく緩んでいるだろう。


 そして、行く所が決まったので早速行動だ。二人で仲良く、校門を潜る。


 歩きながら話、駄弁り、愚痴り、叫び——気がついたら、駅に着いていた。あれ、割と早く進んだな。やっぱり、楽しいから歩調が早まる的なアレなのでは?


 駅の中に入り、一息吐く。

 重いリュックを持って歩いたからか、少し汗ばんだ身体。そこに、クーラーの涼しい風が当たって、生き返るようだ。そう思ってチラリと蘭の方を見ると、彼女は全然汗をかいていなかった。それどころか、息も上がっていない。

——蘭って、何か凄いな……。


 そして、エレベーターで二階へと行き、スタバの店の前にたどり着く。

 落ち着いた感じの店内で、「ああ、これぞスタバ……」という感じの風格だ。最近行ってなかったから、随分懐かしく感じる。


 そして、封印していた記憶を、呼び起こしてしまった。




——初めてスタバに来たのは……。

 今は亡き花怜と、その取り巻きと遊んだときだ。あの頃はまだ彼女たちと一緒に居て、彼女たちは私の「友達」だと信じていたんだった。

 そして、ココに始めてきたその日、私の世界はひっくり返った。


 何故って、その時このスタバにたまたま居た、千代田くんに私が告られたから。

 そして、あっさり振ったから。


 そういえば、私が徐々に妬まれ、嫌われていったのも、今なら納得できる。

 私があのグループの中で一番モテていて、実際可愛かったし、スタイルも良かったし……。それに、私が一番頭が良くて、成績が良かったし。

 何か、今思うと「嫌われてください」って言ってるようなものだな。


 ああ、でも今思い出すんじゃなかったな。ちょっと足取りを重くした私を、心配そうに覗き込んでいる。

「どうしたの、明希ちゃん。お腹痛い?」


 ううん、気にしないでと言いながら私は頭を振る。

 呼び起こしてしまった記憶を頭から追い出すように。




 新作フラペチーノをしっかり買い、駅を後にする。

 そして、歩きながら飲んで話して、笑って愚痴って、そしてまた飲んで、話して——そうしていると、ふと蘭が足を止めた。


 何だ? と思った瞬間、蘭が大きな声で叫んだ。

「柊叶くんーーー!!」


 ああ、またか。また彼氏さんが来て、私の蘭を奪っていくのか。

 悔しい、悲しい、嫌だ——そんな感情が、胸の中をぐるぐると渦巻く。


「ごめん、明希ちゃん……。今日、この後柊叶くんと一緒に買物していいかな? ホントにごめんね、今度また遊ぼうね……」

「すいません、西園寺さん。蘭、借りていいですか」


 嫌だ、私と一緒に居て——そんな言葉、言えるはずもなく。

 代わりに私は、笑顔で「いいよ、楽しんできてね」と声を掛ける。黒く濁った胸の内など、蓋に蓋をして覆い隠して。




 あーあ、行っちゃった。

 私と居るときよりずっと楽しそうに、笑顔をキラキラ振りまきながら、行っちゃった。


 こういう事になった後、私はいつも後悔する。素直に嫌だと引き止められたら、どんなに心が楽になるだろう。でも、そうしてしまったら、気まずくなるし、申し訳ないし、嫌われたくないし。


 去り際の眩しい笑顔の蘭を見れただけ、十分だろ。そう言い聞かせて、一気に重くなった足を引きずる。ノロノロと、ゆっくりと家に帰っていく。


 *


 やっと家に着いた。


 因みに、私の家は、割と大きな一軒家で、母と私の二人が住んでいる。父は海外に単身赴任だ。こういう家の大きさとかに、お母さんの実家の懐の温かさを痛感するようになってしまった。


 鍵をガチャリと開けて、玄関に足を踏み入れる。行儀悪く靴を脱ぎ捨てようと思ったら、突然玄関に違和感を感じた。

 その違和感の正体、それは見慣れない靴だ。


 明らかに男物っぽくてデカい、見たことのない靴。家には、今、その靴の持ち主とお母さんが二人っきり。お父さんは不在。

——これって、もしや【不倫】じゃないか?


(いやいや、お母さんがそんな事するはずないし)

(いやでも、昼ドラでは、必ずこうなるし)

(不倫じゃなかったら、お母さんとその男に申し訳ないし)


 一人で悶々と考えながら、廊下を抜け、リビングへと入って行く。


 するとそこには、お母さんと【見知らぬ男】がソファに座っていた。


 お母さんの隣に座っているその男は、私と同じ位の歳に見える。よって、不倫疑惑は払拭された。

 そして、その男は、めちゃくちゃ陰キャっぽい。

 真っ黒な髪の毛は、サラサラで長め。前髪で、目が隠れる程だ。そして、洋服もモノクロで、オシャレに無頓着な事がよく分かる。そして、猫背で俯いている。


——いや、マジで誰?


 そう思ってその男にゆっくりと近づいていく。

 すると、その男が声を発した。


「あ、あの! 今日は、大変申し訳ございませんでした!」

 突然謝られたけど、何で? そしてお前誰だよ?


「えと……。ごめんなさい、アナタ誰ですか……? 後、何で謝るんですか……?」


 私が問うと、彼は短く「え……?」と声を発した。困惑しているみたいだけど、私、そんな変な事言ったか?

 そして、お母さんがヒィヒィ言いながら笑っている。どこがツボなんだ?


「き、今日、学校で失礼な態度を取ってしまって……! 申し訳無かったので、謝りました。あの様に言ったら女は堕ちる、と教えられていたもので……。」


 この人、学校の人だ。

 でも、"女が堕ちる"とか、"失礼な態度"って何だ……? あれ、何か【クソダル男】が頭に思い浮かぶ様な……?


「もう一度自己紹介します……。僕は、姫塚 奏音です……。思い、出しましたか……?」


……え?


 コイツが、あの姫塚?

 あの、話を聞かなくて、面倒臭くて、自信が漲ってて、陽キャの塊の様な、あのクソダル姫塚なの?


「ぇぇえええええええぇぇえ!?」


 私の叫び声が、お母さんの笑い声と一緒に、壁に吸い込まれていった。

親友    秋山 蘭

能力    ???

ステータス ???

性格    彼氏ラブ

***

 ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。とても嬉しいです。

 これからも、頑張っていきます。

 続きが気になる、面白い、という方は、いいねを押してくれると大変嬉しいです。やる気が出ます。

よろしくお願いします。

 また、感想やアドバイス等ありましたら、書いてください。参考にさせて頂きます。

よろしくお願いします。

***

 次回仮タイトルは「血と、家と、能力と。」

 乞うご期待!

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