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顔面偏差値最強男子、転入してきたってよ。

 はじめまして、作者の月野 深春です。

この度は、私の作品を手に取って下さり、本当にありがとうございます。

 まだまだ未熟な所もありますが、楽しんで頂けたら幸いです。


 *

 私は、ワタシは、わたしは、嫌われ者だった。


——私の事、嫌いだって言ったらしいの! 酷くない?

——陰で悪口言うヤツとか、マジで死んだ方が良いって。

——アイツ、裏で色んな男と遊んでるらしいよ。

——私の彼氏に色目使ったんだよ。

——最ッ低だわ。信じられない。

——アイツの家族、あんなヤツと血が繋がってるなんて、本当に気の毒だわ。

——アイツウザいよね。

——アイツ、痛い目に合わせたほうがいいよ。


——明日からアイツのこと、ハブるよ。


 うるさい、うるさいうるさいうるさい……!


 小さく縮こまった身体から、ゆっくりと右手を抜き出す。自分が馬鹿みたいだ、そう思いながらも何かしらの希望が欲しかったんだ。


「バーン」

 手で銃の形を作り、そう呟く。

 私の小さな呟きは、広く暗い部屋に吸い込まれていった。


 私はあの時、神の存在を、魔法の力を信じて祈った。

「あの子が死んでくれますように。」


——願いは、聞き届けられた。


 *


 私は、嫌われ者だった。


——私の事、嫌いだって言ったらしいの! 酷くない?

——私の彼氏に色目使ったんだよ。

——最ッ低だわ。信じられない。

——アキちゃんって、ウザいよね。

——アイツ、痛い目に合わせたほうがいいよ。


——明日からアイツのこと、ハブるよ。


 薄々、気付いていた。

 私が、彼女——学年の絶対的女王の椿(つばき) 花怜(かれん)——から嫌われていたことに。

 皆が彼女に言われて、段々と私のことを嫌うようになってきたことに。


 多分、彼女が私を嫌ったのは、単純な嫉妬。

 私が花怜より目立ったり、花怜のご執心の相手、千代田(ちよだ) 真琴(まこと)から、告白されたりしたからだ。


 あの子は器が小さいのか、気に食わない子を直ぐにハブり、絶望に突き落とした。

 そのターゲットに、私もなってしまったというわけだった。


 私を玩具にした遊びは、他の人よりも長く続いた。

 中一の九月から、半年は続いたと思う。


 私は、こんなに長くハブり続けていると、遊びが習慣化してきて、辞められなくなってくることをよく知っている。今までに、何度となく見てきた光景だからだ。

 では、どうやって終わったか。

 この遊びは、あっけないほどに、唐突に終わったのだ。


——そう、花怜の死を持ってして。


 彼女の死は、突然死と捉えられた。

 事件の時の事を簡単に説明すると——。

 塾から帰っている時に、突然心臓が止まり、倒れたらしい。人気のないところで静かに倒れたため発見が遅く、病院に運ばれてきた時には、既に死んでいたらしい。彼女の最期の表情は、とても苦悶に満ちていたと云う。


 皆が悲しみに暮れていた中、私は一人、晴れ晴れとした気分だった。


——これで、私の地獄は終わった。もう、自由だ。

 そう思うと、不謹慎かもしれないが、笑いが込み上げてきた。


 そして、今までの自分が理解できなかった。こんなに呆気なく死ぬような奴に、私は何故怯えて、バカにされていたのだろうか。

 私は不思議でしょうがなかった。


 希望に満ち溢れた日々の、幕開けだった。


 登校しても、舌打ちされずに自分の席に座れる。机の上の落書きや、暴力もない。

 そんな事が、こんなに素晴らしいことだとは、知らなかった。


 ハブが終わってからの私は、まるで別人のようだと言われていた。


 そりゃあそうだ。

 昔の私を表現するなら、「優しくて涙脆い」がぴったりだった。男子からの評価は、「か弱くて思わず守りたくなる」だったらしい。

 そんな私が、こんなにも冷たい態度でクラスメイトに接するようになるとは、誰も思わなかっただろう。


——「冷血の女王サマ」。それが、生まれ変わった私の渾名だった。

 云っておくが、別に私の血は冷たくないし、私が女王のように高慢な訳でもない。


 唯単に、今までハブってきた奴らとの距離感がよく理解らないだけだ。たまに、ネチネチと他人の悪口を言い合う姿が、人の面を被った化け物に見えるだけだ。

 あいつらの様に、誰かを絶対にハブったりしないし、優しさも、失われていないはず。

——そう、ちょっとだけ暗く、ひねくれてしまっただけで、私は至って普通である。




 私に「オオカミ様」という新しい渾名が出来たのは、中二の夏休み明け。どうやら、一匹オオカミが由来の渾名らしい。

 転校生のやってきた、始業式の朝のことだった。


 その転校生は、私の後の親友——秋山(あきやま) (らん)だ。

 もう、兎に角いい子なんだよ。

 犬系女子って云うのかな。たまたま席が隣だっただけの私にも、笑って話しかけてくれた。

 

 ここで一つ、彼女のプロフィールを紹介致します。

 秋山蘭、性別女の14歳。柴宮(しばのみや)市立柴宮中学、2年A組。誕生日は7月28日。身長は155.5センチ。半年程付き合ってる彼氏の守谷(もりや)柊叶(しゅうと)が大好き。家族構成は、蘭と彼女の両親の、三人家族。可愛いものが似合うと言われているけれど、実は格好良いものの方が好き。甘いものが苦手で、恐ろしい程の辛党。


 他にも色々あるけれど、今の所はここまでにしておこう。


 彼女の不思議な所は、何故か転校前の事を全く教えてくれない事。知っているのは、柴宮市の隣にある、柏木(かしわぎ)市に住んでいたこと。

 唯、それだけだ。


 他は何でも教えてくれる彼女にしては変だなとは思うけど、何か事情があるのかもしれない。あんなに可愛い彼女に限って、嫌われるような事はないと思うが。


 嗚呼、長く話し過ぎてしまったようだ。

 そろそろ、過去の話を交えた悲しい自己紹介は終わりにしようか。


 *


 雀の鳴き声と、人々の忙しない足音と、アラーム音と。それぞれが溶け合い、混ざり合って、眠気の醒めない私の脳味噌を動かそうとしてくる。


 そしてようやく動き始めた脳は、私に素晴らしい事実を教えてくれる。


 そう、今日は月曜日。殆どの社会人は、この世の何にも耐え難い苦痛を味わう(らしい)日。

 でも、私は違う。土日と云う地獄を乗り越えた、幸せの日。

 だって——。


——蘭に会えるから!


 今までの眠気が一気に吹き飛び、勢い良く跳ね起きる。ベッドのスプリングが、ギシギシと嫌な音をたてるが、特に気にしないで置こう。


 朝の支度を手早く済ませて、リビングに入る。納豆の臭い匂いが鼻を突くが、いつものように文句を言わず、我慢する。

 ヨーグルトとシリアル、納豆という栄養の事しか考えていないような献立にも何も言わない。食い合わせが悪すぎて、凄く不快だが。


 それもこれも、母からの干渉を出来るだけ避けて、蘭に早く会う為。


 今現在だって、母は私に話し掛けている。何か大事な話をしているっぽいが、こんな忙しい朝にのんびりと大切な話をする方が悪い。耳から耳へと、通り過ぎていく。

——てんにゅう、きづか、さいおんじ……

 頭の片隅で拾う音の羅列は、意味不明だ。気にしないでおこう。


 それに、母に文句を言うと、めっちゃ悲しそうな顔でこちらを見ながら「ごめんね」と言ってくる。何か、私が悪いみたいな感じになって申し訳なくなるからやめてほしい。


 残りの朝ご飯をかき込むと、ずっしりと重いリュックを背負って玄関のドアを開けた。




 いつもより随分と早い時間だが、蘭は私より先に学校に来ていた。蘭がこの学校にやって来る前までは、私は学校に来るのが一番早かった。なのに、蘭より先に来れた事が、今までに一度もない。最近頑張ってるんだけどな。


 まだ殆どの生徒が来ておらず、校舎はシンと静まり返っている。因みに、この学校には部活の朝練が無いため、朝早く来ようとする変わり者は私達以外には殆ど居ない。

 朝の支度をしながら、蘭と喋る。土日の間にした事、面白かった動画の事……。蘭と話すのは心地よくて、いくらでも話せてしまう。


 蘭と時間を忘れて話していると、チラホラと他の生徒がやって来る。

 こうなると、私は少しガッカリする。私を嘲笑っていた汚いヤツらが、蘭の周りで菌をばら撒くから。


——蘭は優しくて純粋で、お前らとは格が違うんだ。蘭を汚すのは許さない。


 心の中で、幾度となく呟いた言葉は、アイツらには聞こえない。


 クラスメイトは、大体揃った。もうすぐ、ホームルームの時間だ。

 ホームルームの直前、クラスは変にザワついていた。なんだろうとは思ったが、聞けるような間柄でもないので、黙って読書をしていた。

 妙な胸騒ぎがしていた。


——予感は的中。


「えー、今日は、一つご報告があります」

「さあ、こっちに来なさい」

 ガラリ、と戸が開き、男子生徒が教室に入ってくる。

「紹介します、彼は新しくこのクラスの仲間となる——。」


——転校生がやって来た。

 こんな変な時期に何故、とは思わなかった。


(お母さんがやったな……。)

 唯、そう思って顔を顰めた。


 *


 母は、普段は抜けてるくせに、変な所で勘が鋭かった。一昨日の件もそう。

 何故か、唐突に「誰かを殺したい程憎んだことはあるか」と、聞かれた。イジメられてないかの確認としては変わっているが、本音を言うとイエスだ。


 私は上手くはぐらかせず、花怜にイジメられていた事、「死ね」と心から願った事を白状した。

 何故今更気づかれたのか、分からない。


 だって、それまでは普通の日曜日だった。

 夜ご飯を食べて、お風呂に入り、映画を観ながらお菓子を食べて……。


 そういや、昨日観た映画は懐かしかった。中一の夏休みに、お母さんと観た映画の続編だ。感動的な演出に、更に磨きがかかっていた。

 前回は、お母さんと私はボロボロ泣いてしまったが、今回はお母さんの泣き具合がグレードアップしただけだった。私の瞳から、涙は零れ落ちなかった。それだけ、私の精神も大人になったという事なのだろう。


——やはり、何故今頃バレたのか、全く分からない。


 首を捻って考えていると、母に謎の質問をされた。

「明希、好きな男の子いる? 彼氏は?」


——は?

 先程とはまるで趣の違う質問に、面食らう。何言ってんの、と言いそうになるが、母の至って真剣な様子を見てその言葉を飲み込む。


「居ない」

 言うが早いか、何故かと問われる。


「なんでって……。

 この中学の男子、幼稚過ぎるし、レベル低い」

 答えたら、次の質問が飛んでくる。好きなタイプとか、お母さん本当にどうかしたの。


「顔の良い男子、とかかな」

 我ながら、面食いにも程がある答えだ。そりゃあ、性格も大事だけれど、親の前でそんな事言える訳がない。


 私の回答を聞いて、母がパッと瞳を輝かせた。そして、「顔、顔ね……。分かったわ、あの子を使いましょう……。明後日の朝までに着くよう、手配して……」などと、ブツブツ呟いている。


……どうしたんだろう、お母さん。


 *


 これは想像なのだけれど、多分、この転校生の男の子はお母さんの差し金で転校してきた。

 一昨日と今朝の、母の不思議な言葉——「明後日の朝までに着くよう」「転入」「きづか」等——は、この男子の転入を意味しているはずだ。


 母は、実家が太いのか何なのか、権力が強かった。地元の地主とかで、昔は貴族だったとか。

 そういえば、昔に母方の実家に行った時、何故か私は姫様なんて呼ばれていた。召使いの様な存在も居て、とても驚いた事を覚えている。


 大方、その権力を使ってこの子を転校させたのだろう。召使い的存在の家の子供なのだろうか。何にせよ、可哀想に。


 私が考え事をしながら憐れんでいると、彼が自己紹介を始めた。

姫塚 (きづか)奏音(かなと)です。よろしくお願いします」


 最低限過ぎる自己紹介をしてから、彼はニコリと笑う。その笑みを見た女子は、息を呑んだ。


 長めに伸ばした、明るい色の髪の毛が、風に吹かれて揺れる。二重の大きな瞳が、優しく細められる。紅く形の良い唇から、白い歯が溢れる。笑顔から覗く八重歯が、可愛らしい。陶器の様に白く滑らかな肌が、ほんのりと紅く染まる。


 アイドルの創る様な、完璧な微笑み。()()()()()の全ての女子生徒は、一瞬で堕ちた。瞳をハート型にして、頬を染め上げ、黄色い声をあげた。


 因みに私は、もう彼に興味を失くして、前の席に座る蘭のうなじを、ボーッと見つめていた。先生が何か言っているが、極限のスルースキルで聞き流す。母相手に鍛えたからな。


——だってさ、折角久しぶりに蘭に会えるのに、どこぞの馬の骨なんかに黄色い声あげてたら、時間の無駄じゃない?

 いやまあ、顔は結構タイプだけれど、そういう問題ではない。それに、お母さんの選んだ男かも、とか思うと何か萎えてしまう。見合いかよ、って気分になってくる。


 ボーッと考えに溺れていると、先生と蘭の声が遠くから聞こえてきた。

「……じ、西園寺、西園寺」

「明希ちゃん!? おーい……」


――あ、何か名前呼ばれてたわ。

 悪いな、蘭。何も聞いてなかったわ。


「すいません、聞いてませんでした。何の要件でしょうか」

 先生に真面目に問うと、呆れた様な溜息が飛んできた。


「お前な……。話を聞いとけよ……!」

「話を戻すぞ。この転校生、姫塚はお前の隣の席になる。まあ、教科書もまだ届いてないし、色々と分からないだろうから、面倒見てやってくれ」


 え、面倒臭いな。あと、更に女子から恨まれそう。あいつら、影でグチグチ言うから面倒臭いんだよな……。

 まあ、先生からの評価これ以上下げたくないし。主に授業態度の所為で悪い成績、高校進学までに上げときたいし。

「えー、まあ、はい。わかりました」

「おう、頼んだぞ」


 何か頼まれてしまったけど、ここ最近蘭と家族以外と、まともに喋っていないため、どう接していいかわからない。ついでに、名前もわからない。


「えーあ、んー、転入生。理解らないことあったら、まあ、私の前にいるやつに聞け。よろしく」

 これで、任務完了。必要最低限の会話で済んで、良かった良かった。

 そう思いながら、晴れて自由の身となった私は、日課であるお昼寝の準備をしていく。


 机の上に突っ伏していると、不意に横から「ねぇ」と声がした。蘭じゃないし、誰だ? と思って声がした方向に首を動かし、片目を開ける。


——うわわわわわわわわ?

 瞳の前には、顔面偏差値高杉くん——もとい、転入生——のご尊顔が、至近距離で。


 心の中で奇声を発してしまう位には、動揺してしまった。でも、ハブられ期間に固まってしまった表情筋は、無表情を貫いていた、と思う。


「で、なに? 転入生。用があるなら、私の前の天使様に聞いて下さい」

 一気に話して、一方的に話を切り上げ……ようとした。因みに、結果は失敗。

 いつの間にか、腕をぐいと引っ張られていた。これでは、お昼寝に入れない……。


 一人で嘆き悲しんでいると、声が降ってきた。梶◯貴さんに似てる、良い声である。

「ねえ、アンタ。名前は?」

 彼のとっておきの顔面必殺技なのだろう、使い慣れた感じの言い方だ。

 ナンパかよ!? というツッコミはさておき。少女漫画のキザったい相手役か? という心の叫びはさておき。


 私が今まで言い寄ってきた男たちを分析するに、こういう面倒臭そうな、「自分チョーカッコイイ」系男子は適当にあしらうのがコツだ。

 なので、テキトーに名前を教えてやろう。私の心はとてつもなく広いのだ。


「西園寺」


 言うと同時に机に突っ伏した私に、彼はとびきり甘い声で「よろしくね、明希ちゃん」と囁いた。

 途端、ブワッと顔が発火する。駄目だ、ポーカーフェイスを貫けない。


――うわわわわわわわあああああ!?

 私は、本日二回目の心の叫びを放った。

主人公   西園寺 明希

能力    GUN

ステータス ???

性格    蘭=全て

***

 ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。とても嬉しいです。

 これからも、頑張っていきます。

 「続きが気になる」「面白い」と思った方は、いいね、ブクマにご協力頂けると大変嬉しいです。やる気が出ます。よろしくお願いします。

 また、感想やアドバイス等ありましたら、書いてください。参考にさせて頂きます。よろしくお願いします。

***

 次回タイトルは「ウラとオモテ」です。

 乞うご期待!

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