鏡湖池や 死屍が揺蕩う 鹿苑寺
ネタバレすぎる俳句みたいなタイトルです。
京都だから許してくれるっしょ。
フィクションなんだから(万能句)
-京都府京都市東山区祇園町-
まだ天を太陽が過ぎた直後のこと。
羽柴らは京都でも名高い会席料理店「祇園 うえもり」にて湯葉と湯豆腐の会席に舌鼓を打っていた。
2階の三人用個室にて、八木邸での事件がなかったかのように皆それぞれ会席を食している。
「天麩羅にめんつゆはないわぁ〜。そこは塩だろ〜」
「単純に正爾さんがめんつゆ嫌いなだけですよね」
『刺身や寿司の時も塩で食べますよねマスターは』
各々が好きな皿や小鉢を箸でつまんでは口に運んでいく、お口直しにもならないトークを交えながら。
「・・・正爾さん、今から他の志士や新撰組の史跡に行ったところで、手がかりなんてありますか?」
『現場にも、特に次の標的や場所に関するものはなかったと思います』
「でもなぁ〜場所まで意図的に選んどいて、次の場所のヒントすらないのはおかしくねえか?
あの死体のトラップだって、絶対に一眼に触れさせる為にやってんだぜ」
羽柴はお吸い物を吸いながら考える。あの場に何か見落としがあっただろうか。いや、もしあったら京都府警から連絡の一つくらいある。
「流歌、写真」
「はい」
流歌は現場で撮った遺体や証拠品を撮った画像を羽柴に渡した。一つ一つスクロールしながら、見落としや気づきを探していく。
死体、釣り針と糸、天誅、人斬り彦斎、数珠・・・
"数珠"?
羽柴はこの数珠になにかがある気がした。探偵の第六感という奴だ。
それを信じて、改めて写真を注視する。
色はどうだろう。美しくも透明度のある珠が使われているが、それ以外に不審な点はない。
形はどうだろう。特に特徴的な形はしていない。
では、持ち方はどうだろうか?
「・・・・・・アァ〜! はいはいそーゆーことネ」
「どうしました? 急に競馬で3連単当てた時みたいな顔して」
「具体的すぎて草。違う違う、この数珠の持ち方よ」
食べ終わった料理の皿をテーブルの端にどかして、流歌のスマホを置いて説明する。
「コイツ、左手の親指と人差し指の間に引っ掛ける形で持ってるだろ」
『それがどうかしましたか?』
「この持ち方は、臨済宗の持ち方だ。確か仏教は宗派ごとに数珠の持ち方が違うと聞いたことがある。数珠が犯人のものである以上、持ち方にも意味があるはずだ」
といっても、仏教に詳しくない羽柴は率直に言って考える気すら起きなかった。二人は茶を飲みながらも一生懸命に考えている。
するとそこで、巴が何か思いついたようで手を挙げた。
『あの』
「「?」」
『京都の"宗教都市"という部分になにか意味があるんじゃないですか? ここは神社仏閣が沢山ありますし』
ピシャーーーン!
羽柴と流歌の背景に稲妻が走った。
そうだ、京都は宗教都市だ。臨済宗に関係する有名な場所が必ずある。そしてそこには、彦斎の痕跡か犠牲者がいるかもしれない。
「臨済宗で有名な場所ですか」
「しかも観光スポットが最適だ。犯人はより多くの人に見てもらいたい訳だからな」
『では、八木邸のような場所は今後ないということですか』
「そこまでは言わんよ? でも警察にメッセージを届けた訳だから、もう新撰組関係の場所を選ぶ理由もないでしょ〜」
数珠が今後のキーになってくることが確定したなら、次は臨済宗の仏閣を特定しなければならない。
場所を特定する何か鍵がないかと再び数珠の画像を見やった時に、羽柴は見た。
数珠を繋ぐ紐が、金色に輝いていたのだ。その特徴に当てはまる仏閣に、羽柴は心当たりがあった。
「こりゃあ・・・よし、金閣寺行くぞ」
「金閣寺? 金の紐で金閣寺って決めていいんですか?」
「逆に金閣寺じゃなきゃ何があんだよ」
そう言われてしまえばぐうの音も出ない。金閣寺以上に金が相応しい場所なんて存在しない。
一息に茶を喉に流し込んだ羽柴は、二人を連れて早足気味に料亭を出ていった。
京都市北区、相国寺の塔頭寺院として、池の一角に絢爛豪華に輝きながら、日光を金に変えるその建造物は国内外を問わず人の目を釘付けにしていた。
池に映る金閣寺―――正式名称は鹿苑寺だが―――が風によって歪んだ微かな波紋によって不定形な黄金として異界に存在しているように揺れていた。
鏡湖池の薄緑がかった水中を鯉が泳ぐ。
鶴亀島、葦原島などの大小の島々や当時の大名が寄進したことから名付けられた畠山石、赤松石、細川石などの奇岩名石が配され、神仙蓬莱の世界を現世に投影していた。
数珠の手掛かりから次の殺人場所として目をつけた羽柴たちは、金閣寺を眺めるのもそこそこに庭園を歩き始めた。
「ここに何があるのでしょうか」
『彦斎が私たちの一つ前に八木邸での仕掛けを施したというなら、工作中の犯人か死体があるかもしれません』
「勝手に死体が晒されるならとっくに騒ぎになってもいい。なら、まだ誰もその仕掛けを起動していないのかもな。もしくは・・・」
観光客もいる中で、池の周りを巡回しながら羽柴たちはこの場所に隠された何かを考えていた。
考えながらも金閣寺のすぐそばまで歩いた羽柴らは、金閣寺に仕掛けがないかと外から眺め出した。この金閣寺は中には住職等の関係者しか立ち入りできないのだ。
数分見ても、何か異常や違和感は見つけられず、ふと足元を見ると独特の彫刻がされた杭が柵の設置された地面に突き刺さっていた。そして、その杭からはワイヤーが伸びており、池の中へと続いている。
「あったぞ」
「・・・もうこれだけで何が浮いてくるか容易く分かりますね」
「龍神様でも出てくるかな?」
『ふやけているとは思いますよ』
このワイヤーの先に何があるか察している羽柴だが、それがどうなろうとどうでもいい。
躊躇いなく杭を抜くと、杭ごとワイヤーは池の中に消えていった。そして、数秒経ったところで金閣寺の反対側から大勢の悲鳴が上がった。
急ぐこともなくふらっと見に行くと、観光客は皆して池のど真ん中を見ていた。
そこにぷかぷかと浮かんでいたのは、反射した太陽でも松の葉でもない。
腹を横一文字に掻っ捌かれた若い女性の屍だった。
体内の血は池に滲んでおらず、腹の中から臓物も溢れ出ていない。犯人によって血は抜かれ、内臓は処理されてしまったのだろう。
両手を胸の前で合わせた合掌のポーズを取っており、よく見えないが数珠が両手に絡んでいる。
流れのない池に仰向けで浮かんでいる様が、羽柴のツボをじわじわと嬲ってくる。そして、最後には堪らず吹き出して笑い始めた。
「・・・・・・ブッ、ギャハハハハハハ!
死んだカエルが浮かんでるみてえ!」
「さすが不謹慎の魔王。でもこの景色に邪魔なのは確かですね」
『すぐに警察が来てくれます。早く引き上げましょう、池の水が汚れて鯉が可哀想です』
羽柴を止めることもせず、むしろ賛同すらし始めてしまった。彼らの側にいた観光客は、その会話に末恐ろしさを感じて距離を取った。
「5分もすれば来るだろ。それまでどーする?」
「あまり離れる訳にはいきませんからね」
『境内に金閣ソフトなるものがあるらしいですよ。抹茶ソフトクリームに、白玉と小豆をトッピングして、純金箔をそのまま一枚乗せたものって公式ホームページに書いてあります』
「えなにその超面白そうなソフトクリーム。めっちゃ食べたい行こうぜ! 死体よりもそっちの方がずっと興味あるわ」
湯葉食う時に湯婆婆が脳裏によぎらない奴はいない(断言)




