アンフェールは再び人の世へ・・・
「税金で買った本」ってのを麒麟の川島さんがプレゼンしてるのを見て、作者も「うわ読みてえ!」となって三件も本屋を回りましたが売り切れてたのかありませんでした。
手ぶらで帰るのも嫌だった作者は、一冊だけ本を買ったのですが何を買ったでしょう?
答え:「ダヴィンチの遺骨 コンサバターV」一色さゆり
ちなみにまだ10ページしか読めてない。
-翌日 羽柴探偵事務所-
事件を解決した翌朝、警視庁から連絡が来てハングドマン殺人事件の終息を聞いた。これから記者会見を開き、報道陣に公表をすることも。
休業日である日曜日の正午に、事務所兼自宅のテレビで放送されると知った流歌は、羽柴に放送を一緒に見ようと持ちかけた。だが、当の本人は乗り気ではない。興味がないのもあるが、これまでほぼ会見視聴を誘ってこなかった流歌に、薄々裏があると勘付いていたからだ。
「えぇ〜?興味ね〜よ〜。ドグラ・マグラの映画でも観ようぜ〜。もしくはアバランチとか」
「一応関係者なんですから、事の結末は見納めないといけないと思いますよ?」
「いつもは見ねえのに、どーゆー風の吹き回しぃ?」
「映画なら後で一緒に観ますから」
「え〜〜〜イイよ」
結局ノリで了承した羽柴は、流歌とテレビを見ることにした。警察にも面子があるから、捜査協力者の情報をベラベラと喋ることも無いだろうと考えたからである。
そして正午。いよいよ、1チャンネルでハングドマン殺人事件の報道が流れた。
会見には警視庁のお偉いさんはもちろん、事件の捜査を主導した支倉警部も出席している。
『先日、日本橋で発生した通称ハングドマン殺人事件は、容疑者である被害者土井孝文の秘書である安藤真矢を、殺人及び死体遺棄の容疑で逮捕したことにより終息いたしましたことを、宣言します』
「ヘェ〜、ちゃんとやってんじゃん」
意外にもマトモに会見は続いていき、記者の質疑応答もそつなくこなしていく。なぜ流歌が会見を見せようとしてきたのか分からないまま、遂に最後の記者の質疑が始まった。
だが、この記者の最後の質問で羽柴の空気だけが凍りついた。
『本件の捜査には協力者がいたとの噂がありましたが、一体どなたが?』
一瞬ゾッとしたが、いやいやまさか言わないだろう。羽柴は小さく頭を振り、最悪の考えを払拭しようとした。この記者は馬鹿なんじゃないか。警察がおいそれと捜査協力者の名前を出すわけがないだろう。羽柴の一抹の安心を繋ぎ止めているのは、警察が持つ守秘義務だけだった。機密性の保持のため、協力者の存在は明かせても名前はダメなはずだ。
しかし、無情は唐突にやってくるものである。羽柴は一つの例外があることを忘れていた。個人情報は、同意があれば開示できることを。
『今回の事件の解決は、むしろ警察側が協力したに過ぎません。とある探偵とその助手によって、本件は解決されたと言っても過言では無いでしょう』
・・・あれ?
急に雲行きが怪しくなってきた。本当に勘弁してほしい。
もしバレたりしたら今後の生活が息苦しくなるし、何より仕事量が増えてダラダラできなくなってしまう。
『守秘義務により協力者の直接的情報は明かせませんが』
そうだ、それでいい。昨日時間を終わらせたばかりなのだ。あと4日ぐらいは溶けていたい。チョコミントアイスとか食べたいし、井上真偽先生の本とか読みたい。まだ読んでない本が山ほどあるのだ。
『カメラと報道を通して、感謝の意を述べたいと思います。
ご協力、誠にありがとうございました。
アンフェール殿』
「・・・・・・あ?」
急な爆弾級の暴露に、名探偵の脳みそは数秒のフリーズを起こした。本名は確かに伏せてくれたが、実名公開レベルで洒落にならないネームも暴露してくれた。その名前は、できることなら永遠に闇に葬りたかった。
アンフェールは、羽柴が精神病院を退院した初期の頃に使っていた通り名である。いや、厳密には「使ってしまった」が正しい。
今から6年ほど前、児童養護施設が人身売買していた事件を解決した際に、救出した子供に名前を聞かれたことがあった。その頃には、既に外で自由に犯罪者をぶちのめして伸び伸びとしていた羽柴は、調子に乗って「アンフェール(フランス語で地獄)」と名乗ってしまった。それが、事件後に子供達がマスコミにヒーローのように語ってしまい、世間に流れて一時期は都市伝説のように扱われていたのだ。その事件には支倉も捜査に関わっていたからその名前を知っていたのである。
今となっては時が過ぎて下火だったが、今回のこの放送のせいでメディアやマスコミは大騒ぎである。あの都市伝説だった存在が、実在すると記事に書く気がテレビ越しにもムンムン伝わってきた。
「・・・・・・」
無言でチャンネルを切って無意識にサブスク画面に切り替える。
最悪だ。その一言に尽きる気分だった。分かりやすく言えば黒歴史的に最悪だ。
恐らくは支倉を含めた警察どもからの、日頃の些細な仕返しなんだろうが、何で黒歴史同然の昔の名前をバラしてしまったんだ。もう自暴自棄になって支倉の自宅にバイクで突入してネズミ花火でも投げ込んでやろうかとも思ったが、そんなことする気力も湧かない。
・・・頭を抱えて天を仰いで10秒。ふと隣にいる流歌を見ると、ニコニコとムカつく笑顔で羽柴を見ていた。コイツ、今日こうなることを事前に知らされていたな・・・!
「日頃の感謝にサプライズを用意してみたんですが、どうでした?」
皮肉がたっぷり込められた振りに、初めてしてやられた感を覚えた。これが敗北か・・・。いや、待て。敗北と思わなければ敗北ではない。イアン・ソープが昔言ってたことを思い出した。そもそも重く受け止めるな。相手の思うツボになってしまう。
故に、羽柴は否定することも八つ当たりすることも選ばなかった。
「上等だ!やってやるよアンフェールゥ!テメーのケツくらい拭いてやるよ!痔になって血が出るまで拭き続けてやるよ!!!」
選択肢その3、開き直る。とどのつまり考えることをやめたのだ。だが、これだけでは気分が落ち着かない羽柴は、結局映画と酒で気晴らしすることにした。
自暴自棄になった羽柴を見て、流歌は笑みを浮かべていた。しかし、それは決して仕返しできた笑みとか、悪戯が成功した子供のような笑みではない。
他人に宝物を自慢して評価してくれたような、そんな嬉しさを孕んだ笑みだ。
(・・・正爾さん。貴方はとても狂った人ですが、私にとってはカッコいい父でありヒーローなんですよ。そんな貴方を、いい加減に世間で認めて欲しかったんです。私の探偵は、私のお父さんは、こんなにすごいんだぞって。ですから、心苦しいと思っていますでしょうが、貴方を誇る私を許してください)
とんでもない身内のサプライズにより、警察や一部の依頼人にのみ知られていたイカれた探偵「羽柴正爾」は、正体不明の探偵アンフェールとして再び世に現れた。
「よっしゃ映画観んぞ!おい流歌ァ、酒用意してる間にドグラ・マグラ再生しといてー!」
「うふふっ・・・・・・えぇ、いいですよ。いくらでも付き合いますっ」
自棄酒と映画に一旦逃げようと躍起になる羽柴に、流歌は嬉しそうに付き合った。
こうして、吊った男は地獄に落とされ、その地獄の門に再び地上の光が差し込んだのだった。
はいこれにてハングドマン殺人事件はお終いです。
今のところは、あと二つ事件を執筆してます。
一つ完成したら、またブロックごとに投稿していく予定です。
今後も、アンフェールと三留伊武樹をご贔屓に。