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【1万PV突破!】アンフェール〜探偵にネジは存在しない〜  作者: ディスマン
ハングドマン殺人事件

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ネジは地獄に落としてきた

米花町なんてほぼ無法地帯の魔境なんだから、

コ◯ンとかもハードボイルド(?)に犯人を捕まえれば良いのにね。

-午後9時 日本トラベルブリッジ-



「・・・・・・」

 退勤時間を過ぎ。社員が誰一人いない真っ暗なオフィスで、1人の男が窓の外を眺めていた。窓に映る顔には、後悔とかの念は無く、あたかも憑き物が落ちたかのような表情だった。


コンコン


 オフィスのドアをノックする音が木霊する。自分以外に人がいない分、余計に耳に響いか気がした。

「どうぞ」

 ドアを開けて、社員ではない2人の男女が入ってきて部屋の電気を点けた。だが、その2人に男は見覚えがなかった。

 それもそのはずである。彼の前に現れたのは、羽柴ではなく支倉昌信と星宮流歌だったからだ。


「貴方達は、昼に来た探偵さんの関係者ですか?」

「まあな。捜査一課の支倉と、彼の助手の星宮だ」

「羽柴さんは来てないんですね」

「アイツはなんか野暮用だとよ。面倒なとこだけ押し付けられちまった。・・・実は、アンタに聞きたいことがあってな」

「ほう、何についてですか?」




「土井さんを殺してスッキリしたか?










安藤さんよぉ」




 男『安藤真矢』は、支倉の突然の犯人宣言にポーカーフェイスを決め込んだ。顰めることも、驚くこともしなかった。それが、逆に怪しさとなって支倉たちに伝わる。


「・・・・・・・・・私が殺したと、そう言いたいんですか?」

「まあ率直に言えばな。今回の犯行から動機まで、一応ぜんぶ推理してきたんだが・・・聞いていくか?」

「・・・聞きましょう」


 数秒の静寂が過ぎ去り、最初に話を始めたのは支倉ではなく流歌だった。

「貴方はビルの外で社長を自分の車に誘った。恐らく家まで送っていくとか口実を付けたのでしょう。そして、人気のないところまで移動し社長の後頭部を凶器で殴打。そのまま死体をシートか寝袋のようなもので包み、日本橋を通るクルーズ船の船着場へ向かいました」

「・・・・・・」

 安藤は黙って流歌の推理を聞いている。未だに眉一つ動かしていない。


「事前に下見してあったのでしょう。従業員がいなくなる時間を見計らい、事務所に侵入し適当な従業員の制服で変装後、貴方は船を盗み死体を橋下に吊り下げに行きました。あの川はそこまで幅は狭くないですが、船の操縦に慣れていない貴方ではUターンは難しい。行きで吊れば帰りにぶら下がった死体が邪魔になってしまう。

 だから貴方は、帰りの時に社長の遺体を船尾に寝かせ、片足と橋の欄干をロープで繋ぎ、船を発進させて逆さ吊りにしたのです」

「目撃証言もないのに、何を言っているんですか」

「船尾に、その時に付いた傷跡がありました」

 ここで遂に安藤が口を挟んで来たが、すかさず流歌が反証し黙らせる。

「船と制服を戻し、遺体を包んだものを回収した貴方は凶器も捨てずに車内に保管することにしました」

「なぜ?普通に捨てればいいじゃないですか」


「捨てなかったんじゃない、捨てれなかったんだ」

 安藤の(もっと)もな疑問に回答したのは支倉だった。流歌の前に一歩踏み出て安藤を見据えた。

 訝しげにする安藤に、支倉はその根拠を話し出す。

「考えてもみろ。誰もいないと思ったからといって、東京都の、ましてや中央区でおいそれと凶器は捨てれんだろ。捨てるとすれば川一択だが、水音を万が一にも聞かれたくない心理が働いちまう。

 よって、大事なものは側に持っておきたい心理が働き、凶器などは捨てれず車内に残ったままになっちまう」

「・・・・・・チッ」

 昼間の理知的な姿からは想像できないほど、安藤は憎たらしいと感じているような表情で、聞こえないくらい小さな舌打ちを打った。

「だが、何故吊り下げたりしたんですか?遺体は普通誰にも見つからないところに捨てるなり埋めたりするものでしょう」

「いえ、貴方はむしろ誰かに見つけて欲しかったんです」

「は?」

安藤の疑問に流歌が答える。

「あの遺体の姿そのものが、犯人からのメッセージだったのです。あの片足を縄で逆さ吊りにする姿は、タロットカードに出てくる吊られた男(ハングドマン)(なぞら)えたものです。しかし、その別名は死刑囚や刑死者を指します。このことから、殺人の目的は復讐。そして占星術では水を表しています。

 また、貴方は社長から先日に居酒屋で青海丸沈没事故の話を聞きました。そこで貴方は、今回の殺人計画を思いついたんです」

 ハングドマン殺人事件の犯人は、被害者を殺すことと同時に世間に見せつけることが目的だったのだ。だから被害者を殺し、尚且(なおか)つ世間の晒し者にして如何(いか)にこの男が悪人だったのかを暗示したのだ。

「・・・馬鹿馬鹿しい。確かに、私は先日社長からその事故の話を聞きました。でも私は、社長が事故の関係者だとその時に初めて知ったんです。なぜ、青海丸が私の犯行動機になるんですか」

「・・・・・・そうです。貴方はその時に初めて知ったんです。復讐相手が目の前にいることを」


「何だと・・・?」


 ここに来て、露骨に安藤の顔が歪んだ。しかし、 僅かに別の思惑が見え隠れしているようにも、2人には見えた。

 まるで、完璧に事件の真相を暴いてくれることを期待しているかのような・・・・・・。

 流歌は、懐から一枚のカードを取り出した。タロットカードの12番目、ハングドマンである。

「ハングドマンが吊られている樹木は母性、つまり女性の象徴でもあります」

 安藤は真っ直ぐに流歌を見つめるだけだ。支倉も、ただ安藤を静かに見つめている。流歌の声だけが、今このオフィスの空間を支配していた。

「青海丸沈没事故の死亡者リストの中に、ある女性の名前がありました。・・・・・・安藤真奈華(あんどうまなか)という方です。この方は、貴方の妻ですね?」


「・・・・・・」

 遠い昔を懐かしむように目線を下げる安藤に、流歌は自分の過去を重ねた。()くいう自分も、放火事件で母を亡くし一時とはいえ天涯孤独の身だったのだ。しかし、自分と彼は似てるようで決定的に違う所がある。それは、絶望した自分を救ってくれた羽柴正爾(バカな人)がいたことだ。


「つい最近までの貴方も、真奈華さんが不幸な事故で亡くなったと思っていた。でも、社長が酒に酔って言ってしまったんですよね。例えば、"助かりたいが為にある女性を見殺しにした"とか・・・」


 安藤は、決して最初から土井を殺す為に近づいた訳ではなかった。偶然。本当に偶然で、真相と張本人を知ってしまったのだ。社内で羽柴が調査をした時も、社員は全員がトラブルはないと答えた。真実を知るまでの2人は、本当に普通の良好な社長と秘書の関係だったのだろう。

 それが、なんたる運命の巡り合わせなのか、たった一夜にしてその全てが狂ってしまった。

「ただ、一つだけ教えてもらいたいんです。貴方は、どうして土井さんが見殺しにした女性が、真奈華さんだと思ったんですか?」

 そう、それだけが唯一調査しても分からなかった穴だった。実際に土井は、女性を見殺しにしたことは暴露したが、その女性が安藤真奈華と断定するには証拠が必要なはずだからだ。

 顔を上げた土井は、薄く笑みを浮かべながらその穴を埋めた。


「指輪ですよ」


「・・・指輪?」

「ええ。土井が言ったんです。その女性は、左手の薬指に指輪をしていて、宝石の色が混じっていたと・・・」

「そんな宝石があるのか?」

 今度は支倉が疑問符を掲げた。一般常識で、宝石の色が変わるなんてことは滅多に無い。だが、決して無いことはないのだ。

 土井は窓の外を振り返り、指輪の思い出を語り出した。

「指輪の宝石は、アレキサンドライトという珍しいものを使ったんです。光によって色が変化する変わった宝石だったので、結婚指輪で贈ったら「綺麗」と言ってくれたんです。

 実際、事故で死亡した人の中で、そんな遺留品があったのは真奈華だけでした」

 安藤の顔は、亡き妻を語っている時は心底穏やかだったが、土井の話となった途端に憎悪の籠った眼を支倉たちに向けた。

「・・・もし、土井があのことを言わなければこんなことにはならなかった。しかし、私は偶然にも知ってしまった。知った以上、真奈華を犠牲にした報いを受けさせる義務が私にはある!」

 怒りが沸々と戻ってきたのか、こちらを向き吐き捨てるように怒鳴りだした。


「復讐は果たした!あとは、貴方達を退かして事件の真相を世に公表するだけだ!それで土井の名誉は失墜し、人を犠牲にするようなゴミ共の抑止力に私はなる!!!」


「ッ!」

「お前・・・!」


 安藤は、隠し持っていた刃渡り7cmほどもあるナイフを抜き、鬼気迫る声を張り上げた。本気で安藤は、支倉や流歌に傷を負わせてまで、いや最悪殺しても成し遂げるつもりなのだ。

 安藤を突き動かすものは、もう妻のための復讐心ではない。土井のように誰かを犠牲にして生きている者たちを裁くという、歪んだ正義感だった。


「やめろ、復讐を果たしたならもう満足だろ!

これ以上罪を重ねて何の意味があるんだ!罪を償って、彼女に会わせられる顔になれよ!」


 支倉には、この男が完全な悪だとは思えなかった。

 人殺しが悪なのは全世界共通で間違いないし、支倉自身もその考えは一切ブレていない。しかし、彼は私利私欲ではなく愛する人の復讐で殺人を犯してしまったのだ。情状酌量(じょうじょうしゃくりょう)や同情の余地があるうちに、完全な悪に染まる前に、彼には投降して欲しかったのだ。


「さあ・・・・・・・・・そこを退けェェェ!!!」


 今にもナイフを片手に突っ込んでこようとしている安藤から、流歌を守ろうと身を乗り出そうとした。




 その時、闖入者(ちんにゅうしゃ)の声が三人の耳に突然届いた。




















()()()―――。



「ーーーーーーァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!」



ガシャーーーーーーーン!

「キャアッ!」

「うおお!?」

「ゥアダー!」

「ヴブァ・・・!?」


 ガラスが割れる音が耳を劈いて間もなく、闖入者は飛び込んできた勢いのままに、驚いて振り返った安藤の顔面に奇声を上げながら跳び蹴り(ドロップキック)を決めた。ガラスとともにデスクに吹き飛ばされた安藤は、唸り声を口から漏らして気絶している。

 思わず驚いて顔を伏せていた支倉たちが覗いてみると、改めて闖入者を目視した。


「な、何やってんのお前!?」

「・・・全く。ガラスが飛んできたらどうするんですか」





()()()()




 窓ガラスを外から蹴破ってきたのは、日本一イカれた探偵こと羽柴正爾だった。体についたガラス片をパッパッとはたき落とし、普通に歩いてきたかのような、なんてことない顔で登場した。あまりにも唐突で型破りで非常識な羽柴の行動により、場違いで異質な雰囲気をオフィス内に漂わせている。


「いやぁ、特殊部隊の映画であんじゃん?屋上からロープ伝ってビルに突入する奴。あれ一回やってみたくてさー。そんで屋上で盗聴して、ベストなタイミングで振子みたいに飛び込んでみたんだけど・・・なあなあどうだった!?初めてにしてはカッケェ登場だったっしょー!」


 何度も現場で、流歌にとっては側で見てきても、とんでもない男だと嫌でも認識させられる。これが、日本一イカれた名探偵なのかと。この感覚に慣れてしまえば、自分も壊れてしまうような、彼に毒されてしまうかのような考えが支倉に(よぎ)る。 だが悲しいかな、流歌は既に羽柴に毒されていた。7年間も一緒にいれば当然だ。その証拠に、流歌は既に蹴り飛ばされた安藤のことも、割れた窓ガラスのことも考えてはいなかった。


「・・・え、盗聴してたんですか?」

「うん。お前の胸のボタンにマイク付けて」


 流歌が確認してみると、ドレスの第一ボタンの裏に小さなマイクが貼り付けてあった。一体いつ付けられたのだろうか。流歌は今日羽柴と接触したタイミングを思い返した。

「事務所で死亡者リストの名前見せた時」

「心の声読まないでください。義娘でもセクハラです。お嫁に行けません」

「じゃあお婿にでも来てもらえやーい」

 ケラケラと笑う羽柴にちょっとムカついた。死亡者リストの名前を見るよう言われた時、彼は流歌たちの肩に手を回していた。なんの気なしにやっていたことと思い気にしなかったが、まさか隠しマイクを忍ばせていたとは・・・。

 イカれているのに事件となると抜け目ない男である。




「・・・・・・う、うぅぁ・・・」

「あ、起きた」

 気絶していた安藤が目を覚ました。蹴りの衝撃で、持っていたナイフはどこかのデスクだった残骸の下まで飛んでいってしまった。

「テレレレン。テレレレン。おはよう、朝だよ!

ほいっ」

「うぐっ」

 羽柴は何の容赦もなく、起きかけの安藤の顔に右フックを打ち込んだ。安藤の意識が、衝撃と痛みによって強制的に起き上がる。


「もう午後9時ですよ。今朝なのはシカゴくらいです」

「あ、そうか。もしもーし。夜ですよー。起きてくだしゃーい」

「あ・・・貴方は、なんで・・・」


 目覚めた安藤は、混乱と同時に不思議で仕方なかった。既に事件は2人によって解かれた後なのに、何故今になってこの探偵が来たのか。もしかしたら、応援を呼ばれていて自分を逮捕しに来たのかと思った。

 だがしかし、安藤は羽柴のことをまるで分かっていなかった。


「なんでって・・・お前ブッ飛ばすついでに逮捕しようかなーって」


「・・・は?」


 もう理解不能だった。常人の理解の遥か彼方でタップダンスを踊るような男。善悪もなく、己の快楽や愉悦のために悪人を食い物にする男。

 今、安藤の目の前にいるのはそんな人間なのだ。

「あ、口切った?血流してんねえ。ちょっと写真一枚いいっすか?」

「正爾さん、不謹慎です」

「俺なんて殺人犯より何万倍も健全だろ?大丈夫だって。気が済んだらワッパ掛けさせてやっから」

「お前が健全だなんて口が裂けても言えねえよ」

 羽柴がしゃがんで安藤を煽り、流歌と支倉がツッコミを入れる。繰り広げられる三人のみぞ知る世界から弾き出された安藤は混乱の最中だったが、顔の痛みが彼を現実に引き戻した。昼間に来た時は傍若無人な人だとは思ったが、何て酷い奴なんだ!

 痛みや怒りがジワジワと侵蝕してくる。

「・・・あ、貴方に・・・妻のために復讐をした私を、人を犠牲に生きる下衆どもに手を下す私を止める権限があるんですか!?」

「お前六法全書読んだことねーのかよ」

「ハア・・・!?」

 


「権限?んなもん行使した覚えもねーよ。やりたいからやってるだけ。

そんで、お前の復讐とか死んだ妻のこと?

すっっっっげーどーでもいい」

「何だと!?貴方、それでも人間か!」

「生物学上人間なんだから当たり前だろ。何言ってんの?」


 羽柴は、決して安藤が何を言ってるか分からない訳ではない。唯ひたすらに興味がない。己の思想や価値観に従うのみ、他は全て無意味が彼の原理だ。決して人に左右されず、己がどう思いどうしたいか。それだけが彼を動かす唯一のロジックなのだ。

 冷静さを欠いている安藤と、徹頭徹尾バカにするような態度を貫く羽柴。あまりにも対極的な彼の言動のせいで、安藤は何故か今の自分の中に、えも言われぬ感情を覚えた気がした。


「俺、お前の過去とか関係ねえし。土井とかもどうでもいいし。俺は自称、日本一自由な一介の探偵なのです。

 事件解決の依頼でこのヤマに首突っ込んでるだけなの。ただの仕事なの。分かる?分かるよね?

 そして、法律的に見てもお前は罪人。俺らが日々を面白おかしく生きていく金のために殴られ、蹴られ、刑務所にブッ飛ばされるだけの存在。

 つーかさ、妻のためとか言ってたクセになんで先に殺しなん?リークなり告発なりすりゃ、お前に落ち度はなかった。でも、お前は殺しを選んだ。テメーは偶々(たまたま)転がり込んできた妻の復讐に酔いしれた

ただの弱者!カス!ろくでなしぃ!

・・・な?自分で自分が惨めに思えてきたろ?」

 羽柴がニヤニヤ笑っていても、もう怒りは湧いてこなかった。復讐を成し遂げたはずなのに、全てを無に還されたかよのうな虚無感や無力感が心を支配した。

「・・・・・・・・・」

 犯人にも被害者にも寄り添わず、同情のひとかけらもない羽柴の言葉が、安藤の心に突き刺さる。そして自覚した。なぜ、自分が罪人になってしまったんだと。彼を社会的に殺せば、それで立派な復讐になったじゃないか。なのに、殺すという最も簡単で重い選択をしてしまった。目先の感情という罠にまんまとハマってしまった。

 さっきまでの彼はただ、妻の仇を言い訳に正義に酔いしれていただけだったのだ。


「アンタの車の中にあったシートも凶器のハンマーも、既にウチが押収した。安藤真矢、殺人及び死体遺棄の疑いで逮捕する」

「・・・・・・はい。そうしてください」


 羽柴の推理により遺体を包んだシートも凶器も車の中にあると気づいた支倉は、ここに来る前に安藤の車を押さえるよう警察を動員していた。車内にはシートも凶器のハンマーも残ったままだった。羽柴たちは、安藤を犯人と断定した上で詰みの一手を用意していたのだ。

 安藤は、とうとう自分の罪を認めて自ら逮捕を求めた。支倉が安藤に手錠を掛け、これで事件は解決した。


 ただ一人、いまだに不服そうな男がいたが―


「え〜!?もう行っちゃうの?あと3発くらい殴りたかったんだけど?」

 外からドロップキックして右フックもお見舞いしたにも関わらず、羽柴は不完全燃焼のようだ。放っておけば心が瀕死の安藤を、肉体的にも瀕死にしかねない。しかし、この男は正論で止まるような脳みそを持ち合わせていない。

 これ以上容疑者を痛めつけないようにしようと悩んでいると、流歌が割って入り羽柴を(たしな)めた。

「まあ、いいじゃないですか。50万円は手に入りましたし、かっこいい登場もできましたし。それに、また凶悪犯を相手にする日が来ますよ。ここは東京です。極悪人なんて()いて捨てるほどいるんですから。ねっ?」

 背中を優しく(さす)り、羽柴に矛を収めてもらうよう説得する。これが見ず知らずの人やただの警官なら聞く耳すら持ってくれなかっただろう。

 だが、星宮流歌は曲がりなりにも彼の助手だった。



「むむむむむむ・・・・・・・・・・そだな!

金も手に入ったし、映画みたいなカッケェ突入もやったし。じゃあな支倉!今度はぶっ殺しても誰も文句言わねえ凶悪犯を用意してくれよー!」


 見事に羽柴を説得した流歌は、「さあ帰りましょうか」と彼の手を引いた。流歌に連れられて、羽柴は陽気に会社を後にした。割った窓もデスクも全て放っぽり出して。

 残されたのは、羽柴によってメチャメチャになったオフィスと、懺悔(ざんげ)を受けたかのように項垂れる容疑者。

 そして、呆れ顔で溜め息を吐きながら下にいる応援を呼ぶ警部だけだった。

次回は後日談です。

今後の流れ的にも、できればタイトル回収したい。

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