真相へのパズル・コード
推理、というか情報照合のお時間です。
羽柴より流歌の応援をしてしまう作者がここにいます。
だって私の娘でもあるもの!!!!!!!!!!!
-午後3時 羽柴探偵事務所-
流歌が事務所に戻ってくると、やはり予想通りに羽柴と支倉が先に戻ってきていた。羽柴は所長席で自ら淹れた紅茶を飲み、支倉は所内の壁棚にある置物や本を見ながら煙草を吹かしていた。
「戻りました」
「おう、先に頂いてるぜ~」
「よう、お帰り。羽柴、全員揃ったし早速始めるぞ」
流歌が戻って、朝の日本橋での現場ぶりに三人が揃った。これから各々の調査結果の報告と、それらを繋ぎ合わせた推理兼情報整理の時間である。事務所のテーブルを中心に羽柴と流歌が、対面に支倉が座った。
最初に、支倉からクルーズでの調査報告が切り出された。
「まず俺からだな。クルーズの船着場で犯人が使ったであろう従業員の制服が見つかった。他の制服とは明らかに温度が違って冷たかったからな」
「なんで、制服が冷たいと犯人の痕跡なんですか?」
「夜の気温だよ」
流歌の疑問に、羽柴が察して答えた。
「10月の東京の平均夜間気温は14℃。風も吹いてりゃその分冷える。つまり、一つだけ冷たいなんてのは誰かが真夜中に無断使用したに他ならない。OK?」
「しかも事務所のエアコンは23℃だったから、明らかに誰かが忍び込んで使ったのは明白だ。しかも、その制服を使ってる正規の従業員は、昨日は休みの日だったよ」
犯行時刻に秋の夜、しかも外となれば人が着てても服は冷える。服は鑑識に送ったらしいから、犯人のDNAが採取できる可能性はある。これで物証は十分とは言えないが、無いよりはマシとなった。
「その後に運行表を見ると、最後に船が水路を走ったのは昨日の午後8時30分だった。大体30分で往復して、従業員は9時過ぎには全員帰ったらしい」
閉業時間が犯行時刻とも合致する。やはり犯人は、船着場の人がいなくなってから、土井を殺したと見ていいだろう。遺体も変装した後に船に運び、水路の橋の欄干に吊り下げたと考えるのが妥当だ。
「あとは、船着場の船のうち一隻だけ係留ロープが濡れていたし、船尾に擦り跡が残っていたな。恐らく被害者のものだろう」
「どっちにしろ、その船が遺棄に使われたのは確かですね」
流歌の言う通り、その船が犯行に関係していることは確信している。
しかし・・・・・・
「でもDNA鑑定なんて確か10日くらい掛かるだろ。嫌だよ?その間犯人ブン殴れないの」
「危ない刑事かよお前」
一般は知らないだろうが、証拠の鑑定はそんな数分でできるようなものではない。照合だけなら短時間で可能だが、より信憑性と正確性を求めるためには科学的検証が必要不可欠だ。そうすれば下手をすれば数週間もかかる恐れがある。もし警察のみで事件を解決しようとすれば、羽柴よりもさらに時間を要しただろう。
犯人を示すものがあったわけではないが、死体遺棄方法に関する事は支倉の情報のおかげで、大方片づいた。残るは会社の関係と、ハングドマンの示す意味だけだ。
続いて、流歌から占いサロンで調べた情報が開示された。
「タロット占い師さんによると、ハングドマンは吊るされた男の他に死刑囚や刑死者とされることがあるみたいです。なので、この男は罪人だという犯人からのメッセージと解釈していいでしょう」
「ほう・・・。世直しか何かのつもりかよソイツ。他には?」
支倉がさらに情報を促す。
「支倉さんは、オーディンという神をご存じですか?」
「いや、知らねえな」
「オーディンは、北欧神話の主神にして戦争と死の神です。オーディンは、知識に対し非常に貪欲な神で、叡智を得るために片目を失い、ルーン文字の解読方法を得るために世界を支える巨大な樹木に9日間吊るされたという逸話があります。 そこから、吊られた男の正位置は忍耐と努力の象徴になりました。犯人が、そんなプラスの意味を与えるわけがありません。ですから、忍耐や努力は犯人そのものを指していると思います」
「ハッ!自分は耐えてここまで来ましたってか?他人に努力を分かってもらうことに意味なんてねえってーのによ」
下を出して目を剝き、露骨に犯人のメッセージをバカにする羽柴。急にスイッチが入るのは毎度の事なので、流歌は無視して話を続けた。
「また、占星術的意味も持っていて、この場合は水の元素らしいです」
「水か・・・犯人との怨恨路線に関係あるのか?」
死刑囚・・・、罪人・・・、忍耐・・・、水・・・
今の会話の節々に会ったキーワードに、羽柴には思い当たる節があった。死刑囚かどうかはともかく、水に関しては安藤が土井と関係あった青海丸沈没事故のことを指しているのだろう。しかしこれでは確証には至れない。まだパズルのピースは足りないが、今は流歌の話に集中することにした。
「あと、これを見てください。これがハングドマンのカードの絵柄なんですけど」
流歌がスマホを操作し、ハングドマンの画像を支倉に見せてきた。
「樹木に吊られていますよね?木は、占い界では女性の母性の象徴とされています。なので、もしかしたら犯人かその動機に女性が関係していると思われます」
「うーん・・・社長ともなれば女性関係のトラブルもあり得る、か」
流石ベテラン警部と羽柴の助手だ。二人とも、結構事件の核心に迫る情報を持ってきてくれたが、今ここで犯人を示唆できるほどの情報は出揃っていない。
そんな状況で、羽柴が最後の報告を始めた。
「俺は日本トラベルブリッジっていう土井の会社に行ってきたぜ。ほんで副社長の白石と、秘書の安藤ってヤツに話を聞いてな。土井は青海丸っつうフェリーの沈没事故に関わってたって、秘書に酒の席で酔って漏らしたらしい。タロットの水のこともあるし、関係ねえとは言えないな。最低でも、動機には関係しているだろう。
あと、監視カメラも調べたけどオフィスには結局怪しい奴の出入りもなかったし、社長は車も免許も持ってなくて、駐車場に行くこともないから殺害現場はビルの外。土井の帰宅時で確定だ」
「おお!半日も経たずにそこまで分かったのか」
支倉が感心したように言ってくるが、今まで散々解決してきたんだからそろそろ慣れてほしいとも思う。しかし、帰宅時に殺害もしくは拉致か・・・。殺害ならまだしも、誘拐なら抵抗するだろう。だが遺体を見た時も支倉の情報でも抵抗跡なんてなかったし話もなかった。抵抗できないほど急に襲われたのか、あるいは抵抗する気が起きない相手だったのか・・・・・・。
「あとは女性と死刑囚と水没事故だが・・・・・・あ、そうだ。ちょっと待ってろ」
羽柴は徐に立ち上がり、自分のデスクにあるPCのメールフォルダを開き始めた。そして何かを確認したと同時に、ニヤリと悪どい笑みを浮かべた。
「ビンゴ。もう全部分かったぜ。お前らこれが事件の核だ」
「何が?」
「なんですか?」
2人が立ち上がり、左右からモニターを覗き見る。そこには、警視庁に調べて送ってもらった『青海号沈没事故』の報告書が開かれていた。
「お前、いつの間に・・・!」
「会社で調べた帰りにもしかしたらと思ってね。ありがた~くこき使わせてもらった」
「言い方に悪意がありますよ」
添付された報告書には、事故の詳細や原因などが事細かに書かれているが、羽柴が欲しかった情報はそこではない。メインは、この事故の死亡者名簿にある。
数ページスクロールすると、事故で死亡した人達の名簿が現れた。上から91人の名前が、顔写真と共にあいうえお順で掲載されている。
「見てみろよ」と、羽柴は2人の肩に手を回して名前に注視させた。
新子・・・・・・・・・・・・・・・
天野・・・・・・・・・・・・
荒木・・・・・・・・・
阿波野・・・・・・
・・・
東京都美術館のローマ展行ったことありますか?
あそこで音声ガイドをレンタルできるんですけど、ずっと両面宿儺と胡蝶しのぶが解説してくれるんですよ。
ファンアートで具現化したらえらい事になりますね。




