清められた墓荒らし
ストリウm・・・じゃなかったスペシウム光線!
「くたばれベムラー擬きがァァァ!」
イザナギの聖地であるみそぎ池で水飛沫と睡蓮を撒き散らしながら、羽柴は禁門派の刺客と格闘していた。
池に沈めたり、睡蓮の葉で目隠しした隙に拳を叩き込んだりと、顔も分からない黒マスクに対してかなり善戦しているように見える。
だが、水が目潰しになるのは相手も同じ。的確に池の水や、更には水底の泥さえも飛ばしてくる。
水の抵抗や足元の悪さもあって、池の地形を羽柴より理解している敵の方が、実際は優勢だった。
「禊の聖地でなんて罰当たりな!」
「いやお互い様ですよ」
池のほとりで戦いを静観している流歌は、羽柴の心配を一切していなかった。それは、決して日頃の恨みから来ているわけではなく、絶大な信頼によって静観しているのだ。
だから、こんな苦境も一瞬にして覆すことは容易に想像できた。
「おい泥食わねえか!?」
「グムムッ?!」
案の定、羽柴は黒マスクの呼吸口に泥を突っ込んで形勢逆転を図った。
黒マスクは酸素呼吸が困難になりかけている。
「ブハァ、オェ〜・・・」
一足先に池から上がった羽柴は、慣れない水中戦と濡れた服の不快感で疲労が溜まっていた。
遅れて黒マスクも池から這い上がってきた。マスクに詰まった泥は既に排出されているが、疲労が色濃く見える。
だからと言って、この場所を待ち伏せに選んでいる時点で水中戦の訓練も積んでいる向こうのほうが、まだ体力が残っていそうだった。
「アァァもう!服代は高くつくぜ!」
羽柴は着ていたロングパーカーを脱いで細長く絞って構えた。黒マスクも大腿部に装備されたナイフを抜き取り、姿勢を低く構える。
羽柴が先に先手を打ち、刺そうと迫るナイフを濡れたパーカーで受け止めた。普通なら服は切れるのだが、パーカーはほとんど切れなかった。
「・・・!」
そのまま腕ごとナイフを服に絡め、逆肩まで持っていき背中合わせで頸部を圧迫する。肩の関節が極まって、簡単に抵抗することもできない。
「知ってるか?濡れた服は耐久性が上がるんだぜェ〜!」
ギリギリと首を絞めて意識を落としていく。たとえマスクで呼吸ができようが、首を絞められれば関係ない。
十数秒ジタバタと踠いていた黒マスクだったが、遂に酸素不足で意識が朦朧となっていた。羽柴が拘束を解いても立ってふらついているだけで何もしてこない。
羽柴は、そんな黒マスクを蹴り飛ばして池に頭から落とした。落とされた黒マスクは池の底に真っ逆さまに突き刺さったまま気絶している。呼吸の泡が浮いてきていることから、あの状態でも死にはしないだろう。足だけが池から突き出ている様は、どう見ても某サスペンス映画のそれである。
「犬神家の一族みたいだな!」
「聖地が一転、禁足地になりそうです」
刺客の無様な姿を嘲笑いながら流歌からイヤホンを返してもらい、再び耳に装着した。
そのタイミングを見計らったかのように、一橋から電話がかかってきた。
「お見事です」
賞賛のお世辞と小さい拍手の音が疲れた体にイラつきを与える。
「そーゆうのいいから。こっちは乳酸溜まりまくってヤクルト生成できそうなくらい疲れてんだから」
ハイになっていた時の疲労がぶり返してきたが、冗談を言い返せるくらいには回復してきた。本当ならこのまま煽り倒すところだが、明後日までに理沙子たちを救出しなければならない。
「次はどこだ。また神社仏閣巡りかよ」
「西都原古墳群に向かってください。そこの男狭穂塚と女狭穂塚の中で、貴方たちにはある謎を解明してもらいます」
今まで宮崎神宮や平和の塔、みそぎ池に連れ回されたと思えば、今度は謎を解けときた。古墳が舞台ということは、何か日本史に関する謎なのだろう。
無償で他人に従うのは嫌だが、正直その謎にも興味が出てきた。ならば、その案に乗ることにしよう。なんなら謎を独占して交渉材料にしてやろう。
「タダじゃやんねえぞ」
「人質がいるのに要求できる立場ですか?」
「でも俺の命は関係ねえし。あ〜でも依頼失敗はキツイなぁ」
「謎が解けたら、明日の朝5時に鵜戸神宮へ来てください。私の仲間が答えを聞きます。適当な答えでしたら理沙子さんを殺しますので、お忘れなきよう」
渋々了承したように振る舞い、一橋から情報を聞き出して電話を切った。
明日の5時までに古墳で謎を解き、鵜戸神宮へ向かわなければならない。だが、今日丸々の時間を取れたのは大きい。であれば、善は急げだ。
「では、西都原古墳群行くぞい」
「待ってください」
「ん?」
「まず服を着替えましょう。濡れたままじゃ気持ち悪いでしょうし」
-国道219号線沿い-
「・・・本当にその服でいいんですか?」
「せっかく歴史的な闇が関わってきそうな展開になってきたからな。気合い入れないとよ」
服を買うために一度寄り道した羽柴は、ユニクロみたいな一般的な服屋に寄るかと思えば、何を血迷ったのか着物屋に寄った。
気づけば、羽柴は幕末みたいなグレーの袴と黒い無地の上衣を着こなし、何故か靴だけは明治時代のブーツという中々に個性的なファッションとなっていた。
そして、今はその姿で西都原古墳群に向かうために国道219号を車で走っている。
「それにしても、今更古墳で何を調べるんですかね?もう調査はとっくに終わっていると思いますけど・・・」
「それでもわざわざ調べさせんだ。なんか根拠でもあんだろ。もし根拠がないような奴らだったら、今回の誘拐計画すら立案できねえだろーしな!」
「バカにしすぎじゃないですか?」
舌を出して心底バカにしている羽柴だが、その傍らで禁門派の狙いについても考察していた。
最初に言っていた天皇君主制復活と内閣の消滅。それも目的の一つだろうが、行く先々で歴史的な意味やメッセージが込められている。この点から見て、ただ天皇制の復活を目論んでいるわけではないことは確信していた。
だが、具体的に何なのかまでは証拠不足で考える意味がなかった。
「・・・まあ、そのうち見えてくっか」
「なんて言いました?」
「いや?タモリ倶楽部でも聞いてたんしゃないの?」
「空耳アワードはもうやってませんよ」
-西都原古墳群-
車で江田神社から30分後、カーナビに目的の古墳群が見えてきた。
宮崎県西都市三宅・童子丸・右松にある古墳群であるここには、墳長154.6m、高さ19.1mの国内最大の帆立貝形古墳と、墳長176.3m、後円部長96.1m、高さ14.6mの九州最大の前方後円墳が遺っている。それこそが、
ぱっと見、小山にしか見えないがその膨らみの地点こそが古墳の場所なのだ。
駐車場からすぐにある男狭穂塚と女狭穂塚に歩いて行く。
普通なら特別参拝日でないと中には入れないが、今回は許可を貰っているようなものだ。なにせここは宮内庁管轄の場所なのだ。
天皇の依頼の過程でここに入るということが、どれだけ優越感のあることだろう。
宮内庁を駒として扱えるとは、まるで虎の威を借る狐の気分だ。恥などない。
「よし、じゃあお前は男狭穂塚行け。俺は女狭穂塚に行くわ」
「その理由は?」
「墓とはいえ女の中に入るとかテンション上がるよね!」
「墓でセクハラするのやめてください」
掘削用スーツとシャベルを持って男狭穂塚に向かう流歌を、羽柴は背後から悪どい表情で見ていた。
最初はケツにお祓い棒でも突き刺してやろうかと思ってましたが、あまりにもギャグすぎるのでやめました。




