赤い異端者はかく語りき
シガレット・トレース、完ッ!
なんか毎回バキのセリフみたいな言い方してるね。
-11月5日 警視庁取調室-
越谷市モール六人殺人事件、犯人及び日本赤軍メンバー奥平淳二の逮捕から二日経った。あの後、奥平は精神的に衰弱してしまい病院で静養することとなった。その甲斐もあってか、奥平の精神は回復傾向にあり、取り調べを行えるほどまでになったが、現在取調べ中でもずっと黙秘を貫いている。取調官が机を叩いて脅しても、奥平は鋭い目で興味なさげに見るだけだ。
「何度言えば分かる!他のメンバーの所在と企みを自供しろと言っているんだ!」
「何度言えば分かる。俺は支倉さんかあの公安の嬢ちゃん以外に口をきく気はねえよ」
奥平は取調室に入ってからずっとこの調子だ。能面の様な感情のない顔で、支倉と佐助に代われとしか言わない。羽柴によってつけられた火傷の跡が、取調官の恐怖心を煽る。その取調官は業を煮やし胸倉を掴もうとしたが、直前に取調室に二人の人間が入ってきた。
「俺を呼んでるんだって?」
「私達にならお話しすると聞いて来ましたが」
「は、支倉さんと公安の・・・」
部屋に入ってきたのは、奥平が望んでいた支倉と佐助だった。
別室で見ていた刑事部長と公安部長が、すぐさま支倉と佐助を呼んだのだ。取調官と代わり、支倉が奥平の前に座る。佐助は、支倉の横で立ったまま話を聞くつもりだ。
「さて、話してくれ。まず、他のメンバーは今どんな感じだ。元気にしてるか?」
ここからが、支倉流の尋問術だ。彼の手口は、恫喝したり同情を誘ったりはしない。ただ容疑者と日常のように気安く会話するだけだ。取調べを受けて緊張したりストレスが溜まっている犯罪者には、この普通のやり取りがかなり供述を話しやすくさせる。だから支倉は、穏便に犯人を落とす点では警視庁No.1の腕前なのだ。
「・・・ああ。大道寺と仁平は老衰で天寿を全うしたが、坂東さん、佐々木、松田、岡本はまだ存命だ。ただし、今現在どこにいるかは知らないがな」
「そうか、あいつら元気でやってるか。今回はお前の独断だったのか?」
「いや、坂東さんの計画で試作品の実験だよ。新型兵器の効果を確かめに、本番予定地の日本でわざわざやった」
羽柴の推理は当たっていた。奥平は、試作兵器のデモンストレーションで今回の事件を起こしたのだ。それも、リーダー格の坂東の指示で行った。
「あれは中東の武器商人に作り方を教えてもらってな。タバコ型の有毒物質発生装置とは、時代は進歩するもんだな」
あのタバコ型武器は赤軍オリジナルではなく、中東で発見したものらしい。もしもあの唾液が中東の過激派の者だったらどうしようかと思ったが、タバコの葉と匂いだけで追い詰めた羽柴は流石だとしか言いようがない。
「てことは、お前が捕まっちまって計画は御破算か。次は何か考えてあったりするのか?」
最もデカい題目に、奥平も流石に躊躇し口を閉ざした。しかし、ものの十秒もしないうちに彼らに打ち明け始めた。
「・・・・・・・・・少なくとも、俺のせいでこの計画は中止だな。だが、次にいつ何が起きるかは俺も知らん。その計画は、残りの四人で行う予定の大規模なプランと聞いている」
奥平の口から、次も何か大きなことを計画していることは聞き出せた。しかし、いつ何が起きるかは計画参加者である残りの四人にしか分からないと言う。
だが、他の赤軍も現在は70歳超えだ。老い先が短く時間がない。近い未来に必ず行動を起こすと、二人の中には確信があった。
「ありがとうよ。羽柴にもよろしく伝えとくわ」
「あのおっかない兄ちゃんにかい?やべえなアイツ、二日経っても手が震えるぜ」
「だろ?俺も毎回ビビらされる。あれで探偵なんだぜ?資本主義も共産主義も関係なく世も末だよ」
「違いねえな」
国際テロ組織との会話とは思えないほど和気藹々(わきあいあい)としていたが、そろそろ時間となった。支倉が席を立ち、佐助と取調室を出て行く。
その際、支倉の足が止まった。奥平に一つ言い残すことがあったのだ。
「でも良かったなお前」
「あ?」
「お前は逮捕された。これからお前には重い罰があるだろう。だが安心しな。もうアンフェールは、お前を地獄に引き摺り込もうとはしねえよ。だってお前はもう罪人じゃなく贖罪人なんだからよ」
バタンと扉が閉まり、数分して奥平は再び独房に戻される。警官らに連行される道中で、奥平は独り言のように声を漏らした。
「そうか。あいつが風に聞くアンフェールか・・・。俺はまだラッキーだったんだな。アイツらも、死にたくなければ出会う前に降参するこったな」
奥平は彼が噂のアンフェールであることを悟り、自分の幸運とメンバーの不運を憂いたのだった。
一方その頃、羽柴たちは
「「おー!」」
八景島シーパラダイスを満喫していた。現在はアクアミュージアムに来て大水槽を見ている。700種類、12万点もの水生生物がいる有名な水族館だ。
「やっぱ博物館とか水族館はテンション上がるなぁ!」
「よくそんな元気ありますね。昨日はあれだけ飲んで気持ち悪かったのに」
前日、羽柴らは持て余すことなく横浜を縦横無尽に駆け巡った。中華街はもちろん、横須賀やラーメン博物館にも寄ったりしていた。そして、いざ夜になると羽柴は繁華街で酒をハシゴしまくり、ホテルに戻ってきた時には酔いながらもソルマックを数本買って戻ってきていた。酔っても保険は抜かりないのである。
「プラシーボ効果なめんなよ?俺が効くと思えば大概効くんだぜ。今度毒薬でも試してみるか」
「私に毒なのでやめてください」
幸い、この八景島での費用も公安が立替してくれる。いくら報酬とはいえ流歌はちょっと遠慮がちだったが、羽柴だけは100%あやかっていた。普段買わないだろう海の生き物のぬいぐるみも買っている。完全に頭のネジだけでなく、ハメも外してしまっていた。
現に羽柴はこうして、ミリタリーショップで買った大日本帝国海軍の軍服を着ている。楽しいのはいいことだが、娘の身にもなって欲しかった。
「でもどうなるんですかね」
「あ?何が」
「赤軍ですよ。今日電話があったじゃないですか。あと四人の赤軍幹部が近いうちに何かを仕掛けてくると」
支倉からの電話で、赤軍の残りが近い将来大きな計画を立てていることを知らされた。正直言って、一介の探偵にはデカすぎる案件だ。だが、知らされたからと言って何かアクションを起こす気など羽柴たちには到底なかった。我々は公安ではない、探偵だ。起きた事件を解き明かす仕事であって、事件が起きる前に潰す仕事ではない。だから、流歌でさえも事件によって生まれた被害者に必要以上に心痛めることはなかった。羽柴は言わずもがなである。
「そん時に考えよーぜ。水族館で考えることじゃねえや」
「言うと思いました。でも、そうですね。そうやって私たちはやってきたんですもんね」
「よくできました」
「軍服姿で撫でないでください。私どういう立ち位置ですか」
娘の素直じゃない所が出てきてお父さん感を体験している羽柴は満足げだった。
次はクラゲを見に行こう。隔離病棟で映像でしか見たことない珍しいクラゲがいると聞いた。
今度は、羽柴が流歌の手を引く番だった。
今回は意外と短かったですね。
書いていて私も途中で驚きました。「あれなんか短くね?」って。
でも一応、今後の伏線もちゃんと張れたんで満足っす。
この下書き書いてる時に、ちょうど桐島容疑者のニュース見てたんで、「これだ!」って思いましたね。
ニュースや本は見とくもんだよ?
ってか羽柴たち八景島シーパラダイス行ってんのかよ!
いいな〜私も彼女と行きたいなぁ!
彼女いねえけどなァ!!!!!!!!!!!




