美しく眩しいプレゼントを君へ
これが書きたくて前回手抜きだったんです。
何ならシガレット・トレースを書いてた時にはこの話を書く気でした。
基本思いついたネタ順に書いてるんでクオリティにムラがあるのは仕方ないよね。
早く書籍化して楽にしてくれや(煩悩)
大寒の獄舎の隅にはこべらと黄のかたばみの春をみつけし
ー元日本赤軍最高幹部 重信房子ー
六本木の高層ビル、夜景が綺麗なレストランで、一組の男女が一世一代の決意をするところであった。男が女に、結婚のプロポーズをしようというのである。緊張で手の平に汗が滲み、息も少し浅くなったかもしれない。
女も鈍感ではないので、彼がここに自分を招待した理由などとうに察していた。あとは、彼がどれだけ勇気を振り絞ってプロポーズの言葉を言えるか、である。特別に日の出まで営業してくれたレストランのスタッフも、期待と緊張の眼差しで彼らを見ていた。
地平線が白けてくる。男は美しい日の出の光で、指輪を輝かせるサプライズを計画していた。チラリと時計を見ると、予定時刻まであと2分を切っていた。
ここしかない!
男は破裂しそうな胸を無視して、懐に指輪を隠し持ち彼女の傍に立った。
「あの・・・、貴方にお願いがあります」
「・・・・・・えぇ、何でしょうか」
ちょっと彼女が上品に茶化すと、男も少し緊張が崩れた。そのまま跪き、ゆっくりと結婚指輪の入った箱を開ける。朝日が彼らの居るビルを最上階から照らしていき、遂に部屋に光明が差された。
太陽で輝く指輪、嬉しそうな横顔、反射するグラス、そして・・・・・・
「僕と、結婚してくださ―――――」
ドォォォォォォォォォォン!!!
男がプロポーズを終える直前、彼らの居たレストランはフロアごと爆風で消し飛ばされた。
ガラスが残酷な美しさで朝日を乱反射する。輝く未来の分岐点であったはずの朝は、轟音と黒煙と爆ぜた血肉から始まったのであった。
東京の朝は、面白いくらいに騒然としていた。この日本では事件・事故は多々あれど、同時多発テロのように高層ビルが爆発するのは珍しい事例だ。故に、警察だけでなく公安すらもテロ案件としてこの事件に出張ってきていた。
黒焦げになり、所々躯体が露出したフロアを、支倉と公安の佐助が眺めていた。誰がどう見ても事故でなく爆破事件であると分かる。それは、予約表で席まで指定されていた客のテーブル下が最も焦げていて、床が抉れていたからだ。
「怨恨の線はないな」
「恨みなら無関係な人を巻き込まないでしょう。無差別に人を吹き飛ばしていますね」
「遺留品の爆発物は、処理班が破片をかき集めて分析してくれている。俺らは泥臭く頑張ろうぜ」
「羽柴さんは呼んだんですか?」
「プロポーズ予定のカップルが吹き飛んだって言ったらウキウキしてたぞ」
「流石アンフェール様! 人として終わってますね!」
「アイツのファンも終わってる奴ばっかだろ・・・」
支倉と佐助が温度差のありすぎる会話をしていると、天から見下していたフラグの女神がにやけた。突然、ボロボロだった内開きのドアを蹴破る音が背後から聞こえて、捜査員たちの困惑の声がした。
「やぁやぁやぁ! リア充がマジ爆発したって聞いてきたよ~!」
憂鬱になりそうなくらい明るい声が、硝煙と煤と血肉で彩られた高層フロアに響いた。人を嘲笑うような笑みは、マスクがあろうとなかろうと悪辣さを露わにしていた。今日はどうやら一人で来たようである。
遺族がいなくて正解だったと心底胸を撫で下ろす支倉の横で、佐助が愛想良く羽柴に話しかけた。
「羽柴さん、お久しぶりです!」
「ようワン公。テロ案件ならお兄さん張り切っちゃうぞ♡」
「キッツ」
「おっさんからの「キッツ」はダメージ深いからやめてぇ?」
まだ死体の残骸が残っている現場で、教室の休み時間みたいな会話が始まる。アンフェールのせいで修羅場を経験しすぎた彼らには、こんな事件は日常のように感じられた。
羽柴は辺りを散策しながら、ホールと比べてまだ無事な厨房へと向かっていった。そこに何かあるのかと警官たちも数名ついていく。しかし、羽柴は証拠を見つけたのではなく、比較的無事だった厨房の料理を勝手に食べただけであった。格式高いミシュラン料理店なのに、素手で行儀もクソもない食べ方に野蛮性を感じる。
「んめぇなコレ! 食わねえともっはいねぇぞ!」
「うわぁ・・・」
「何回見てもコレが日本最高峰の探偵なのかと思うぜ・・・」
飢饉時代のソ連を彷彿とさせる、前時代すぎる食事、いや捕食シーンが爆破現場で流れていた。近くに料理人の腕の破片や赤黒くなっている制服が散っているのに、食欲減退していない。
もしかしたら、あの料理に爆散した血肉が混入しているかもしれないと思うと、殺人現場を経験している警察ですら吐き気を催した。
「ゴア表現が過ぎるぞ。年齢制限に気を遣えって」
「親にZ表記のゲーム買わせてる時点でCEROなんてなくなっちまえばいいと思わないかい俺の台詞を読んでいるそこの君!!!」
「誰に向けたメッセージだよ」
「ところで結婚指輪落ちてない?」
「話変わりすぎだろ」
「見つけてどうするんですか?」
「売るに決まってんじゃん」
「最低か」
羽柴の本気の最低発言に、慣れっこの支倉がツッコんでしまう。これがジョークなら百歩譲っていいのだが、前科があるから無視できないのだ。昔、ファッションモデル殺人事件を担当したときに、遺品であるはずのクローゼットのハイブランド品を、羽柴は勝手に持ち帰るという暴挙に出たことがあった。気に入らないデザインの服は全て売り払う鬼畜ぶりも見せた。
他にも例を挙げると、殺した犯人の家に放火したり、詐欺師の口座をゼロ円にして自分の口座に移したり、被害者の遺体を加工して武器を作り「おっ父の仇ぃ!」と時代劇みたいなことを言いながら犯人を殺したりと、思い出すだけで自分の頭がおかしくなりそうなことばかりやってきている。これが薬ですら治らなかったのだからテロより最悪だ。
「花火はいつ上がったん?」
「おい」
「はい、今日の午前5時57分頃です。気象庁のデータによれば、日の出と同時刻でした」
「日の出と同じ、ねぇ・・・。ククッ、日本の夜明けぜよ!ってかぁ?」
「龍馬はこんな過激派じゃねえだろ長州か」
無駄口叩きながらも、現状は爆弾の破片を解析するしかないのだろう。食べ終わった羽柴は、皿を持って適当に近くにいた遺体に向かって、八つ当たりのように叩きつけた。爆発によって脆くなったせいで、ミディアムに焼けた肉体が簡単に損壊した。
「おぉい何やってんだ!?」
「いや、思いつき」
「思いつきで死体損壊するなよ!?」
支倉たちの突っ込みを聞き流して、躯体もろとも無くなった窓際に立った羽柴は、へらへらしながら別のビルを指差した。
「うるせえなぁ。あのビルをフリー◯様に消し飛ばさせんぞ」
ジョーク未満の脅しみたいなそのセリフが言い終わる直前くらいに、支倉たちの方に顔を向けていた羽柴の背後で、空気を震わす轟音と衝撃波が発せられた。ブリキ人形みたいに振り返ってみると、まさに自分が指差していたビルの上層階が消し飛んでいた。黒煙が空に昇り、痴女の通行人たちの悲鳴も聞こえてくる。
誰もがフリーズするなか、羽柴はじっと自分の指を見つめ、次に支倉たちを見た。そして、急に人差し指を突き付け、迫真の表情で接近してきた。
「デ◯ビィィィィィムッ!!!」
「バカやってねえで行くぞボケ!」
「あでっ!」
アイリスアウト(直訳)




