六文以下の命の価値
2025年の書き納めです。
ふらいんぐはっぴーにゅーいやー
巴・イヴside
ベアトリーチェ達は、比較的警備の薄い廊下を歩いていた。なんとなく、羽柴達が向こうで注意を引いているのだろうとは察している。おかげで、彼女らの労力は最低限で済みそうだ。
現にこうして、曲がり角に来た構成員の不意を突いて、ナイフを喉元を刺すだけで無力化できている。
「ムグァッ・・・!」
『廊下ではお静かに』
「最低限のマナーですよ」
抵抗なく刺さったナイフの血を死体の服で拭いながら、無情に人を殺しスニークミッションに励む。後々の増援を減らすために、途中で出会った人間は性別年齢関係なく殺していった。あくまで静かに殺す必要があり、基本的に心臓を一突きか喉を掻っ切って声を出せなくしていく。死体は近くの物陰か部屋に雑に放置していた。
しばらく殺しながら歩いていると、廊下に警備室と表札が貼られた扉を見つけた。ノブを回してみたが、鍵は掛かっていない。
ベアトリーチェはゆっくり警備室を開けると、複数のモニターの前に腰掛けている一人の男を見た。顔を動かして順々にモニターを確認していることから、少なくとも起きているようだった。横顔が見えたが、警備の人までも面を着けているみたいだ。
ベアトリーチェは背後に幽霊のように立つと、左手で口を塞ぎ瞬時に喉を一文字に裂いた。温かい血が噴き出し、デスクまで少し汚してしまった。警備の男は声一つ上げることなく、喉から漏れる空気と血に溺れながら床に倒れた。
『さあイヴさん、出番ですよ』
「お任せを! この最強電脳少女イヴさんがカルト教団のアジトを隅々まで掌握して差し上げます!」
スマホを機器に繋げると、イヴは洋館の全ての電子系統を一秒に満たない時間で征服してしまった。現代においてここまで便利な存在はいない。マップに移っている各所の電子ロックが緑に光って解放されていく。監視カメラを見ると、別場所で人を無残な姿態に変えていく某悪魔漫画みたいになっている羽柴が映っていた。
『流石マスター。カルト教団に召喚された悪魔に相応しいご活躍です』
「おぉ~! ご主人無双ですね~。・・・ん?」
『どうしました?』
「お堂の中で動きがありますね」
イヴ曰く、堂内の裏口のような部分で開錠する動きがあるらしい。
『教祖か残党でしょう。マスターのために正面入口以外ロックしてください』
「ラジャー!」
堂の正面以外の出入口をロックし、イヴ以外の全ての操作を受け付けなくした。ベアトリーチェは警備室を離れ、羽柴達と合流する堂前を目指す。
「オラァ!」
「きゅぶっ!」
最後の女面が、アンフェールによってDDTを食らい脳天を砕かれた。アンフェールの全身は返り血に塗れ、噎せ返りそうなほど鉄の匂いを纏っていた。
ペルセポネも、幾人の敵たちを撲殺した。足元や壁には、下の歯がすべて砕かれた男や、脱力したろくろ首のように首があらぬ方向に折れた女の遺体が数々あった。それでも、アンフェールが殺した人数の5分の1にも満たない。
周りは静かで、血が流れる生々しい音と、歩くたびに潰れる血肉の嫌な響きだけであった。
「お疲れサマンサ~」
「返り血で怖いんですけど・・・」
「お前が言えたことかね?」
互いに誰のかも分からない赤血球の液を浴びていて、下手なグロ映画より悍ましくなっていた。少なくとも、自分の血が付着していることだけはない。
羽柴は死体が持っていた刃渡り15センチほどあるナイフを拾うと、それを流歌に渡してバトンと交換した。イギリスの頃から、羽柴は流歌の筋力の無さに気付いていた。打撃よりも当てたら致命傷になりやすい刃物や銃器が最も向いていると考えていた。
「殴るのと刺すのってだいぶ違うと思うんですけど・・・」
「俺ら殺人罪に問われることないのに照れんなって」
そういう問題じゃないと思いながらも、流歌は血塗れのナイフをグッと握った。宮崎・イギリス・今回の命の会事件を経て殺人に対する抵抗は限りなく薄くなっていた。あと少しで教育された倫理を破壊し自由にできるとほくそ笑んだ羽柴が、先導しながら嗤っていた。
「―――そういえば正爾さん、タイマーは?」
「・・・・・・・・・あっ」
最奥の堂前でちょうど合流した2ペアは、教祖が籠る部屋の前で突入とは思えない腑抜けた会話をさっそく行っていた。先ほどあった羽柴のタイマーミスの件である。
「頼むイヴ。今すぐここの区域に電磁パルス張ってくれ」
「捏造動画なら作って遅れますよ」
「それで」
「それでじゃないですよ」
羽柴は今回の虐殺におけるタイマーの隠蔽をイヴに命じていた。別にそれ自体は何の罪悪感もないが、後で小言を言われるのが嫌だったのだ。
「まあ後で解決させとくとして・・・・・・ボス部屋に入るか」
罠の考慮を一切せずにドアノブに手を掛けた。年季の入った、木と留め具の軋む音がする。部屋の照明の明かりが差し込み、羽柴の視界を一瞬だけ奪った。
パァン。
いざ教祖の顔を拝もうと扉を開け放った瞬間、乾いた音が一発だけ鳴り響いた。
「え?」
流歌が呆けた直後、羽柴の体が後方へ倒れた。受け身も取らず、肉体の自由を放棄したかのように脱力していた。ピチャッ、と流歌の仮面に液体が付着した。手で拭い取れば、それは赤い血潮だった。
『マスター・・・?』
巴も至高の主人が倒れたことに放心状態になった。しかし、すぐに卓越した頭脳が再活動する。血と音で撃たれたことに気付いた巴は、開きかけた扉を蹴飛ばしてすぐに流歌と入り口横に身を隠した。残念ながら、羽柴の身体は放置したままである。
「正爾さんッ!」
『大丈夫です流歌さん、マスターの胸を見てください』
巴に言われて流歌は倒れている羽柴の胸部を見た。出血と撃たれた右の鎖骨部分が痛々しいが、呼吸で胸が上下しているのが分かった。羽柴は思ったより無事だ。痛みで気絶しているか、撃たれて再起不能になったふりをしているのだ。
そうと分かっていても、流歌の胸中は晴れなかった。親子関係よりも重い感情を持つ、義理の父が撃たれて出血しているのだ。心の奥に巣食う鬼が、下手人を殺せと叫んでいる。手元にはナイフ。弾切れか障害物を使って必ず心臓を引き摺り出すと誓っていた。
巴も冷静を装って、実のところ静かに殺意を腹に溜めていた。飛び道具が手元にないのが恨めしい。しかし、ないものねだりしても仕方がない。巴はイヴに再び扉を閉めさせてロックすると、急いで羽柴を回収した。
「いってえええええええええ!?」
「大丈夫ですか!?」
「スタンド攻撃だッ!!!」
『イタリアンマフィアはお留守ですよ』
「ごしゅじいいいいん!」
羽柴が見上げれば、三人がそれの表情で心配の念を向けてきていた。それで羽柴の心が動くことはない。死んだら死んだという命への興味の無さは健在だ。
だが、撃たれたことにイラついているのもそうだが、不思議とサイコロステーキ先輩みたいな無様をあまり彼女達に見せる気もなかった。流歌たちがアンフェールに毒されているように、無自覚に羽柴も彼女達によって何らかの影響を受けていたらしい。それは図らずも、歪な人間関係によって構築された信頼であった。
上体を起こし、痛む銃創を指で弄りながら起き上がる。アドレナリンが痛覚を奪っていき、反比例するように闘争欲が上がっていく。痛がっていた羽柴の表情の変化にひとまず安心した流歌たちは、犯人の逮捕と同時に事件が終わったら必ず病院にぶち込もう決めた。
「さて、どうやって突破しますか?」
「・・・・・・っ! よぅし、取りあえず盾が必要だな」
堂の奥で5人の信者たちが、祭儀服を着て顔の分からない教祖を守っていた。背が少し低い教祖はその場から微動だにせず、信者たちは羽柴の撃たれた入口に銃口を向けて緊迫している。
「退いたか?」
「確認してこい」
一人の信者がゆっくりとドアに近づき、耳を当てて向こうの様子を偵察しようとした。聞こえてきたのは、少しテンポの遅い足音が複数。そして何かを軽く引き摺るような摩擦音だ。
より集中して聞こうとした瞬間、ドア越しに刃物が飛び出して信者の側頭部を貫いた。急に殺された信者に護衛たちは引き金の指に力を入れる。ほどなくして、死体ごと扉を再び開け放って突撃してくる影が見えた。護衛たちは全弾をその動く標的に向けて撃った。血が舞っていることから命中はしている。しかし、何故か影は倒れることはなかった。
「な、何が起きてる・・・!?」
血霧が晴れて護衛たちが見たのは、羽柴達ではなかった。既に殺されて事切れていた、信者たちの遺体だったのだ。羽柴達は、廊下で殺した死体たちを使って肉の盾を作ったのである。スプラッター映画のように恐怖の顔で死んでいる信者たちが、まるで自分たちが殺したかのように錯覚させてきた。
その後、教祖を除く彼らは恐怖で震えた。死体の壁の後ろから顔を覗かせる、自分らとは違う仮面の集団。信者の返り血で赤く濡れた姿が、どの暗殺対象や神よりも恐ろしかった。仮面を着けていても彼らが恐怖しているのが、体の震えに現れていた。
「信者を撃つなんて罰当たりですね」
『ダンテの神曲にもそんな大罪人はいませんでしたよ』
「ご主人、彼らの発砲音から銃は9mmオートマチックです。音の数から弾切れの可能性が高いのでやっちゃっていいですよ!」
「ほうほうほう・・・。じゃあ、教祖以外ぶっころ案件で」
そう言うとゴミを捨てるみたいに死体を捨てた羽柴達は、教祖を守る信者を殺そうと突っ込んでいった。もちろん、タイマーはスタートさせている。死が形を持って迫ってきている感覚が、信者の膝を震えさせた。
「やめろおおお! こんな殺人が許されるわけないだろ!!」
「神が許さぬ殺人に正義なし! 我々は教祖様より神の依り代となった聖人である! 彼らもそうだ。それを殺すなど愚行極まれりだぞ!」
恐怖はあれど信義に背かない。立派な信仰心だと言葉だけの関心を向けた羽柴は、それでも裂けた笑みを引っ込めなかった。
「うっせえうっせえうっせえわァ! もう2025年末なのにペラペラ喋ってる場合か~い!? てめえらどうせ来年の最初のアンフェール最新話でぶっ殺される予定のモブが出番作ってんじゃねえよぉ! ギャハハハハハハハハ!!!」
この瞬間、彼ら命の会が壊滅することが確定し、執行猶予は作者が2026年の書き始めをする時までとなってしまった。
「読者諸君、それではまた来年っ!」
気になるとこで終わったけどしゃあないよね




