型破りな"D"たち
鬱漫画サイコーっすね(愉悦)
そのうち自殺願望のイカれ主人公がメインの異世界ノベルでも書いてみたいよ。
とにかく曇らせたい(ぐう畜)
まず訪れたのは、最初に事件があったオズボーン・ストリートの路地裏だ。資料と写真によれば、ここでは会議室で見たように腹部が切り裂かれた女性の遺体が発見された。その日は巡回強化週間と被っていて、巡回担当警官が被害者を目撃してから次に通り過ぎるまでの、僅か7分間の犯行だったとされている。
「最初の被害者はジェシカ・スワロー31歳。5ブロック先の花屋を営んでいた。事件当時は巡回してる警官も彼女を目撃しているし、第一発見者も同じ警官だ」
ホームズは手帳を出して第一の事件の詳細を話し出した。写真を見た上では、犯人は娼婦を狙っているわけでも美人ばかり狙っているわけでもないようだ。シリアルキラーは特定の人間を狙う傾向が強い。故に被害者に身体的な特徴などが似通っている事例が多いのだ。現状、女性であることしか確固たる共通点はない。
「しかし、奇妙なものだね」
「え?」
「数分で殺して解剖するくらいの腕があるのに、現場はどこも人目につかない路地裏だなんて」
『人気のない所で殺すのは当然じゃないんですか?』
「じゃあ聞くけど街中でスナイパーは人気のない所にいる標的を殺すか?」
狙撃手は誰にもバレない場所から敵を殺す。そこには自分の位置を知らせたくない理由しかなく、敵の殺害を悟られることはどうでもいい。
この犯人は殺人がバレたくないのではない。自分の正体のみバレなければそれでいいのだ。路地裏で殺すのはそのため。捕まりたくない、終わりたくない・・・。殺人への底知れない欲求が、犯人を駆り立てている。この現場には、そんな羽柴に似た狂気的な残滓が残っているように見えた。羽柴の口元が歪に歪み半月を作る。
「これだから猟奇殺人犯と遊ぶのはやめられねえ」
「これだから難事件はやめられないね」
羽柴とホームズが二人して同じことを言う。光と闇の方向性は違えども、根っこの部分は似てしまっているようだ。
「ご主人以外に同類がいたんですね。世の中って意外と狭い?」
「アサクリくらい狭い」
「3平方キロメートルしかマップが広くないで有名ですよね。・・・今度イヴを投影してプレイしてみませんか?」
「VRなら考えてやらんこともないゾ」
「キャーエッチなことされちゃうー!」
『嬉しそうですね0歳児』
素晴らしきバカたちはやいやい言いながらも死体が回収された現場を見ていた。警察が引き上げたのなら調べ尽くされたと思うだろうが、そんなことはない。調べ物が残されていることに関しては、羽柴もホームズも警察を信頼していた。
「・・・おや?」
早速ホームズが何かを見つけた。地面をじっと見つめている。しかし、パッと見なにか痕跡があるようには見えない。目を凝らしている流歌と巴の側で、ホームズは羽柴にスマホを貸すよう言った。
「羽柴さん、君のパートナーを貸してくれるかな?」
「あいよ。旧作3ドル、新作5ドルからね」
ビデオレンタル感覚でイヴの入ったスマホをホームズに貸した羽柴は、その後ろ姿を面白そうに傍観していた。ホームズはイヴにあることを頼む。
「この地面を3Dで分析してくれないか? できるだけ高い精度で頼むよ」
「それがご主人のためになるなら喜んで!」
イヴはそう言って、カメラ越しに地面の地形を可能な限り高精度で分析し始めた。高性能AIのおかげで処理はすぐに終わり、薄っすらとだが靴跡が検知された。羽柴たちはホームズの横で、自分のとこの調査員の活躍でありながら「おぉ〜」と感心した。
「このように、ごく僅かだけど靴跡が残っている。他のくっきりしたのは現場を捜査した警察のものだが、これだけは異なる。薄くて靴底とかは分からないけど、サイズと歩幅は分かるだろう」
分析通りであれば、靴のサイズはUK7.5で約26センチだ。これは男性の平均と同じサイズである。つまり、容疑者は男性の可能性が高い。
「歩幅、大して広くねえな」
羽柴が次に注目したのは歩幅だった。普通、人を殺したら逃げようと走り出すため歩幅は広くなる。しかし、犯人の歩幅は他のものと大差ない。
「犯人は慌てることもなく現場から逃走した?」
歩幅が意味するのは、体重や性別だけでなく犯人の心理状態だ。犯人は警察が巡回しているのに急ぐことも慌てることもしていない。悠々と歩いて現場を立ち去ったのが証拠だ。
「能天気な奴もいたもんだなぁ」
能天気に羽柴が他人事を漏らした。
『雨の多いイギリスで能天気はいい皮肉ですね』
「イギリスの総人口に対する自殺者は207人弱・・・。つまり207体のてるてる坊主がロープでブラブラしてるってことだな!」
「エグいブラックジョークです正爾さん」
罪悪感も遠慮もゼロのジョークを、実際に人が死んでいる場所で言い放つ。その彼にホームズはますます興味を惹かれた。変人同士は惹かれ合うのだろうか。妙なシナジーがそこにあった。
クスクス笑っていたホームズが息を整える。
「ここは最初の事件だったこともあって痕跡はかなり薄くなってるね。次に行こうか」
さっきのオズボーン・ストリートに近いジョージ・ヤードのマンションの中。7階と8階の間にある階段の踊り場は、綺麗であるにも関わらずテープで立ち入り禁止になっていた。
ホームズが羽柴に一枚の写真を手渡す。スーツを着た若年の男が、踊り場の隅に寄りかかるように倒れていた。こちらは腹部を切り裂かれてはおらず、何か鋭利な尖ったモノで体のあちこちを刺されて穴だらけにされていた。服は血で染まり、写真に映る床は真っ赤になっている。
「ここでの被害者はジャン・マクウェル。証券マンで、近隣の評判はいい。死亡推定時刻はさっきのスワローさんを殺害した20分後」
「じゃあ犯人は最初からスワローもマクウェルも殺す気だったんだな」
「待ってください、どういうことですか?」
羽柴たちがどんどん先に進んでいってしまうのを見た流歌が待ったをかけた。羽柴の助手といえど、流石に着いていくには理解が追いつかなかった。
「20分後に次の殺人を犯してるだろ」
「でも計画性があってもなくてもそれくらいのスパンで殺人を犯した例はありますよ?」
イヴがズラッと過去の世界の殺人例を一覧のように並べて提示してきた。ちゃっかり全文を翻訳までしてある。
「計画性ない奴が20分後に近くのマンションの7階までわざわざ来て? なんなのそいつRTA走者?」
そこでイヴと流歌があっとした顔をした。
無差別殺人は、手頃な無関係の人間を殺すことにある。しかし犯人は、前の現場と近いとはいえ道中で何人もの人間と会っているはずだ。この地域は深夜でも少なからず人の往来はあるとホームズは手帳に注釈してくれていた。つまり、明確な目的があってこの場所を通る被害者を狙ったのである。
『殺害方法も毎回違う・・・前の私みたいですね。親近感が湧きます』
「俺も殴ったり刺したり突き落としたりとバリエーション少ねえよな〜。後で殺し方のレパートリー一緒に考えて」
本気の軽口を交えながら、羽柴は死体のあったところに同じように寄りかかってみる。目線は下の階ではなく8階へと続く上への階段を見ていた。
「・・・・・・」
「羽柴くん」
ぼーっとした顔で考えていた所に、ホームズが顔を覗かせた。手にはスマホが握られており、12時20分を表示していた。
「もう昼だし、ランチタイムは如何かな?」
そう言えば、まだイギリスで一口も食べていなかったな。この国に来てから環境活動家もどきたちを轢き殺したり現場を回ったりふざけ倒したりと忙しかった。一度、本場の紅茶と軽食でも洒落込もう。アンフェールとホームズがいれば、事件解決にそう時間もかかるまい。傲慢とも思えるが、全て経験値に基づいて浮かんだ考えだ。
イギリス史上最大の面白い殺人を前に、「解決できませんでした」なんて真似にはしない。解決したい、否、殺したい事件はまだ始まったばかりなのである。
「じゃあミートパイ食いに行こうぜ。ヌワラエリヤも添えて」
裏切られとか嫌われっていいよね。
曇らせ甲斐がムンムン湧いてくる。
故意に人の罪悪感刺激するの最高