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【1万PV突破!】アンフェール〜探偵にネジは存在しない〜  作者: ディスマン
アンフェール&ホームズ vs 切り裂きジャック
155/162

Holmes

シャーロック・ホームズは映画しか観たことないです。要するに原作厨からするとにわかってことだね。

 ーロンドン市警本部ー


 中に入った瞬間、慌ただしく動く警官たちが目立った。頻繁に外に出る者、書類をあちこちに持っていく者。そして、目の前には鼻ヒゲを蓄えた男と、羽柴と対して歳の変わらない美男子が立っていた。

 先にヒゲの男が握手をしてきたので、羽柴も右手を差し出した。

「はじめましてMr. ハシバ。私はーーー」

「署長のマークだよね分かってる分かってる」

 早速名前と役職を当てたことにマークは驚いた。

「どうして分かりました?」

「帽子のバッジ。それ署長ってか警視総監のやつでしょ? 名前も彫ってあるし」

 羽柴が言ったことは実に簡単なことだ。彼の警察帽子に付いているバッジを見たのである。肩章にも似た特徴が現れているが、制服の形から見て警部とかではなく上層部であることは分かる。

「驚いた。呼んでおいてなんですが優れた観察力ですね」

「日本ではただの探偵でしかない俺を海外の警察が呼んだってことは、俺が誰かもお分かりに?」

「勿論ですよアンフェール、地獄の探偵よ」

 マークの隣にいた男が口を開いて、羽柴の裏の顔を言った。マークの顔に、彼に対する期待感が見えた。彼はどうやらロンドン市警御用達の協力者のようだ。

「ナイストゥーミーチュッ♡・・・で、君だぁれ?」

 のっけから気持ち悪いおふざけをかましていった羽柴。マークを含めた数人の警官が「なんだコイツ」という目をしていた。

()()()()ユニークな人ですね。私はシャーロック・ホームズ、といっても本名ではなく俗称ですがね」

 今度は羽柴が驚く番だった。

 ヒュー、と口笛を吹いてまじまじとホームズを観察する。痩せ身で180センチはある身長、オールバックのように掻き上げた暗めのアッシュブラウン、それによってひけらかされる端麗な顔つき。ビジュアルはシャーロック・ホームズという肩書きにお似合いである。

「推理通り、てのは俺を知ってる奴にアポ取ったんじゃなくて自力で俺を見つけたってことかいや」

「そう。推理は聞くかい?」

「やだね。推理を聞いた瞬間に俺は犯人になっちまうじゃあねーか」

 本家ホームズに準じたジョークで、推理を聞かされるのは犯人だと言って推理内容を聞こうとはしなかった。

 そんな彼に茶々を入れるやかまし娘が三人。

「今までアウト寄りのアウトなことばっかしてきましたから犯人は間違いないのでは?」

『イヴは別として私たちもその黒側の住人ですよ。私は連続殺人犯ですし、流歌さんも羽柴さんの助手として少なくとも殺人は経験していますしね』

「イヴは実体がないのでご主人に直接サポートできないんですよねぇ〜シクシク」

 四人集まれば姦しいを通り越して騒がしい羽柴チームを、ホームズは愉快に眺めていた。研究結果に期待できる実験台を見るような目だと羽柴は思った。

 互いに深淵を覗き覗かれている。要するに、どちらとも食えない人間なのだ。

「世界一の名探偵がいるなら何故私たちを?」

 流歌がホームズに自分達を日本から呼んだ真意を問うた。

「確かに私だけでも事足りるかもしれない。でも、そこに日本を含め各国で密かに恐れ崇められてる闇の探偵を投入すれば面白くなると思ってね? 光と闇の共同戦線、なんて面白いと思わないかな?」

 それは悪い意味でホームズらしい理由であった。ニコニコと悪気も一切なしで嬉々として理由を述べていた。

「アンタも俺ら側ってことかい。ホームズと同類であることを誇るべきかな? あとで写真とサインよろしく」

「イヴも映りたいです!」

『後にしませんか? 作者が早くストーリーを進めたいらしいので』

「さっきから何の話をしてるんですか?」

 あまりにも適当でメタい会話に耐えかねたマークがツッコんだ。

「そうだな。時間は有限。早くしないと空から紅茶が降ってくるぞ」

 ブッツリと自分で自分の流れを切った羽柴は、そのまま応接室の中に入っていってしまった。呆気に取られたマークは、その光景を見て口を開けることしかできなかった。続いてホームズが、会議室の中に入っていこうとする。

「マイペースで普通嫌い、面白ければ善悪は無価値・・・うん、推理通りだね」




 薄暗い会議室で、プロジェクターの光とスクリーンの反射だけが頼りだった。

 そのスクリーンには、路地裏であろう現場にグロテスクな死体が映し出されていた。腹を切り裂かれ、内臓はない。かわりに、餌を求めたハイエナという名のネズミたちが、映画エイリアンで人間に寄生したみたいに腹の中で血肉を貪り蠢いていた。

 あまりにもゴア表現すぎるその映像に、マークはあまり良い顔はせず、流歌は無表情だった。一方、ホームズと羽柴は興味深そうにそれを見ており、巴は切傷の鮮やかさに感心し、イヴはグロテスクというものを学習した。

「女の腹を掻っ捌いて内臓を取る・・・。なんか既視感ある殺しだね」

「当然だよ。これは切り裂きジャックの仕業だからね。ただし、分かってると思うけど模倣犯だ」

「お多感な少年なら一回は憧れるよね〜こういった殺人鬼とかに。俺も病棟で過ごしてた時はノンフィクション本よく読んでたな〜」

「呑気ですか」

 ぺしんと羽柴の額に流歌のチョップが叩き込まれる。「ぎゃあああああああ!」と大袈裟に床に転がり悶絶する演技を始めた。

「ご主人、傷は浅いですよ!」と、イヴまで悪ノリしだす始末。

 ふざけ倒して爽快になった羽柴はスクッと立ち上がって急に話を進め出した。

「切り裂きジャックと犯人が名乗ったりしたん?」

「い、いえ、手口が酷似していることから世間でそう呼ばれているだけです」

「手紙や電話もなし。被害者は女性だが娼婦じゃない。殺害方法だけを真似ているね」

「でしょうね。百年前の殺人鬼が蘇って人を殺すわけもない。もしそうなら俺は黒魔術を極める旅に出るぞ。穢◯転生の術とか使ってみたい」

「何回集英社を敵に回すおつもりですか」

 ホームズとマークの説明は続く。

「この犯人は、警官が次に同じ場所を巡回するまでの僅か数分から十数分程度で犯行を終えている。殺人自体はその時間で可能だけど、内臓まで抉り出すのは解剖学に精通していないと不可能だ」

「なので現在、我々は3日前からロンドン市内の外科医などを(しらみ)潰しに捜査しているところなんです。引退した元医師も含めて」

 羽柴が来るよりも前から、既に本格的な捜査は進んでいた。ホームズがいれば当然だが、その警察の捜査は間違っていない。人を短時間で解剖できる技術や死亡推定時刻のアリバイ、そして内臓を収納する物などを持っている人を調べれば、普通はすぐに解決する。

 だが、間違ってなければ正しくもない。そもそも当たり前だが、ここは19世紀のロンドンではない。残虐性やら手口やらが酷似しているからとは言え、内臓の処理方法やジャックの職業までもが同一だという保証は存在しない。

 医療だって100年進歩しているのだ。もしかしたら簡単に身体を割いて内臓を取り出す技術だってあるかもしれない。

「兎にも角にも、現場とか死体とか証言とか見ないことにゃ始まらんね」

 こんな所で考えても意味はない。羽柴もホームズも、安楽椅子探偵のようにジャックを見つけることはできないと確信していた。であれば、やることは一つ。

舞踏会(フィールドワーク)にでも行きましょうか?」

 ホームズが芝居のように右手を差し出す。羽柴はダンスに応じる令嬢のように、流歌と巴の手も一緒にその手に重ねた。スマホもかざして、イヴも手を出しているように振る舞う。


「んじゃいっちょ、不運(ハードラック)(ダンス)っちまおうぜ?」

 羽柴は不敵な笑みを浮かべながら、90年代の日本人にしか分からないミームを口走った。

ようやくストロングゼロが体から抜けました。

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