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【1万PV突破!】アンフェール〜探偵にネジは存在しない〜  作者: ディスマン
アンフェール&ホームズ vs 切り裂きジャック
154/162

倫敦へ、地獄より。

何のことか分からないでしょうがアクセルシンクロンを決めます。

それがしたいが為に今回はちょっと長め。

地獄より:

ラスク(ホワイトチャペル自警団)さんよ、ある女から取った腎臓を半分送ってやったぜ。あんたのために取っておいたんだ。

          ー切り裂きジャック(1888)ー


 闇夜のロンドンに霧がかかり始め、月光が空気と水に乱反射して、地上はより暗さを増していた。18世紀と違い、娼婦や貧富の差を表す汚い街並みはそこには無く、イギリス流のモダニズムが時代を塗り替えていた。少しシックな街灯が、ほんのり歩道と裏路地への入口を照らしていた。

 一人の警官が、その路地裏の前を通る。電灯は接触が悪いのか不気味にチカチカと点滅し、一瞬の光と闇の世界を作り出していた。急に、チューと動物の鳴き声がした。音のした方を見ると、一匹のネズミが路地裏へと歩いていくのが見えた。

「なんだ、ネズミか・・・」

 安堵したのも束の間、ネズミはぴちゃぴちゃと液体を踏んで闇へと消えていった。それだけなら警官は通り過ぎただろうが、決して見過ごせないことがあった。

 その液体は、見慣れた赤さのまま山の通路の奥から流れてきていた。血だ。まるで、血液だけでも恐怖の世界から逃げているかのように表通りへと流れ出ていた。警官は路地裏にライトを向け突き進んでいく。近づけば近づくほどに、血の匂いと、さっき聞いたネズミの声が鮮明になっていく。そして、不意にライトは屠殺場を映し出してしまった。

「うわあああああああ!?」

 警官は恐怖の悲鳴を上げた。血を踏まないように辿っていき、入口から10mほど歩いたところにそれは横たわっていた。20代後半の女性だ。ジャケットははだけ、シャツを捲られた腹の部分はぽっかりと穴が空いていた。その中には、内臓らしき内臓は一つも見られなかった。グロテスクな盆地にネズミの群れが我先にと入り蠢いて、屍の血肉をくちゃくちゃと咀嚼(そしゃく)し貪っている。

 警官は迅速に無線で目の前の酷い現実を伝えながら、この一件が終わったらセラピーを受けると誓った。




 イギリスのロンドン・ヒースロー空港に降り立つ三人と一体は、仕事で珍しく海外出張に来ていた。 緯度が日本よりも高いせいか、日本と比べて少し気温が寒く感じられた。前もって相応の服を着ていたおかげで寒くはないが、ロンドンは雨が多いと聞いている。傘を差すのも面倒だとげんなりしながらゲートから出てイギリスの大地を踏み締めた羽柴は、独り言のように声を漏らした。その視線の先は自分のスマホ。耳につけたワイヤレスイヤホンから快活な少女の声がした。

「お前だけいいよなぁ。座席がいらねえから交通費タダだぜ?」

「ご主人たちは人間ですから移動にお金が掛かりますよね〜。その点イヴちゃんは電波とデバイスさえあればワールドツアーし放題です!」

「フィッシュ&チップスという名のウイルス打ち込むよ? 副作用でエラーさせちゃうよ?」

「にゃああああ!? それだけは〜!?」

 空港前でAI相手に冗談レベルの軽い口喧嘩。基本的に羽柴が冗談か分からない冗談を言って、イヴが可愛らしく揶揄われている。独り言か二重人格同士の会話に見えなくもないその姿に、なんだかクスッと笑えてきた。

「ふふふっ、・・・・・・あっ笑ってる場合じゃない」

 用事でこの国に来た事を改めて思い出した流歌は、羽柴の肩を叩いて今回の仕事について述べた。今回、依頼主はまさかのロンドン市警だ。何故遠い日本の大手でもない探偵事務所に海外から依頼が来たのか不思議で仕方ない。フランスならともかく、イギリスにまでアンフェールの噂が来ているとは考えてもいない。そもそも、羽柴は一度もイギリスに来たことはないのだから、名も顔も誰かに知れ渡っているとは考えにくい。

 そんな不思議な仕事が舞い込んできたが、羽柴は怪しいとか思わずにホイホイとイギリスまで来てしまった。単純に何も考えていないだけである。メールではロンドン市警まで来て欲しいとしか書かれておらず、迎えを寄越す余裕がないことも追記されていた。どうやら余程の大事件が起きた様子で、羽柴は成田空港からずっとワクワクしていた。

 初めて捜査に同行するイヴも羽柴に負けないくらい目を輝かせていた。イヴにとって、まだ世界は電脳世界の情報だけでしか構成されていない。すなわち、こんな成りと性能でありながら赤ちゃんと同義なのである。だから今の彼女は、幼児によくある未知への好奇心で溢れていた。

 事件である以上は血生臭い現場にもこれから出会うだろうが、巴は前回密かにあるプログラムを弄っておいた。それは、グロテスクな現場や凶悪犯に対する恐怖心を感じないようにしたのである。機械差別とかポリコレとかは関係ない。そんなものは当然クソだが、理由としては単純で、最近やったゲームの中でアンドロイドが恐怖を覚えてしまい、そのせいで自殺してしまうという描写があったからだ。ここまで高性能なAIなら自らを消去することも不可能ではない。そうされては困るため、巴は彼女を自分達と同レベルの恐怖に対する耐性に引き上げたのだ。

『これでよりマスターのお役に立てますね』

 後ろから巴形イヴに向かってそう話しかけた。当のイヴは後光が差しているエフェクトが出ているくらいニコニコである。

『ご主人が褒めてくれたらなんだっていいです!』

「動機がもう赤たんやん。あとでガラガラダウンロードしてあげまちゅね〜」

『む〜、一部否定できないから悔しい!』

 急に騒がしいメンバーが増えたことで、流歌はこの先もっと色んな意味で大変になることを悟り、溜息を吐いて苦笑いした。苦労は絶えず、されどそれもまた幸福であると知っているから。


 自動運転ができるレンタカーを選び、運転は全てイヴにやらせる。当然、カーナビもイヴが操作してくれる。羽柴たちは座席で座っているだけで目的地に着くことができるのだ。いい探偵を引き入れたものだと、羽柴はホクホク顔で後頭部をヘッドレストに預けた。どこで車がどれだけいるのかも全てGPSで知っているイヴは、渋滞しそうな道を避けてほぼノンストップでロンドン警視庁のあるニュー・スコットランド・ヤード本部へと運転する。しかし羽柴はちょっと寄り道がしたいのか、ビッグ・ベンの近くを通りたいと言い出した。もし難事件なら観光してる暇がないかもしれないという危惧ゆえである。

 意気揚々とビッグ・ベンが見えるウェストミンスター橋を渡ろうとすると、目の前の車が動かない。橋は何故か渋滞を起こしていた。

「イヴ、なんか目の前のスクラップが邪魔なんだけど」

『ちょっと待ってくださいね。衛生映像出します』

 そうしてイヴがカーナビに投影したのは、上空から撮影している橋の映像だった。拡大してみると、どうやら最近話題の環境活動家たちが橋に居座って封鎖しているらしい。窓を開けて耳を澄ますと、数々の叫びと怒りの声が聞こえた。

「なに橋を封鎖してんだよ! どけよ!」

「世界の空気は汚れ、動物は虐殺され、刻一刻と破滅に近づいている。植物由来の食事に変え、石油による汚染や地球温暖化を阻止せねばならない! 地球のことを考えないのか!?」

「おい俺たちのビッグ・ベンにペンキかけてんじゃねえよ殺すぞッ!」

 橋の終わり付近で繰り広げられる世も末な光景に、羽柴はむしろ楽しくなってきた。この「楽しくなってきた」というのは、あくまで比喩であり羽柴は正確にはイラついていた。何であろうと、自分の邪魔をする人間は敵でしかないからである。

「うっせえなぁ・・・。そんなに環境が大事なら矛盾してんじゃねえよ。革靴とかスニーカーを脱いで、服も絹や麻のやつ以外は全裸になって抗議しろや。海や川に捨てられたゴミを回収してリサイクルしてる本物の環境活動家だって居んだぞ」

「自分のことを棚に上げてるだけですよ。知性と理性があったらこんなことしてません」

『車も使って通行止めしてますけどエンジン切ってませんよねアレ』

「いいかイヴ。あの反面教師たちを教材にこう学習しな。"右翼が正義"だとね!」

『ラジャー』

「それはそれで歪んだ教育ですからね?」

 言いたい放題言いながらも、変わらず車も人も退く気配はない。警察が注意したり強引に退けようとしているが、どう考えても時間がかかる。


 そこで羽柴は、最速であり最悪の手段に出ることにした。

「流歌、ちょっと車のナンバー外してきて」

「・・・・・・責任はとってくださいよ?」

 羽柴のやらんとすることを理解した流歌は、外に出て車の前と後ろのナンバーを外し車内にしまった。そして、イヴにこう告げる。

「自動運転はもういいから、市警までのナビよろぴく」

『了解、であります!』

 ハンドルを握り、アクセルベタ踏みで前方車両を追い抜いた羽柴は、そのまま止まることなく、むしろよりアクセルを踏み込んで環境活動家の封鎖網に突っ込んだ。

「ぎゃあああああああああ!!!」

「いやあああああああああ!!!」

 なんの躊躇もなく、目の前に立ちはだかる活動家たちを轢き殺していく。車のボディや窓が血で汚れ、車内に人の肉や骨を壊し潰していく音が断続的に鳴っていた。流歌は少し眉を顰め、巴は真顔で、イヴはナビに夢中、羽柴に至っては「光差す道となれ!」と意味不明なことをずっと狂喜乱舞しながら叫んでいた。10秒過ぎて、最後に轢いた活動家の体に車が乗り上げ後部がガコンと下がったところで、揺れも音も収まり元のロンドンの景色に戻った。そっとバックミラーを見ると、背後は戦々恐々とした死体と悲鳴の地獄となっており、ホイールの跡が血で赤くなっていた。

「よぉし突破ー! 車汚れちゃったから洗車場探さなきゃなー」

『1.3km先に洗車場がありますよー』

『ではそこに行きましょうか。自動洗車の方が外から車が見えづらいのでそっちにしましょう』

「・・・ハァ、事件の前に事件起こしちゃいましたよ。本末転倒どころか目次の時点で瓦解してるんですけど」

「ちっちゃいことは気にしなーい! それに吸血鬼の王子も漫画で言ってたじゃん。歩道があるだろ、行けって」

「2008年のブームですよそれ。しかも後者に関しては1992年ですよ。老人会ですか?」

「心は若いままなの!」

 罪悪感も後ろ髪引かれることなく車を進め続けた羽柴らはこの後、普通に車を洗いナンバーを戻して、何もなかったかのように颯爽と元のルートに戻り警視庁へと向かっていった。

 イギリス史上最大の未解決轢き逃げ事件は、羽柴の気まぐれのせいで死者17名負傷者21名の大事件として歴史に刻まれた。

決まったァーーーー!

シューティング・ソニックだーーーー!

これは流れ星も赤く染まるぜ!

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