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シンギュラリティ

キャラクターの等身大人形って2〜30万するらしいぜ

「巴、俺そこまで機械詳しくねえからパス」

 遅れてきた副社長の折本の登場に、羽柴はそっとPCを巴に渡して彼女の前に立つ。巴は静かに、そして高速でカタカタとタイピングを続けた。

「どうもどうも、ドラマみたいなタイミングで来てくれたね折本くん」

 篠塚に代わって、羽柴は挑発するように手を叩きながら出迎えた。折本は礼儀もクソも無い羽柴の言動に少し眉を顰めた。だが口だけは笑って愛想よく接しようと面の皮を保っていた。

「ど、どうも。君は?」

「なんつーの? お忍びで呼ばれた調査会社的な? 多分そんな感じじゃね?」

 適当過ぎる自己紹介の仕方に、明らかにとぼけている態度。三十数年の人生を生きてきて、こんなふざけた人間に会ったことはない。珍生物というか、未知との遭遇ばりに別人種を相手にしているような不思議な感覚にさせられる。

「さてさて、こんなタイミングに何のご用ですかぁ?」

「何って、こっちで警報が鳴りましたでしょう? なので駆けつけたんですよ。・・・鈴樹くんがやられていて、彼のPCを君が持っていることから、彼が何かしらの犯人なのかな?」

「まあ実行犯ではあるよ?」

 伸びている鈴樹をチラリと見ただけで羽柴は興味を失くしたが、折本の視線はずっと後ろの巴に注がれていた。鈴樹が犯人であると現場にいた皆が思っているのに、彼は一切の興味を持っていなかった。

 半分の不信感と期待の目でまた折本を見る。折本の目は、それでも羽柴の方を見はしなかった。

「そのPCはどうしました? もしや、データを盗まれてそこに保存されているなんてことは・・・・・・」

「おうバッチリあるぞ? なんなら巴と中身見てた」

 あっさりと機密情報を閲覧していたことをバラした羽柴。篠塚は少しのツッコミで済んでいたのに、副社長である折本の怒り具合は凄まじかった。

「なに勝手に我が社の機密データを見ているんですか!!! 社長も止めてくださいよ!!」

「いやぁ、でも協力者である以上はこれも想定のうちというか・・・」

「内も外もありません! 今すぐ中のデータを消去するためにPCを押収します!」

 有無を言わさない勢いのまま巴の持つPCへ手を伸ばした折本。その手を、羽柴はまるで虫を払うかのようにはたき落とした。手の甲を庇いながら二歩下がった折本を、張本人は涼しい顔で見ていた。

「何をする!?」

「なに怒ってんすか? 虫がいたから叩いただけじゃないか」

「それは暗に私が虫だと言いたいのか!」

「おぉ、流石はイデア・ブレインの副社長。自覚ができて偉い偉い!」

 一気に折本と羽柴による険悪ムードが出来上がる。流石に暴れ出すほどの暴挙には出ないだろうが、ここからは平手ではなく拳が飛ぶことになると容易に想像できた。しかしそこに、篠塚が間に入って待ったをかけた。

「これこれ羽柴さん、無益な争いはやめておきましょう。これは折本くんにPCを渡した方がいいですよ?」

 ほら、と篠塚は観衆に目を向けた。そこには羽柴たちに敵意のこもった目線を突き刺す技術者たちがいた。この空気ではPCを渡すしかないだろうと、巴は()()()()()PCを折本に差し出した。ひったくるように素早く乱暴に鈴樹のPCを受け取った折本は、鼻を鳴らすとこちらに向くことなく研究室を出ていった。

「このPCは分解しデータを消去した上で明日の朝に処分します。それまで誰もこれに近寄らないように」

 不満げに出て行った折本の後の研究室は僅かに静かになった。篠塚が少し申し訳なさそうに羽柴に言い寄る。

「すまない羽柴さん。あの空気だとああしなければ皆が納得しなかったのでね。でも鈴樹くんが犯人だし、彼から事情とかを聞き出せればそれで良いでしょう」

 PCを取り上げられてしまった以上、仕方なく鈴樹を叩き起こす。最初羽柴が椅子を持って鈴樹の顔にフルスイングしようとしていたので止めた。あれを食らったら絶対に死ぬ。

 目を覚ました鈴樹は、怯えた様子で縮こまった。瞳孔が揺れている。嘘や逃走を考える余裕すらない。

「ひいいいいい!?」

「さあゲロ吐いてもらおうか」

『ついでに情報も、ね』

「ゲロがメインになっちゃってますよ・・・」

 こんな時でも真面目になれないのか。ギャラリーの三白眼が羽柴たちに向く。

「と、匿名で取引がありまして・・・。イデア・ブレイン社の極秘技術を盗めたら1000万円を支払うと・・・」

「何だと!?」

 鈴樹は、金欲しさに技術を売ろうとしていただけだった。そう言えばそれで終わりなのだろうが、肝心なのは依頼主がいることである。そして、その真犯人は極秘の技術データがあることを知っていた。データの入っていたサーバーが独立している以上、自然に外部漏出した線は考えにくい。つまり、真犯人は内部の人間であるということが確定した。

 だがここで一つ疑問が生じる。なぜ犯人は自分ではなく他人を使ってデータを盗もうとしたのだろう。外部が内部を使うのは分かるが、同じ内部の人間を使うのはおかしくないだろうか?

 そんな疑問がぐるぐると、篠塚たち、そしてこの小説を現在スマホでポチポチしながら執筆している作者の脳内を駆け回った。

「副社長が怪しいのは分かってるけど、この疑問をどう解消したものか」

「スゲエ分かる〜。答え分かってるのに式が書けないのと一緒だよね」

『誰と会話しているんですか?』

「第三世界の神」

 羽柴の支離滅裂な言葉に脳のシナプスを焼かれそうになりながら、篠塚は必死に考える。今の前提だと何か腑に落ちないのだ。それならいっそ、真犯人は外部の人間と仮定した方がよくないだろうか。

「内部犯だとあらゆることが考えづらくないですか? 外部犯と仮定して考えた方がまだ可能性があると思うんですが・・・」

「あんたバカァ? あの副社長どう見ても怪しかっただろ? コナンの犯人のシルエットすら透けるレベルだぞ」

『分かりやすいですけど名前は拙いです』

「じゃあコ◯ンで」

『前のセリフを改訂できてないですよ。後で水かけてももうそれは灰になっているんですから』

 要領を得ない言葉が湯水のように出てくるが、巴と羽柴は既に次の一手を打っていた。後はいつ、犯人()()が罠に掛かるかをニヤニヤしながら待つのみである。非常システムが既に解除され、赤から白に戻った部屋の中で、羽柴は獰猛に笑って歯を覗かせていた。


「人を嵌めるって快感だよね。これだからデドバはやめられねえんだよな。作者はやったことねえけど」

「レインコードPS4でもできるようにしてくださいスパチュンさん」

『おかしいですね不可解な電波がスクランブル交差点してます』

ブラクラにはご注意を

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