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渋谷に潜む闇の男

ここまで書いてきてまだネタの1/4しか消化できてない。

銀魂より長くなりそうで怖いよオレ。

 夜の渋谷は平日も休日も関係ない。新宿・歌舞伎町のネオンに負けないくらいに、人と街は輝いていた。しかし、表がそれだけ輝けば裏は比例するかのように暗くなる。世界でも有数の治安の良さを誇る日本でも、路地裏は決して安全とは言い切れない。

 市民にとっても、()()()にとっても―――。


ガシャン、ガシャン!


「ぐべぇッ!」

「ラッキーナンバー揃うまで行ってみよー!」

 渋谷の喧騒が微かに聞こえるような路地で、羽柴はガラの悪い半グレの相手をしていた。普通に絡まれただけだが、羽柴はこれ幸いと加害者側より暴れた。三人いた男のうち二人はゴミ箱に入れられたりジャイアントスイングで電柱に腰をぶつけられたりして戦闘不能。残った最後の一人は、今まさに羽柴によって自動販売機に顔面を叩きつけられていた。鼻血は垂れ、歯も二本ぐらついている。自販機の明かりがランダムに点滅し、4回ほどプラスチックがひしゃげたところで、電子パネルの数字が三つ同じとなって受け取り口から缶のドクターペッパーが排出された。

「大当たり〜」

 気絶した男を投げ捨てて缶を取り出しプルタブを開ける。複雑でクセのある味と炭酸が美味い。そのままちびちびと飲みながら、三人の屍のようになった男たちを一瞥もすることなく立ち去った。

 羽柴が一人で渋谷に来た理由は、実は特にない。強いて言うなら、夜の渋谷が危険そうだったからだ。自ら危険地帯に踏み込めば、それだけで獲物が釣れるかもしれないと考えた。フランスで四人殺してしばらく殺人欲が鳴りを潜めているため、半グレ相手でも殺すまではしなかったのが証拠である。

 ドクターペッパーを飲みながら酔っぱらいのようにフラフラと出歩く。好きだらけな姿を演出することで、誰か犯罪者が襲ってくれないかと期待していた。

 しかし、日本だからなのか良い意味で犯罪者が釣れることはなく、今日は不漁かと思いながら表通りに出て行こうとしていた時、羽柴の鼻と感覚が捉えた。

 濃厚な血の匂い、死の気配を・・・・・・。

 期待するような明るい顔をして、羽柴は表通りへと続く道を左に曲がった。少し進めば、そこは羽柴がさっきまで歩いていた隣の路地で、街灯が壊れているのか表の明かりでさえも暗く感じた。その暗幕に隠されているように、道路にスーツを着たビジネスマン風の男が寝ている。羽柴は声をかけることも揺することもしなかった。見て分かる。これは死体だ。

 顔を見るために乱暴に蹴って仰向けにする。手の皺の具合を見るに、30代後半の男のようだ。手で判断せざるを得なかったのは、その男の顔はパーツなんて存在しなかったと思えるぐらいに潰されていたからだ。


 結局、羽柴は警察を呼ぶこともなく、写真を撮ってそのまま家に帰ってきた。流歌と巴は既に寝ていて、事務所内は静かだった。簡単にシャワーだけ浴びて、まるで今日も平和だったというようにベッドに全てを預け明日になるのを待った。

 しかし、羽柴は中々眠れなかった。あんなにも顔面がグチャグチャになるまで潰すような犯人がいることに高揚感が湧き上がっていた。俺もあんなことがしたい。グロテスクかつ猟奇的な死体が、羽柴の落ち着いていた殺人欲求に火をつけた。

「あんまりワクワクさせんなよ・・・!」

 無意識に、布団の中の両手がブルリと震えた。



ー翌日ー

 案の定、渋谷区で殺人遺体を見つけた通報が警察に入り、羽柴が呼ばれることになった。平日のため流歌は居らず、巴も別の殺人事件の依頼で出払っている。今回は車で行くことはやめて山手線で現場に向かっていた。現場が駅に近いこともあって、車で行く必要がないと思った結果だ。そもそも、巴に車を貸したため公共交通機関とタクシー以外の移動手段がない。

「電車って人多いな・・・。脱線事故起こしたら空くかな?」

 不謹慎なことを真剣に考えながら、車内アナウンスが渋谷への到着を知らせた。乗客がゾロゾロと降りていく。その波に混じって羽柴もホームに降り地上を目指した。周りは若者が多く、中には部活や習い事をしているのか、長いケースを背負った人も数人は見えた。

(武道でもやってんのかな?・・・俺も暗殺術とか習おうかな)

 野蛮極まりないことを考えながらも、気がついたら駅を出ていた羽柴は昨夜と同じ場所へ向かった。


「珍しく早かったな」

「電車の爆破を考えてたら楽しくなっちゃってな」

 あながち冗談とも思えないことを言う。支倉も羽柴なら理由や目的次第ではやりかねないということも分かっている。そんな劇場版みたいな展開が未来永劫来ないことを祈った。

「で、オッサンの身元は?」

「身分証は見つからなかった。てか財布ごと盗まれてたから強盗殺人の線で捜査して・・・・・・

おい待て。なんで被害者が男だと知ってる?」

「だって昨日の夜に死体見つけてたからねオレ」

「通報しろよ!?」

 支倉から胸ぐらを掴まれながら全力のツッコミを喰らった。しかし羽柴は飄々と「善良な市民に言ってやってくれ」と悪びれなく開き直っていた。それもそうだ。警察から羽柴を頼ることはあっても、羽柴が警察を頼ることなんて滅多にない。長年の関係だから何も思わないが、当初は警察として歯痒く感じたものだ。支倉は少しセンチメンタルな気分になった。

「愚◯克己のパンチ食らったド◯ルみたいになってたろ」

「版権的にダメだろオイ」

 ブルーシートで遮られた区画内に立ち入り、改めて男の遺体を確認する。昼間なこともあって、より肉と骨が鮮明に、かつ乱雑に視界に飛び込んできた。グロテスクな死体にアドレナリンが分泌される感覚が、シナプスよりも速く脳を駆け巡った。ここが海外ならどれほど良かっただろう。法や警察の目が厳しい日本で、この衝動や疼きを殺しで発散するのは困難であった。

「顔は見ての通りぐちゃぐちゃで、土砂崩れして盆地みたいになってらぁ」

「いい例え! それ頂きね?」

 仕方なく目の前の死体をツンツンと叩いて発散する。反対側に鑑識がいて写真を撮っていたので、顔の傷について聞いてみた。

「傷の形状は?」

「複数の打撲痕があり、拳大と細い凶器のようなものまでありました。拳の痕が浅くて凶器の痕が深い位置にあるので、犯人は先に殴って被害者を気絶させ、トドメに凶器を使ったと考えられます」

「規制解除版龍が如くかな?」

「恐れ知らずにも限度があるだろ」

 残虐性が浮き彫りになる殺害方法にうっとりしていると、ふと羽柴は大前提について何も聞いていないことに気がついた。

「てか通報者は誰?」

「渋谷に出勤していた男だよ。事情聴取もして証言に不自然な点もなかったから身元だけとって帰したけどな」

「昨日の夜は誰も見てないんだ?」

「ああ、不思議ながらな」

 それが一番不自然だと思った。日夜人が往来している渋谷で、朝まで死体が見つからないなんて偶然があるのだろうか。見つけといて通報しなかった前例が、今まさに自分のことを棚に上げてそう考えていた。見つけるだけじゃなく、犯行当時に音や悲鳴を聞いた人もいなかった。まるで、サイレント魔法がかけられた空間内で殺人が起きたかのようだった。

 これは面白い。後も目撃者もいない外での殺人。久々の難事件の予感がして楽しくなってきた。

「犯人はどう呼ぶか羽柴?」

 支倉が犯人の呼称について聞く。羽柴は楽しそうに振り向いて支倉を見上げた。


「ブギーマン(闇の男)・・・なんてどう? カッコよくね?」

最初は伏せ字ゼロで書いてたんですが流石にやばいかと思って伏せました。

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