Notre Père
新キャラ出てくると名前覚えづらいよね。
前の話しにわざわざ戻って確認することもしばしば。
だからあまり新キャラに名前つけたくないんだよなぁ〜。
聞き込みや現場検証が表で行われている傍らで、羽柴たちはルーヴル美術館のスタッフルームを借りて、体に纏わり付いた血と煤と死の匂いを洗い流す。本当はパリ市警に行きたいが、こんな大事件が起きた時に本部へ戻っている時間などない。急拵えであるが、美術館のシャワーと更衣室を利用させてもらった。
排水溝に、肌にへばりついていた誰かの体液が流れていく。遠い西欧の地で、何でこんなことになってしまったのか。羽柴たちに落ち度がない分、余計に苛立ちが募っていく。
シャワー室から出て、警官が買い出ししてくれたフランスの服に着替えた。日本では滅多に着ないであろう文化ごと違うファッションに少し違和感を感じながらも着替える。そんなに重ね着するのが好きではない羽柴の格好は、フランスに来た時よりもシンプルになっていた。青い無地のワイシャツの袖を捲り、黒いスキニーパンツとブランドの革スニーカーを履いた羽柴は、普段とは違うカジュアルさを身に纏っていた。
部屋から出ると先に身だしなみを整え終えていたようで、二人は既にスタッフルームのソファに座っていた。彼女らもまた、フランス色に染め上げられていた。流歌は薄めのデニールに、青と少しベージュがかったグレーの二色によるバイカラーのロングワンピース。巴は白のショートパンツに黒のオーバーニーソックス、白いシャツの上に着せられた黒めのグレーテールコートのようなジャケット。とてもオシャレなのは認めるが、漫画のキャラみたいにモブの服装とは一線を画していた。
「お前らだけなんか個性強くね? ジョジョに出てくるモブと主要キャラクターの服くらい個性の格差あるんだけど。俺なんて見てみろよ。鷲巣麻雀編のアカギみたいだで」
「唯一違うのはシャツインしてない部分だけですけどね」
危ない羽柴の発言をいつものようにいなしながら待っていると、エマがドアを開けて入ってきた。服を用意したのもシャワーを手配したのも彼女である。
「充分な休息はできた?」
「ポケモンセンターのポケモンくらいには」
「その例え分かりやすいですか?」
真面目に話すことすら困難なくらい脳が終わっている羽柴に対しても、普段と変わらず毅然とした態度で接している。こんなに度胸がある警察官は支倉を含め数人しか知らない。
「じゃあ、現場に来て。貴方たちにも捜査に加わってもらうから」
「お偉いさんに話通しましたか?」
「その時間って現場にとってすごい無駄じゃない?」
『分かってますね。さすが現場主義』
軽い言葉を掛け合いながら、軽いじゃ到底すまない殺戮現場に足を踏み入れる。現場保存の為、遺体はともかく血痕や爆破跡はそのままであった。
羽柴は捜査官のことなど気にせず、国家の間を巡った。どさくさに紛れてちゃっかりモナ・リザなどの絵画を鑑賞して、そして何が起きることもなくエマ達の前に戻ってきた。
「で、どうだったの?」
「フランスの芸術最高!」
「そこ聞いてないです」
ケラケラ笑ってエマを揶揄い、一息吐いたところで本題を話した。
「爆弾の威力と指向性から、犯人は作品への被害を最小限に留めている。普通、爆弾は全方位に爆発するものなのに、今回は前方の限られた範囲のみを吹き飛ばした。かなり爆発物の扱いに精通している」
「犯人はプロだと?」
「少なくとも爆発物の、な。テロとか無差別なら絵に配慮なんてしない。それにあのギリシャ語・・・」
『豚に真珠という諺ですね。新約聖書の中の逸話を元にしていると聞きます』
「犯人はその言葉と芸術品を鑑賞する人を批判してる。それが絵だけ比較的無事で人間だけ木っ端微塵になった理由ってこと」
「そんなことが理由で?」
エマの怒りが滲んだ声に、羽柴は少し訂正を入れた。それだけではないのだと。
「美術館の中でルーブルを選んだ理由がある。あんな警察に読んでくれと言わんばかりの一節だ。近くに教会とかねえの?」
「確かルーヴルの北側にオラトワール・デュ・ルーヴル教会があるわ」
聖書の一節とルーヴルという現場そのものが、犯人の次を示唆していた。こういった犯罪を一回で終わらすのなら、意味深な聖書の一節など現場に残さない。まだ次がある、もしくは本当の目的をまだ果たしていないと羽柴は考えた。
「そのルーヴル教会に連れてけ。犯人はいないだろうが、念のため何人か人手も持ってくぞ〜」
推理が先行して勝手に指揮を取り始めた羽柴についていけないエマが止める。
「ちょっと待ってよ。何でその教会に向かうの?」
振り返った羽柴は、まるで出来の悪い生徒に教えるかのような、呆れと苦笑いを足して二で割ったような顔をしていた。
「一回きりの犯行ならあんな一節を残したりしない。散りばめて連続的に犯行を行う気だ。それに、ここでの爆破が本当の目的ならもっと分かりやすいメッセージを残したりする。つまり、これは警察への挑戦と挑発だ。"ヒントを追いかけて俺を止めてみろ"的な、な」
「・・・だからルーヴルと聖書が関係するその教会に何かあるって考えたわけね」
「c'est exact!(その通り)」
フランス語で敢えてエマに回答した羽柴は、フランス市警の誘導のもとオラトワール・デュ・ルーヴル教会へと向かった。
美術館を出て北側、サン=トノレ通りとオラトワール通りが交わる地点にある、元々はルーヴル宮殿の礼拝堂であったそこは、美術館と同様に、近代の姿を保ったまま神に祈る聖域を保っていた。教会というより、ルーヴル宮殿にあわせたのか小さな城のような外観で、芸術的な彫刻も柱や門の周りに施されていた。
「ここかぁ。さ、行くぞー」
「あのー正爾さん。その扉は・・・」
「へぶっ!?」
意気揚々と扉に突入した羽柴だが、扉は開くことなく羽柴を拒んだ。コントのように跳ね返された羽柴は顔を押さえる。流歌が「遅かった」といった表情をして後ろから歩いてきた。
「今日は定休日で鍵が掛かってますよ」
「コメディドラマみたいな報告の遅さやん・・・」
「仕方ないわね。関係者に連絡して鍵開けてもらいましょ」
エマは教会の入口を開けてもらうため聖職者に連絡しようとしたが、そんな悠長に待っていられるほどアンフェールは人間できていなかった。
「オラァ!!!」
「ちょっと!?」
羽柴は少し助走をつけて、教会の扉を蹴り破った。鍵が壊れ扉が曲がる音が聖堂内に反響して返ってきた。エマが羽柴の腕を掴み関節を固める。
「イデデデデデ!?」
「神聖な教会の扉を蹴破る馬鹿がいる!?」
「ハーイてんてー! ここにいまァダダダダダ!」
拘束されているにも関わらずふざける羽柴にキツいお灸を据えていたエマだが、教会内の様子を見て思わず拘束を緩めた。その隙に腕を抜いて痛そうに手首を回していた羽柴も続いてエマの視線を辿ると、面白くなってきたとニヤリと笑った。
ルーヴル教会は、フランスでは少数派のプロテスタントの教会である。プロテスタントでは教皇や教会が絶対ではなく、聖書の記述が絶対と定めている宗派だ。故に、プロテスタント教会では一般的にキリストのいない十字架像が置かれている。
そこには、胸元をはだけさせた老年の神父が括り付けられ、十字架を伝うように下には大きな血溜まりができていた。はだけた胸元には、矢印の先端が上下左右から中心へ向かうような形をした、十字の焼印が付けられていた。
セリフは基本ノリで書いてます。
これ長続きの秘訣。