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【1万PV突破!】アンフェール〜探偵にネジは存在しない〜  作者: ディスマン
天使とパラディか、悪魔とアンフェールか
134/162

ルーヴル美術館

新しい案件で千葉に来てまして。

新環境に慣れるので精一杯でございやす。

去年よりも遥かに平日の執筆頻度は落ちることでしょう。

以上、クソ天気予報でした。(3月初旬)

 テラスに暖かい微風が流れていく中で、羽柴たちはフランスに来て最初の食事を堪能していた。食事代はスリたちから()()()お金があるので懐はちっとも痛まない。

「カタツムリって美味えのな」

「せめてエスカルゴって言ってください。雨の日を想像しちゃいます」

『しかもワイン付きですよ。飲酒運転する気満々ですね』

「俺が法だ」

「どこの英雄王ですか?」

 フランスらしさが微塵もない会話。そこだけフランスや日本など関係なく、アンフェールという名の空間と化していた。仔羊のローストを口に運んで微笑む巴は、殺人の実行犯として育てられていたこともあり、異国というもの自体がまさに異世界と差し支えないものであった。もしかしたら、羽柴よりこの異国を楽しんでいるまである。

「夢にまで見たシャンゼリゼ通りは肉眼で見ると格別だな」

「病院時代の正爾さんの部屋にも流れてましたね」

「あんな洗脳ソング中々ないもん。フランス語で歌いたくなるやん」

「否定はしません」

 フォークでソースを肉や魚に塗り付け口に入れながら、旅行らしい朗らかな一時を過ごしていた。羽柴がワインを飲み終え席を立ち、ウェイターにスリの金をそっくり渡して店を出た。そろそろ時間なため荷物を部屋に置くべくホテルに向かおう。羽柴たちは再びレンタカーに乗り込んで、予約していたホテルである1区の「ドゥ・ルーブル・イン・ザ・アンバウンド・コレクション・バイ・ハイアット」を目指した。




 パリ1区の交差点角に存在する、財閥の銀行跡地と間違えそうなほど荘厳な建物。それが、羽柴がフランスでの拠点に選んだホテルだった。ルーヴル美術館やオペラ・ガルニエ、シャンゼリゼ通りなどの観光名所が徒歩圏内にあり、観光の拠点として最適なホテルで、観光地が周囲に固まっているから治安も良い。何より、連れのために日本語対応ができる五つ星ホテルは日本人としてこの上なく有難いものだった。いくらフランス好きの羽柴でも、四六時中フランス語での会話は疲れるものがあるのだ。

 ロビーでチェックインをして、スイートルームに入室する。クラシックなデザインと品のあるモダンなインテリアが特徴で、ブルーのカーペットが白い部屋をより美しくしていた。

 キャリーケースを開いて、必要なものを取り出して準備をする。特に羽柴は隠し持ってきた銃や小型ナイフを暗器の如く体に隠した。フランスではタイマーに縛られる必要がない。日本の管轄外だからである。故に、殺しのために来たわけではないが楽な気持ちで殺しができることに高揚感を感じていた。

「探偵の面影もないですね」

「フランスだからね。仕方ないね」

「もの凄く適当じゃないですか」

『ワインが中枢神経に効いているようです』

「酔い覚ましにエンドルフィン買ってきて〜」

「日本より簡単に手に入りそうなところが外国の悪いところですよ」

 流歌と巴が着替えたり少し寛いでいる中、羽柴は「地球の歩き方」を広げてホテル付近の地図を見ていた。時間は有限である以上、羽柴は最大の目的を果たそうとある場所に行くことを決意した。

「そうだ、ルーヴル行こう」

 かねてよりフランスに来たら絶対に行きたいと渇望していた世界最大の美術館。きっかけはダン・ブラウンという小説家が原作の「ダ・ヴィンチ・コード」という映画からだった。あの物語の最大のミソは、美術品や組織、文献まで全て実在・事実を基に書かれていることだ。羽柴はそんなブラウンに強く影響され、ルーヴル美術館に隠された謎があると本気で信じているのだ。

 要するに、羽柴の完全な道楽である。

「じゃ、まずは世界一の芸術でも拝みに行きますか」


 1793年開業、所蔵美術品38万点が広大な館内に展示され年間の入場者数は1千万人をこえるという、まさに世界一の美術館が、このフランス最大の強みと言ってもいい。

 西ヨーロッパの中心的都市のセーヌ川右岸にあるこの建物は、元々は12世紀にフィリップ2世が建設した城塞だった。しかし、全く出番のないまま時が過ぎ、その後はフランス王家の宮殿として使用され、18世紀に当時の王家がヴェルサイユ宮殿に居を移してからは、こうして美術館として使用されるようになったのである。建物の増改築が進み、また1989年にはガラスのピラミッドがメインエントランスとなり一際目を引く施設となっている。

 所蔵美術品は古代から19世紀初頭までの絵画、彫刻、工芸品や古代オリエント、古代エジプト、古代ギリシャなど歴史的文明に関する美術品など幅広い分野の作品が展示されている。絵画では最も有名なレオナルド・ダ・ヴィンチの作品「モナ・リザ」を筆頭にドラクロワ、ダヴィッド、フェルメール、ラファエロ、コローなどの傑作まで鑑賞ができる、芸術好きにとっては聖地なのだ。

 特に羽柴は、ルドンやクリムトのような象徴派が好きだった。見たままの世界よりも、書き手の内面を表した絵の方が美しく感じられた。人の心を元から持っていない羽柴でも、流石に芸術の美しさを感じられる心は持っていた。

 彼は人の精神に執着する傾向があると、いつかの彼を診断した精神科医が言っていた。醜いほど、また美しいほど彼の興味を惹く。羽柴は、人の精神的な美醜に愉悦と快楽を見出していた。醜ければ惨たらしく壊したくなり、美しければ嗜虐的に壊したくなる。そんな彼にとって芸術は丁度良いものであった。

 入館チケットは予約しておかなければ、当日に買おうとしてもすぐ売り切れてしまう。そのために羽柴は巴にハッキングさせて、事前に3人分のチケットを入手しておいた。後で流歌に普通に怒られたが知ったことではない。「防げない方が悪いのだ。」

「ルーヴルのピラミッド入口でそれ言います?」

 羽柴たちはチケット予約者として正面ガラスのピラミッドから地下二階の受付へと下っている最中だった。

『流石美術の宝物庫。ハッキングセキュリティのレベルは高かったです』

「うわーすごいドヤ顔」

 受付に予約したチケットを見せて館内に入る。気分は天竺(てんじく)に到達した三蔵法師の気分だった。ナポレオンホールと呼ばれる正面左右に分かれた三方向の館を繋ぐ分岐点で、羽柴たちはどの方向に行こうか迷っていた。

「どっち行く?」

「フランスに来たんですから中世フランスの絵とか彫刻が見たいですね」

「いいね。でもギリシャやローマも捨てがたくない?」

『でしたら先に左のリシュリュー翼に行ってから右のドゥノン翼に行きましょう。どうせ一日では館内を回りきれませんから』

 話し合った末、羽柴たちは先に北側のリシュリュー翼に行くことにした。フランスの彫刻や絵画を見るためだ。

 地下一階に上がると、まずはフランス彫刻が来館者を出迎えた。正確には、彫刻によって装飾された擬似的な中庭が広がっていたのだ。彫像はもちろん、ベンチまでもが作品の一部である。かろうじて色を保つのは花瓶の中の緑だけで、残りは全て淡い白で染まっていた。特に、フローラと名付けられた女性の彫像は綺麗であった。肉体美というより、彼女の身体にまとわりつく布がリアルで、彼女の動きで波打つ絹布を鮮明にイメージさせる。

「パントマイマー紛れてたりしねえかな」

「飛び蹴りすれば分かりますよ」

「嫌だよ。靴が白くなる」

「流石正爾さん。人の怪我より靴の心配ですか」

『そこに痺れて憧れます』

「憧れないでください。ツッコミ要員が足りなくなります」

 中庭を通り、動かぬ白磁の人達に見送られながら上階へと向かっていく。日本でいう一階ではゴシック彫刻が部屋ごとに鎮座していた。キリスト関連の彫像や葬儀・記念碑の彫刻、または古代メソポタミアの彫刻まであった。立ち止まって長居することなく、あくまでマイペースに館内を巡っていく羽柴たち。その顔は純粋にフランスを楽しんでいるようで、日本の事務所や事件とはまた違っていた。一人で来たらこのような事にはなっていなかっただろう。羽柴は、無自覚にも他人との時間の中で普通の男のように見えていた。





そんな平和が吹き飛ぶまで、あと一時間――――。

フランスに日本語対応のホテルがある時点で、フランスではフランス語しか話しちゃいかんとほざいてるフランス人を論破してるやん。

ウケる〜w

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