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死人に口も人権もなし

死体損壊罪?

侮辱罪?


ちょっと何言ってるか分かんないですねえ。

「ぎゃああああああああああああ!?」

「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


 趣きのある和室は、異界の如く混沌としていた。

 負傷して気絶している日下部のSPたち、驚愕する日下部を含めた水越たち、いつものが始まったと静観する流歌と巴、狂ったように笑うアンフェールと狂ったように畳の上で悶える日柄。

 アンフェールが撃たれたと思えば、逆に日柄の手と顔が負傷した。激痛の中で、何故自分が重傷を負っているのかを考えた日柄は、その答えに辿り着いた。

(そうか、銃に最初から撃った人間が怪我をするよう細工していたな・・・ッ!)

 歯が砕けそうなほど噛み締めながら、アンフェールを見上げた。照明の逆光で、妖しく光る瞳以外が影で塗りつぶされたアンフェールに、日柄はつい直前まで抱いていた憎悪が鳴りを(ひそ)め、痛みも忘れて怯えた息を漏らした。


「さて、どう殺したものか」

「え、殺すんですか?」

「あ? 当たり前だろ。これがこの仕事一番の楽しみと言っても過言ではない!」


 アンフェールこと羽柴は、今日で一番のテンションだった。よくよく考えれば、最近は物騒な事件がほとんどなかった。猟奇殺人の死体も見れていないし、命が脅かされるようなスリルもなかった。だから彼は今、命を奪う高揚感に酔っていた。普段からドロドロに溶けて機能していない理性が、より液状化して雨と共に排水溝に流れていくような、そんな感覚が彼の脳内を満たしていた。

「でも、殺してしまったらどう後始末するつもりですか?」

「そ、そうだ。俺を殺したとしてその後はどうするつもりだ」

「安心しろって。アテはあるからさぁ」

 これから殺す人物に対して「安心しろ」と笑えないジョークを交えながら、アンフェールは日下部の前にしゃがみ込んだ。


「取引、といこうや爺さん」

「取引だと?」

「アンタはよくよく考えればそこまで悪くない。先代の尻拭いさせられてるようなもんだ。悪事を隠しているというより、他人の秘密を守らされていると言っても過言ではねえ」


 日下部は水越たちを口封じしようとしたが、それは秘密を守るためであり、自分の悪事を隠すためではない。そもそも、日下部は人を殺してまで隠す悪事などしていない。羽柴の事務所に盗聴器を仕掛けたのも、秘密を守る上で当然の行いだ。羽柴はここにいる中では、誰よりも日下部に理解を示していた。


「そこでだ。今からコイツを殺すから後処理よろしく。その代わり、ロッキード事件の真相に関してアンタだけは無罪にするよう根回ししてやる」

「そんなことが可能なのか、アンフェールには」

「俺を誰だと思ってる? 日本史上最も事件を解決し、人を殺している探偵だぞ。それに、地獄の悪魔は契約を絶対守る。聖書にも絶対きっと多分書かれている」


 読んだことねえけど、と茶化すように言う羽柴を日下部は信用しようと思った。人は、人を騙す時はさも真剣ですと言わんばかりの表情と声で騙してくる。しかし目の前の狂人は、騙す気すら無い緊張感ゼロの言動で言ってきた。その採算の合わない行為が、逆に信用できると日下部の政治家生命で培われた経験と勘がそう告げていた。

「・・・分かった。ただし、他の無実の社長や政治家の分の弁明も頼む。あとの汚職野郎どもは好きにしろ」

「・・・・・・アンタ、大臣になった方がいいんじゃね? 少なくとも次期首相候補より支持率得られるぞ」

 ここに取引は成立した。流歌は日下部の拘束を解いた。そして、羽柴は流歌を連れて日柄のところへ連れて行き、銃を構えさせた。

「今そこに死にかけの的がある。丁度いいから殺人処女を卒業してみよう」

「え?」

「なんて、冗談冗談! そんなことしたら俺の楽しみが奪われちまう。それに・・・」

 羽柴はマスク越しに、目が合っているかも分からないマスク越しに、流歌の耳元で囁いた。

「お前が初めて殺すのは、俺であって欲しい」

「!?・・・絶対イヤです」

「ギャハハハハ! 父親想いの娘だ。これか? これがファザコンって奴か?」

『オクラよりドロドロな父愛ですね。それより、早くしないと日柄さんの鮮度が下がっちゃいますよ』

 巴に指摘されてハッとした羽柴は、ポケットから六枚のコインを取り出した。そして、そのコインを彼の口に捩じ込んだ。

「むごッ!?」

「金の亡者にやる金なんて(びた)一文もねえ・・・と言いたいところだが、六文銭ならくれてやらなきゃな。嬉しいだろ? 血涙流して喜べよ」

 今際の際の日柄に送った笑えないジョークを最後に、羽柴は「せーの!」と掛け声をして日柄の顔面に飛んで踏み潰した。頭蓋と肉が潰れる音が骨身に染みる。羽柴の気分は最高潮に達しようとしていた。

「あ、忘れてた」

 羽柴は(おもむ)ろに銃を日柄の死体に向けて、胸目掛けて6発撃ち込んだ。一体何の意味があってと水越たちは思ったが、流歌は呆れ笑いをするだけだった。


「金と一緒に銃弾もあげてやらないとね。え? そんなこと望んでなかったって? よく言うだろ"死人に口と人権なし"って」





 岩井戸による日本政界史上最大の事件の真相が公開され、当時の関係者や甘い蜜を啜っていた多くの有力者はバッシングを受け、逮捕・失脚・自殺までする程の大ニュースとなった。契約通り、日下部は最大限の弁明が羽柴によってされ、少し影響力は下火になったが政治家として健在である。

 水越たちは正体をバラすこともなく、匿名で一時的に盗んだ金を元の持ち主に返した。その内の汚い金は、これも匿名で警察に証拠として提出された。途中かなりごちゃごちゃした展開となったが、結果的には欲に眩んだ阿呆を除いて大団円で幕を閉じた。

 水越の依頼として証拠公開に助力した羽柴たちは、彼女らから報酬を得ることはしなかった。その代わり・・・・・・


「ちょっと、その玉ねぎまだ火通り切ってねえだろうよい」

「正爾さんが私に悪い冗談を言った罰です。大人しく辛さを味わって下さい」

「お前なんかドSに磨きかかってない? お父さん悲しいよ。元のドMな流歌ちゃんに戻っておくれ」

「娘の性癖を捏造しないでください。生で食べさせますよ」

『マスター、レモンサワーが来ましたよ』

「お、ナイス。塩ちょっと入れといて〜」


 羽柴たちは、事件解決の打ち上げとしてちょっと良い焼肉店に来ていた。羽柴は早速流歌に罰と称して生焼けの玉ねぎを食べさせられ、巴は羽柴のために塩を少し入れたレモンサワーを用意していた。円卓状のテーブルの上で、三人が囲むように肉や野菜を焼いている。ちなみにこの打ち上げ代は、水越の報酬でも日下部の金でもない。

「いやぁまさに泡銭(あぶくぜに)ってヤツだったな。殺した日柄の口座と勝手に売り払った家の金で最初の日下部の報酬の数十倍の収入になったんだからヨォ!」

 羽柴は事件の後、死んだ日柄の預金と家を勝手に奪い、それを全て事務所の金にしたのだ。後処理は日下部がやってくれたため、誰にも気づかれていない。政治家様々である。

「本当に"死人に口も人権もなし"ってことですね」

「オレが殺した奴の金なんだから俺のもんだろ」

「ジャイアニズムの成れの果て?」

『もしくは龍が如くですかね』

「誰が西谷だ。そんな歳食ってねえわい」

 日本の大きな闇の一つを暴いたというのに、今日も羽柴たちは混沌を楽しんでいた。羽柴に酒を飲まされぐでんぐでんになった流歌、そんな彼女に堂々と綺麗な箸でセクハラをかます羽柴、二人を見ながら静かに日本酒を飲んで愉悦を味わう巴。ここ数日日本を渦巻く台風の中で、彼らだけは今も目となっていた。

コナン観ながら「アンフェールならここでこうする」って考えるのすごい楽しいですよ。

作者もよくドン引きしてます。

特に犯人を庇った人を・・・おっと、この話はいつの日か。

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