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忍びのルート

推理というか活劇だな岩井戸回

応接室のような、一般家庭には少ない年季があり荘厳な雰囲気を醸し出している部屋に入り、それぞれ対面に座る。磨かれたガラスと木枠のテーブルは、幅が広くて互いの距離を遠ざけていた。自分と相手の間合いを物理的に離している。客を警戒している証拠だ。SPらしい。

「あいにく茶は出せませんが、日下部さんの侵入計画の話ですよね」

「アンタがまだ日下部のSPだった時に、蓮見と水越に内部情報を流してたんでしょ?」

「その通り。だから私は頃合いを見計らって彼の護衛を辞めたんです」

「へぇナルホドね。・・・・・・ところでさぁ、一個聞きたいんだがアンタが水越たちに協力した理由は何?」

「理由ですか?」

「蓮見は家族持ちだが秘書だったから金に困ったりとか日下部への復讐とかはない。恐らく正義感とかそんなもんだろう。水越は知っての通り。じゃあ、アンタはなんだ?」

 直球な羽柴の言葉に、日柄は少し悩む仕草をした後にこう答えた。

「人生でまたとないチャンスと思ったからです。誰しも認められたかったり、何かに名を残したかったり、そんな欲求があると思います。私は長年SPを務めてきましたが、それが世間や歴史に名を残すことなどありません。まぁ、その時は有事が起きた時なので無い方がいいのでしょうが。

そんな時に、まるで少しの間だけでも正義の味方になれるチャンスが私に転がり込んできました。だから私は一生に一度もないこの計画に乗ったんです」

 両手を掲げて嬉々として話す。彼の動機は、水越と肩を並べるほどに大きなものだった。悪く言えば私欲だが、実に人間らしくて良い。正義や使命よりはマシである。

「日下部邸での手法は?」

 侵入方法は分かっていたが、実際の細かい当時の様子を聞くには絶好の機会だった。しかし彼からの答えは少し想像とは違った。

「アレは、全部私一人で行いました」

「・・・! へぇ、マジかい」

「屋根に登り、蓮見くんから借りた靴を手に嵌めて足跡を作りルートの工作を終え、あとは日下部議員のいない時に金庫から盗み取って塀の外へと投げる。これだけです」

 これは盲点だった。あんな邸宅に単身で入るのは難しいと踏んで協力者がいるとは思っていたが、敷地内での出来事は全てこの日柄一人で行われていた。蓮見や水越が実行したのは、計画し、靴を貸して、塀の外で受け取ることだけ。他の政治家や企業でのやり口も、このように複数犯を装うやり方だったのだろう。

「一番聞きたいことが聞けて良かったよ」

 そう言うと、羽柴は何の前触れもなく日柄に手を差し出した。握手の申し出である。日柄はゆっくりと羽柴の右手に自分の右手を添えて、優しく握り合った。

「今日はありがとうございました」

「いやいや〜、こっちが押しかけ妻みたいなことしちゃったからねぇ」

 ヘラヘラしながら羽柴たちは部屋を出て玄関で靴を履く。先に巴が外に出て、流歌が続き羽柴が扉を閉めようとした時、たった一言だけを残していった。

「あぁちなみに、その時計いいの使ってんね」




―――羽柴探偵事務所―――

 羽柴は「疲れた」とソファに寝転がり、流歌は彼に膝枕をして巴は温めたアイマスクを掛けてあげていた。普段ならやらない回りくどいことをして溜まった疲労が蒸気と共に天井に昇っていく。このまま気体より軽くなって、キリストみたいに昇天したくなってきた。一種の倦怠感による現実逃避である。最も、彼の精神状態なら「感じる」程度ではなく幻覚や幻聴にまで昇華される。実際に羽柴は、聖女が自分の目を覆い隠し、癒しの神秘をかけてくれていると本気で錯覚していた。聖女テレサの法悦をその身に受けていたのだ。

「正爾さんならもう分かってると思いますが、今回の依頼どう決着つけるつもりですか? 依頼人が黒なのは間違いないですが、私たちは彼らを日下部さんの前まで引っ張って行かなければなりませんよ?」

「・・・最近大掃除したっけ?」

 何やら意味深なことを言われた流歌だが、何のことかは推し量れなかった。代わりに何かを察した巴が自分のカスタムしたパソコンと小さいアンテナを取り出して、何かを探知し始めた。

 そして、何かを見つけた巴はドライバーを持って事務所内のコンセントや時計の裏など、あらゆる場所を見て回った。10分ほどして戻ってくれば、10台を優に超える盗聴器が回収かされ、解除されていた。誰が仕掛けたかは、言わずとも分かっていた。

「これでよりハッキリしたな。しかしよくこんなに仕掛けたな。オレの盗聴器とかも入ってね?」

「なんで自分の事務所に仕掛けてるんですか」

「そりゃもうお前らのあんなことやこんなこと聞くためだけどぉ?」

「何なら一つここで言ってやろうかい?」と厭らしく手をワキワキさせる羽柴の口を、流歌は全力で塞ぎにかかっていた。その反応からするに、本当に部屋で一人でするあんなことやこんなことがあったらしい。斯くいう巴もあるのだが、別に羽柴になら知られていいと考えている。ただし、それを第三者に明け透けにされることだけは不愉快だった。巴が盗聴器を回収し無力化したのも、半分は羽柴の指示、もう半分は自分の考えによるものだった。

『次はどうしますか?』

 口を塞がれてバタバタと暴れる仕草をして遊んでいる羽柴に巴が問いかけた。


「プハァッ・・・・・・んなの決まってるじゃん。昔のバラエティらしく行ってみるのさ」






 その日の夜10時。

 蓮見は妻と子供を寝かせて台所でチルタイムと洒落込んでいた。今日は唐突に核心に迫られ、されど協力してくれそうな人たちと話した。今後どうなっていくかは見当もつかないが、なんとかしていこうと決めた。

 少し温めた苦めの紅茶を飲んでいると、後ろからカタリと音がした。子供か妻が起きてきたのかと振り向こうとした瞬間、首筋にちくりと痛みが走った瞬間、蓮見の意識は闇に堕ちた。

 時を同じくして、水越の家でも異変は起きた。そろそろ寝ようとベッドに腰掛けた瞬間、ベランダから何か動く影が見えた。恐る恐るカーテンの隙間から覗くが何もいない。窓を開けてベランダに出ようと顔を覗かせたその時、下に寝そべっていた何者かが起き上がり水越を拘束して口にハンカチをあてがった。息をしようと吸う度にツンとした刺激臭がして、段々と眠気に近い形で意識が遠のいていった。

 日柄の家では、侵入者に気付いた日柄が警棒を構えて待ち伏せていた。日柄の携帯に、侵入者を知らせる通知とバイブレーションが来たのだ。寝室の入り口足音が近づいてきて、今だと音の主を殴ろうとしたが、それは空振りに終わってしまった。音は足音ではなく、廊下に置かれたスピーカーが正体だった。

 気づいた頃にはもう遅く、日柄の胸に何かが打ち出された。軽い衝撃と針のような痛みに、日柄は麻酔弾を撃ち込まれたことを悟り、そして力無く瞼を閉じた。


「ん・・・・・・?」

 蓮見は見慣れた風景の中で目を覚ました。嗅ぎ慣れたヒノキの床と鹿おどしの音、鯉が作り出す水の流れ。蓮見は、日下部邸の大きな広間で拘束されていた。隣を見れば、先に目覚めていた水越と日柄も同じように拘束されて拉致られていた。

「水越さん、日柄さん!?」

「蓮見さん・・・!」

「この三人がここに攫われたってことは」

「そうだ」

 聞き間違えるはずもない低音で、重みのある声が襖が開かれたと同時に聞こえた。ここの主・日下部だ。その隣には、変なマスクをした三人の男女が立っていた。

「よくやってくれた、アンフェール」

「アンフェールだと・・・!?」


「やあやあやあ! 半日ぶりかなお三方」

ボカロのボーカルミックスってムズすぎない?

経験が足りなすぎるんだろうなぁ〜。

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