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50年前の遺産

登場人物はフィクションです。

「私は、日下部議員で3年秘書をやっていました。その中で他の政治家や企業の方と交流をすることが多く、議員の側にいる私にも白黒関係なく情報は流れ込んできました」

「で、政治家たちの汚職に絶望して半沢直樹ごっこ始めましたってか?」

 茶化した羽柴だが、蓮見は怒るでもなくしかして真剣な眼差しだった。羽柴の言葉に彼はかぶりを振る。

「いや、汚い金程度だったらこんなことしようなんて思わなかった」

『と言いますと?』

 立ち上がった蓮見は席を外すと、数分して二階の自室からとあるファイルを持ってきた。

「それは何ですか?」

 テーブルの上に広げられたものは、一般からしたら少し難解だが、羽柴たちからしたら容易く内容が分かるものだった。だが目を見張ったのは、その内容の重大性だ。

「この資料は、とある日本政治史上最大の冤罪事件が書かれています。その名は―――」





「―――――ロッキード事件」




 ロッキード事件。

 米・ロッキード社製の旅客機トライスターの売り込みをめぐり、日本の政財界に巨額の賄賂がばらまかれたとされる事件だ。田中角栄氏が首相在任中だった1972年に起きた汚職事件で、多くの政治家はもちろん、田中角栄も逮捕された。1976年7月27日に受託収賄と外国為替及び外国貿易管理法違反の疑いで逮捕されその後保釈されているが、現代になってもあの事件は賛否両論分かれていて、冤罪事件だった可能性は少なからず残り続けている。

「その事件と今回の窃盗事件に何の関わりがあるのですか?」

 蓮見がファイルを一枚めくると、公文書のようなものが挟まれていた。どうやら秘密裏に傍受した電話の会話記録のようだ。

『例の証拠はもう廃棄してしまった方が宜しいのでは?』

『捨てようとして残ってしまう方が遥かに危険だ。ならば、これは分散して保管した方が安全だ』

『ロッキード事件は世間では田中首相らの有罪で通っていますし、今更真相を探る人もいません』

『馬鹿が。疑問はいつでも生まれ、いつでも探す人間が出てくるものだ。でなければ何世紀も前の事件を調べる人間も居ないはずだろう?』

『・・・・・・おっしゃる通りです。では、これまで通り』

 会話はここで止まっていた。片方の人間は知らない声だが、もう片方は耳に新しい声だった。

「やっぱ日下部か」

 その声は日下部のものだった。政治家が探偵を頼ってくる時点できな臭いとは思っていた。尾行してきた時点で、暗い何かがあるのは確定的だった。

「でもその事件って約50年前ですよ。日下部さんはその時は議員じゃないですよね?」

「確かに、議員はまだ政界にすら進出していなかった。だが・・・・・・」

「親父が議員だった。そだろ?」

 羽柴の推理が当たっていたのか、蓮見は微笑むだけだった。巴は改めてハサミのプロフィールを見ると、続柄で父の欄に日下部陽一(よういち)と書かれているのを見つけた。田中首相時代には、彼は現役の自民党内閣議員だった。

「大体わかった。日下部の親父時代の政治家や協力者の企業は、揃って影響力がデカすぎる田中角栄を謀略で潰した。その証拠は捨てるには余りにも大きくて危険なため、こうして受け継ぎながら隠し持ってるってわけだ」

「・・・・・・えぇ、その通りです」

『でも、なんでそれを暴くために窃盗を? 田中首相の信奉者か何かですか?』

 巴の疑問は尤もだ。彼らを実行に移させた動機にしては、いささか不思議なのである。現在の政治家の汚職などならともかく、そんな数十年前の政財界の事件の真相を追い求めた理由は、正確には明かされていない。そのことに対して、蓮見は口を固く閉ざして話そうとはしなかった。

「・・・すみませんが、それについては別の人に聞いてください」

「あ? 全部話せって言ったんだが?」

 羽柴の威圧に筋肉が強張るも、それでも話すことだけはしなかった。

「情報管理の約束で、私は先述した情報のみ喋ることが許されてます」

 これは決して、羽柴たちを信用していないからではない。()()はもし捕縛された時用に、情報を分割して取り扱っていたのだ。なので、もし捕まっても全貌が明らかになることはない。考えられた対策である。

「・・・あっそう。じゃ何かあればこの名刺の番号まで」

 諦めた羽柴は蓮見に名刺を渡すだけにして家を立ち去った。怒涛の展開に揉まれた蓮見は、家族と優しく抱き合って名刺を見つめていた。




 それから羽柴は、再び車を走らせて文京区へと立ち寄った。相変わらず車は羽柴たちを尾行している。青看板を見上げれば、車は文京区の高速道路を降りようとしていた。

「文京区・・・・・・もしかして次は水越さんの所ですか」

「コロンビア〜!(正解)」

「当たってることをコロンビアで表現しないでください。ハンドルから手離しちゃってます」

 助手席から流歌が手を伸ばしてハンドルの舵を取る。羽柴はただアクセルを踏んでいるだけだ。

『もう粗方真相は分かったのに、これ以上何かする事ありま・・・・・・体裁ですか』

 羽柴の考えに辿り着いた巴に、羽柴は片手で正解のサインを作って見せた。彼が未だ捜査を続ける理由は、後ろをついてきている監視者にある。まだ容疑者の一人しか聞き込んでいないのに帰れば、残りの二人が怪しくない理由を説明しなければならない。なので、怪しまれないよう形だけでも残りの二人に突撃しなければならないのだ。

 それに、他の所へ行けばいざというときの切り札も()()()もできる。全て打算の下に行動していた。

「察しのいいお前らならもう今後の展開とか見えてると思うけど、そうは問屋が下ろさない気がムラムラしてんだよねぇ」

「どんな異常快楽殺人ですか?」

 真面目さのかけらも無い緩んだ車内で、そんな空気とは裏腹に流歌の中では、得体の知れない不安というか、違和感というか、何か形容し難いものが引っかかっていた。今回、侵入経路は羽柴が自力で見つけたが、名簿を見て犯人候補が上がるような単純な事件なのだろうか?

 もしそうなら、羽柴探偵事務所に依頼せずとも自力で犯人の一人くらい特定できていそうなものだ。正直、探偵の手を借りるまででもなかった。日下部が馬鹿なのか、それともまだ自分たちが見落としている可能性があるのか。その可能性の手がかりすら思い当たらない流歌には、ただ邪推をすることしかできなかった。

「目的地、到着です。車内にお荷物をお忘れなきようお願いいたします」

 車内アナウンスの真似事をしながら路肩に車を停めた。少し階段を登った先にある5階建てのマンション。そこの303号室に水越は居る。ただし、引っ越したりしていなければの話だ。もし既に転居していれば、さらに面倒臭いことになってしまう。

 3階のエレベーターが小気味良い音を立てて開き、コツコツと三組の靴音が響いた。インターホンが付いているが、羽柴はあえて早めのテンポのノックをした。すると、部屋の主はドアチェーンを付けたまま扉を開けた。

「はい、どちら様ですか?」

 そこにいたのは、水越だった。引っ越さずにまだここに住んでいたようでよかった。

「あいドモー。蓮見くんの紹介で来やした羽柴探偵事務所の者でーす。岩井戸事件の動機について、喋ってもらいまひょか」

3月から新たな案件が始まるので憂鬱

てことで環境に慣れるために数ヶ月は創作活動を休止します(予定)

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