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ウィーク・イン・ホーム

最近羽柴がまともみたいになってきている気がしたので、ここらでブーストかけます

 買い出しのために一人家を出ていた蓮見は、自宅のガレージに車を停めて家に帰ってきた。ビニール袋を片手に鍵を開けようとするも、何故か鍵が開いている。閉め忘れかと思いながらも入るも、怪しいくらいに家の中は静かだった。妻と子供が自分のいない間に出かけたかと思ったが、もしそうなら連絡の一つくらい寄越すはずだ。

 恐る恐る、家主であるにも関わらず忍足で廊下を歩く。すると、リビング近くに来た時にキッチンからガタンと物音がした。警戒しながら顔を覗かせれば、見知らぬ三人の男女が妻と息子を拘束していて、しかも頭に銃口を突きつけていた。二人は恐怖に染まった顔で布の猿轡を噛んでいた。ご丁寧に、サイレンサーまで付いている。

志帆(しほ)! (あゆむ)!」

 自らの危険も顧みず三人―――羽柴たちの前に姿を晒した蓮見。そんな彼を見て、羽柴は愉悦に満ちたニヤけ顔になる。

「やあやあやあやあやあ、蓮見くん。ちょっと君に聞きたいことがあってねぇ」

「計画がどんなものかと思えば、何ですかこの悪役ムーブ」

「おだまりでやんす」

 緊張感のかけらもない羽柴と流歌のやりとりに、蓮見は違和感を抱く余裕もなかった。今はただ、大切な家族の安否と侵入者たちの目的だけしか彼の目には映っていなかった。

「・・・僕に、何の用だ」

「仕事の都合でね、君から証言が欲しいのさ。な〜に、単純な質問だ。―――岩井戸は?」

「・・・岩井戸?」

 蓮見の顔には困惑だけが浮かんでいた。岩井戸の存在が初耳かのような反応だった。汗が増えたり、呼吸が変わったりもない。羽柴から見ても、舌を巻くポーカーフェイスだった。


 だが、それが逆に不自然でもあった。

「ぐぁッ!?」

 巴に銃を渡した羽柴は、蓮見の胸ぐらを掴み上げて壁に叩きつけた。食器が振動でガシャガシャと揺れ、スプーンやフォークは入れ物ごと横転した。

「ぐ・・・何を・・・」

「汗も表情も変わらねえ。中々のポーカーフェイスだよ。だがよぉ、その変わらなさが逆に怪しいんだわ」

 普通なら、知りもしないことを聞かれれば疑問の念が浮かび、表情はともかく汗は引くものだ。しかし、蓮見はそれすら変わらなかったのだ。

「だから・・・岩井戸なんて人・・・知らないですってッ!」

「へぇ〜?そりゃ不思議だな。岩井戸を人だと断言できるんだ〜」

「ッ!」

 羽柴はこれまで一切岩井戸が人の名前だとは明かしていないし仄めかしてもいない。公になっていないから一般人が知ることもない。地名や物ではなく人物名を真っ先に浮かべた時点で、蓮見が黒寄りなのは明白だった。

「別に警察とか殺し屋じゃねえんだ。ゲロった所で身柄拘束とか引き渡したりしねえよ」

「・・・・・・ッ」

「だが真相くらい話してくれや。でないと、お前はまた独身に戻ることになるぜぇ?」

 羽柴が流歌たちにアイコンタクトを送れば、銃の撃鉄が引かれ妻たちの頭に銃口が押しつけられた。その姿を見て、沈黙を貫けるほど蓮見は人でなしではなかった。

「・・・・・・分かりました、話します」


「・・・・・・だそうだ。ハイ、お疲れさんしたー!」

「・・・・・・・・・え?」

 一気に緩和した空気に、蓮見は脳をショートさせられた。さっきまで怯えていた妻や子供はケロッとした顔で解放されていて、何が何だか分からない。

「お前が所帯持ちと知って、口割らせるにはこれが一番面白いと思ってよぉ。嫁さんと息子には芝居を打ってもらった。悪いようにはしねえって約束してな」

 悪戯っぽく笑う羽柴の後ろから、妻の志帆が蓮見に向かって早足で近づいていく。力みがある姿勢と怒りの表情が、彼女がこれから何をするかを物語っていた。パァン、と小気味いい音がした。志帆が蓮見を平手打ちしたのだ。息子は彼の足にしがみついた。

「馬鹿! なんでこんなことを・・・ッ」

「志帆・・・」

 グレーなことをしていたことを隠されたことへの怒りと心配が如実に現れていた。なるほどやはり身内には秘密だったようだ。謝罪しながら涙ながらに抱き合う家族を見ていた羽柴の心の中は・・・


(何これヒューマンドラマ? 時間は有限だから早く次行きたいんだけどぉ?)


 感じるものなど一つもなく、ただ目の前の感動シーンを茶番だとしか思えなかった。心の震えなどなく、ましてや涙も込み上げてくるものもなかった。羽柴の様子を見た流歌も、またダメだったかと微かに息を吐いた。

「あー、それとこれなんだが・・・」

 破裂音がしたと思えば額にベチャリと何かが飛散した。手で拭ってみると、ただの赤い液体だった。羽柴を見れば、蓮見に向かって銃口を向けていた。

「血糊ってホントに便利だと思わないかい? これさえあれば死んだフリとか生理休暇の証拠捏造もできるぜ」

「セクハラですよ」

「だったら嫌がっていることをアピールして下さーい。ハロージェームズ」

「Phasmophobiaやってます?」

 急に瞬間移動して別世界に飛ばされたような変わりようが、蓮見の疑心を刺激した。しかし、妻と息子の様子が彼らの安全性を物語ってもいた。悩んだ末に蓮見は、彼らに秘密を打ち明けることにした。


 リビングの一対になったソファで蓮見家と羽柴たちに分かれて座った。生憎と、粗茶を出すような状況でもないためテーブルの上には何も無い。

「さて、話していいっすよどうぞー」

 一切蓮見の空気を読むこともしない奔放さに、本日何度目か分からない困惑が蒸し返してくる。だがそれではいつまで経っても話が進まないため飲み込むことにした。

「・・・」

「言っとくが、お前のことだけ話してくれりゃそれでイイ。あとは()()にでも聞くからよぉ」

 何気なく放たれた羽柴の一言に、蓮見以外の全員は無反応だった。ただ一人、蓮見だけが言葉の核心に気づいていた。羽柴の言ったことは半分は推理による確信、もう半分は勘とブラフが織り込まれていた。そんな完全ではない羽柴の半ば狂言が、彼自身の狂気や雰囲気で偽りの確信を生む。故に、蓮見の口から言葉が溢れた。

なんか自重してね?

海外ならもっと暴走できるかな?

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