Black prank
ミステリーだからと言ってミステリーとは限らないのだよ。
今度は瑞樹が驚く番だった。彼は自分を単体だと名乗った。何故、探偵がこんな辺鄙な田舎の廃校にいるのだろうか。ここには曰くなんて何もないはずだ。過去に未解決の殺人事件とかがあったなんて記録は、当時でも聞いたことはない。そうとなれば益々、この探偵は自分たちにとって黒寄りの人間だろうと、瑞樹は判断した。
瑞樹「都会の探偵が、こんな場所まで何の用すか?」
羽柴「ん〜・・・まだ明かすには早いと思ってたんだが、もうネタバラシの時間かな。奴らも聞きたいだろうし」
羽柴の言葉に瑞樹が体育館の入り口を見ると、春樹たちと見知らぬ女性二人が歩いてきていた。
瑞樹「何だよお前ら。暗闇なのをいいことに同人誌的展開でもヤッちゃった感じ?」
勇人「笑えねえ冗談やめろ! すげぇ怖かったんだぞこちとら!」
沙也加「囮って受験より冷や汗出るんだよ」
圭「原始人に戻った気分」
春樹「悪口罪でグラウンド引き摺り回しの刑に処す」
瑞樹「辛辣すぎない? ねぇ辛辣すぎない?」
リラックスしているところを見るに、どうやら思っていたほど最悪の展開ではないようだ。むしろ、生命の危機に瀕するようなことでもなかったらしい。改めて、今回の真相を問いただすべく羽柴に質問をぶつけた。
瑞樹「説明・・・してくれんだよな?」
羽柴に指を向けて、まるでチンピラのように眉間に皺を寄せた。しかし、それでも目だけは蛇のように羽柴を捉えて離さない。羽柴は瑞樹の前からステージに移動し、その縁の埃を払って座った。今回の馬鹿騒ぎの実行犯であるはずなのに、探偵らしい芝居が瑞樹たちを犯人のように思わせる。
羽柴「まずはそこの二人を紹介しよう! 我が探偵事務所の助手兼義娘の星宮流歌と、調査員の西園巴だ」
羽柴が胡散臭そうに手を向けることで、全員の視線が二人の美少女に注がれた。
流歌「みなさん、今回はお騒がせしてすみません」
巴『素人にしてはみなさん良い動きでした。もっと度胸があれば調査員として一人前になれるでしょう』
瑞樹「マジで!?」
圭「探偵に夢見るな。安定した職に就きなさい」
「お前は俺のお袋かよ」と嫌な顔をして苦言を漏らす彼らを面白そうに見ながら、羽柴が話を続けた。
羽柴「今回は珍しく事件じゃなくて調査兼協力の依頼があってねぇ。内容がちょっと面白そうだから仕事を受けたのさ」
春樹「調査兼協力?」
羽柴「まぁ調査は協力の必須事項っていうかね。お前らの所在を調べる必要があったのさ。で、具体的な俺らの役割は、お前らを此処に連れてきてちょいとビビらせるだけ」
「それだけ?」と言いたいような表情を向けられた羽柴は、内心クスクスと笑ってしまいそうだった。だが、今回は笑うわけにはいかない。このミステリアスな雰囲気を維持したままフィナーレまで持っていかなければならないのだ。
羽柴「依頼人が、お前らに会いたいんだってよ。だが普通に会うんじゃ面白くないしらしくない。そこで、俺ら羽柴探偵事務所が計画してお前らの居所を割り出して拉致。水ダウみたいなドッキリを仕掛けたってわけ〜」
心底面白そうにニヤニヤしているそのツラを無性に殴りたくなった一同。だが、唯ならぬ妖気のような禍々しさが、彼に攻撃すればどんな末路を辿るかを容易に想像させた。
羽柴「つーことで、そろそろ黒幕さまのおな〜り〜〜」
パチパチと軽い拍手をして出迎える。羽柴の声を合図に、ステージの袖から一人の男が姿を現した。小柄な体格、フレームの細い眼鏡、記憶に焼きついて離れることのないお人好しそうな相貌。彼らには到底忘れることのない存在が、実に十年ぶりに目の前に生きて現れた。
「清野先生・・・?」
清野「よお! お前らロクな大人になったか?」
誰が呟いたか分からない声に、清野は昔と変わらない声色で応えてくれた。
清野先生は、2年間瑞樹たちの担任を務めた体育教師だ。学校が閉校してからは同窓会で数度会ってから一切音沙汰無しだったが、どうやら相変わらずだったようだ。彼らの胸中には、かつての恩師がこんな壮大なドッキリを仕掛けたことよりも、無事に生きていたことに対する喜びの方が大きかった。4年前のコロナのこともあり、生死すら不明だったのだから。
清野「久々に会ってみようと思ってな。でも普通に会っても面白くねえし、そもそも連絡先とか知らないから探偵さん使ってサプライズついでにビビるお前らでも見物しようってなってな」
春樹「趣味悪すぎるだろ」
清野「あと今回の費用はお前らも含めて割り勘ってことにしてあるから」
『それだけはマジでふざけんな!』
少し強引だが運命の再会をした彼らを、羽柴たちは壁に寄りかかって見ていた。楽しそうな彼らに嫉妬することはない。羽柴は、親の顔とか名前はもちろん、学校に通っていたことがないのだ。彼の最初の記憶は、日本中を駆けずり回り、未だ世に公表されていない犯罪者や日本社会にとって不利益な国内外の人間を、晒し上げて社会的に抹殺したり物理的に抹消したりしていたことだ。
それ以前は特に記憶がない。思い出したいとは思わないが、あんな彼らの青春を見せられるとちょっとは知りたくなる。だが生憎と、自分の記録は消されていて辿る足跡なんてどこにもない。
気が向いたらにしておこう。どうせ今の自分には必要ではない。羽柴はそう結論付け、己のオリジンに対する興味を闇の中に保留した。
集落へと続く坂道を降りた彼らは、近くの空き地に置かれた清野先生の車に乗り込んだ。今回拉致した彼らの中には県外に在住の人間もおり、一日で家に帰すことは不可能である。それを見越して、巴は彼らの仕事先に成りすまし電話をして有給を取っていたのだ。今日は既に深夜を回り土曜の2時。有休を考えても来週の水曜日までなら余裕で彼らはかつての先生と生徒に戻っていられるだろう。
ちなみに依頼料は割り勘になった。圭たちも最初は渋っていたが、こんな機会を設けてくれたということで感謝料代わりに払ってくれた。
清野「じゃあ、今回は有難うございました」
『ありがとうございましたー!』
清野を除いた全員が20代半ばのはずなのに、その姿はより子供らしく映った。事件も殺し甲斐のある犯人もいないが、そんなに悪い気はしなかった。手を振って、遠ざかっていく彼らを見送る。
「正爾さんもよく受けましたね、今回の依頼
「だってよぉ、一般客が来たと思えば"教え子たちを見つけ出してドッキリしたい"って言うんだぜ? こんな面白そうな仕事は中々ないじゃろ」
羽柴たちも車に乗り込み、遅れて後を追うかのように山を降りていった。巴は寝息を立てており、流歌も窓に頭を預けてうたた寝をしている。運転している羽柴は眠らまいと、首筋にカフェインを注射して眠気を覚ましていた。このまま高速道路のパーキングエリアに着くまで、二人を硬い揺籠で送り届ける。車のライトが舗装された山道を照らし、緑の生い茂る山際の向こうは微かに白くなっていた。時期に夜が明ける。一世一代の馬鹿騒ぎを企てた羽柴は、いつもとは違う穏やかな笑みを浮かべていた。
やっぱ、思いつきのこーゆう緩い回より凝ったトリック考えてる方が筆が進むわ。
あと、意図せず気づいたら伏線ぽいこと書いちゃってたね。
・・・・・・この伏線いつ回収しよう?