淑女の楽園と助手の第一歩
一応ですが、世田谷区に慧聖女子大はありませんしモデルも世田谷区にはありません。
完全な作者の想像で作られてます。
女子大想像するって絶妙にキメェね⭐︎
-慧聖女子大-
女の園で医学系が有名である慧聖女子大に到着した羽柴は、事件そっちのけで初めての女子大にテンションが上がっていた。ニコニコしながら堂々と正門から敷地内に入っていく羽柴を、道行く女子たちは珍しいものを見るかのような好奇の目線を浴びせていた。普通ニコニコ顔で女子大に入っていく男性を見たら訝しげな怪しい目を向けるが、幸いにも彼の顔立ちが良かったのが功を奏したようだ。
そのまま、観光しているかのように周りの建物や女子を見渡しながら、羽柴の足は大学の事務棟へと辿り着いた。
カウンターにいた事務員に声をかけると、見ず知らずの外部の人間の訪問に一瞬だけ驚いた顔をしたがらすぐにビジネススマイルで応対した。
「本日はどのような用事で本校にいらっしゃいましたでしょうか?」
「オタクんとこの可愛い学生さんが公園のど真ん中で死んでるから、警察に代わって調査にきやしたー」
何の重さもない口調で途轍もなくシリアスな話題を投げかけられて、受付を含めた事務員たちは固まってしまった。脳があまりのショックでフリーズしてしまったのだ。
「・・・・・・・・・・・・・ハッ!す、すみません。急いで学長にお伝えいたします!」
そそくさと電話で学長に要旨を報告しにいく事務員。フリーペーパーでも眺めて時間を潰していると、5分もしないうちに60代後半くらいの年齢の男性が奥から早歩きで近づいてきた。
「初めまして、慧聖女子大学長の西田です。ウチの生徒がお亡くなりになったと聞きましたが、本当ですか・・・!?」
「えぇ、そりゃあもう。隣の駅近くにある集合住宅に囲まれた公園のど真ん中で。喉をサッパーとやられてましたねっ」
不謹慎な羽柴の物言いに普段であれば注意を促すところだが、今の西田学長にそんな心の余裕はなかった。自分の大学から死者が出てしまったのだ。人としてもそうだし、学校としてとか諸々の事情も含めて気が気でなかった。
「それで、貴方は警察関係者の方ですか?」
「探偵やってます羽柴っス。儲かる仕事が警察から来たんで調査に来ましたー」
この馬鹿、内心にあるものを包み隠さず全部吐き出した。
残念ながら、今回はストッパー役の支倉や流歌は現場に置いてきてしまっている。よって、彼を止められる強者はここにはいなかった。
「う・・・・・・そ、そうですか」
その場にいた全員が顔を引き攣らせた。完全にドン引きである。もし相手が仲のいい同級生や両親だったら殴りかかられてもおかしく無い発言だった。 最も、羽柴なら笑顔で殴り返しただろうし、最悪再起不能になるまで追い詰めるかもしれない。親しい人間の相手を警察に任せたのは支倉の好采配だった。
「それで、調査とは何についてでしょうか」
「三浦優梨って娘の交友関係。あとは、医学部あるよね?ここに来る時に看板あったから。そこの教授に会いたいんだけど。できれば、三浦と親しかった奴」
「え?なぜ医学部の教授を?」
「三浦の喉は綺麗に横一文字に切られていた。あんな傷口は素人が専門書読んでできることじゃない。医学、特に解剖学の知識がある人間の仕業だ。だから重要参考人として、専門家の意見でも聞こかなーと思ってね」
「交友関係に関してはこちらで調べられませんが、水越教授ならお呼びできますよ」
「そいつが被害者と親しかった先生?」
「えぇ、水越教授は三浦くんのゼミの担当でしたから。まだここに就いて8ヶ月ほどですが、生徒に評判の先生なんです」
事務員が各ゼミに所属している生徒のリストを持ってきた。医学系のゼミを確認していくと、確かに水越教授が担当のゼミの欄に三浦の名前が記されている。
それにしても初耳だ。どうやら三浦は医学部の生徒だったようだ。支倉め、学生証に学部学科とか載ってる筈だろうに・・・。やはり先日のアンフェールの仕返しでもしてやろうか。
「へぇ〜・・・じゃあ30分後にソイツの研究室に行くんで、アポよろしく。俺は構内をブラブラして三浦の友達から証言取るんで」
三浦は事務棟を立ち去り、再び大学内をぷらぷら放浪しながら三浦の友人とのコンタクト方法を考えていた。
その頃、団地では支倉と流歌が屋上で落ち合っていた。三浦の遺体は既に回収され、バリケードテープで区画が作られているのが見える。
「どうでしたか?E棟の聞き込みは」
「おう、一つ有用な情報だ。8年前に、この団地で首吊り自殺があった。長岡慶子って中学生がな。原因はイジメで、しかも名字で分かるだろうが、此処の組合長である長岡の孫だった」
流歌にも話が読めてきた。大事な孫娘を自殺に追いやった三浦を見つけた長岡は、8年間抱いていた燻りが燃え上がり犯行に及んだということだろうか。そう考えれば、動機もストーリーも成り立つ。
だが、遺体の喉にあった切り傷は素人が創ったにしては綺麗すぎる気がする。訪れた長岡の部屋にも医学関連の専門書はおろか、本すら見当たらなかった。しかし、彼に動機があるのも事実だ。
動機がある人間と、その人間には不可能な殺人方法。これが意味するものは、流歌の中では一つだけだ。
「・・・・・・支倉さん。長岡さんは恐らく、今回の事件の共犯です」
「共犯だと?」
今回、長岡に動機はあるのに殺しまではしていない。つまり、主犯は別にいて利害が一致した犯人と長岡は、殺害の実行役である犯人と死体遺棄役の長岡、この役割で事件を起こしたと見て間違いない。
しかし、あくまで状況証拠で物証もないし自白もない。また、長岡一人だけが共犯とも限らない。
いや、焦ってはいけない。今は羽柴に課せられた謎を解き明かすことが先決だ。
「死因は喉の切傷による失血死なんですよね?でも、素人にはあの傷はできない。住民を調べてみて、過去に医療系の学校に行ってたり、医者とかやっていた人は居ましたか?」
支倉は首を横に振った。
「いや、いなかった」
「では、主犯は外部の人間ですね。流石に被害者に無関係の人間が、関係者の共犯作ってまでやるとは思えません。主犯は必ず、被害者の知人や近しい人です」
「でもよ、どうやってあんな見晴らしのいい所に死体を捨てるんだよ。真夜中にやったとして流石に危険性が高いだろ」
確かに、どれだけ真夜中でも住宅街である以上は危険性を拭い去ることはできない。だが、ここまで難解で手の込んだ遺棄をした理由は、警察の目をこの四方の棟の不特定多数の住人に向けることにあった。これだけの人数を警察が相手にすれば、捜査でかなりの時間が稼げてしまう。だから、地理的に詳しくないと遺棄できない場所を選んだのだ。
「共犯から情報提供も受けたはずです。ならば、夜中に死体を遺棄する方法を計画したのも主犯でしょう。問題はそのトリックですが・・・・・・」
流歌はウロウロと屋上を歩き回りながら思考を巡らせた。どうすれば目撃者ゼロでこの環境下に遺体を捨てれるのか・・・。誰にも見られないということは、誰にも見せないとことと同義だ。
そんな時に、ふと光で煌めくW棟と太陽が目に入った。その瞬間、脳内を駆け巡る幾つものパズルピースが収束していくのを流歌は感じた。
見せない・・・・・・・・・・
見せない・・・・・・・
見せない・・・
「・・・・・・・・・あっ!!」
急に顔を上げた流歌に、支倉はいい歳なのに全身で跳ね飛んだ。
「おお!?なんだよ急に!」
いつもは大きい声を上げない流歌だが、脳裏を走った閃きが、無意識に声を張り上げさせた。
「支倉さん、一つ確認したいことがあります」
どこの大学にも事務棟ってあるんですかね。
少なくとも私のいた大学では、学生ホールに隣接して事務棟というか本部棟がありました。
それにしても、自分で設定しといてなんですが女子大の学長が男性ってなんか複雑ですね。
Toloveるの校長みたいな匂いを感じます。