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ヒーローが似合わないヒーロー

ショッカーよ、変身ベルトを狙え!

「「瀧也!」」

「父さん、母さん・・・!」

 行方不明だった少年とその両親が、道の真ん中で抱き合っている。結論を言うと、瀧也は少し弱っていたとはいえ無事だった。鎖の鍵を坂上から奪って外して立ち上がらせても、さほど衰弱はしていなかったが念の為に肩は貸してあげた。健康体であればあるほど、巴の依頼の方の報酬が上がるからだ。

 そして予想通り、瀧也一家はドラマばりの感動の再会を果たしている。羽柴はそんな光景を見ても何一つ心が動かず早く報酬について話したいと思っていた。

『依頼通り、息子さんは無事に連れ戻しました。後日に警察の方が事情聴取に来ると思いますので、頑張ってください』

 声色は優しげなのだが、その声自体に優しい感情が何も乗っていないのは羽柴にだけ察することができた。ベクトルが違うとはいえ、羽柴も巴も同類(サイコパス)ゆえのシンパシーを感じたのだろう。張り付けた笑みで二人は依頼主一家を見ていた。

『さて、報酬の件ですが・・・』

「あぁ。これですね」

 巴が言い終わる前に瀧也の父が茶封筒を手渡してきた。中身を確認すると、相場の1.5倍の額が納入されていた。

「息子を無事に救った礼も兼ねてです。お気持ちなので妥当と思って受け取ってください」

 羽柴に目をやると、受け取っておけと顎で指示してきたので遠慮なく受け取ることにした。善意とやらで得が生まれるのなら有り難く享受するべきだ。巴は封筒を鞄にしまった。

『もう学校で理不尽なことは起きないと思いますよ。何せ、この世は栄枯盛衰(えいこせいすい)ですから』

 意味深な言葉を残して、仕事も終えた巴たちは瀧也に背を向けて歩いていく。その背には、しばらく少年の憧憬の念が浴びせられていた。


 幾らか歩いたところで羽柴の携帯が震えた。

「もしもし亀よ〜」

『よう狂犬病』

 電話の主は病院で寝ているはずの支倉だった。暇すぎて電話でもしてきたのだろうか、などとは思わなかった。家族ならともかく、羽柴相手にそんな無駄なことはしない。

『逮捕された坂上は未成年だが、残虐な犯行で無期懲役がいいとこになりそうだとよ。それと、ソイツの親父である坂上議員は責任とって辞職するって知らせだ』

「オーウそれはそれは・・・・・・なぁ」

『うん?』

 急に羽柴の声のトーンが変わる。支倉は、羽柴に何か人間らしい心境の変化でも起きたのかと一抹の期待をした。

「やっぱ戦前の大日本帝国時代の国体に戻した方が日本平和になると思わんか?」

『何言うかと思えば思想が濃いんだよ!』

「有象無象の中から上澄み集めて中途半端に権力持たせるから()()()が腐るんだ。だから天皇陛下に統治権とか諸々の権力を返上して明治時代の政治体制にしようぜ! 俺なら天皇陛下に打診できるぞ?」

『マジでやめろ。国民全員がストレスでハゲるわ』

 「ちぇ〜」と口に出して残念がる羽柴に肝が冷える。本当にやりかねない男だからこそ、冗談と本気を見極めなくてはならない。流歌や巴がいる分、昔よりは遥かにマシになっているが、万が一あの二人がいなくなったら羽柴は止められないだろう。最悪、テロリストや連続殺人鬼として逮捕・処刑されるなんて未来は想像に難くない。病院のベッドなのに何故こんな思いをしなければならないのか。支倉は退院したらアニマルセラピーを試すことを誓った。

「じゃあちゃんと報酬振り込んどけよー」

『あぁ。・・・・・・羽柴、間違っても坂上議員に無駄なちょっかい掛けんなよ?』

「なるほど・・・()()()()()()かけない、でいいなぁ?」

『おい待てなんだその含み――』

 強制的に通話を切った羽柴は、また別のところにコールを掛けた。電話先は二ヵ所で、徹底的に地獄に叩き落とす悪魔のエンドロールのおまけが始まった。

「あ、しもしも〜? 僕だよーんっ。実はねぇ〜・・・・・・」






 坂上元議員は絶望のどん底にいた。家の外にはマスコミが押し寄せ、中では自分を警察が囲んでいる。息子の犯罪の責任を取って辞職すれば、そこまで自分に波風は立たないと思っていたが、実態は違った。誰かが坂上の余罪を洗いざらいネットやマスコミにぶち撒けたのだ。

 情報伝達スピードは凄まじく、あっという間に日本全国に広がってしまい、警察すら動き出す事態へと発展してしまっていた。

 坂上は悟った。自分は議員としてではなく、親として失敗したのだ。自分の子供ひとりマトモに育てられないから、私は今こうして辛酸を舐めている。息子に怒りは抱かなかった。むしろ、相互に対する悲しみの方が大きかった。

 これから唯一安全だった家を出て、勤めを果たしに行くだろう。それでも良いと坂上は感じていた。正式に罪の精算をして、この重荷から楽になれるのならば何でも良くなっていた。警官が手錠をかけて外に連れ出す。絶え間ないフラッシュが坂上をサブリミナルのように瞬間に閉じ込めた。罰当たりとは、幾つになっても馬鹿にならないものだ。ふと心の中でそう呟き、彼は白と黒の開き戸を潜った。




―羽柴探偵事務所―

「まさか二つの事件が繋がってるパターンだったとは」

「いやぁ驚えたぞ。オラもまさか巴とバッティングするとはよぉ。あのままおふざけで()り合っても面白かったかもな」

『なら私は不戦敗を選びます。そして敗者である私をそれはもう乱暴に扱ってくださいませ。エロ同人みたいに、エロ同人みたいに!』

「あ、レイプ紛いは趣味じゃないんで遠慮しておきますぅ。僕ちん常識改変とか好感度MAXがいいなぁ!」

「恥ずかしげもなく性癖を公言しないでください。応えたくなります」

 時は既に夕方6時。5人前の刺身セットを箸でつつき合い、今回の事件の総括という名の夕餉を催していた。ビールを開けて一気に半分ほど飲み干す。辛口のすっきりした味が堪らなく癖になる。日本酒は最高だが、ビールもかなり悪くない。

「ッァア〜! 破滅した人間を肴に飲む酒もオツだなぁオイ!」

「クセがすごいおつまみですこと」

『ブルーチーズはどうですか? 白身魚と合いますよ』

「マジかよ。こんなカビ生えたドラえもんみたいなのが?」

「その理論でいくとドラえもんからは白カビが生えることになりますよ」

 脊髄反射で喋っているような中身のない思いつきの会話。飲み物にアルコールを混ぜてやったため二人とも普段より正常な思考ができなくなっている。特に酒に弱い流歌は、分かりづらいがほろ酔いをとっくに過ぎているレベルで酔っていた。

「お前もう顔赤いぞ。発情してんのけ?」

「17歳の娘になんてこと言うんですか〜?」

「語尾がもう伸びてんのよ。ねるねるねるねなのよ」

『私ですか? 流歌さんですか? それとも両方ですか?』

「オーノー! どっち選んでも結末はドキドキ文芸部ENDじゃね?」

「正爾さんも27歳なんですから身を固めましょうよ。私は戸籍上正式な義娘ではないので問題なくお嫁さんにできますよ?」

「ジョーカーとハーレイじゃねーんだよ!」

 イタズラで盛ったアルコールがまさかの修羅場を呼び込んだ。おかしい。今日は結構なヒーロームーブしたというのに全然徳が貯まっていないではないか。人を殺したり無茶苦茶なことしかしていないのが原因だということを本気で自覚できていない。事件の時は頭が回るのに、人間として絶望的なのが玉に瑕、いや瑕が多すぎて玉が欠片になっているまである。

「ヒーローなんてクソだ・・・。主人公より先に勝手に魔王倒す謎の男的ポジションになりたかったのに」

「ピエロのフリして街に潜んでる魔王では?」

「ホンマにセクハラしたろかぁ?」

 人から感謝されるヒーローより、そのヒーロー殺して人の絶叫を聞くヴィランになった方が性に合う。怪我だらけの瀕死の敵に塩ぶっかける方が性に合っている。故にこう言おう。


ヒーローは正義ではなくポリシーでやるものだ。

「Vフォー・ヴェンデッタ」は良かった。

あーゆう最終的に人々から崇拝される系ダークヒーローは痺れるね。

後半書いている時の私は多分正気じゃなかったのでしょう。きっとそうだ。

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