表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/162

MAD HERO

真面目にやってられっか!

もっとダーティーに行こう!

「前回のあらすじ!」

『マスター、シリアスなマスターも素敵ですよ』

「じゃあ今はその路線で」


 悪ふざけができてご満悦な羽柴は、気を取り直して真面目を演じることにした。

「まず、俺は巴から行方不明事件の話を聞いた時から瀧也が犯人じゃないと考えていた。証拠を残さない犯人が部屋に証拠を置いていくわけがない。よって真犯人は別にいる。

次に、被害者の顔が全員潰されるまで殴られた理由だが・・・」

 羽柴は言葉をそこで止め、自分の頬をペチペチと2回叩いた。

「お前、醜形恐怖症だろ」

「なッ!?」

『醜形恐怖症?』

「自分や他人の顔が醜いと思い込んでしまう精神障害。犯人は被害者の顔が醜いと思い込んだから顔を潰した。つまり、恨みではなく一種の現実逃避の産物さね。パーカーを深く被っていたのも、人の顔を見たくない心理の表れ、ビンゴだろ? ビンゴだよね? ビンゴだと言いなさい」

 ち坂上は直視はせずとも、ちょける羽柴を睨みつける。爪が食い込むほど拳を握りしめ、グローブが軋む音がした。

「そんで、被害者とお前の接点も出てきた。今はなんか不良としてイキってるが、お前昔はいじめられっ子だったんだって? 被害者全員が、元を辿ればお前の小中学時代の因縁の相手だった。ツラ見んのが怖いくせに復讐とは、笑えるよマジで。しかも人の姿パクって、ホンマに道化師になりたいんかぁ?」

 憤怒の表情を浮かべる坂上が面白くてギアが上がってくる。まだ誰も殴ってないのに一戦終えた後のようなアドレナリンが脳に蓄積していた。

「何で港区を疑わなかった?」

「快楽殺人犯じゃねえと分かれば、あんなすぐ分かる犯行現場のパターンがミスディレクションだなんて気付くだろ普通。あ、警察は分からなかったんだ〜」

『支倉さんがいなくて良かったですね』

 軽いトーンで話す羽柴に不気味さと苛立ちが募る。

「・・・でも、肝心の物証がねえだろーが」

「何言ってんだ? お前のポケットに入ってんだろ。ベテランのデカから奪った付け爪がよ」

 そう言われて図星だった坂上は、無意識に左のポケットを触ってしまう。証拠の爪がその中にあるのは誰が見ても明白だった。

「あんだけ現場を回って探すほど小心者のお前だ。荒川区で俺と会ったのも、証拠を消すために偶々出くわしたってとこか。そんだけ証拠にビビってりゃ捨てることすらできやしねぇ。なら、一番安全なのは持っておくことだ。どうだ、簡単だろ」

 撲殺事件は複雑怪奇だった。快楽犯だとか、犯行パターンとか、動機とか、その様々な要素が全てブラフか不確定のまま進んでいったこの事件は、蓋を開ければ少し格闘技ができるだけの小悪党の悪知恵だったのである。

「まあテメェが白切っても、テメェ半殺しにして一週間待っても事件が起きなきゃお前が犯人ってことになる」

 探偵にあるまじき暴論に、いよいよ坂上は羽柴を殴り殺そうと拳を構えた。羽柴もポケットから右手を出して臨戦体制をとる。

「じゃあ、今ここで俺がお前らを殺せば全部元通りってことだなァ!」

「Exactly。ただし、ここでお前が負ければお前も親父も人生の破滅。絶望に泣き喚くお前らを動画投稿サイトに垂れ流すぞ〜」

「ほざいてろ!」

 坂上がボクシングの構えをしながら向かってくるのに対して、羽柴は持っていたビニール袋に手を突っ込み、掴んだ物を投げた。

「こんなものッ!」

 投擲(とうてき)物を迎え打とうと殴るモーションに入った瞬間、その投げられた物は空中で二つに分かれ中身の赤いパウダーを撒き散らした。


 その直後、坂上は目も呼吸も封じられることとなった。


「痛ええええええええ!!」

「ギャハハハハハアハハハァ!!!」

 坂上が赤い粉を浴びたかと思えば、目を覆って床にのたうち回り始めた。空気の流れがない地下だから気づきにくかったが、霧散した赤い粉の匂いを嗅いだ時、巴はその正体に気づいた。

『・・・唐辛子ですか?』

 坂上から、正確には坂上の周囲から距離を取り、

「ピンポーン! スーパーで安売りしてた目潰しパウダー。これで夜道の暴漢も失明間違いなし!」

 換気するために部屋の出口を開けた羽柴。巴がその廊下を覗いて見ると、無力化したはずの不良たちが全員息絶えていた。

 ナイフを刺され、コンクリートブロックで潰され、首を紐で締められ・・・。一瞥しただけで8種類もの殺人方法のレパートリーが目白押しだった。紐やナイフなどは巴を含め誰も持っていなかった。どうやら羽柴は唐辛子以外にも道具を買ってきていたようだ。

「復讐予防。昔コンクリート殺人の未成年犯罪者が大人になっても事件起こしたりしてただろ? つまり、これは明るい日本を造るための一つの手段なのさ!」

『生かしといて生き地獄味わわせながら税金払わせた方がプラスになりますよ』

「いっけね! 今度からそうするわ」

 換気を終えて、目や鼻などの粘膜の痛みに悶えている坂上を見下ろす。それはまるで、拷問で苦しむ捕虜を観察する拷問官のような光景だった。

「イテェェェェ!目が・・・鼻がぁぁああぁ!!」

「安心しろ、殺しゃしねえ。怨恨が残らないよう、お前の家族も破滅させる。そのために、お前には生き証人兼人質になって貰おうか」

 返事もできないほどの辛さと刺激に返事も反抗もできない坂上は、ただ痛みの隙間から聞こえるその声を受け取るしかなかった。

「七光りボーヤ。お前のバックは議員の親父なんだろうが、俺のバックは国そのものだ。相手が悪かったな」

 そう言って羽柴は巴と飛び上がり、重力に従うままに坂上の顔を踏み抜いた。頭が潰れることは流石になかったが、骨が折れる感触は足裏を伝って感じられた。

 唐辛子の痛みも吹き飛ぶ顔面への衝撃に、坂上は意識を捨ててしまった。二人が上げた足裏からは血が滴る。坂上の鼻は潰れ、歯は折れ、顔面の骨も骨折していた。奇しくも、坂上が今まで殺してきた被害者たちのような末路となったのである。

「人生で初めてライダーキック決めたな」

『ライダーキックというよりヒートアクションでしたよ』

 左手の袖を捲った羽柴は、損をしたような喪失感を漂わせた。

「あーあ。これで今月の殺人時間がなくなっちまったよ」

 羽柴が掲げた左手首の時計は残り2秒弱となっていた。来月にならないと羽柴はもう人を殺せない。デメリットだと思ってるのは羽柴だけだが、それは言わぬが花と巴は口を(つぐ)んだ。

「まぁ暴力禁止って訳じゃねーんだ。仕方ねえからそれで妥協してやるよ。その代わりブッ飛ぶ薬の量が増えるな」

『鎮静剤も強めのものを補充しておきますね』

「打ち込む相手によく言えるねチミ」

 良い性格になってきた巴に拍手する。このままもっと愉快で手の付けられない野獣になってもらいたい。そうすれば毎日がホリデー、一瞬の暇もないアクティビティ三昧確定だ。

『あ、瀧也くんを回収しないと・・・』

「あの奥のガキか?・・・・・・よし、なら賭けようぜ。そいつが生きてるか死んでるか。俺は死んでたら面白いから死で」

『私は生きていた方が都合がいいので生を選択します』

 扉に近づき、ゆっくりとノブを回して押し開ける。電気のついていない部屋、錆びた鎖、そして――――――。

「今日から俺は!」

あの三橋の卑怯さは見習うべきですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ