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第六十九話【覚醒オジー】



「ここでいいの?」

「コクン」


 舜歌が元気が無いので、守護霊猫「マロ」に聞くと、うなずいた。

 神域と呼ばれる聖地が二か所も襲われたので、傾向からいってもここの可能性が高い。


 ──安須森(アスムイ)御嶽。

 琉球開闢七御嶽のひとつ、一番最初に創世神アマミキヨによって創られたとされる御嶽で、神名「カンナカノ御イベ」

 斎場御嶽やシルミチュー霊場のように道は整備されてなく、道なき道を辿って、標高二百五十㍍近い山を登っていくので、この霊山を訪れるものは神人(カミンチュ)霊媒師(ユタ)くらいしかいない。


 山道の入口に車を停める。

 上の方に軽自動車が一台停まっているが、よくみるとレンタカーのナンバーだった。

 夜中なので、ひとりずつヘッドライトと懐中電灯を持ち、順宋さんが一番前でハブ除けのために長い棒を持って、ガサガサと音を立てて、山道を分け入っていく。


 どれくらい時間が経ったのだろうか、腕に巻いているスマートウォッチで現在時刻を確認すると、夜十時を過ぎていた。


 御嶽が途中にあったがそこには誰もおらず、そのまま山頂へと向かうと、人がふたり立っている。

 中東系の外国人の男と、もうひとりは舜歌のお母さん?


「おかあさん?」


 高校二年生になった舜歌は、当時のように「マミー」とは呼ばない。

 しかし、別人なのか、舜歌の声でこちらに気が付いたが、その表情はとても冷たい。


「ここでなにをしている?」


 順宋さんが男に声をかけた。

 祠のような場所で、名護第二高校の校庭に棲んでいるはずの森の精(ブナガヤ)をビンに詰めた状態で、設えたであろう簡易の祭壇に捧げるように置き、座ってなにやら儀式を行っている。


 男の動きが止まり、ゆっくり立ち上がる。


「ほう、真打ち登場というわけか」


 みるからに危険。

 舜歌がボーっと突っ立っているので、順宋さん、自分(はじめ)、音無さんで舜歌の前に出て彼女を守る陣形をとる。


逆廻(むちまーる)を起動したのは“招かれざる来訪神„の召喚が目的か?」

「いや、違う。我々の目的は霊脈や聖地を荒らし、この地が危機に瀕した時に現れる救世神キミテズリ(・・・・・)の力をもらい受けること」


 逆廻むちまーるはこの地の上空にあるとされる異界「オボツカグラ(・・・・・・)」よりこの地に供給されているエネルギーを逆流させ、神の降臨を促進させることだという。


「そして、その器となるのがこの女だ」


 ──程寧歌。

 舜歌の母親で、九年前までは沖縄最強といわれた降霊術師。


「よもや娘がいたとはな……その娘の方がより器に相応しくみえるが、すでに仕込みをしてしまったあと、我々の目的には支障はない」

「神キミテズリを人に降ろしてどうする?」

「私はこれでも八十年生きている」

「!?」

「だが、延命の術はあくまでも代替措置」


 正真正銘の化け物。

 見た目は三十代後半にしかみえない。

 世界中のありとあらゆる呪術、仙術、魔術、妖術といった類で共通する最終目的。


「“不老不死„を手に入れるのだよ」


 もしそれが本当なら、ひとつハッキリとしている事実がある。


「ならゼッタイにアナタのような危ないひとには渡しちゃいけない」


 これまで順宋さんと、男の会話を黙って聞いていたが、黙っていられない。

 自分(はじめ)の声に男が耳を傾けた。


「それで、どうするのかね?」

「あなたを捕まえて、バカなことをさせない」

「お前にできるのか?」

「やる前から尻込みなんてできないからね……舜歌のお母さんを返してもらう」

「では母親と潰し合うがいい」


 「パチン」と指を鳴らすと、程寧歌の視線がゆっくりと自分に定まった。


「みんな頼む」


「義理母を助けるのも、姉の務め」

「うひゃー怖いけど頑張ります」

「これは戦い甲斐のある相手よ」


 寿姉、用高さん、于児(ユイヤル)を喚んだ。


 隣では、音無さんが、石垣島で従魔契約をした古妖「白面」と「赤面」を呼び出し終わっている。順宋さんもかつての裏・空手の師匠であった母親に構えをみせる。


 戦いが始まり……戦いが終わる。


 この表現は正しくはないかもしれない。数十秒と経たないうちに、全員、一方的に叩きのめされたといった方が正解。


 ダメ……。舜歌のお母さん強すぎ。

 うしろに立っていた舜歌以外は全員、倒れているが、気絶や霊体エネルギーを封じられて、動けなくなっているだけで、幸い大事はいたっていない。


 ……待てよ。

 なにか引っ掛かる。

 考えろッ!? この胸の奥につかえるものの正体を……。


 舜歌のお母さん。

 手加減されている。

 九年前に失踪。

 山の中に人知れず祀られていた名もない神の像……。


 ──わかった。


「舜歌、“裏支琉球„を使ってッ!?」

「え、ウン」


 うしろで、まだ呆然と立っていた舜歌に鋭く言葉を投げかける。

 車の中で順宋さんが昔、寧歌さんから聞いた「舜歌が大きくなったら」という話が「今」だとしたら……。


「裏支琉球」


 舜歌が裏・六言のひとつを発動させた。

 この六言の効果を舜歌から聞かされていないが、なにか意味があると思う。


「……あ、あーーーーッ」


 え?

 舜歌の足元からいつも無言のオジーが現れ、声を出した。


「おッ♪ しゃべれるぞい。久々の現世じゃの」


 いつものオジーじゃない。勝手にしゃべってあたりをキョロキョロしている。


「ふむ、ワシの子孫が何人かおるの……裏支琉球を使ったのだな?」


 裏支琉球は、術として発動すると、かつて琉球を支えた偉人の御霊を後生(グソー)から召喚できるというものらしい。

 そして程家の外的霊力の結晶であるオジーに入った魂とは……。


「程順則、またの名をイカしたジジィじゃ」


 ……ちょっとイメージと違うけど、没後何百年も経っているのに現代用語を使いこなすのは後生も近代的になっているのかもしれないw


「うむ、状況をなんとなく理解した」


 そういったオジー……程順則は、一瞬で程寧歌さんの背後にまわり、光る手を頭にかざした。


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