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第六十七話【准备未来】

『パァ―――――――ッ』


 クラクションを鳴らしまくる。

 月城一夜が運転するスポーツカーが何の変哲もない軽自動車に追いつくと、ここ最近、危険で取り締まりを厳しくしているあおり運転を始めた。

 これ、人違いだったら、この人逮捕されるんじゃないか?


 軽自動車は、ゆっくりと何もない、「P」と書かれた標識が立っている普通乗用車が数台くらい駐停車ができる場所に車を停めた。


 中から出てきたのは、中東系の外国人の男ひとり。手に持っているビンの中に森の精(ブナガヤ)が封じ込まれている。


「これはとんだ大物が出てきましたね」


 月城一夜がそう言いながら、懐から泥風船を数個取り出している。


「アルナブ・ビン・フワ=ルディ、通称『死の蟲使い(・・・・・)』……闇術師の社会でこの男の名を知らない者はいません」


 月城はオレ達ふたりに男から目を離さないまま情報を伝えてきた。

 やはりそうなのか……男からすごくヤバそうな雰囲気がひしひしと伝わってきている。


「沖縄の術師か?」

「いえ、私は他所からきた日陰もの。この子たちも術師見習いのようなものです」

「それで、中途半端な連中がオレに何の用だ?」

()ったものさえ返して頂ければ、あなたに用はありません。」

「これか? これは触媒に使うので返せんな」

「何をなさるつもりですか?」

「さてな、お前たちには関係ないことよ」

「困りましたね。あなたがなにをされようとも私の出る幕ではありませんが、その森の精だけは私が責任をもって取り返さないといけないのに」

「力づくで、か?」

「まあそうなるでしょうね」

「やれるものならやってみるがいい」


 十体の悪霊が腕を横に振っただけで、地面の中から煙があがるように這い出てきた。


「proklínat ho」


 月城も泥の水風船を手前の地面に投げつけ呪文を唱えると、欧州の魔術による焼身姿の悪霊が泥の塊から這い出てきて、欧州の悪霊と中東の悪霊が衝突する。


 それでもあと七体も悪霊が余っている。

 月城が三体。瑛守(オレ)と晴人で、残りを二体ずつ相手する。


「おりゃ!」


 新しい退魔用サンスケで、悪霊一体を祓うと、隣の悪霊に、悪霊除けの水風船を投げつけて、弱ったところをもう一度、サンスケを振るう。

 自分の分が片付いたので、すぐに他のふたりの状況を確認する。

 月城は、視えない糸(・・・・・)。晴人は針を使って、応戦していて、ふたりとも手間取っているものの、撃退できそうだ。


 なので、月城が呼び出した悪霊の手助けをする。


「ほう、なかなかやるではないか」


 男は顎に手をやり、こちらをまじまじと観察している。

 少し時間がかかったが、十体の悪霊をすべて倒すと、男がもう一度腕を横に振る。


「では、難易度をあげてみようか?」

「これは私たちでは取り返すのは無理ですね」


 ウソだろ。

 上位悪霊が三体……。

 以前、バッティングセンターで上位悪霊と一対一で敗北したことを思い出す。

 

 月城が山高帽の位置を手で直しながら、撤退を示唆する発言をする。

 しかし、退却を待ってくれる相手ではなかった。

 悪霊が襲い掛かってくると、やはり三人とも苦戦する。

 

「これはあの程家のために取っておいたのですが、やむを得ません」


 月城が一歩引いて、晴人の背中に回ると、呪符のようなものを晴人の背中に押し当てる。


「うわぁぁぁぁ」

「晴人になにをしたッ!?」

「彼の洗脳を解除したようですが、あの幼顔(おさながお)にみえる術師も西洋の呪いはちゃんと理解できてなかったようですね」


 晴人が、頭を搔き毟りながら膝をついたので、晴人の名を呼ぶ。それをみた月城一夜は、暗い、闇の住人を示す邪悪な笑みを浮かべる。


「ほう、西洋の〝踊り狂う者(タネチニック)〟か。アジア人にしては面白い芸当(もの)をみせてくれる」


 晴人の目が赤く光って髪が逆立っている。

 獣のような咆哮をあげると、上位悪霊に素手で挑みかかる。


「おおおッ」


 とにかくこの男をどうにかしないと、マズイ。

 横からまわり込んで、男に突撃する。


「ぐはッ、ぎぃッ!」


 話にならない。

 昨年の夏休みに稽古をつけてもらったが、少しかじった程度では、本物の闇の住人には、手も足も出なかった。

 どう殴られたのかさえ、わからないまま、地面に転がっていた。


 ──〝准备未来〟


 こんな時にこの言葉が頭に浮かんだのは、しょうがないのかもしれない。

 准备未来は舜歌から習った、六諭衍義とは違った術師のための教え。

 意味は「来るべき時に備えよ」

 この言葉を教えてもらった時、そんなのこの平和な日本でどう使うんだ? と正直思った。だけど転校してきて半年、(アイツ)はその教えを守り、日々の鍛錬を怠っていなかった。

 顔をあげると、晴人は目の前に立ちはだかっていた三体の上位悪霊を倒し、男に飛び掛かろうとしていた。


「こちらも切札を出そう」


 片手をあげ、『パチンッ』指を鳴らすと、運転席から女性が出てきた。

 え、ちょっと待て。舜歌や順宋さんに顔が少し似ている。


 その女性は、男に飛び掛かろうとした晴人を「トンッ」と額を軽く触れあっさりと気絶させた。

 それから月城を気絶させたあと、オレの所にくると、いつの間にか意識が無くなっていくのがわかった。


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