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第五十五話【咒物】


 なんだコイツ?


 強いて言うなら東北の咒物(じゅぶつ)使いの術に似ているが、人形(ひとがた)ではなく、「長い布」


 それも術者本人の気配がないということは、遠隔操作でもなく自動で動いている。

 ユラユラとはためきながら奥の方に逃げ込んでいくので追いかける。


 しゅるり、と通常観覧できるエリアの境界にある鉄格子でできた扉を抜けたので、止む無く、強行突破する。


 虎法、虎軍。

 通常霊力は現世に干渉しないが、虎法は違う。

 白い霊気が右腕を包み、鉄扉を破壊する。


 まあ後で沖縄の支部の人達に何とかしてもらおう。

 それより、あの布の化け物が、いったいこの洞欠の中で何をしていたか、だ。


 最初に向かった金武の洞窟と同じ霊疵は先ほどの場所にあったが、わざわざこんな特殊なモノをここに残す理由はなんだ?


 先ほどよりも更に広い空間にでる。


 真っ暗で通常なら何もみえないだろうが、オレは少彦名(すくなひこな)の加護を受けているので夜目が効く。


 布が伸びる。

 ぐるぐるぐる、と。

 それはこの空間を万遍無く覆い、包み込む。

 これって罠に嵌められたのか?


 元々、強力な呪いが掛かっているのだろう。たかが咒物だと思って舐めていたかもしれん。


 藍鼠(あいねず)色の長布の先端が視界に収まっている分だけでも十を超えている。

 獲物を狙う蛇のように蠢き、段々と包囲を縮めてくる。


 無闇に攻撃してダメージが無かったら、この大量の布に巻き取られてしまうだろう。

 グルグル巻きにされたら、窒息死してしまうやもれしれん。


 並の術師なら、パニックになって逃走するだろう。しかし、こんな洞穴奥まで誘い込むような手を使う化け物がそう簡単に獲物を逃がすだろうか?


 答えは“否„。

 この場で確実に獲物を行動不能などに陥れるだろう。

 まあオレは、そんな愚行に走らない。


 ──人虎。

 虎法を以って、半人半獣の姿になる。

 本当に変身する訳ではない。

 半透明な虎の獣身がオレに覆いかぶさる。


 同時に無数の布が、獣化した小虎に襲い掛かるが、およそ人の動きとは思えない動きで、布を避けながら鋭い爪で、接近してきた布を、薄い紙に手をかけるように易々と裂いていく。


 想定外の動き。

 足元に切り裂かれた布が、足元に散らばっていたが、それが動き出し下半身に絡みつき、動けなくなった小虎に容赦なく四方八方から手足に巻き付き拘束され、手足を広げた状態で宙に固定される。


 なんだそれは?

 布が口元まで一枚伸びてきて滑り台のように何かが転がってくる。

 丸い薬のようなもの。

 口の中に入らないように固く閉ざしていると、左右から別の布が伸びてきて、小虎の口を無理やりこじ開ける。


「や、や()ろ!」



 ☯☯☯



 小虎が追いかけていった洞穴の奥の方に向かうと、鉄でできた格子状の扉が壊されて、更に奥に行ったと見られるが、この先は禁足地なのか、明かりの類がなく、真っ暗。


 どうしたものかと、その場で悩んでいると後ろから林姉妹が追いついてきた。


「閏弥生さん、これを」


 姉の林九明さんから渡されたのは、お箸くらいの大きさの防災用ケミカルライト。

 コンサートとかでも使用する使い捨てのサイリウムとほぼ同じだが、さすが防災用というだけあって発光量があり、十時間近く発光できるそうだ。


 洞穴の中で万が一に備えて準備してきたらしい。

 たしかに懐中電灯とかだと手に持つタイプは片手が塞がるし、以前、廃屋ホテル探索時に順宋さんが頭につけていたヘッドライトだと咄嗟の時に、照らされてなかったところを照らした瞬間、タイムラグが発生しそうなので、最適なのかもしれない。


 ポキポキと折り、よくほぐして発光が最大になるようにして、とりあえず妖刀于児(ユイヤル)を持ってない左手に持ち、奥に進み始めた。


 あんまりよく見えない。

 防災用だけど、流石に懐中電灯とかと比べると明るさが足りない。

 腰より少し下のところで、ケミカルライトを持つ。ぼんやりと辺りを照らしたまま、進むと真っ暗なところに人の足元が見えて、思いきりドキッとした。


 びっくりした~ッ。

 なんだ小虎さんじゃないか。


「閏弥生さん、気をつけて!? 様子がおかしい」


 後ろから琉球空手の達人、林九明さんが切迫した声を発したので、ハッとなり、小虎さんを見ると、いきなり長身の長い足が飛んできたので、左腕でブロックしたら後ろに吹き飛ばされた。


 いったァァ。

 この小虎(ひと)、格闘技もできるんだ。腕折れるかと思った……。

 半年以上も運動部よりよほど鍛えまくったお陰で、大事には至らなかったが、やはり本部の有望な人材。フィジカルも半端じゃない。


「私が”布„を抑えます。ふたりでその男を無力化させてください」


 後方で林世沙さんが、再び白蛇の術を使うと、岩陰に隠れていた大量の布が姿を現す。


 林九明さんが自分の前に出ながら、ケミカルライトを周囲に数本投げ、この空洞をできるだけ明るくしようと試みる。

 それでも、十分な明るさとはいえないが、無いよりは全然マシ。


 それにしても……。

 目の前の身長百九十㌢くらいの熊みたいな……いや虎みたいなゴツい男を二人でどうにかできるものなのか?


 格闘技の大会とか出たら優勝しちゃうんじゃないの? と思える小虎の動きに対して、九明さんは、両手を蛇の頭のように尖らせて、しなる腕を巻き付かせて、荒れ狂う小虎の攻撃を躱し、捌いていく。

 九明さんは完全に防御の態勢に入っており、自分(はじめ)に攻撃を委ねるつもりらしい。


 格闘技の達人同士の間に(にわか)仕込みの自分の体術が通用するのかな?

 そもそも拳が、まともに当たっても体格差がありすぎて、小虎さんを気絶させるのは無理だと思うけど?


「用高さん」「あっはいッ」


 突然、寿姉と用高さんが飛び出し、寿姉が小虎に大鎌を横に振ると、小虎が後ろに大きく退がった。


 そうか、物理的には干渉できないけど、相手は霊力が高いせいで、ふたりが「視える」から思わず反応しちゃうのか?


 後ろに着地した小虎の目の前に用高さんの巨大なフライパンを出して、視界を奪っている間に、自分が小虎さんの顎を真横から掌底で撃ち抜くと、力が抜けて棒立ちのまま後方に倒れた。



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