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第五十一話【闇に蠢くもの】



「ホントの話?」

「私が嘘を言ってどうするのです」

「チビは黙ってろ……巴喬さん、犯人は分かってるんですか?」


 舜歌が訊き返すと尚巴喬さんが溜息交じりに答え、蔡紅琳さんが真面目な顔で質問する。


死の獣(タナトス)



 死の獣?

 初めて聞く名前。


 「裏」世界では有名なテロリスト。

 どの国、どの宗教にも属さない正体不明の闇組織。


 ロシアのウラル山脈ディアトロフ峠事件など世界中の謎の事故や未解決事件に多く絡んでいるとされる目的不明の謎の集団で、その規模、構成員の数も知られておらず、証拠が出てこないため表には出てこないまさしく死の獣。


「とんでもない名前が出てきましたね……」


 林世沙さんが呟きを落とす。

 日本呪術界のトップ“八咫烏(・・・)„からも、この世界で最も危険な組織による日本での被害が発生した場合は総力をもってこれにあたるよう通達がきているそうだ。


「私たちだけで叩きます」


 尚巴喬さんがその瞳に強い意志を宿し宣言するかのようにメンバーを見回す。

 沖縄の術士だけでそんなヤバい連中と戦う?

 リスクがこれまでより遥かに高い。っていうか未曽有の大事件なんじゃ。


 理由は今、本土の方でも各地で謎の事件が起きており、戦力を沖縄に回せないのが正直なところらしい。


「沖縄には二人、多くて三人ほど潜伏していると想定されている」


 先月から色々と事件や事故が多発しているのはこの連中が暗躍しているからだと尚巴喬は説明する。

 

 でも……。

 

 ひとつ疑問がある。

 相手は人間でしょ?

 仮に捕まえたとしてどうするの?

 相手が呪術の類で犯行を行ってるなら物的証拠なんてないから警察も困るんじゃ。


「無論、本土に引き渡します」


 尚巴喬さんが部下の人に視線で合図をすると、画面が変わった。


「浜比嘉島のシルミチュー、首里城の園比屋武御嶽、伊平屋島のクマヤ洞窟……」


 沖縄各地の神聖な聖域や拝所が既に数か所、霊的な干渉を受けているそうで、その周辺で事故や事件が相次いでいるそうだ。

 悪霊が跋扈しているが一般の人には視えない。なのでこの事態でも大騒ぎになっていない。


「目的はなんね?」


 舜歌が核心をつく。

 そう、いったい神聖な場所に霊的干渉をおこない彼らに何の益があるというのか?

 

「おそらく龍脈を乱すことによる日本列島及びアジア全域において大災害を引き起こすため」


 ──龍脈。

 世界中に張り巡らされている地球のいわば霊的血管のようなもの。

 

 聖域や重要な拝所は龍脈に深く関係があり、各地に散らばるそれら点を乱して繋ぐと、龍脈の流れが滞り、大きな反動が発生するそうで、世界で発生した多くの巨大地震もその地の龍脈が乱れて起きたものも存在するそうだ。


 それこそが、六百年以上前に明国の皇帝が恐れたことであり、沖縄……当時の琉球に舜歌たちの祖先を送り込んだ真の理由である。


「探すことはできそうですか?」

「いえ、神出鬼没で名前、顔かたちはおろか人種、性別なども一切わかっておりません」

「では問題はいつ、どこに現れるか、は?」

「現在、協会のメンバーを動員して主要な聖域の見張りを立てております」

「ならば各担当地域での待機、網に掛かったら急行、場合によっては広域移動もあり得る。と」

「そういうことです」


 林世沙さんと尚巴喬さんの二人が他の人達が入る隙を与えない程、どんどんと話を進めていく。

 要約すると各々の担当地域で、見張り役の術士達から連絡があったら地区の筆頭が直に出向きこれを叩く。場合によっては他の地域の支援もあり得るということが決まった。


「決まった? じゃあはいこれ」


 舜歌が道の駅で買ったお土産を配ると蔡紅琳さん以外の人は喜んでお土産を受け取って舜歌と順宗さんに礼を言っている。


「ところで閏弥生朔さん」

「あっはい」


 尚巴喬さんと目が合う。

 まっすぐ人に見られて見返すことにあまり慣れていないので返事しながらも顔を横に(そば)める。


「失礼とは思いますがあなたのことを調べました」


 舜歌。程家に迎え入れるにあたって素性の分からない転校生が本当に害をなさない人物なのか、闇組織の一員ではないかどうかの「裏」身辺調査。


 先祖は江戸時代から続く坂守で、江戸幕府より密命を帯びた「裏」を守護する由緒ある家系。


 家系図がモニターに映し出されており、自分から数えて七代目にあの夢の中に出てきた閏弥生興望の名があった。


 やっぱり夢の中の話ってホントだったんだ。


坂守(さかもり)、日本の”()„を守る者」


 江戸時代、多くのあの世と繋がる「()」が存在した。

 人々の負の感情が坂から異形を呼び、それを狩るものが彼ら坂守の役割。


「ボクは朔さんが只者ではないとわかってました」


 声の方向には蔡碧芭さん。


「合宿の時からさらに腕を上げたと聞いてます」


 林世沙さん。

 それらしい会話を交わしたことがないのに人をよく見ている。


北部(やんばる)だけズルイぞッ小春ちゃんを南部へクレっ」


 蔡紅琳さんは相変わらず無茶な話をしてくる。


「ふふっ順宗、九明(くみん)唐楽(とうがく)も弟、妹が元気で良かったわね」


 尚巴喬さんの言葉に、この場に居合わせている順宋さんと林九明さんは声に出さずに微笑を浮かべる。


 尚巴喬さんと三人、順宋さんと林九明さん、蔡姉弟の兄の蔡唐楽さんって皆、同い年なのかな?

 確か八重山の劉虎牢(りゅうころう)さんも順宗さんと(おな)い歳。

 これってなんか運命のようなものを感じる。







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