第十八話【最強オジー】
オジーとは程家の六百年近く連綿と続く退魔を生業としてきた先祖たちの集合体。
三十三年忌の終わった先祖の霊は後生での修行を終え、魂の核……心にあたる部分は新たな生命として生まれ変わるが、現世と後生で得た魂の外郭部分……外的霊力は程家に代々遺し、連綿と積み上げたのが、超強力な霊体の正体。
魂自体は没個性化しているため、歴代の継承者がその時代の霊体の形を決めるらしく、舜歌は自分の祖先でとても有名な「程順則」をイメージした「オジー」なる性格の定着をしたそうだ。
「沖縄には久米三十六姓という中国──当時の明という国からやってきた人達がいるんだ」
順宋さんの説明は更に過去の話にさかのぼり始めた。
西暦千四百年代の中国、明の時代に沖縄……当時の琉球に中国の高度な技術や文化を伝えるためにやって来た技術者集団。
彼らの手により、日本の文化と混ざり合って琉球は目覚ましい発展を遂げたそうだが、彼らの中には明の皇帝から極秘裏の使命を与えられた者たちがいて、その一つが「程家」なのだそうだ。
「とは言っても昔の中国の皇帝の使命を守っているわけじゃない」
え? じゃあ何のために?
「沖縄は要石って呼ばれているのを知ってるかい?」
「いえ……」
要石とは、ペリーの琉球訪問に始まり、第二次世界大戦中から戦後に至るまで米によって位置づけられた「太平洋の要石」のことで、沖縄を東アジア全域の有事の対応に則した軍事拠点と捉えている。表面上の地理的戦略上の重要拠点だが、それだけではない別の側面も持っている。
それが彼ら程家をはじめとする“裏„の使命を果たすもの達の存在理由。
沖縄には昔から“気„が溜まりやすく、それを滞らせることなく循環させないと東アジアや日本列島に大きな災いが起きるとされているそうだ。
「それは別に沖縄に限ったことじゃない」
順宋さんがいうには、日本各地にも時の権力者の手によって、こういった「裏」の守護を与えられた者たちがおり、令和となった現代においても、各々その地が荒ぶらないよう治めているそうだ。
そういった背景を持っている一族の当主にそれを守護する先祖霊。
祓魔はいわば国の成り立ちに関わっている重要な要素で、それを延々と実行している一族。ただお祓いしてるわけではなかったんだ……。
「という訳で舜歌は守らなくても大丈夫」
そういえば「マロちゃん」と呼ばれる猫の守護霊もいるんだっけか。
舜歌と読谷村万座毛で初めて会った夜。「一人じゃない」という返事がずっと引っ掛かっていたけど、こういうことだったんだ……。
説明を聞いて納得している矢先に事態が急変した。
『ドオオオオ!』
部屋の扉が廊下側に蹴破られ、反対側の廊下の壁にぶち当たる。そこから大きな手がドア枠の上を掴み、窮屈そうに大男が現れる。
身長推定二百五十センチメートル。天井に頭をこすりながら大男がこちらを向いた。赤い髪の毛で憤怒の形相の巨人。
『パパパパパパパパン!』
順宋さんが投げた爆竹にも怯まず、ペットボトルにいれた白い粒、先ほど教えてもらった程家で精製した特別仕様の“祓塩„を浴び、自らを焼き焦がし黒い煙をあげながらもこちらに向かってくる。
「こ~~んのぉぉぉ~~!」
寿姉が後方から助走をつけ振りかぶった大鎌が大男の左腕を切断するも、左肩に食い込み──そこで止まった。
寿姉の大鎌をまともに受けて、立っている悪霊を初めて見た。
「あぶない!?」
大鎌にぶら下がったままの寿姉に大男が右拳を振りかぶっている。
ほとんど条件反射で寿姉を庇おうと大男との間にジャンプして割って入る。
死ぬ、かな……。
両腕を十字にして頭を守るが、あんなバカデカい拳で殴られたら、腕ごとへし折られてそのままグチャグチャになっちゃいそう。
目を瞑って衝撃に備えたが、数瞬経っても巨拳の暴風は訪れない。
恐るおそる瞼を開けると、大男の胸から「手」が生えていた。
と、同時に黒い大量の煙が吹き上がり大男が爆発するように消えた。
「お姉ちゃんをカラダを張って守るなんて朔~エラいね~」
廊下の奥には舜歌と音無さんが立っていて、手前にはサングラスを掛けたド派手なお爺ちゃんが立っている。
これが順宋さんの言っていた程家の先祖、歴史に名を残す偉人、程順則。
「あ、あの……ありがとうございます」
「……」
あれ……返事をしてくれない。
舜歌が程順則の傍まで歩いてくると「オジィーー、朔がありがとうってよっ」とコッチの耳も塞ぎたくなるくらいの大声量を耳のそばで放つと「ンー? ごはんはまだかの寧歌さん」と舜歌の名前を間違えた挙句、違うことを口走ってる……。
順宋さんをみると、「ウム、さすが程家が生んだ名護男児、順則様」と先ほどの一撃で大男を消滅させた業に感服している。
いや、確かに除霊はスゴかったけど。
オジーこと程順則は快適夏服に七分丈となぜかイマドキのスタイル。
ツッコみどころ満載なオジーはヒュンっと舜歌の足元──影の中に消えた。
「この階にはいないね~、っていうことは」
舜歌の呟きの意味するところは、最上階である四階に本命がいるということを指す。
「朔くん」
四階へ上る階段。先頭を順宋さん、その後ろに舜歌、最後尾を寿姉に守られながら後方に並ぶ音無さんが不安そうに声を掛けられた。
「さっき、ホテルマンの恰好をした悪霊が私達を襲ってきて怖かったの」
「ぇ……」
それって、二階で取り逃がした悪霊……。
先頭を歩く順宋さんの動きも少しぎこちなくなったが、すぐに元に戻る。さすがだ。
「音無さん、実はさっき……」
失敗話を誤魔化すべく音無さんに黒服の男の話をしようとしたが、ニョキっと大鎌が後方から二人の間に割って出てきた。
(あら、ゴメンさない)
寿姉──。そんな意地悪したら順宋さんにチクっちゃうぞ?
前方を歩く順宋さんの方向に目を流し寿姉にアイコンタクトをすると「う~~っ」大鎌がしょんぼりと後ろにさがっていく。
「音無さん……」「朔ぇ~~っ」
なんだよ、さっきから次から次へと邪魔ばかりして!?
って今の声は舜歌!?
「朔のうえに〝なにか〟いるよ~」
掛けられた言葉に素直に従い真上を仰ぐと、埃を被ったシャンデリアにしがみ付いてる「なにか」と確かに目が合った。
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」
自分と〝なにか〟は互いに絶叫し、古い廃屋の中で木霊が鳴り響いた。




