03
まさに縁は異なモノ、
いつ何時"壁に耳あり"されるか分からんのですね。
実はペネトレーアさん、
ロイさんのご友人方とは、かなりご縁が深い方なのだとか。
それというのも、あのオリベラダンジョン、
冒険者たちの鍛錬や腕試しの場として近隣諸国含めて随一の賑わいスポット。
腕に覚えのある召喚者たちも、足繁く通い詰めているのです。
もちろん、ロイさんのお仲間さんたちも結構な常連さん。
その関係で皆さん、ペネトレーアさんには大変にお世話になっているそうです。
ふむ、これぞ人と人との繋がりの妙。
世界は広いが世間は狭い、ですな。
「でも、私たちはオリベラダンジョンには……」
ですよねえ、ツェリアさんのおっしゃる通り。
つい最近、あんなことがあったばかりですし、顔を出しづらいことこの上無し。
いえ、決してペネトレーアさんに会いたくないってわけではなく……
「まあ、そっちの話しは置いといて」
「そろそろ行き先、決めようよ」
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行き先、決定。
次の目的地は、北方魔導国家群の玄関口、
アレノマ王国のニーケの街。
目指す理由は、実にシジマ家らしいものでした。
"そこに美味いもんがあるから!"
「北方魔導国家群といえば、やはり煮込み料理でしょうか」
「厳しい冬の寒さを乗り切るため、身体を温める肉エキススープに保存の効く根野菜を入れたのが、北方煮込み料理の始まりと言われております」
「保存用魔導具が普及している現代では、受け継がれてきた伝統の味を守るだけではなく、より美味しくなるよう様々な工夫が凝らされているそうです」
「精がつくスタミナ冷製ドリンクなども新名物として人気だとか」
「新しいお料理との出会い、とても楽しみですね」
うむ、ツェリアさんがいつにも増して気合い充分。
北方料理はもちろん、ツェリアさんアレンジも楽しみです。
『……私も、頑張っちゃおうかな』
おっと、チミコさんまでヤル気ムンムンですよ。
もちろん、お胸マイスター関連でしょ。
『魔法いっぱいの国ってことで、目指せ! 魔女っ娘チミコちゃん!』
ほう、魔女っ娘ですか。
いいよね、華麗に変身して魔法のステッキと可愛い衣装で大活躍。
北方魔導国家群の各国それぞれが、
魔導の発展っぷりに関しては甲乙付け難い国々ばかりだと聞いております。
妖精さん専用の魔女っ娘変身グッズ的な魔導具なんてのも、
もしかしたらあるかも。
あれ?
でもチミコさんって、生来の魔法力が残念過ぎて飛ぶだけで精一杯だったはず。
その手の魔導具って、起動も使用もそれなりの魔法力が必要だよね。
ナイショで修行でもしてたの?
『私の辞書に"修行"とか"特訓"とかの文字はカケラもナイ!』
でも、何もしなければイケてる魔女っ娘にはなれないでしょ。
『だから、"不可能"を"可能"にしちゃうのが魔法!』
……ミラクルは寝て待て、ですか。
何はともあれ、頑張れ、チミコさん。
「こういう妙な勢いがシジマ家らしさ、だよね」
「でも、魔導国家群の人たちって結構な真面目さんばかりだから、はっちゃけ過ぎに注意、だよ」
アドバイス、ありがとうございます。
そういえばモルガナさんって、魔法関係はどんな感じですか?
「……ほどほど、かな」
「闘うための魔法はあまり使ったことがないけど、仕事に役立つ生活魔法なら結構自信あり」
なるほど、お仕事関係ですか。
例えば、"導き"する時にムードたっぷりな雰囲気を演出する魔法とか、
恋愛関係の相談ごとで緊張している相手をふんわりリラックスさせる魔法とか。
「いや、"導き"で重要なのは、3つだけ」
「相手に真摯に向き合うこと」
「虚飾を排してシンプルに分かりやすく伝えること」
「過剰に誘導せず本人の意志で選択させること」
「だから、相談者の選択に干渉するような魔法は極力禁止」
……モルガナさんらしい職業倫理ですね。
はて?
それでは、仕事に役立つ生活魔法とは?
「私は"導き"の有用性に自信を持っているし、情報を伝える相手は厳選している」
「勘違い貴族の権力争いの片棒担がされたり、強欲商人の金儲けに利用されたりなんて、絶対にご免だからね」
「でも稀に、困ったちゃん相手の、どうしても断れない仕事をやらざるを得ないこともある」
「そういう時は相手の程度にもよるけど、出来るだけ早めにお帰り願うようにしている」
「突然、お腹がゴロゴロしだしたり、我慢出来なくなるほどホームシックになったり」
「これって、攻撃魔法ではなく、立派な生活魔法だよね」
えーと、どちらかというと防衛魔法?
まあ、モルガナさんらしいなとは思います。
「ちなみに、突然女子にスイーツを奢りたくなる魔法もあるけど……」
あー、あそこに見えてきましたね。
お休み処、かな。
それじゃ、不覚にも魔法をかけられちゃったってことで、
ゆっくり一服していきましょうか。
『もちろん、シジマさんの奢りで食べ放題!』
……たんとお食べ。