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朝、落ち着いた感じの、気持ち良い目覚め。
サイノさんの初お泊まりってことで、
昨日の夜は全員ちょっとだけ緊張気味でしたが、
朝食の席のみんなは、良い感じに落ち着いた表情ですね。
あー、なんか変なこと思い出しちゃったよ。
遠足とかでさ、すげぇワクワクしながらバスに乗ってたのに、
車の振動がやたらと気持ち良くて、
ほんのちょっとだけ、居眠りちっくに寝ちゃうの。
で、目が覚めたらワクワク感が全消失してて、
何だか悟りを開いた賢者っぽい感じに、妙に気分が落ちついちゃってるアレ。
なんて言うのかな、周囲の環境に異様に馴染んじゃった状態?
あの現象って、何か正式名称でもあるのかな……
って、俺ってそもそも人造人間だから、
そんな実体験、微塵も無いんだけどさ。
でも、こんな風に疑似体験や偽物の記憶をやたらといっぱい持ってて、
しかも妙なタイミングでフラッシュバックしてくるのに、
記憶や人格がメチャクチャにならずにヤツタカ シジマとして正気を保ってる俺、
結構スゴくね?
「どうかしました?」
いえ、なんでもありませんよ。
こうしてツェリアさんたちと美味しい朝食が出来るのは、
凄く幸せだなって。
「今のうちに、その幸せをじっくりと噛み締めておくがよい」
ちょっと、モルガナさん。
怪しげな"導き"はご勘弁ですよっ。
何だか、朝イチの幸せ気分がどっか行っちゃったんですけど……
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朝食後、女将さんやミュンシェラさんも交えての相談会。
このままこの宿で連泊していると、
例の連中がちょっかい出してきた時、多大な迷惑掛けることになりそうなので、
それを踏まえての今後の方針を、みんなで話し合うことに。
「宿の方はご心配無く」
「先日は不審人物の侵入こそ許しましたが、従業員一同、有事の際の心構えは万全です」
「このニーケの街も平穏な時ばかりではありませんでしたし、いざという時の備えを欠かしたことはありません」
……ご面倒をお掛けして申し訳ありません。
まずは俺たちがニーケを出て、この街の皆さんを騒動から遠ざけるようにします。
みんなも、それで良いかな?
「今度ニーケを訪れた際は、北方料理のご指導、よろしくお願いしますね」
『"ニーケ風春巻き"とかがいっぱいのお弁当、よろしく!』
「今回の件の迷惑料は、ちゃんとシジマさんに請求、よろしく」
「これが落ち着いたらサイリ家のみんなともお泊まりに来ますので、その時はよろしく」
「そして家族露天風呂なら、サイリお兄ちゃんとの混浴も可……」
……次に来るのが待ち遠しいですね。
ミュンシェラさんは、どうします?
俺たちの護衛でしたら、いっそのこと、これからは行動を共にしたほうが。
「夫が合流するまでは、これまで通り隠密警護します」
「合流次第顔見せに伺いますので、東方風装束で強面の怪しい男が近付いてきても、問答無用での攻撃は控えていただければ」
おや、旦那さまは東方ご出身でしたか。
「武芸に差し障りがあるからと、どうしてもあの目立つ格好をやめないのです」
「おかげで、隠密任務の際はいつも離れ離れ……」
えーと、心中お察しします。
護衛の件が上手く片付いたら、
この素敵なお宿でご夫婦水入らずしちゃってくださいね。
「従業員一同、心よりお待ち申し上げております」




